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第4章 ゴーレム大地を駆ける

第76話 ゴーレムと照れ屋さん

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 新たにラブルピアに引っ越してきたハーフエルフのシルフィア――

 改めての挨拶が終わったところで、彼女はツリーハウスの中をチェックし始めた。
 揺らさないように細心の注意を払って運んだつもりだが、果たして……。

「うむ、家の中は無事のようだ! 流石はガンジョーだな!」

「お褒めの言葉ありがとう、シルフィア」

 チェックを終えたシルフィアがツリーハウスから出て来る。
 さて、今日はこれから何をしようか……。
 そう考えていた時、背後から複数の足音が聞こえて来た。

「おおーっ! ガンジョーの旦那、これはまた立派な木を運んで来たもんだ!」

 そこにいたのはおじさん、そして街の人々が数名。
 わざわざ木を運ぶために一旦家の中に入ってもらったんだ。
 そりゃ運び終えたら実物を見に来るよな。

「えっと、この木はですね……」

「あら、そちらの方は見かけない顔ですね」

 別の住人がシルフィアの存在に気づいた。
 さっきまでリラックスしていたシルフィアの表情がギュッと固まる……。

「彼女のことは私から説明を……!」

 マホロが前に立ってフォローしようとする。
 しかし、その気遣いはどうやら不要だったようだ。

「うわぁ……! すっごいかわいい子だ!」

「なんて綺麗な髪の毛なんでしょう!」

「瞳の色がとても神秘的で引き込まれそう……!」

 色めき立つ住人たち。そこにシルフィアを傷つける言葉はなかった。

「なあ、ガンジョー様! この子はどこから来たんだい?」

 タイミングよく住人の一人から質問が飛んだので、俺はシルフィアについて説明した。
 ジャングルに住んでいたこと、なぜジャングルに住むことになったか、そしてこの街に引っ越して来たこと――

 すべてを話し終えた後、住人たちからシルフィアに同情するような言葉も聞こえた。
 みんな居場所を失ってこの街に流れて来たんだ。
 シルフィアの気持ちがまったくわからない人なんていないと思っていた。

 それはそれとして、俺はみんながシルフィアを受け入れてくれたことに心底ホッとしていた。
 住人全員の顔を知っているが、心の中まで見えるわけじゃない。
 シルフィアの引っ越しを拒まないと信じていたけど、本当に万が一の確率で拒否されたらどうしようという不安はやはりあった。

 だが、もう心配はいらない。
 シルフィアは住人の一人一人と言葉を交わしている。

「よろしくね、シルフィアちゃん」

「あ、あばば、はひ……っ! よろしこ……お願いしまっ……すっ!」

 ……あれ? シルフィアの様子が誰の目から見てもおかしいぞ。
 顔が真っ赤で、視線は上下左右にぐるぐると動き回っている。

「なんだか、シルフィアちゃんからはお花みたいないい匂いがするわね」

「あ、あ、ありがとっ……ござぁますっ!」

 たくさんの人を前にして緊張……いや、これは照れているんだ。
 初対面の人と話す緊張も当然あるだろうけど、それはこの街に引っ越すと決めた時点で覚悟出来ることだ。

 だけど、住人たちに受け入れてもらえるどころか、こんなに褒められるなんてことはシルフィアにとって完全に想定外!
 ゆえに照れ臭くって、のぼせ上っているんだ……!

「い、いやぁ……私なんて、そんな大した人間じゃないですぅ……。あっ、人間なのは半分だけなんですけど……その、あんまり特別扱いしないで、普通に接してくれると……嬉しいですぅ……」

 内股になって体をもじもじさせるシルフィア。
 今まで見て来た勝ち気な表情も魅力的だったけど、しおらしくしている姿もまたかわいい。

 木の下に集まった住人たちはシルフィアとの挨拶を終え、それぞれの生活に戻っていく。
 それと同時にシルフィアも徐々に落ち着きを取り戻す。

「ふぅ……。マホロやガンジョーの言う通り、みんな優しい者たちだったな。引っ越し初日に挨拶が出来て良かったと思う。これで私の不安も払拭ふっしょくされた」

「これでシルフィアさんもラブルピアの住人です! でも、シルフィアさんはまだ街のことをほとんど知りませんよね?」

「まあ、まだあの灯台の上ったくらいだからな」

「ですよね~?」

 マホロはニィッと笑う。何か思いついたようだ。

「ということで、ラブルピアに来たばかりのシルフィアさんのために、私とガンジョーさんで街の名所めぐりをしたいと思います!」

「「名所……巡り?」」

 俺とシルフィアの声がハモる。
 シルフィアの場合はおそらく純粋な疑問。
 俺の場合は……巡るほどこの街に名所があったかという不安だ。
 一番の名所である消えない炎の灯台はすでに巡っているしな……。

「ニャ~!」

 鳴き声を上げながら、ノルンがやって来た。
 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、マホロとシルフィアの脚を交互にすりすりする。

「おっ、ノルンも来ましたね! じゃあ、一緒に街の名所巡りをしましょう!」

「ニャッ!」

 ノルンとしてはマホロたちと一緒にいられればいいだけのようで、とにかく誰かにじゃれついている。

「さあ、出発です!」

 マホロの背中を追って歩き出す。
 まあ、ここまで作り上げた街をシルフィアと一緒に見て回るだけでも意味はあるだろう。
 心の中で『あまり期待しないでくれよ……!』と祈りながら、ラブルピアの名所巡りが始まった。
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