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第5話 冥府の番犬
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大地の精霊ノームのおかげで放牧場の整地は驚くほど早く進んだ。
デコボコはほとんどなくなり、転がっていた岩も取り払われた。
雑草もみんなで協力して引き抜き、その他ゴミも一か所に集めた。
殺風景すぎるのでまだ牧場には見えないが、再生への大きな第一歩を踏み出したのは確かだ。
次の課題はたくさんある建物の修復だ。
大体のものが木造なので修復するには木材がたくさんいる。
流石のノームも木を作り出すことは専門外らしい。
「そういうのは木の精霊ドライアドにでも頼むんじゃな。まあ、ワシ建築は得意じゃから切った木さえ持ってきてくれりゃ建物の修理はするぞい」
ということで俺とネクスは牧場の周囲に広がる山へと木を切りに来た。
ここら辺の山も爺ちゃんの所有する土地らしいから勝手に木を切っても問題はない。
どんだけ広い土地を持っているんだと思ったが、ここらへんは利用価値が薄く土地代が安いのだろう。
おかげでタダで木材が手に入るのだから爺ちゃんには感謝しかない。
「やるか!」
手ごろな樹木を見つけ、マリーが家から持ってきてくれた斧を振るい始める。
最初は慣れなかったので危なっかしいことこの上なかったが、次第に慣れて一本の木を切り倒すことに成功した。
うーん、体を動かして仕事をするって清々しいものだ。
「で、この切った木はどうやって運ぶんだ?」
「あっ……」
ネクスの言う通りこのデカい木を運ぶ手段がない。
ロープは持ってきたし、くくりつけて引っ張るしかないか?
こっちは清々しいじゃ済まないほど重労働になるなぁ……。
「マリーかトロールを連れてくるんだったな。あいつらなら難なく引っ張れるだろ」
「でも、なんか山の中って危なそうだし、連れてきて何かあったら困るよ」
「俺はお前が一人で山に入ってる方が危ないと思うがな」
「それ正解だね! だから心配してネクスはついてきてくれたんだ」
「ちげーよ! 牧場の景色に飽きたから山に来たかっただけだ!」
頭の上で叫ぶネクスにも慣れつつある。
さて、一度帰って誰か呼んで来るべきか、ある程度切ってから呼んだ方が効率が良いか……。
「ルイ……! 耳を澄ましてみろ……!」
声を押さえてネクスが叫ぶ。
言う通りに耳を澄ましてみると、誰かの話し声が遠くから聞こえてきた。
俺は本能的にサッと木陰に体を隠す。
「……はこの山に封印されているので間違いないのか?」
「これだけの戦力を集めたんすよ。いてくれなきゃ困るっす」
「その戦力の何名かが行方不明のようだが?」
「現在捜索中です。あいつらどうやら他の目的で動いていたらしく……」
「なんでも不死鳥を見つけるって言ってたっすね」
「ふん、そんな酒場の与太話を信じて単独行動とは……。あとで罰を与えねばならん。だが、計画は予定通り進める。今夜、封印を解く! 今から下調べに行くぞ」
「了解!」
少なくとも男が三人いる。
しかも、あいつらは牧場に忍び込んでネクスを探していた男たちの仲間みたいだ。
あの男たちは予想通り他にも目的があって、ついでに不死鳥を探していたらしい。
そして、こちらの本命というのが何かの封印を解くことか。
何が起こるのかわからないが、牧場にとって良いことではなさそうだ。
まずは情報収集、やつらの下調べとやらを尾行しよう。
「お前ひとりで大丈夫か?」
「不安ではあるけど、ここで一回帰って味方を呼んでたら見失う。何かあったらすぐ逃げるさ。逃げ足には自信がある」
音を殺して男たちを尾行する。
ずいぶん山の奥に入っていくなぁ。
木々がうっそうと生い茂り、薄暗くなっていく。
そして最後にはぽっかりと黒い口を開ける洞窟にたどり着いた。
男たちは臆することなくその中に消えていった。
これ以上は危険か。
奥が行き止まりだったら目的を果たして引き返してきた男と鉢合わせの危険性もある。
ただ、情報が少ない。
隠れて男たちが出てくるのを待つか。
それから十分ほどで男たちは出てきた。
顔は青ざめていて、何やら恐ろしいものを見たような顔をしてる。
「ああ……間違いない。ここにやつは封印されている……!」
「本当に封印を解くんですかい……?」
「もちろんだ! あの力を従わせることができれば、国にケンカを売ることすら怖くはない! 絶対に手に入れてみせる!」
「あの洞窟の冷気を浴びてもそう言い切れるボスは流石です!」
「とはいえ、心底体は冷えた。下調べは済んだし退くぞ!」
男たちはそそくさと山を下りて行った。
俺も下りるべきなのだろう。
でも、やつらの話からしてこの洞窟にはモンスターが封印されているみたいだ。
それもとびきり危険な奴……。
そんなモンスターでもテイムされたら悪党の道具になってしまう。
見過ごせないな。
俺は意を決して洞窟に入り込んだ。
ネクスも同じ思いのようなので何も言わない。
道なりに洞窟を進むこと数分、ついに見つけた。
魔法陣や札、しめ縄でぐるぐる巻きにされた漆黒の岩を。
『ここに封印されていますよ』と言わんばかりだ。
「今日は客が多いな……」
うわっ!?
岩がしゃべったぞ!?
「そう驚くな人間よ。我は冥府の獣ガルム! わけあってここに封印されてしまってはいるが、伝説のモンスターぞ!」
「はぁ……」
「なんだその反応は!? もっと驚かんか! 恐れおののけ!」
今日三体目の伝説、しかも封印中ときたら反応も薄くなる。
それにしても意外と話がわかりそうな奴だ。
「俺の名前はルイっていうんだ。君の名前は?」
「ふんっ、肝の据わった人間だ。我が名はガルー! それで何の用だ人間? さっきの奴らに比べて面構えがマシだから話をしてやろう!」
「そのさっきの奴らの後をつけてここに来たのさ。君が悪党に悪用されると困るんでね」
「我が人間ごときに従うと思うか? 返り討ちにしてやるわ!」
「そ、その岩の状態で?」
「……」
ガルムのガルーは黙ってしまった。
やっぱり封印されていることは不本意らしい。
「人間よ! もし我の封印を解くことができたら、出来る範囲で望みを聞いてやろう! まあ、お前のような弱々しそうな人間には無理だろうがな! ワハハハハハハ!!」
伝説のモンスターから『できる範囲で』なんて言葉を聞くとは思わなかった。
そこは『なんでも』でいいのではないだろうか?
まあ、冥府の獣は意外と謙虚なのかもしれない。
「じゃあ、俺の望みは善良な人間に迷惑をかけないこと……だ。悪い人間にまで気を遣えとは言わないけど、悪くない人をとって食ったりはしないでね」
「なんだそんなことか。我は冥府の番犬だぞ? むやみやたらに命を奪うわけなかろう」
「そうか、なら解放しても問題ないな」
漆黒の岩石に触れる。
すると、それがパックリと割れた。
闇が噴出し、それが漆黒の毛並みを持つ犬の形になる。
正直賭けだったが、俺はモンスターを縛り付けるものならば何でも解除できるらしい。
それがたとえテイム魔法ではなく封印であっても。
「おっ? おっ? 本当に封印が解けたぞ! すごいな人間!」
「どういたしまして。もう悪い人間に捕まらないようにね」
「……本当に逃がすのか我を? もっと望むことはないのか?」
「そうだなぁ……。あっ、俺はいまさびれた牧場を再建しようと頑張り始めたところなんだけど、実は一回さっきの男の仲間に狙われたことがあってね。牧場を守ってくれる存在を探してるんだ」
「なにっ!? つまり冥府の番犬である我に牧場の番犬になれと!?」
流石にダメか……。
『冥府』と『牧場』では流石に肩書に差がありすぎるもんなぁ……。
「悪くない! やってやろうではないか牧場の番犬を!」
「えっ!? いいの!?」
「いいぞ! そもそも冥府の番犬というまがまがしい肩書のせいで何も悪いことをしていないのに封印されてしまったからな! まったく思い込みの激しい人間には困ったものだ! そういう奴ほど魔力が強いから手におえん!」
普通にかわいそうな理由で封印されてた……。
それは置いといて、ガルーから吹き出す魔力はとんでもなく強い。
凡人の俺でもビンビン伝わってくる。
彼が番犬をしてくれれば、どれほどありがたいことか。
「よろしく、ガルー。世話になるよ」
「おう! だが、その前に終わらせねばならん仕事があるぞ!」
「仕事?」
「あの悪党どもを壊滅させに行くのだ! 匂いをたどればアジトまで一発だ! さあ、我が背中に乗れルイよ!」
「ええっーー!?」
言われるがままの俺を乗せて、冥府の獣は洞窟から飛び出した。
殺されることはないだろうけど悪党の皆さん……ご愁傷さまです……。
デコボコはほとんどなくなり、転がっていた岩も取り払われた。
雑草もみんなで協力して引き抜き、その他ゴミも一か所に集めた。
殺風景すぎるのでまだ牧場には見えないが、再生への大きな第一歩を踏み出したのは確かだ。
次の課題はたくさんある建物の修復だ。
大体のものが木造なので修復するには木材がたくさんいる。
流石のノームも木を作り出すことは専門外らしい。
「そういうのは木の精霊ドライアドにでも頼むんじゃな。まあ、ワシ建築は得意じゃから切った木さえ持ってきてくれりゃ建物の修理はするぞい」
ということで俺とネクスは牧場の周囲に広がる山へと木を切りに来た。
ここら辺の山も爺ちゃんの所有する土地らしいから勝手に木を切っても問題はない。
どんだけ広い土地を持っているんだと思ったが、ここらへんは利用価値が薄く土地代が安いのだろう。
おかげでタダで木材が手に入るのだから爺ちゃんには感謝しかない。
「やるか!」
手ごろな樹木を見つけ、マリーが家から持ってきてくれた斧を振るい始める。
最初は慣れなかったので危なっかしいことこの上なかったが、次第に慣れて一本の木を切り倒すことに成功した。
うーん、体を動かして仕事をするって清々しいものだ。
「で、この切った木はどうやって運ぶんだ?」
「あっ……」
ネクスの言う通りこのデカい木を運ぶ手段がない。
ロープは持ってきたし、くくりつけて引っ張るしかないか?
こっちは清々しいじゃ済まないほど重労働になるなぁ……。
「マリーかトロールを連れてくるんだったな。あいつらなら難なく引っ張れるだろ」
「でも、なんか山の中って危なそうだし、連れてきて何かあったら困るよ」
「俺はお前が一人で山に入ってる方が危ないと思うがな」
「それ正解だね! だから心配してネクスはついてきてくれたんだ」
「ちげーよ! 牧場の景色に飽きたから山に来たかっただけだ!」
頭の上で叫ぶネクスにも慣れつつある。
さて、一度帰って誰か呼んで来るべきか、ある程度切ってから呼んだ方が効率が良いか……。
「ルイ……! 耳を澄ましてみろ……!」
声を押さえてネクスが叫ぶ。
言う通りに耳を澄ましてみると、誰かの話し声が遠くから聞こえてきた。
俺は本能的にサッと木陰に体を隠す。
「……はこの山に封印されているので間違いないのか?」
「これだけの戦力を集めたんすよ。いてくれなきゃ困るっす」
「その戦力の何名かが行方不明のようだが?」
「現在捜索中です。あいつらどうやら他の目的で動いていたらしく……」
「なんでも不死鳥を見つけるって言ってたっすね」
「ふん、そんな酒場の与太話を信じて単独行動とは……。あとで罰を与えねばならん。だが、計画は予定通り進める。今夜、封印を解く! 今から下調べに行くぞ」
「了解!」
少なくとも男が三人いる。
しかも、あいつらは牧場に忍び込んでネクスを探していた男たちの仲間みたいだ。
あの男たちは予想通り他にも目的があって、ついでに不死鳥を探していたらしい。
そして、こちらの本命というのが何かの封印を解くことか。
何が起こるのかわからないが、牧場にとって良いことではなさそうだ。
まずは情報収集、やつらの下調べとやらを尾行しよう。
「お前ひとりで大丈夫か?」
「不安ではあるけど、ここで一回帰って味方を呼んでたら見失う。何かあったらすぐ逃げるさ。逃げ足には自信がある」
音を殺して男たちを尾行する。
ずいぶん山の奥に入っていくなぁ。
木々がうっそうと生い茂り、薄暗くなっていく。
そして最後にはぽっかりと黒い口を開ける洞窟にたどり着いた。
男たちは臆することなくその中に消えていった。
これ以上は危険か。
奥が行き止まりだったら目的を果たして引き返してきた男と鉢合わせの危険性もある。
ただ、情報が少ない。
隠れて男たちが出てくるのを待つか。
それから十分ほどで男たちは出てきた。
顔は青ざめていて、何やら恐ろしいものを見たような顔をしてる。
「ああ……間違いない。ここにやつは封印されている……!」
「本当に封印を解くんですかい……?」
「もちろんだ! あの力を従わせることができれば、国にケンカを売ることすら怖くはない! 絶対に手に入れてみせる!」
「あの洞窟の冷気を浴びてもそう言い切れるボスは流石です!」
「とはいえ、心底体は冷えた。下調べは済んだし退くぞ!」
男たちはそそくさと山を下りて行った。
俺も下りるべきなのだろう。
でも、やつらの話からしてこの洞窟にはモンスターが封印されているみたいだ。
それもとびきり危険な奴……。
そんなモンスターでもテイムされたら悪党の道具になってしまう。
見過ごせないな。
俺は意を決して洞窟に入り込んだ。
ネクスも同じ思いのようなので何も言わない。
道なりに洞窟を進むこと数分、ついに見つけた。
魔法陣や札、しめ縄でぐるぐる巻きにされた漆黒の岩を。
『ここに封印されていますよ』と言わんばかりだ。
「今日は客が多いな……」
うわっ!?
岩がしゃべったぞ!?
「そう驚くな人間よ。我は冥府の獣ガルム! わけあってここに封印されてしまってはいるが、伝説のモンスターぞ!」
「はぁ……」
「なんだその反応は!? もっと驚かんか! 恐れおののけ!」
今日三体目の伝説、しかも封印中ときたら反応も薄くなる。
それにしても意外と話がわかりそうな奴だ。
「俺の名前はルイっていうんだ。君の名前は?」
「ふんっ、肝の据わった人間だ。我が名はガルー! それで何の用だ人間? さっきの奴らに比べて面構えがマシだから話をしてやろう!」
「そのさっきの奴らの後をつけてここに来たのさ。君が悪党に悪用されると困るんでね」
「我が人間ごときに従うと思うか? 返り討ちにしてやるわ!」
「そ、その岩の状態で?」
「……」
ガルムのガルーは黙ってしまった。
やっぱり封印されていることは不本意らしい。
「人間よ! もし我の封印を解くことができたら、出来る範囲で望みを聞いてやろう! まあ、お前のような弱々しそうな人間には無理だろうがな! ワハハハハハハ!!」
伝説のモンスターから『できる範囲で』なんて言葉を聞くとは思わなかった。
そこは『なんでも』でいいのではないだろうか?
まあ、冥府の獣は意外と謙虚なのかもしれない。
「じゃあ、俺の望みは善良な人間に迷惑をかけないこと……だ。悪い人間にまで気を遣えとは言わないけど、悪くない人をとって食ったりはしないでね」
「なんだそんなことか。我は冥府の番犬だぞ? むやみやたらに命を奪うわけなかろう」
「そうか、なら解放しても問題ないな」
漆黒の岩石に触れる。
すると、それがパックリと割れた。
闇が噴出し、それが漆黒の毛並みを持つ犬の形になる。
正直賭けだったが、俺はモンスターを縛り付けるものならば何でも解除できるらしい。
それがたとえテイム魔法ではなく封印であっても。
「おっ? おっ? 本当に封印が解けたぞ! すごいな人間!」
「どういたしまして。もう悪い人間に捕まらないようにね」
「……本当に逃がすのか我を? もっと望むことはないのか?」
「そうだなぁ……。あっ、俺はいまさびれた牧場を再建しようと頑張り始めたところなんだけど、実は一回さっきの男の仲間に狙われたことがあってね。牧場を守ってくれる存在を探してるんだ」
「なにっ!? つまり冥府の番犬である我に牧場の番犬になれと!?」
流石にダメか……。
『冥府』と『牧場』では流石に肩書に差がありすぎるもんなぁ……。
「悪くない! やってやろうではないか牧場の番犬を!」
「えっ!? いいの!?」
「いいぞ! そもそも冥府の番犬というまがまがしい肩書のせいで何も悪いことをしていないのに封印されてしまったからな! まったく思い込みの激しい人間には困ったものだ! そういう奴ほど魔力が強いから手におえん!」
普通にかわいそうな理由で封印されてた……。
それは置いといて、ガルーから吹き出す魔力はとんでもなく強い。
凡人の俺でもビンビン伝わってくる。
彼が番犬をしてくれれば、どれほどありがたいことか。
「よろしく、ガルー。世話になるよ」
「おう! だが、その前に終わらせねばならん仕事があるぞ!」
「仕事?」
「あの悪党どもを壊滅させに行くのだ! 匂いをたどればアジトまで一発だ! さあ、我が背中に乗れルイよ!」
「ええっーー!?」
言われるがままの俺を乗せて、冥府の獣は洞窟から飛び出した。
殺されることはないだろうけど悪党の皆さん……ご愁傷さまです……。
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