27 / 61
第1部 第2章
小国の平凡な王太子、美人の選帝公令嬢に尋ねられる。(下)
しおりを挟む
「だから、教皇庁から破門されると教会との関係が破壊されるリスクがあるという話ではないのですか?」
教会の中枢が教皇庁である以上、教皇庁の破門は教会が破門したのと変わらないのではないか?と言うのがアルベルトの疑問であった。
「ええ。現状では教皇庁による破門は教会との絶縁を意味します。しかし、例えば自国の教会を教皇庁から切り離し、その教会に引きつづき自分がテンプレ教信者であると認めさせたらどうなりますか?」
アリシアが言った通りだと完全に破門されたとは言えない。しかし、教会を分離させた時点で教皇庁は黙っていない。確実に戦争となるだろう。だが、簒奪王が教皇庁と戦いを望んでいれば教皇に破門される事を障害と考えないというのはアルベルトも筋が通っているとしか言い様がなかった。しかし、このアリシアが言った策には二つ程問題があり、アルベルトは指摘していく。
「しかし、果たして都合良く教皇庁から独立しようとする教会は現れるでしょうか?」
今までテンプレ教会の中枢を担ってきた教皇庁から独立しようとする神官がそう簡単に出るとはアルベルトには思えなかった。
「殿下のおっしゃる事はわかります。しかし……」
そう言いながらもアリシアの人形のように整った美しい顔には自信があふれている。
「例えばアストゥリウの高位神官達が王位を簒奪したフェリオル王の意向に逆らえましょうか? またテンプレ教の神官たちが教皇庁に忠実なのであれば、ナロテン派、ブス派、チーレム派、カルバン等の異端諸派が誕生していないでしょう」
ちがいますか? とアリシアは目でアルベルトに目で訴える。
確かに父や兄を討ってまで王位を奪った簒奪王に、アストゥリウの高位神官全員が足並みを揃えて逆らえるとはアルベルトにも思えなかった。
あくまでも従わぬ強硬派がいたとしても、簒奪王の武威をもってすれば、相当数の神官を確保できるだろう。そもそも神官全員が教皇庁に忠実なら、テンプレ教異端諸派は誕生していないのである。
「確かに簒奪王の圧力に逆らえるアストゥリウ神官ばかりだと思えませんし、可能性はあるでしょうけれども、しかし……」
アルベルトは一旦言葉を区切り、アリシアの顔に目を向ける。
アリシアの表情は変わらず、自信にあふれた微笑を浮かべている。
「しかし、これは簒奪王にとって賭けになりますよ。もし、神姫の名を用いて破門されればその策は破綻する。神姫の名を教皇が用いる可能性は低いですが、万が一神姫の名で破門されれば簒奪王が破滅する事は避けられません。フラリンという豊かな国土を得た今、そんな危ない賭けをするとは思えませんが……」
神姫の名で出せば効果的だ。どんな高位神官も表面上は神の子とされる神姫の言葉を否定はできないのだから。
しかし、それをすれば教皇の権威に傷がつく。神姫は俗世に関わらない。神姫の代わりに俗世を司るのが教皇なのだから、効果的と分かっていても神姫の名で宣言は中々出せない。異端勢力や異教徒の討伐も教皇の名で行われているのはそのためである。それを簒奪王にやってしまえば教皇庁の権威は失墜し、今後テンプレ教の中枢でいられる事は難しくなる。要するに神姫の号令は簒奪王にとって破滅だが、教皇庁にとってもそれに近い。「万が一」とアルベルトは前置きしたが、正直、それより低いのではないかと彼も思っている。
「私でもこの状況でそんな大きな賭けには出ません。しかし、フェリオル王は恐らくそれに乗るでしょう。見返りも大きいですから。恐らくフェリオル王が興味があるのはナーロッパの覇権であり、アストゥリウ王国はかの王にとってそれを得るための道具に過ぎないのだと思っています」
アリシアは一息ついて微笑を浮かべて続ける
「まあ、あくまでも今述べた事は私の想像です。しかし……」
「半年もかからず、結果は出る。そういうことですか」
途中でアリシアの言葉を遮ってアルベルトが続けると、選帝公令嬢は頷いた。
教会の中枢が教皇庁である以上、教皇庁の破門は教会が破門したのと変わらないのではないか?と言うのがアルベルトの疑問であった。
「ええ。現状では教皇庁による破門は教会との絶縁を意味します。しかし、例えば自国の教会を教皇庁から切り離し、その教会に引きつづき自分がテンプレ教信者であると認めさせたらどうなりますか?」
アリシアが言った通りだと完全に破門されたとは言えない。しかし、教会を分離させた時点で教皇庁は黙っていない。確実に戦争となるだろう。だが、簒奪王が教皇庁と戦いを望んでいれば教皇に破門される事を障害と考えないというのはアルベルトも筋が通っているとしか言い様がなかった。しかし、このアリシアが言った策には二つ程問題があり、アルベルトは指摘していく。
「しかし、果たして都合良く教皇庁から独立しようとする教会は現れるでしょうか?」
今までテンプレ教会の中枢を担ってきた教皇庁から独立しようとする神官がそう簡単に出るとはアルベルトには思えなかった。
「殿下のおっしゃる事はわかります。しかし……」
そう言いながらもアリシアの人形のように整った美しい顔には自信があふれている。
「例えばアストゥリウの高位神官達が王位を簒奪したフェリオル王の意向に逆らえましょうか? またテンプレ教の神官たちが教皇庁に忠実なのであれば、ナロテン派、ブス派、チーレム派、カルバン等の異端諸派が誕生していないでしょう」
ちがいますか? とアリシアは目でアルベルトに目で訴える。
確かに父や兄を討ってまで王位を奪った簒奪王に、アストゥリウの高位神官全員が足並みを揃えて逆らえるとはアルベルトにも思えなかった。
あくまでも従わぬ強硬派がいたとしても、簒奪王の武威をもってすれば、相当数の神官を確保できるだろう。そもそも神官全員が教皇庁に忠実なら、テンプレ教異端諸派は誕生していないのである。
「確かに簒奪王の圧力に逆らえるアストゥリウ神官ばかりだと思えませんし、可能性はあるでしょうけれども、しかし……」
アルベルトは一旦言葉を区切り、アリシアの顔に目を向ける。
アリシアの表情は変わらず、自信にあふれた微笑を浮かべている。
「しかし、これは簒奪王にとって賭けになりますよ。もし、神姫の名を用いて破門されればその策は破綻する。神姫の名を教皇が用いる可能性は低いですが、万が一神姫の名で破門されれば簒奪王が破滅する事は避けられません。フラリンという豊かな国土を得た今、そんな危ない賭けをするとは思えませんが……」
神姫の名で出せば効果的だ。どんな高位神官も表面上は神の子とされる神姫の言葉を否定はできないのだから。
しかし、それをすれば教皇の権威に傷がつく。神姫は俗世に関わらない。神姫の代わりに俗世を司るのが教皇なのだから、効果的と分かっていても神姫の名で宣言は中々出せない。異端勢力や異教徒の討伐も教皇の名で行われているのはそのためである。それを簒奪王にやってしまえば教皇庁の権威は失墜し、今後テンプレ教の中枢でいられる事は難しくなる。要するに神姫の号令は簒奪王にとって破滅だが、教皇庁にとってもそれに近い。「万が一」とアルベルトは前置きしたが、正直、それより低いのではないかと彼も思っている。
「私でもこの状況でそんな大きな賭けには出ません。しかし、フェリオル王は恐らくそれに乗るでしょう。見返りも大きいですから。恐らくフェリオル王が興味があるのはナーロッパの覇権であり、アストゥリウ王国はかの王にとってそれを得るための道具に過ぎないのだと思っています」
アリシアは一息ついて微笑を浮かべて続ける
「まあ、あくまでも今述べた事は私の想像です。しかし……」
「半年もかからず、結果は出る。そういうことですか」
途中でアリシアの言葉を遮ってアルベルトが続けると、選帝公令嬢は頷いた。
347
あなたにおすすめの小説
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
お子ちゃま勇者に「美味しくないから追放!」された薬師、田舎でバフ飯屋を開く
風
ファンタジー
現代日本から転生した味覚オタクの薬師ユージンは、幼い勇者パーティの“保護者枠”として命を守るため口うるさくしていたが、「薬が苦い」「うるさい」と追放される。
田舎ミズナ村で薬膳小料理屋「くすり香」を開いた彼の“バフ飯”は冒険者を覚醒させ、村を救い、王都の薬利権すら揺らす。
一方、追放した子どもたちはユージンの真意を知って大泣きするが、彼は戻らない──自分の人生を取り戻すために。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる