稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ

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私の魔女2(セブ視点回想)

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 魔女の孫を名乗った“彼”からは、幻惑魔法の気配がした。魔女などという反体制的なものを生業にしているのだから、姿を隠すこと自体は至極当然だろう。特段その理由を探るつもりもない。
 第一、その理由を問うには、私に幻惑耐性があることを説明する必要もあるだろうが、話したところで私にも彼にも利点はない。ただそういった体質だというだけなのだが、それは幼い頃に両親に話したきりだ。きっと誰も覚えてなどいないだろう。

 彼は、怖がりなのに危なっかしい子供だった。ただし、怖がるのは人の視線ばかりと何とも危うげで、妙に胸がざわついた。その頼りない肩を抱き寄せて庇護したい衝動に駆られる。そんな感情が湧くのは初めてのことだった。
 強く庇護欲を掻き立てられるのは、その言動に心奪われてしまったのだと思ったが、きっとこの子の容姿も、俗に言う“好み”だったのだろう。気弱そうな下がった目尻、短く濃い睫毛、小振りな口鼻、そばかすの散った血の気のない真白な肌、それに映える血のように鮮やかで特異な柔らかそうな赤毛。子供らしさを多分に残す目鼻立ちも、身長が伸び切ったばかりの薄い筋肉の乗った若木のような細い体も、全てが愛らしいと、ひと目見た瞬間に心射抜かれてしまった。

 嗤えるじゃないか。大衆に「美しく正しい鋼鉄の騎士」などと囃し立てられているくせに、実際は少年じみた同性に背徳的な愛欲を感じるのだ。道理で多くの異性に言い寄られても、何一つ心動かないわけだ。

 腕の中に囲い込んでしまいたいような気持ちになるのに、それをすり抜けるようにびくびくと怯え逃げる。にも関わらず、肝心なところで不用心で人間の悪意がどこにあるのか知らない無知な存在の彼が、何故か心の底から“理想的だ”と思った。心から愛するならこんな存在が良いと思った。
 彼──ハバトを見ていると、ぞくりとする程の欲が溢れてくる。

 必ず手のうちに落としてしまおう。逃げられないように正しく口説き落として、彼が死ぬまで、いや、死んでも二度と離さない。身体も、心も、魂も、どこまでも私のものにしよう。
 初めて彼の薄茶の瞳を見た時に、そう深く心に決めた。
 ハバトは、私だけの可愛い可愛い魔女だ。





 利き腕を切り落とすしか無いだろうと思われていた私が、治療休暇が明けてみれば五体満足で騎士団に戻って来た為、上官は化け物ものでも見るような目で私を見た。
 倫理観など持ち合わせていない同僚たちは、私の復帰の可否で賭けなぞしていたらしく、私が変わらず主査職で戻るとわかると大半が泣き崩れた。くだらな過ぎて道徳を説く気にもなれない。


 左腕の治療から戻った後の私は、傍目から見て今までにない程に精力的だっただろう。私には二つ程やるべきことが増えたからだ。

 一つはハバトにも話した通り、彼を王都に迎える為の下準備だ。彼をただの治療士として連れてきては、いつかハバトの有用性を知った者に引き離され兼ねない。ならば、ハバトを守る為とでも理由をつけ丸め込み、形式だけでも私の伴侶にしてからこちらに攫ってくればいい。例えどんな権力を持った人間でも、高位貴族子息の伴侶を横から奪うような真似は容易くない。また、伴侶の立場にさえ収めてしまえば、ハバトの一挙手一投足に口出しが出来る。最高の権利だ。
 ただし、その為には婚姻の許可が必要だ。我が国では同性婚自体は全くない話ではない。しかし、それは飽くまで平民に関してのみだ。貴族の婚姻には制約が多い。それを何としても議会乃至、国王に特例で認めさせる。その為には、広く権力のある教会から丸め込んでもいいし、取引材料になる武功を上げてもいい。手段は選ばない。

 もう一つの為すべきことは、ハービル村でハバトを攫って襲い、殺そうとした男達の指示役を捜すことだ。ハバトから聞いた話では、奴等は明らかに何か目的を持ってハバトを殺そうとした。そして、唯一逃げおおせた中年の男が、ハバトのことを殺すのに「ちょうどいい」と表現した。再度ハバトを狙う可能性もある。必ず見つけ出して始末する。
 先んじて捕まえた二人には、すでに私が手配した人間に尋問をさせている。もちろん、殺さない“予定”だ。両足と片腕、片目は残して尋問しろと伝えてある。もし、いつまでも口を割らないようならわざと逃がす。逃げた先に指示役に繋がる糸口が有ろうと無かろうと、その時の二人のことは“善処”するようにと指示を出した。近々何かしらの報告はあるだろう。



 前回の賭けで大損した同僚たちが負けを取り返そうと企てて、また私を出しにまたくだらない賭けをしようと考えているようだった。「最近すごく楽しそうに仕事してるけどいいことあったか?」などと気持ちの悪い猫なで声で聞いてくる。
「もしかして王様から謝礼金もらった?」
「新しい昇進話が来たとか?」
「美味い酒でも見つけたか?」
「変なもんで食ったんじゃないか?」
 当てずっぽうにも程がある。面倒でそれら全て聞き流していたのだが、不意にスペンサーがやる気のない声で「好きな子でも出来たんじゃない?」と適当を言った。それがあまりに的を射ていたのでつい笑ってしまい、「そうだとしたらどうする」と同僚たちの悪乗りに燃料を与えてしまった。
 結果、次の賭けの標的は「バルダッローダが結婚するのか否か」という下世話でくだらないものになった。どうでもいいことだが、どれだけ長期で賭けの結果を待つつもりなんだろうか。
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