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第2章 ゴーレム大地を潤す

第23話 ゴーレムと庭いじり

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 裏庭に来た俺は、まず池の大きさと深さを再確認する。

「よしよし、これなら水も砂も十分入るな」

 洋風の建築物が多い瓦礫の街の中で、裏庭の池は珍しく和を感じさせる『ひょうたん池』だ。
 今は空っぽだけど、かつてはここに水を溜めて風流ふうりゅうを感じていたことだろう。

「まずは砂を敷き詰めたいけど……。ガイアさん、体内に収納した砂はどこから出ます?」

〈体のどこからでも排出可能です〉

 どこからでも出せるなら、やはり手から出すのが無難かな。

「体内の砂を手からゆっくり排出してください」

 すると、俺の手のひらからサラサラと砂があふれ出て来た。
 それをなるべく平らになるように池の底に敷き詰めていく。

「うん、思ったより綺麗に敷き詰められたな」

 日光を浴びてキラキラ輝く砂は、オアシスで見た姿となんら変わりない。
 でも、一応確認はしておく。

「ガイアさん、砂の浄化能力はここでも発揮されていますか?」

〈発揮されています。日光を直接浄化能力に変換しているため、この街の土のように魔力を奪われて能力を失うこともありません〉

 ガイアさんは一を聞いて十を答えてくれた。
 この街の土のように乾いてしまうことが一番の懸念点けねんてんだったからな。

「じゃあ、いよいよ水を入れるか!」

 池に背中を向けて立ち、背中のコンテナの底に穴を開けるイメージ。
 穴のサイズは少し絞って、風呂のお湯を溜めるように水を注いでいく。

 その体勢のまま数分――
 コンテナ内の水がすべて出たことを確認し、体の形状を元のゴーレムに戻す。
 そして振り返ると、透き通る水で満ちたひょうたん池が完成していた。

「綺麗な水があるだけで、裏庭が急に華やかになった気がするなぁ」

 まだ何も実っていない小規模な畑、土に挿したばかりの木の枝、そしてキラキラの池。
 瓦礫と乾いた土しかなかった頃よりは、ずいぶんと良くなった!

 シャレたベンチでも置いて、庭の景色をみんなで楽しめる日もそう遠くないだろう。

 達成感を感じるついでに、畑に水をやっておく。
 まだどれも芽は出ていないが、土の魔力は失われていない。
 育つ条件は揃っているはずだ。根気よく待とう。

「どこに何の野菜を植えたか、俺以外にもわかりやすいように看板でも立てておくか」

 ゴーレムの体を得た俺の記憶力はかなり優れている。
 その時は割と適当に考えていても、どこに何を植えたかをちゃんと覚えている。

 石の看板にこの世界の文字で野菜の名を刻み、順番に立てていく。
 わかりやすい上に、畑の見栄えも良くなった。

「あっ、そうだ。あの赤い実の種も植えておかないとな」

 強力かつ体に優しい洗剤になる赤い実は、ぜひとも瓦礫の街で栽培したい。
 食事面だけでなく衛生面も街の復興には大切な要素だからな。

 ただ、あの赤い実の種はマホロが持っているんだった……。
 確か服のポケットに入れていた気がするけど、俺の手で服をまさぐったら起こしちゃうし……。

「ガンジョー様、探し物はこちらですか?」

 裏庭に現れたメルフィさんが持っていたのは、今まさに俺が欲していた赤い実の種だった。

「寝ているマホロ様のポッケからポロポロとこぼれ落ちていましたので。これはオアシスに生えている赤い木の実の種ですね」

「ええ、そうです。ちょうど今から植えようと思っていたので助かりました」

 俺はメルフィさんから種を受け取ろうとして……やめた。

「すいません、ちょっとだけ持っててください」

「はい、構いませんよ」

 赤い木の実の用途は洗剤だから、食用の野菜と一緒に植えるよりは、畑を分けた方がいいと思ったんだ。
 空いているスペースの土に魔力を注入し、クワを使ってえっほえっほとたがやす。
 一度やったことがあるから、この流れにも慣れたもんだ。

「うん、これでいいだろう。メルフィさん、種をいただけ……」

「ここは私が植えましょう」

 メルフィさんは適度な間隔を空けて種を植えていく。
 そうか、彼女もオアシスでこの実がなる木を見ているから、生え方がわかるんだな。
 それに種は小さいので、俺の手で植えるよりメルフィさんがやった方が確実ではある。

「これでよろしいでしょうか?」

「ええ、完璧です。ありがとうございます」

「いえいえ、私こそ今日はマホロ様をありがとうございました。とても気持ちよさそうな寝顔で、よほど今回の冒険が楽しかったんだろうなって……」

 メルフィさんはそう言って、水で満ちた池を見つめる。

「私もパーッと水浴びがしたいなぁ~。なんて、もちろん冗談で……」

「いいですね。メルフィさんもここでパーッと水浴びしてください!」

「……え? えっ、ええええええっ!?」

 メルフィさんは驚愕する。
 そうか、オアシスの砂の効果とそれを持ち帰ってきたことを説明してなかった。
 俺は簡単にオアシスの砂を持ち帰った経緯を話す。

「……ということで、この砂を敷き詰めた池の水は、汚れても日光を浴びればそのうち綺麗になるんです。一瞬でというわけにはいきませんけど、数十分待てば大丈夫ですよ」

 俺とマホロがオアシスで洗濯した時も、洗濯物が乾くのを待っているうちに水面の泡と汚れが消えていた。
 水浴び程度なら、数分待つだけでいいかもしれない。

「なるほど、あのオアシスの水がいつも綺麗なのは、そういうカラクリだったんですね。そして、そのカラクリをそのまま庭に持って来たから、水浴びしても問題ないと……」

「そういうことです! あとは赤い実がみのれば、ここで洗濯も出来るようになりますね」

「何から何まで、ありがとうございます。私、ロックハート家のお屋敷にいた頃はお風呂が大好きだったので……その、とても嬉しいです!」

 メルフィさんがはつらつとした笑顔を浮かべる。
 この笑顔のためなら、俺は何度でも荒野を往復するさ。

「私に出来ることがあったら、いつでも言ってくださいね。ガンジョー様にすべて頼りっきりというのは、申し訳ないですから」

「はい、もしもの時はよろしくお願いします」

 街を豊かにするのが俺の使命、生まれてきた理由だ。
 頼りにされて悪い気なんてまったくしない。
 でも、たまには人の手を借りることがあってもいいだろう。

「いつか庭にベンチでも置いて、景色を楽しめる日が来るといいですね」

 さっき俺が考えていたことを、メルフィさんがポツリとつぶやく。

「俺もそう思ってます。絶対に実現しましょう」

 文字通り、種はいた。
 鮮やかな庭を取り戻す日は、そう遠くないはずだ。
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