平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です

モモ

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第1部 第1章

フラリン第2王子(上)

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 ナーロッパ歴1056年11月6日、フラリン王国北東部ローベラ要塞。

「フラリン王国第2王子、アラン殿下御入室!」

 先導する騎士に続いて、白銀の甲冑に身を包んだ貴公子が大広間に入る。顔にはまだ幼さが残っており、金髪を肩まで伸ばしているため、女の服装をさせれば女にも見えない事もない。

「アラン殿下」

 大広間に何をするでもなくたむろしていた騎士達は、慌てて片膝を床につける。

「よい、楽にせよ。それより聞きたいことがある。王都より何か報せはあるか?」
 王族らしい気品を感じさせる声だった。が、若さ故か、その言葉には落ち着きがなく僅かな焦りのようなものがあった。

「恐れながら申し上げます。王都からは何も。……ただ、こちらから出した使者がそろそろ戻ってくる頃かと」

 苦い表情の騎士が答える。

 ラーンベルクで大敗を喫したフラリン王国は、簒奪王の全面侵攻を受けていた。フェリオル王が直率するアストゥリウ王国軍本隊が接近しているという報告が王都バリから3日前に入り、誰の目から見てもフラリン本土防衛戦はフラリン軍が劣勢の状況に追い込まれている。

 その言葉に、アランは少し考えてから命じる。

「今日中に使者が戻ってこなかったら、明朝、騎馬だけの小隊を出して王都近辺を探らせろ。街道が封鎖されている可能性が高い」

 その言葉に騎士達が応じる前に、さきほどアランが入ってきたのとは別の扉が開いた。若い騎士が一人入ってくると、アランの前で跪く。

「アラン殿下、王都よりルイ・ディクレー司祭がお訪ねになり、殿下にお目通りを願っています。いかがなさいましょう?」

「私の執務室に通してくれ。すぐに向かう」

「御意」

 報告に来た騎士は一礼し、大広間を出る。
 まさか、バリは落ちたかもしくは危機に陥っているのではないのか?

 こみ上げて来る不安をフラリンの第2王子は必死に抑えつけながら、大広間を出る。

 しかし、この後すぐにその不安が的中している事を知る事になる……。







 その頃、アストゥリウ王国軍の占領下に入ったバリにあるヴェルサルユス宮殿の一室に簒奪王フェリオルは足を踏み入れていた。

 そこにいるのは、女神を連想させる美しい女性である。

 彼女の豊かな金髪、人形のように整った顔を見た時、フェリオルは立ちすくんでしまう。

 この女性こそが、フラリン王国の第1王女、ジルである。

 身じろぎもせずにいるフェリオルに彼女も決して声をかけようとはしない。

 フェリオルもまた、沈黙を守る。

 もはや掃討戦と言ってよい戦況だがフラリンとの戦争中という多忙の中、バリを占領して以来毎日無理に時間を作ってフラリンの王女を訪れているフェリオルだが、無言で彼女を見つめるばかり……。

 話したい事はたくさんあるのだが、一言も発する事がフェリオルには出来ない。
 そんな不思議な時間を過ごす簒奪王の胸によぎるのは、相反する2つの思いである。
 一方にあるのは達成感。
 幼い頃に優しく美しい母を殺され、自分の無力を実感した時、フェリオルは乳兄弟であるギニアス・オブラエンと共に誓った。
 どんな困難があろうと、いつか必ず母を死に追いやった者たちに復讐し、そして絶対の力、アストゥリウ王国の王権を、いやナーロッパの覇権を我が手につかみ、誰の命令にも従わずにすむ力を手に入れると。
 少年の時誓い合った誓約は果たされつつある。

 もはや、先王が気まぐれに作った子と蔑まれる事もなければ、人質の小倅と侮られる事もない。
 現在のフェリオルは、復讐を成し遂げ、そして自分の力で王位を奪い、さらに侵略者を討ち、その領土を平らげつつある強者。
 無力に等しい位置から、ついにここまで登りつめたと思う時、フェリオル・オーキューストは熱い高ぶりを感じる。

 しかし、昂った感情は、すぐに喪失感で散ってしまう。
 主神テンプレは勝利と権力を得た代償に、大きな代償を簒奪王に払わせたのである。

 母をのぞけば唯一愛した女性の愛情を失うと言う代償を……。
 戦場の事であったとは言え、実の父を討ち取り、その故郷を踏みにじった男を彼女が許す訳がない。
 ジルの前に立つたびに、フェリオルはそう思う。

 とらわれの身になったジルが恨みや怒りの言葉を発した事はない。
 ただ、表情を消し、冷たく拒絶するだけである。
 そして、その拒絶に耐えかねたフェリオルは胸の中で叫ぶ。
(俺は理解していなかったのだ。力を得るためにはその代価が必要な事を……)

 表情を引きつらせながらもジルから目をそらさない。

 釈明などはしない。
 しかし、豪胆と冷静さを合わせ持つ簒奪王にも、限界が訪れる。
 声なき拒絶に耐えきれなくなり、フェリオルは顔を背け、早足で部屋を出てしまう。



 だが、フェリオルは知らない。
 彼が部屋を去ったとたんに氷の仮面を外し、流される涙を……。

 彼女も、父を討ち、祖国を踏みにじるフェリオルへの憎しみと、それでも絶つ事ができない想いに涙を流す。

 ジルもフェリオルと同様に心を二つに引き裂かれているのだ。

 しかし、いくら天才と言われるフェリオルといえども人間である以上、ジルの心の動きを読み取るなどできるはずがなかった。
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