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酒と友1
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「お前さあ、俺と飲み屋に来たこと絶対に騎士様への手紙に書くなよ」
「え?なんで?」
ざわざわと騒がしい店内でも、イアンのやたら大きな声はよく聞こえる。俺は喧騒に負けないように声を張ってそれに答えた。
宵のうちの酒場はとても賑やかでとても温かい。以前セブさんと一緒に来たカガリナの宿横の酒場に、今日俺はイアンと酒を飲みに来ていた。人混みは相変わらずあまり得意ではないけど、今日は思い切ってカガリナに来てよかった。人がいっぱいでも、イアンもいてくれるから怖くないし。
先日娼館でのごたごたでイアンにはお世話になったのに、結局まともな挨拶もなしに俺はハービルに帰ってしまった。一言お礼だけでもと思って今日ディアス商会のカガリナ支店に顔を出せば、「ちょうど飯食いに行こうと思ってたんだ」と、イアンにこの酒場へ連れてこられた。
「俺お前にそんな気全くないのに、騎士様から勝手に身に覚えのない嫉妬ぶつけられたら面白くねえだろ」
匂いを嗅いだだけで酔ってしまいそうな程強い酒を一気に呷ったくせに、イアンの顔色はいつも通りだ。平然とアルコールとつまみを追加注文した。
「そういえば、セブさんがわたしとイアンの仲が良くて嫉妬するって言ってたな。でも友達全然いないわたしに嫉妬するっておかしいよね」
バンバン杯を空けるイアンと真逆で、俺はずっと同じ果実酒の入った杯をちびちびと飲んでいる。全然減らない。女性に人気だと店員が言うから飲みやすいのかと思って頼んでみたけど、なかなか酒精が強くて舐める程度しか飲んでないのに体がふわふわする。
何かを考えるような顔をして数秒固まっていたイアンが、「お前が何言ってんのかわかんなくてクソ考えちまったじゃねえか。お前が異国民に見えたわ」と急に息を吹き返しベラベラしゃべり始めた。
「騎士様が、“仲良しのお友達がいるお前のことが羨ましくて嫉妬してる”ってか?本気でそうだと思ってんのか?ちょっと抜けてるくらいなら可愛気かもしんねえけど、そこまでボケてんのはクソ面倒くせえわ」
本当に心底面倒くさいんだろう。すんごい険しい顔をしてる。面倒なくせに俺を投げ出すつもりはないらしく、「もっと情緒と機微を理解しろ」と説教を始めつつ、大皿から肉と豆の炒め物を俺の小皿に取り分けてくれる。
イアンはどうやら、口は悪いけど世話焼きらしい。なんだか少しだけばあばみたいで胸がほくほくする。
「森に引きこもってるからそんな当たり前のこともわかんねえまま大人になっちまうんだろ。お前、俺以外に友達いるのか?」
「えっ。えー、いないですねえ…」
イアンはさらっと言ってのけたが、どうやら俺とイアンは友達に昇格していたらしい。嬉しくて、肉を咀嚼する口の端が無意識に上がってニヤけてしまう。
「お前、それで騎士様がお前を羨ましがってるだなんてよく思えたな。ずいぶん図太いじゃん」
「…セブさんが言ったんだもん。嫉妬するって」
肉を立て続けに口に運んでいたら、「豆も食え」と俺のフォークに豆ばかり刺して寄越してくる。やっぱりばあばだ。
「それはさあ、お前と仲良くしてる俺に嫉妬してるんだよ。騎士様はお前と親しい俺のことがムカつくって言いたかったんだろ」
「え?イアンと仲良くしたらダメなの?なんで?イアン、セブさんに嫌われてる?」
間髪入れずに「問題あるのは俺じゃなくて騎士様の方だろうが」と頭を小突かれた。解せない。厚手のフード越しとはいえそこそこ痛い。
今日はいつも愛用しているローブを羽織ってきている。ここ数日は朝晩冷えるので、フードを目深に被っていても周りから見てそこまで違和感はないと思う。
「俺から騎士様の思惑に言及するのは野暮だろ。なんでダメかは本人に聞けよ。嫉妬も俺を邪険にする理由も、お前が悩む必要のあるような話じゃねえからさ。でも、絶対に俺と会ってるって言うな。面倒くさい」
「えー…イアンの言ってることの方が面倒くさいじゃんか」
どうにも要領を得なくてすっきりしないが、とりあえずセブさんとイアンはあまりお互いをよく思っていないらしい。でもイアンが悩む必要無いって言ってるってことは、俺が関わらなくていいことなんだろう。
イアンが八つ当たりのように野菜で俺の皿をいっぱいにし始めたので、しぶしぶ豆だらけのフォークを齧った。
「お前はさあ、なんで騎士様にそんなべったべたなわけ?つい最近知り合ったばっかりなんだろ?やっぱ顔が好みなのか?」
さっきの様子から、これ以上セブさんの話をしたくないのかと思っていたので、イアンの方から話題を続けたのが意外で少し驚く。
「どうだろ?セブさんの顔はすごくキレイだって思うけど、わたしは気後れしちゃうから…正直、少し苦手かなあ」
言いながら、これじゃ悪口みたいだなと気が咎め、最後は酷く尻すぼみになった。セブさんはとても素敵な人だ。悪口なんて言っていいわけがない。
「あーそれはわからなくもない。あれは役者とかならまだしも、近くで見るためのもんじゃねえな。そういう意味じゃ俺の方が良くないか?」
罪悪感で気まずくなっている俺を全く気にした風もなく、イアンはニカリとおどけて笑った。
「…確かに、イアンもかっこいいと思うんだけど、意地悪な顔ばっかりするからなあ」
「ははっ。俺は意地悪かよ。まあ、いちおう俺がかっこいいことは認めるのか」
「うーん。でもさ、わたしはイアンよりローレンスさんみたいな人の方が断然好きだ。かっこいいし強そうだしなんだか安心する」
キラキラしたかっこよさじゃなくて、どっしり落ち着いた感じがかっこいいと思う。
「は?解せねえー。お前俺よりあんな筋肉だらけの地味なおっさんの方が好みなのかよー」
「うん。好き」
俺の即答に、イアンは持っていたフォークを皿に放ってげらげら笑い出した。行儀が悪いが、酒場の雰囲気ではそう指摘する方が適していない気がする。俺は無粋な指摘を、かすかに果実の香りがする濃いアルコールと共に飲み込んだ。
「それは騎士様どころか、俺以外の前では絶対言うなよ。あいつの嫁こそヤキモチ焼き得意なんだ。ローレンスがお前みたいな若いやつから好かれてるなんて嫁に知れたら、それだけでやっべえ悋気起こすだろうな。勝手に怒り狂って離婚だとか言い出してもおかしくないぞ」
「えっ。うそ。離婚はダメ。絶対言わない。好きって言ってもそういう意味で好きなんじゃないし。見た目に好感が持てるって話なだけで…」
ローレンスさんと奥さんの仲を裂くような真似、全く微塵も望んでない。それ以前に、横恋慕なんて傍迷惑が過ぎること、絶対したくないし、する度胸もない。冷や汗をかきつつきょどきょどする俺の肩を、イアンは「んなことわかってるよ」とぺしりと叩く。
「お前がそういう意味で好きなのは騎士様だもんな」
「え?何?え?」
まさか、俺のセブさんに対する好意がイアンにバレてるなんて思ってなかったので、血の気が一気に引いていく。そんな俺とは対照的に、イアンはなんてことない風に軽く鼻で笑った。
「知らねえふりしといた方がいいならそうするけど、別に俺相手に隠す必要ねえだろ。邪魔する気なんてサラサラねえし」
「え、俺が、あの、好きって、なんで?」
「は?あんなアホ程いちゃいちゃしといて好きじゃないとかあるか?一応まだ恋仲ではないんだよな?」
あまりに恐れ多いことを問われて、必死に首を横に振る。
「こい、なか、だなんて、口にするのもセブさんに申し訳ない。セブさんは優しいから俺にも親切にしてくれるだけで、特別親しいわけじゃないんだ。もしかして、イアン以外にも俺の気持ちってバレてる?もしかしてセブさんも…?」
動揺して指が震える。持っていたグラスを倒しそうになったところを、「落ち着け」とイアンがなんてことない風にさらっとグラスを取り上げてくれた。
「大丈夫だって。お前が誰を好きだろうが、それは悪いことじゃねえ。いっそ騎士様は大層喜ぶだろうよ」
イアンは狼狽える俺を面白がっているらしく、どうにも俺の深刻さをわかってくれない。歯痒くて、俺は身を乗り出して語気を強めた。
「セブさんは優しいから、人からの好意を無碍にしないだろうけど、俺から好かれるなんてどう考えても迷惑だよ。知ったらきっと気を遣わせるし、もしかしたら面倒になって会ってくれなくなるかもしれない」
自分で言った言葉に打ちのめされて、最後は声まで震え出してしまった。喉奥がツンと痛くなる。
「泣くなよ。俺がいじめてるみたいじゃねえか。本当にお前自己肯定感低くて面倒くせえな。騎士様がお前に会いたくないなんてことねえよ。手紙はちゃんと書いてやれ」
「泣いてない。手紙は書く。約束したし」
こぶしで目元をぐしぐし念入りにこすって誤魔化してから目を開けると、俺の小皿に大振りの串焼き肉が取り分けられていて、犬か何かへの扱いのようだが、わかりやすい慰めについ笑ってしまう。ありがたく手を付ける。
「お前って、素だと自分のこと俺って言うの?」
「俺って言ってた?」
「結構言ってた。どっちでもいいけどさ、俺と飲んでる時くらいは素で話せば?今更俺相手に取り繕っても何にもなんねえし」
確かに。素顔見られてるわけだし。
俺が頷くと、イアンは満足気にがははと笑ってまた肩をどついて来た。どんどん俺の扱いが雑になってる気がする。
「え?なんで?」
ざわざわと騒がしい店内でも、イアンのやたら大きな声はよく聞こえる。俺は喧騒に負けないように声を張ってそれに答えた。
宵のうちの酒場はとても賑やかでとても温かい。以前セブさんと一緒に来たカガリナの宿横の酒場に、今日俺はイアンと酒を飲みに来ていた。人混みは相変わらずあまり得意ではないけど、今日は思い切ってカガリナに来てよかった。人がいっぱいでも、イアンもいてくれるから怖くないし。
先日娼館でのごたごたでイアンにはお世話になったのに、結局まともな挨拶もなしに俺はハービルに帰ってしまった。一言お礼だけでもと思って今日ディアス商会のカガリナ支店に顔を出せば、「ちょうど飯食いに行こうと思ってたんだ」と、イアンにこの酒場へ連れてこられた。
「俺お前にそんな気全くないのに、騎士様から勝手に身に覚えのない嫉妬ぶつけられたら面白くねえだろ」
匂いを嗅いだだけで酔ってしまいそうな程強い酒を一気に呷ったくせに、イアンの顔色はいつも通りだ。平然とアルコールとつまみを追加注文した。
「そういえば、セブさんがわたしとイアンの仲が良くて嫉妬するって言ってたな。でも友達全然いないわたしに嫉妬するっておかしいよね」
バンバン杯を空けるイアンと真逆で、俺はずっと同じ果実酒の入った杯をちびちびと飲んでいる。全然減らない。女性に人気だと店員が言うから飲みやすいのかと思って頼んでみたけど、なかなか酒精が強くて舐める程度しか飲んでないのに体がふわふわする。
何かを考えるような顔をして数秒固まっていたイアンが、「お前が何言ってんのかわかんなくてクソ考えちまったじゃねえか。お前が異国民に見えたわ」と急に息を吹き返しベラベラしゃべり始めた。
「騎士様が、“仲良しのお友達がいるお前のことが羨ましくて嫉妬してる”ってか?本気でそうだと思ってんのか?ちょっと抜けてるくらいなら可愛気かもしんねえけど、そこまでボケてんのはクソ面倒くせえわ」
本当に心底面倒くさいんだろう。すんごい険しい顔をしてる。面倒なくせに俺を投げ出すつもりはないらしく、「もっと情緒と機微を理解しろ」と説教を始めつつ、大皿から肉と豆の炒め物を俺の小皿に取り分けてくれる。
イアンはどうやら、口は悪いけど世話焼きらしい。なんだか少しだけばあばみたいで胸がほくほくする。
「森に引きこもってるからそんな当たり前のこともわかんねえまま大人になっちまうんだろ。お前、俺以外に友達いるのか?」
「えっ。えー、いないですねえ…」
イアンはさらっと言ってのけたが、どうやら俺とイアンは友達に昇格していたらしい。嬉しくて、肉を咀嚼する口の端が無意識に上がってニヤけてしまう。
「お前、それで騎士様がお前を羨ましがってるだなんてよく思えたな。ずいぶん図太いじゃん」
「…セブさんが言ったんだもん。嫉妬するって」
肉を立て続けに口に運んでいたら、「豆も食え」と俺のフォークに豆ばかり刺して寄越してくる。やっぱりばあばだ。
「それはさあ、お前と仲良くしてる俺に嫉妬してるんだよ。騎士様はお前と親しい俺のことがムカつくって言いたかったんだろ」
「え?イアンと仲良くしたらダメなの?なんで?イアン、セブさんに嫌われてる?」
間髪入れずに「問題あるのは俺じゃなくて騎士様の方だろうが」と頭を小突かれた。解せない。厚手のフード越しとはいえそこそこ痛い。
今日はいつも愛用しているローブを羽織ってきている。ここ数日は朝晩冷えるので、フードを目深に被っていても周りから見てそこまで違和感はないと思う。
「俺から騎士様の思惑に言及するのは野暮だろ。なんでダメかは本人に聞けよ。嫉妬も俺を邪険にする理由も、お前が悩む必要のあるような話じゃねえからさ。でも、絶対に俺と会ってるって言うな。面倒くさい」
「えー…イアンの言ってることの方が面倒くさいじゃんか」
どうにも要領を得なくてすっきりしないが、とりあえずセブさんとイアンはあまりお互いをよく思っていないらしい。でもイアンが悩む必要無いって言ってるってことは、俺が関わらなくていいことなんだろう。
イアンが八つ当たりのように野菜で俺の皿をいっぱいにし始めたので、しぶしぶ豆だらけのフォークを齧った。
「お前はさあ、なんで騎士様にそんなべったべたなわけ?つい最近知り合ったばっかりなんだろ?やっぱ顔が好みなのか?」
さっきの様子から、これ以上セブさんの話をしたくないのかと思っていたので、イアンの方から話題を続けたのが意外で少し驚く。
「どうだろ?セブさんの顔はすごくキレイだって思うけど、わたしは気後れしちゃうから…正直、少し苦手かなあ」
言いながら、これじゃ悪口みたいだなと気が咎め、最後は酷く尻すぼみになった。セブさんはとても素敵な人だ。悪口なんて言っていいわけがない。
「あーそれはわからなくもない。あれは役者とかならまだしも、近くで見るためのもんじゃねえな。そういう意味じゃ俺の方が良くないか?」
罪悪感で気まずくなっている俺を全く気にした風もなく、イアンはニカリとおどけて笑った。
「…確かに、イアンもかっこいいと思うんだけど、意地悪な顔ばっかりするからなあ」
「ははっ。俺は意地悪かよ。まあ、いちおう俺がかっこいいことは認めるのか」
「うーん。でもさ、わたしはイアンよりローレンスさんみたいな人の方が断然好きだ。かっこいいし強そうだしなんだか安心する」
キラキラしたかっこよさじゃなくて、どっしり落ち着いた感じがかっこいいと思う。
「は?解せねえー。お前俺よりあんな筋肉だらけの地味なおっさんの方が好みなのかよー」
「うん。好き」
俺の即答に、イアンは持っていたフォークを皿に放ってげらげら笑い出した。行儀が悪いが、酒場の雰囲気ではそう指摘する方が適していない気がする。俺は無粋な指摘を、かすかに果実の香りがする濃いアルコールと共に飲み込んだ。
「それは騎士様どころか、俺以外の前では絶対言うなよ。あいつの嫁こそヤキモチ焼き得意なんだ。ローレンスがお前みたいな若いやつから好かれてるなんて嫁に知れたら、それだけでやっべえ悋気起こすだろうな。勝手に怒り狂って離婚だとか言い出してもおかしくないぞ」
「えっ。うそ。離婚はダメ。絶対言わない。好きって言ってもそういう意味で好きなんじゃないし。見た目に好感が持てるって話なだけで…」
ローレンスさんと奥さんの仲を裂くような真似、全く微塵も望んでない。それ以前に、横恋慕なんて傍迷惑が過ぎること、絶対したくないし、する度胸もない。冷や汗をかきつつきょどきょどする俺の肩を、イアンは「んなことわかってるよ」とぺしりと叩く。
「お前がそういう意味で好きなのは騎士様だもんな」
「え?何?え?」
まさか、俺のセブさんに対する好意がイアンにバレてるなんて思ってなかったので、血の気が一気に引いていく。そんな俺とは対照的に、イアンはなんてことない風に軽く鼻で笑った。
「知らねえふりしといた方がいいならそうするけど、別に俺相手に隠す必要ねえだろ。邪魔する気なんてサラサラねえし」
「え、俺が、あの、好きって、なんで?」
「は?あんなアホ程いちゃいちゃしといて好きじゃないとかあるか?一応まだ恋仲ではないんだよな?」
あまりに恐れ多いことを問われて、必死に首を横に振る。
「こい、なか、だなんて、口にするのもセブさんに申し訳ない。セブさんは優しいから俺にも親切にしてくれるだけで、特別親しいわけじゃないんだ。もしかして、イアン以外にも俺の気持ちってバレてる?もしかしてセブさんも…?」
動揺して指が震える。持っていたグラスを倒しそうになったところを、「落ち着け」とイアンがなんてことない風にさらっとグラスを取り上げてくれた。
「大丈夫だって。お前が誰を好きだろうが、それは悪いことじゃねえ。いっそ騎士様は大層喜ぶだろうよ」
イアンは狼狽える俺を面白がっているらしく、どうにも俺の深刻さをわかってくれない。歯痒くて、俺は身を乗り出して語気を強めた。
「セブさんは優しいから、人からの好意を無碍にしないだろうけど、俺から好かれるなんてどう考えても迷惑だよ。知ったらきっと気を遣わせるし、もしかしたら面倒になって会ってくれなくなるかもしれない」
自分で言った言葉に打ちのめされて、最後は声まで震え出してしまった。喉奥がツンと痛くなる。
「泣くなよ。俺がいじめてるみたいじゃねえか。本当にお前自己肯定感低くて面倒くせえな。騎士様がお前に会いたくないなんてことねえよ。手紙はちゃんと書いてやれ」
「泣いてない。手紙は書く。約束したし」
こぶしで目元をぐしぐし念入りにこすって誤魔化してから目を開けると、俺の小皿に大振りの串焼き肉が取り分けられていて、犬か何かへの扱いのようだが、わかりやすい慰めについ笑ってしまう。ありがたく手を付ける。
「お前って、素だと自分のこと俺って言うの?」
「俺って言ってた?」
「結構言ってた。どっちでもいいけどさ、俺と飲んでる時くらいは素で話せば?今更俺相手に取り繕っても何にもなんねえし」
確かに。素顔見られてるわけだし。
俺が頷くと、イアンは満足気にがははと笑ってまた肩をどついて来た。どんどん俺の扱いが雑になってる気がする。
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