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第1章 ゴーレム大地に立つ

第10話 ゴーレムとお料理

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 それにしても、メルフィさんがカゴに入れて持ち帰った野菜や果物は、どれも俺の元いた世界にあった物と似ている気がする。
 まったく同じではないが、どれがどの野菜に対応しているのか、簡単に連想出来るくらいには似ている。

「あとでかし芋も作りましょう」

「わーい!」

 喜ぶマホロが手に取った野菜はジャガイモによく似ていた。
 俺の元いた世界のジャガイモと比べて、大きめであること以外違いがない。
 リンゴもそうだけど、見た目だけなら品種改良で作った亜種で納得するレベルだ。

 ゴーレムゆえに味を確かめられないのは残念だが、野菜や果物に関しては元の世界とかなり近いと結論付けていいだろう。
 ジャングルに自生している物ではない、それこそ人の手で栽培され物ならば、もっと俺の知っている野菜や果物に似ている可能性すらある。

 そして、現状一番気にするべきことは……これらの物を瓦礫の街で栽培出来ないかということ。
 そうすれば、時間をかけて危険なジャングルに出向く必要はなくなる。

 ただ、賢いマホロやメルフィさんがそれに気づかないわけはないし、この街で農作物を栽培出来ない理由が何かしらあるんだろうな……。
 まずはそこらへんの事情を聞き、それから出来ることを考えよう。
 ゴーレムの力があれば、不可能を可能に変えられるかもしれないからな。

「う~ん! やっぱりジャングル産のリンゴは美味しいです! ガンジョーさんも……」

「ごめん……ゴーレムに食事は必要ないみたいなんだ」

 目の前の皮を剥かれて一口サイズに切られたリンゴを美味しそうとは思うが、空腹は感じず食欲も湧いてこない。
 だからだろうか、食べられないことを悲観する気持ちもないんだ。
 今はマホロが美味しそうにリンゴを食べるのを見ているだけで満たされる。

「それは残念です……」

「気にしなくていいよ。マホロがたくさん美味しい物を食べてくれるのが、俺の一番の幸せさ」

「ガンジョーさん……わかりました! 私、たくさん美味しい物を食べられるよう頑張ります!」

「ああ、その意気だ!」

 変に気を使われるのが、一番心苦しいからな。
 俺のことなんて気にせず、飲んだり食べたりを楽しんでほしい。

「私はそろそろ夕食の準備に取り掛かりますね」

 メルフィーさんが部屋を移動する。
 おそらく炊事場すいじばに向かうのだろう。

 そこでふと俺の頭に疑問が浮かんだ。
 勝手に教会を直しちゃったけど、教会の中に置いてあった物はどうなってるんだろう?

 教会を修復する素材には瓦礫が使われているし、日用品がなくなっていることはないはずだ。
 でも、修復の際に動いた瓦礫の影響で、食器とかがバラバラになっている可能性は……。

「ちょっとメルフィさんのところに行ってくる」

「あっ、私も行きます!」

 リンゴをぺろりと平らげたマホロと一緒にメルフィさんの後を追う。
 彼女は案の定、炊事場にいた。

「すごい……! 炊事場も完全に修復されています!」

 驚きの声を上げるメルフィさん。
 俺の方は創作物の中でしか見たことがない、古風な炊事場に驚いている。

 石造りのかまど・・・や、天井から鎖で吊り下げられた鍋、質素だが状態の良い木製のテーブルとイスなど、どれも原型を留めているので修復の際に何かが壊れたことはなさそうだ。

 ただ、鍋やフライパンなどの調理器具は、歪んでいたり錆びていたりと状態が良くない。
 そもそも調理器具のメンテンナンスが十分に行える環境じゃなかったんだろうな……。

「ガンジョー様、ありがとうございます。この炊事場なら料理もしやすいです」

 ぺこりと頭を下げるメルフィさん。
 そのお礼を受け取るには、俺はもう一仕事やらないといけない。

「どういたしましての前に、調理器具もすべて直させてください」

 俺はガイアさんの力を借りて、食器と調理器具の修繕しゅうぜんを行った。
 表面の汚れや錆びを除去して形を整えるだけなので、作業はすぐに終わった。

「何から何までありがとうございます。これでマホロ様に美味しい料理を作れます」

「どういたしまして。他にも気になることがあったら、遠慮せずに言ってください」

 ただし、俺に料理そのものは手伝えない。
 ゴーレムの体で細かい作業は難しいというのもあるが、そもそも人間だった頃から料理は得意ではなかった。

 独身かつ一人暮らしだったので、シンプルな『ザ・男飯!』みたいなものは作れるけど……それを人に食べさせるのは気が引ける。
 今は静かにメルフィさんの調理工程を見守っていよう。

「マホロ様。割れてないとは思いますが、一応床下の水瓶みずがめを確認してください」

「了解です!」

 マホロは床のタイルの隙間に手をかける。
 よく見ると、そこだけはちゃんと手をかけやすいようなくぼみ・・・があった。

「ふんっ!」

 マホロの力ではがされたタイルの下には空洞があり、そこに大きな壺が収められていた。
 壺の口に乗せられていた木製のフタを持ち上げ、マホロはその中身を確認していく。

「中身は漏れてないみたいです。前に見た時と変わらない量の水があります」

「ありがとうございます。では、野菜を蒸していきましょうか」

 メルフィさんが金属製の柄杓ひしゃくを使って水瓶の水を鍋に入れていく。

 なるほど、貴重な水は簡単に見つからないところに隠してあるわけか。
 水瓶の心配をしたのは、これだけ教会の形が変わっていたら床下にも影響があるんじゃないかと思ってのことだろう。

 いやぁ、割れてなくて良かったと心から思う。
 水は人間の生命線。食べ物よりもまず優先されるべき存在だ。
 農作物の栽培も、豊富な水が確保出来なければ始まらない。

 瓦礫の街では水の確保をたまに降る雨に頼っているとマホロは言っていたけど、それはあくまでもこの街における一般論だろう。
 実際、食べ物に関しては街に来る魔獣を返り討ちにするだけでなく、ジャングルという例外的な入手先があった。

 水に関しても何か例外的な入手先があれば、出来ることも増えていくと思うのだが……。

「う~ん、今日のお料理に使う水と飲み水のことを考えると、そろそろ水が足りなくなりそうです」

「わかりました。また、オアシスからんで来ましょう」

「でも、ジャングルから帰って来たばかりでは体が……」

「それだっ!」

 メルフィさんの身を案じるマホロの言葉をさえぎるように、俺は叫んでしまった。
 これはかなり大人げないが……ちょうど存在してほしいと思うものが存在すると確定したのだから声も出る。

「い、いきなり叫んですいません。でも、オアシスのこと詳しく知りたいんです。教えてください、メルフィさん!」

 メルフィさんは一瞬目を丸くしたが、その後すぐに笑顔を見せた。

「そうですね、私としてもガンジョー様にはぜひ知っておいていただきたいです。この瓦礫の街の西に存在するオアシスのことを」

 水の入った鍋を火にかけながら、メルフィさんは話し始めた。
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