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ダムドー峠 ~ヤマネコと星空のシチュー~
第27話 赤耳のオデット
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「んん……もう朝ですか……?」
ガルーの声と動く気配でセフィラが目を覚ます。
上半身を起こしてうーんと伸びをし、目をこすりながら声のする方を見る。
セフィラの目に映ったのは、ガルーとオデットと呼ばれた女性。
赤い猫耳を持つ彼女のことをセフィラはよく知っていた。
「え……? オ、オデコさん……!?」
オデットの前髪を真ん中で分けておでこを出す髪型――それがかわいくて大好きなセフィラは、親しみを込めてオデットのことを『オデコさん』と呼んでいた。
「久しぶりだね、セフィラ!」
セフィラに微笑みかけるオデット。
喜びの感情と連動するように、猫耳がぴょこぴょこっと動く。
オデットは薄くだが獣人の血を引いており、頭の赤い猫耳は飾りではなく本物。
側頭部には普通の人間の耳もついていて、合計四つの耳でより立体的に音を聞き分けられる。
「しばらく会わないうちに、一層綺麗な女の子になったね」
そう言ってオデットは、セフィラの頭をわしゃわしゃと撫でる。
ちょっと荒っぽくて不器用な触り方……セフィラは懐かしさを感じた。
「まさか、本当に本物のオデコさんとは……!」
「偽物の私を見たことがあるかい? まあ、偽物が出てきてもおかしくないくらい有名になりつつあるみたいだけどねぇ」
寝ぼけていたところに予想外の来訪者だったので、セフィラはオデットに触れられるまで本物かどうかに確信を持てずにいた。
だが、今はもう疑う余地はない。
「わーいっ! オデコさんだー! ほんっとうに久しぶりですね!」
がばっとオデットに抱き着くセフィラ。
彼女が身に着けている装備の革と鋼の匂い、そして汗と血と……そのすべてを言葉では言い表せないが、セフィラにとっては温かくて落ち着く匂いだった。
(かつて共に前線で戦った時とほとんど変わらない匂いで、オデコさんはここにいる!)
喜ぶセフィラの後方で、目を覚ましたシャロがもぞもぞと動く。
「ふわぁぁぁ……。何かありましたか、セフィラ様……?」
シャロはオデットを視界に捉え……カッと目を見開く!
「ふぁ……!? オデット・ココニャツ様!? えっ、嘘……本物の勇者の一番弟子!?」
シャロもまたオデットのことを知っていた。
それもそのはず、オデットはかつての戦争で大戦果を挙げ、戦後も冒険者となって国民のために戦い続けている英雄なのだ。
それこそ、勇者の葬儀に顔を出す間も惜しむほど、人々のために働き続けている……。
「ほら? 私もかなり有名なもんでしょ?」
ドヤッという顔をセフィラに見せつけた後、オデットはシャロの手を取る。
「初めまして、お嬢さん。私こそが勇者の一番弟子……つまりは最強の弟子オデット・ココニャツです。好きな言葉は平穏無事、嫌いなものは戦争、夢は世界平和! ……よろしくね」
「は、はい……! 私はエシャロット・レシピナと申します。人攫いに誘拐されたところを、セフィラ様とガルー様に助けていただきました。ちなみにこれでも二十歳なので、子どもではありません……!」
「えっ、私と五歳しか違わないの……!? ちょっと老け顔の私からすると、うらやましい限りだよ。まだまだ私だって女の子なのになぁ~」
オデットはまだ二十五歳だが、くぐり抜けてきた死線の数が同年代の女性たちとは違いすぎた。
経験が生む貫禄のせいで、どうしても実年齢より年上に見られがちだった。
それに加えてハスキーな声や切れ長の目によるクールな印象も、大人っぽさに拍車をかけている。
「ここには光の柱――聖なる光を見て来てくれたのだな、オデットよ」
ガルーがそう尋ねると、オデットはこくりとうなずいた。
「見覚えのある目印だったから、セフィラとガルーがそこにいるんだなってすぐにわかったよ。まあ、二人がこんなところにいること自体には、かなり驚かされたけどね! だって王子様の婚約者と神獣様ともあろう者が、こんな山の中に一体なんの用事でって思うじゃない?」
「それは……話すと結構長くなりまして」
セフィラとガルーにとって、勇者の一番弟子であるオデットは信頼できる存在だ。
婚約破棄や王子バジルの野望について話してしまっても問題にはならない。
子どもたちが自然に目覚めるまでの時間を使って、セフィラはここに至るまでに歩んできた道のりをオデットに説明した。
「それは災難だったね……。セフィラが無事で本当に良かったよ。それにしても、まさか王子様がそんな悪いことを考えていたなんて……。せっかく戦争が終わって、これから平和な世界を取り戻すぞって時に、いずれ王様になる人間がそんなんじゃ……まーた戦争が起こっちゃうかもね?」
出来るだけ深刻な空気にならないように、オデットは笑顔を崩さず話している。
しかし、その目がまったく笑っていないことには、オデットと出会ったばかりのシャロですら気づいていた。
平和を乱す存在――それはオデットが心から怒りをぶつける対象だ。
彼女が掲げる世界平和という夢は、決して冗談ではない。
人間も魔人も差別することなく、争いを起こす者だけを憎み……戦う。
戦時中、『赤耳』の異名と共に恐れられたオデットの戦いは、まだ続いているのだ。
勇者の葬儀に来なかったのも、今まさに倒すべき敵と救うべき人がいたから、その場を離れられなかったという話だ。
その話をセフィラもガルーも疑わない。
葬儀に来ないための嘘や言い訳ではなく、本当のことだとわかっているから。
そして本当だからこそ、セフィラはオデットのことが心配でたまらなかった。
ちゃんとご飯を食べているのか、ちゃんとお風呂に入っているのか、ちゃんと寝ているのか……と。
世界平和というのは一人の人間が限界まで戦っても、そうそう実現出来るものではない。
適度に休みつつ、のんびりと長い目でやっていくしかないのだ――と勇者グラストロも語っていた。
(オデットさんは昔から無理をする人でしたし、ここで私たちと出会ったからには、なんとか体を休めることを勧めたい……。でも、適当な言葉で説得できる人では……そうだっ!)
セフィラは無言でポンッと手を叩く。
この上ない名案が思い浮かんだのだ。
(オデコさんも一緒にアスパーナの温泉に連れていけばいいんだ!)
ガルーの声と動く気配でセフィラが目を覚ます。
上半身を起こしてうーんと伸びをし、目をこすりながら声のする方を見る。
セフィラの目に映ったのは、ガルーとオデットと呼ばれた女性。
赤い猫耳を持つ彼女のことをセフィラはよく知っていた。
「え……? オ、オデコさん……!?」
オデットの前髪を真ん中で分けておでこを出す髪型――それがかわいくて大好きなセフィラは、親しみを込めてオデットのことを『オデコさん』と呼んでいた。
「久しぶりだね、セフィラ!」
セフィラに微笑みかけるオデット。
喜びの感情と連動するように、猫耳がぴょこぴょこっと動く。
オデットは薄くだが獣人の血を引いており、頭の赤い猫耳は飾りではなく本物。
側頭部には普通の人間の耳もついていて、合計四つの耳でより立体的に音を聞き分けられる。
「しばらく会わないうちに、一層綺麗な女の子になったね」
そう言ってオデットは、セフィラの頭をわしゃわしゃと撫でる。
ちょっと荒っぽくて不器用な触り方……セフィラは懐かしさを感じた。
「まさか、本当に本物のオデコさんとは……!」
「偽物の私を見たことがあるかい? まあ、偽物が出てきてもおかしくないくらい有名になりつつあるみたいだけどねぇ」
寝ぼけていたところに予想外の来訪者だったので、セフィラはオデットに触れられるまで本物かどうかに確信を持てずにいた。
だが、今はもう疑う余地はない。
「わーいっ! オデコさんだー! ほんっとうに久しぶりですね!」
がばっとオデットに抱き着くセフィラ。
彼女が身に着けている装備の革と鋼の匂い、そして汗と血と……そのすべてを言葉では言い表せないが、セフィラにとっては温かくて落ち着く匂いだった。
(かつて共に前線で戦った時とほとんど変わらない匂いで、オデコさんはここにいる!)
喜ぶセフィラの後方で、目を覚ましたシャロがもぞもぞと動く。
「ふわぁぁぁ……。何かありましたか、セフィラ様……?」
シャロはオデットを視界に捉え……カッと目を見開く!
「ふぁ……!? オデット・ココニャツ様!? えっ、嘘……本物の勇者の一番弟子!?」
シャロもまたオデットのことを知っていた。
それもそのはず、オデットはかつての戦争で大戦果を挙げ、戦後も冒険者となって国民のために戦い続けている英雄なのだ。
それこそ、勇者の葬儀に顔を出す間も惜しむほど、人々のために働き続けている……。
「ほら? 私もかなり有名なもんでしょ?」
ドヤッという顔をセフィラに見せつけた後、オデットはシャロの手を取る。
「初めまして、お嬢さん。私こそが勇者の一番弟子……つまりは最強の弟子オデット・ココニャツです。好きな言葉は平穏無事、嫌いなものは戦争、夢は世界平和! ……よろしくね」
「は、はい……! 私はエシャロット・レシピナと申します。人攫いに誘拐されたところを、セフィラ様とガルー様に助けていただきました。ちなみにこれでも二十歳なので、子どもではありません……!」
「えっ、私と五歳しか違わないの……!? ちょっと老け顔の私からすると、うらやましい限りだよ。まだまだ私だって女の子なのになぁ~」
オデットはまだ二十五歳だが、くぐり抜けてきた死線の数が同年代の女性たちとは違いすぎた。
経験が生む貫禄のせいで、どうしても実年齢より年上に見られがちだった。
それに加えてハスキーな声や切れ長の目によるクールな印象も、大人っぽさに拍車をかけている。
「ここには光の柱――聖なる光を見て来てくれたのだな、オデットよ」
ガルーがそう尋ねると、オデットはこくりとうなずいた。
「見覚えのある目印だったから、セフィラとガルーがそこにいるんだなってすぐにわかったよ。まあ、二人がこんなところにいること自体には、かなり驚かされたけどね! だって王子様の婚約者と神獣様ともあろう者が、こんな山の中に一体なんの用事でって思うじゃない?」
「それは……話すと結構長くなりまして」
セフィラとガルーにとって、勇者の一番弟子であるオデットは信頼できる存在だ。
婚約破棄や王子バジルの野望について話してしまっても問題にはならない。
子どもたちが自然に目覚めるまでの時間を使って、セフィラはここに至るまでに歩んできた道のりをオデットに説明した。
「それは災難だったね……。セフィラが無事で本当に良かったよ。それにしても、まさか王子様がそんな悪いことを考えていたなんて……。せっかく戦争が終わって、これから平和な世界を取り戻すぞって時に、いずれ王様になる人間がそんなんじゃ……まーた戦争が起こっちゃうかもね?」
出来るだけ深刻な空気にならないように、オデットは笑顔を崩さず話している。
しかし、その目がまったく笑っていないことには、オデットと出会ったばかりのシャロですら気づいていた。
平和を乱す存在――それはオデットが心から怒りをぶつける対象だ。
彼女が掲げる世界平和という夢は、決して冗談ではない。
人間も魔人も差別することなく、争いを起こす者だけを憎み……戦う。
戦時中、『赤耳』の異名と共に恐れられたオデットの戦いは、まだ続いているのだ。
勇者の葬儀に来なかったのも、今まさに倒すべき敵と救うべき人がいたから、その場を離れられなかったという話だ。
その話をセフィラもガルーも疑わない。
葬儀に来ないための嘘や言い訳ではなく、本当のことだとわかっているから。
そして本当だからこそ、セフィラはオデットのことが心配でたまらなかった。
ちゃんとご飯を食べているのか、ちゃんとお風呂に入っているのか、ちゃんと寝ているのか……と。
世界平和というのは一人の人間が限界まで戦っても、そうそう実現出来るものではない。
適度に休みつつ、のんびりと長い目でやっていくしかないのだ――と勇者グラストロも語っていた。
(オデットさんは昔から無理をする人でしたし、ここで私たちと出会ったからには、なんとか体を休めることを勧めたい……。でも、適当な言葉で説得できる人では……そうだっ!)
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