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友人と恋の相談
学院には、正門から望める大庭園と、コの字形の学舎に囲まれた中庭がある。その二つは本職の庭師がついており、景観も素晴らしくベンチやガゼボも多い。つまりは昼休みの人気のスポットである。
それに対して、学舎を挟んで大庭園の真逆にある大講堂と演習場は、昼休み中は静かなものだ。演習場には実技の自主練を行う生徒や、友人同士で遊戯を楽しむ生徒がまばらにいる。しかし、大講堂の方は立派な建造物ではあるが集会等でしか開放されない施設の為、昼休み中大講堂周辺は人気がなく閑散としている。
そんな静かな大講堂前の大階段に、座り込んで昼飯を食っている俺とベルナルド伯爵子息。
「純粋無垢なフローレス公爵家の姫小百合を騙して籠絡して」
「へえ」
「誠実で優しき王家の剛腕の美丈夫に縋って取り入ろうとして」
「へえ」
「でも両方に見離されたチビな乞食、と」
「へえ」
「デーン、君すごい言われようだね。反論しなくていいのかい?」
「チビって言ったヤツの方が人として小せえって話ですよね」
「気に触ったのはそこなんだ」
ベルナルド伯爵子息は心底面白そうに豪快に笑った。
ベルナルド伯爵子息と話すのは、以前子息がガブリエルを口説いていたところに横槍を入れた、例の時以来だ。別にお互い避けていたという訳でもなく、単純に俺たちに接点がないだけだ。今日は、ガブリエルがおらずぼんやりとぼっちをしていた俺に、どう言った風の吹き回しか不意に彼が昼食のお誘いをかけた為、俺たちは今肩を並べてここにいる。
饒舌に語るベルナルド伯爵子息の言う事には、今学院内では大なり小なり様々な俺の噂が実しやかに囁かれているそうだ。「そんな子供くさい事を言ってる生徒など多くはないんだがね」とベルナルド伯爵子息は付け足した。それもそうだろう。ここの生徒は何よりも品行方正と社交能力を求められる貴族の子息たちばかりなのだから、下世話な話を口にするリスクをわかっている者が多いだろう。
ただ、口にせずとも内心そう思っている人間自体はなかなか多いのかもしれないが。元々、難攻不落な全男子憧れの高嶺の花と、支持率断トツ生徒会長の第一王子の両方と親しくしている特待生がいる、という話は有名だったそうだ。
「それが何故、今はジェラード殿下とフローレス様が親密そうにしてるんだい?」
ここ二週間、俺はジェラード殿下にも、ガブリエルともまともに会えていない。気を張っていないと背が丸まり、溜め息をつきたくなってしまう。つまりは悄気げている。
「それは、豊饒祭の祝詞上げに殿下とガブリエルが選ばれたから、と思われるのですが…」
以前聞いていた「豊饒祭への王家の参加を推進した公爵家」というのが、ガブリエルの生家であるフローレス公爵家だったらしい。
そして、内々ではどんな話し合いが持たれたかまではわからないが、どうやら王家と公爵家が国教会に協賛する事を広く知らしめる為に、王家からは第一王子であるジェラード殿下が、公爵家からは長子であるガブリエルが、本来は国教会の大神官が上げる祝詞を代行すると決まった。それは公的な明示もされていて、学院内に留まらず誰もが知っている事だ。
「なあ、それだけにしては殿下がやたらフローレス様にべったり張り付いてるし、君はやたら気落ちしてるし、気になるなって方が難しいな」
そうなのだ。殿下とガブリエルの親密度が異様な上がり方をしているのだ。催し準備に関係の無いだろう学内でも、授業中以外二人は常に一緒にいるのだ。まるで、“本来の恋人”のように。
胸が重い、痛い、苦しい。溜め息を堪えて代わりに大きく深呼吸をした。気を取り直して「ベルナルド伯爵子息」と呼びかけると、「シリルでいい」とつっけんどんながらファーストネーム呼びを許可された。
「ガブリエルに好意があるシリルくんからすると面白くはないでしょうが、殿下とガブリエルは傍目から見ればとんでもなくお似合いですよね」
何と言っても、正当な第一王子と、王家の傍系である公爵家の令嬢だ。しかも二人揃って一際見目麗しいと来ている。目が焼き切れるかと思うほど眩くて非の打ち所が無い組み合わせは、本来なら大いに目の保養と歓迎すべきものだろう。
ベルナルド伯爵子息改め、シリルくんは俺をじっと見つめてから徐に口を開いた。
「君への比較的好意的な噂の一つとして、ジェラード殿下とフローレス様を引き合わせたのが君だ、っていうのがあるんだが、それだと豊饒祭の決定が二人の急接近より後事というになるからやや違和感があるな。まあ、後先がどちらかなどは些事で、どうでもいい事ではあるがな」
「そうですね。特別俺が二人を取り持つような事は何もしてません」
するわけがない。いつかは身を引かなければいけない事はわかってはいる。だが、情けない事に俺はまだ彼から離れる覚悟はできていないからだ。
また自然と視線が下がって俯いてしまう。飯なんて全く喉を通らず、たった一つだけ持ってきていた握り飯の腹をひたすらにぎにぎと親指で押し捏ねる。シリルくんは彩り良いピタパンを豪快に噛じる。貴公子然とした見た目を裏切るように、男らしい大口で頬張るさまは色気すらある、ような気がする。わからんけど。
「だよな。ジェラード殿下は君に心底ご執心のように見えたしね。そこに気の弱いフローレス様が割って入るような真似するとも思えない」
「…ガブリエルが何をしなくても、殿下がガブリエルを見初めた、というだけなのではないでしょうか」
それが、“一番妥当だが一番あって欲しくない推測”だ。俺が取り持つまでもない。例え前世の記憶がなくても、かつて麗しの白百合を溺愛した人が、それと瓜二つの可憐な姫小百合を欲するのはとても自然な流れのように思う。
しかし、それを俺の身勝手な心が否定したがって痛む。ああ、狭量で矮小な自分が嫌だ。
「でも、ジェラード殿下は君の恋人だろう?」
「そうですけど……………あ」
どんだけぼんやりしてるんだ俺は。肯定してどうする。青褪めて顔をあげると、シリルくんはしたり顔で笑っていた。
「皆デーンとフローレス様が恋仲だと疑ってかかっていたから、“そちら”の線を鼻から思考に乗せてないんだ。でもフラットに見れば君とジェラード殿下の距離感の方が明らかに疑わしい。君といる時はジェラード殿下の笑い方が全く違う事に気付くべきなのだ」
「…笑い方、はわからないですが、今殿下との関係を肯定しても否定しても墓穴を掘り下げるだけですね」
本当にしてやられた。自己嫌悪で今なら地面に埋まれそうだ。観念して、断頭台にいるかのように首を前に差し出して項垂れた。
「普段の君なら絶対こんなしょうもない問答でやり込まれるなんてないだろうに、残念だったね」
まだシリルくんはニヤニヤと笑っているが、蔑んで誂う様子ではなく、単純にしてやった事を喜んでいるだけのようで陰湿な印象は受けない。
「シリルくん意外と子供っぽいですね」
「君は普段やたらと飄々としてるよな」
「そう見せてるだけです。俺は我を通せるような立場にないからそう振る舞うしかないだけですよ」
「賢い男だ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「そうしてくれ」
それぞれ飯とパンを口に運び、少しばかりの沈黙が落ちる。シリルくんはどこまでも快活で歯切れよい。彼が殿下の色恋の醜聞を、無闇矢鱈と拡めるような事はないだろうと思う。
彼は空になった売店の紙袋をくしゃりと丸める。演習場の方からは遊んでいるのだろう、かすかに楽しそうな生徒たちの声が聞こえてくる。
「僕の願望も多少はあるから、正しい真眼が働いているかはっきりとは自信がないが、フローレス様はジェラード殿下に尊敬以外の感情はないように見える」
「殿下の片想いって事ですか?でも、もしそうでも時間の問題なのではないでしょうか。あの完全無欠な殿下に熱心に想われて、少しも靡かないなんて事あります?」
「そんな泣きそうな顔するな」
「シリルくんこそ情けない顔するのやめてください」
「まあ、なんだ。これは君につられただけだ」
「人のせいにするのかっこ悪いですし、いっそ俺のせいだとしてもかっこ悪いのは変わりないですからね」
「黙れチビデーン」
「チビって言った方がチビなんです」
男子学生二人でひんひん悄気返っている姿はだいぶ痛々しい。
もう半月もすれば雨季に入るだろうが、それを感じさせない程に今日の空は真っ青で、陽の光は肌を優しく温める。爽やかな風が吹く中、アドバイザー不在の不毛な恋愛相談。なんだこれ。
「デーン。君、特攻してこい。ジェラード殿下にぶつかって洗い浚い吐き出して相手にも吐かせてこい」
他所様から色男と称される男が提案する策にしては下策中の下策感がある。つまりは自棄っぱちだ。しかも詰まる所は俺任せ。とんでもねえ色男だ。
「どう転んでも俺のメンタルは死ぬじゃないですか」
失恋か羞恥か。
「しかし一番確実に現状打破できる。それくらい安いものだろうな」
「ひとでなし。横暴伯爵だ」
行き場のないむしゃくしゃを発するように、ずっと捏ねていた握り飯を無理やり口の中に押し込み、水筒の水で流し込む。シリルくんは「僕はまだ爵位をついでない」とか、これまたどうでも良くて子供みたいな揚げ足取りをしてくるがそんなものは無視だ。
「ただな」
急に暴君からいつもの貴公子らしい表情に戻ったシリルくんが、右手で顎に触れ少し考えるように小首を傾げた。
「ジェラード殿下がそういった事を中途半端にしている事に違和感があるな」
それは俺から見ても同感だったので少し顔を上げて頷く。
「殿下は王族として醜聞を避けなければいけませんからね。男の恋人なんて適切に処理すべきなのに放ったらかしは危機意識が低いですよ」
「何故君が臣下目線なんだ」
「臣下というより、殿下に健やかであって欲しい民目線です」
「なお悪い」
呆れたと言わんばかりに、頬杖を付いて半目で睨まれた。
「この際男だどうだは関係ない。恋人と別れもせずに、別の異性に秋波を送るような真似は不誠実で倫理観に欠けるだろう。婚姻後に正式な手続きをもって側妃や愛妾を設けるのとはわけが違う」
「……確かに」
「その点を見ると何か事情があるように思えるんだ。勝率ゼロの負け戦に君を送り出したいわけじゃない」
頬杖のままに真っ直ぐ俺を見て、シリルくんはにこり、と必殺色男スマイルを浮かべる。必殺技の使い所が完璧過ぎて、うっかりちょっと尊敬しそうになった。
それに対して、学舎を挟んで大庭園の真逆にある大講堂と演習場は、昼休み中は静かなものだ。演習場には実技の自主練を行う生徒や、友人同士で遊戯を楽しむ生徒がまばらにいる。しかし、大講堂の方は立派な建造物ではあるが集会等でしか開放されない施設の為、昼休み中大講堂周辺は人気がなく閑散としている。
そんな静かな大講堂前の大階段に、座り込んで昼飯を食っている俺とベルナルド伯爵子息。
「純粋無垢なフローレス公爵家の姫小百合を騙して籠絡して」
「へえ」
「誠実で優しき王家の剛腕の美丈夫に縋って取り入ろうとして」
「へえ」
「でも両方に見離されたチビな乞食、と」
「へえ」
「デーン、君すごい言われようだね。反論しなくていいのかい?」
「チビって言ったヤツの方が人として小せえって話ですよね」
「気に触ったのはそこなんだ」
ベルナルド伯爵子息は心底面白そうに豪快に笑った。
ベルナルド伯爵子息と話すのは、以前子息がガブリエルを口説いていたところに横槍を入れた、例の時以来だ。別にお互い避けていたという訳でもなく、単純に俺たちに接点がないだけだ。今日は、ガブリエルがおらずぼんやりとぼっちをしていた俺に、どう言った風の吹き回しか不意に彼が昼食のお誘いをかけた為、俺たちは今肩を並べてここにいる。
饒舌に語るベルナルド伯爵子息の言う事には、今学院内では大なり小なり様々な俺の噂が実しやかに囁かれているそうだ。「そんな子供くさい事を言ってる生徒など多くはないんだがね」とベルナルド伯爵子息は付け足した。それもそうだろう。ここの生徒は何よりも品行方正と社交能力を求められる貴族の子息たちばかりなのだから、下世話な話を口にするリスクをわかっている者が多いだろう。
ただ、口にせずとも内心そう思っている人間自体はなかなか多いのかもしれないが。元々、難攻不落な全男子憧れの高嶺の花と、支持率断トツ生徒会長の第一王子の両方と親しくしている特待生がいる、という話は有名だったそうだ。
「それが何故、今はジェラード殿下とフローレス様が親密そうにしてるんだい?」
ここ二週間、俺はジェラード殿下にも、ガブリエルともまともに会えていない。気を張っていないと背が丸まり、溜め息をつきたくなってしまう。つまりは悄気げている。
「それは、豊饒祭の祝詞上げに殿下とガブリエルが選ばれたから、と思われるのですが…」
以前聞いていた「豊饒祭への王家の参加を推進した公爵家」というのが、ガブリエルの生家であるフローレス公爵家だったらしい。
そして、内々ではどんな話し合いが持たれたかまではわからないが、どうやら王家と公爵家が国教会に協賛する事を広く知らしめる為に、王家からは第一王子であるジェラード殿下が、公爵家からは長子であるガブリエルが、本来は国教会の大神官が上げる祝詞を代行すると決まった。それは公的な明示もされていて、学院内に留まらず誰もが知っている事だ。
「なあ、それだけにしては殿下がやたらフローレス様にべったり張り付いてるし、君はやたら気落ちしてるし、気になるなって方が難しいな」
そうなのだ。殿下とガブリエルの親密度が異様な上がり方をしているのだ。催し準備に関係の無いだろう学内でも、授業中以外二人は常に一緒にいるのだ。まるで、“本来の恋人”のように。
胸が重い、痛い、苦しい。溜め息を堪えて代わりに大きく深呼吸をした。気を取り直して「ベルナルド伯爵子息」と呼びかけると、「シリルでいい」とつっけんどんながらファーストネーム呼びを許可された。
「ガブリエルに好意があるシリルくんからすると面白くはないでしょうが、殿下とガブリエルは傍目から見ればとんでもなくお似合いですよね」
何と言っても、正当な第一王子と、王家の傍系である公爵家の令嬢だ。しかも二人揃って一際見目麗しいと来ている。目が焼き切れるかと思うほど眩くて非の打ち所が無い組み合わせは、本来なら大いに目の保養と歓迎すべきものだろう。
ベルナルド伯爵子息改め、シリルくんは俺をじっと見つめてから徐に口を開いた。
「君への比較的好意的な噂の一つとして、ジェラード殿下とフローレス様を引き合わせたのが君だ、っていうのがあるんだが、それだと豊饒祭の決定が二人の急接近より後事というになるからやや違和感があるな。まあ、後先がどちらかなどは些事で、どうでもいい事ではあるがな」
「そうですね。特別俺が二人を取り持つような事は何もしてません」
するわけがない。いつかは身を引かなければいけない事はわかってはいる。だが、情けない事に俺はまだ彼から離れる覚悟はできていないからだ。
また自然と視線が下がって俯いてしまう。飯なんて全く喉を通らず、たった一つだけ持ってきていた握り飯の腹をひたすらにぎにぎと親指で押し捏ねる。シリルくんは彩り良いピタパンを豪快に噛じる。貴公子然とした見た目を裏切るように、男らしい大口で頬張るさまは色気すらある、ような気がする。わからんけど。
「だよな。ジェラード殿下は君に心底ご執心のように見えたしね。そこに気の弱いフローレス様が割って入るような真似するとも思えない」
「…ガブリエルが何をしなくても、殿下がガブリエルを見初めた、というだけなのではないでしょうか」
それが、“一番妥当だが一番あって欲しくない推測”だ。俺が取り持つまでもない。例え前世の記憶がなくても、かつて麗しの白百合を溺愛した人が、それと瓜二つの可憐な姫小百合を欲するのはとても自然な流れのように思う。
しかし、それを俺の身勝手な心が否定したがって痛む。ああ、狭量で矮小な自分が嫌だ。
「でも、ジェラード殿下は君の恋人だろう?」
「そうですけど……………あ」
どんだけぼんやりしてるんだ俺は。肯定してどうする。青褪めて顔をあげると、シリルくんはしたり顔で笑っていた。
「皆デーンとフローレス様が恋仲だと疑ってかかっていたから、“そちら”の線を鼻から思考に乗せてないんだ。でもフラットに見れば君とジェラード殿下の距離感の方が明らかに疑わしい。君といる時はジェラード殿下の笑い方が全く違う事に気付くべきなのだ」
「…笑い方、はわからないですが、今殿下との関係を肯定しても否定しても墓穴を掘り下げるだけですね」
本当にしてやられた。自己嫌悪で今なら地面に埋まれそうだ。観念して、断頭台にいるかのように首を前に差し出して項垂れた。
「普段の君なら絶対こんなしょうもない問答でやり込まれるなんてないだろうに、残念だったね」
まだシリルくんはニヤニヤと笑っているが、蔑んで誂う様子ではなく、単純にしてやった事を喜んでいるだけのようで陰湿な印象は受けない。
「シリルくん意外と子供っぽいですね」
「君は普段やたらと飄々としてるよな」
「そう見せてるだけです。俺は我を通せるような立場にないからそう振る舞うしかないだけですよ」
「賢い男だ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「そうしてくれ」
それぞれ飯とパンを口に運び、少しばかりの沈黙が落ちる。シリルくんはどこまでも快活で歯切れよい。彼が殿下の色恋の醜聞を、無闇矢鱈と拡めるような事はないだろうと思う。
彼は空になった売店の紙袋をくしゃりと丸める。演習場の方からは遊んでいるのだろう、かすかに楽しそうな生徒たちの声が聞こえてくる。
「僕の願望も多少はあるから、正しい真眼が働いているかはっきりとは自信がないが、フローレス様はジェラード殿下に尊敬以外の感情はないように見える」
「殿下の片想いって事ですか?でも、もしそうでも時間の問題なのではないでしょうか。あの完全無欠な殿下に熱心に想われて、少しも靡かないなんて事あります?」
「そんな泣きそうな顔するな」
「シリルくんこそ情けない顔するのやめてください」
「まあ、なんだ。これは君につられただけだ」
「人のせいにするのかっこ悪いですし、いっそ俺のせいだとしてもかっこ悪いのは変わりないですからね」
「黙れチビデーン」
「チビって言った方がチビなんです」
男子学生二人でひんひん悄気返っている姿はだいぶ痛々しい。
もう半月もすれば雨季に入るだろうが、それを感じさせない程に今日の空は真っ青で、陽の光は肌を優しく温める。爽やかな風が吹く中、アドバイザー不在の不毛な恋愛相談。なんだこれ。
「デーン。君、特攻してこい。ジェラード殿下にぶつかって洗い浚い吐き出して相手にも吐かせてこい」
他所様から色男と称される男が提案する策にしては下策中の下策感がある。つまりは自棄っぱちだ。しかも詰まる所は俺任せ。とんでもねえ色男だ。
「どう転んでも俺のメンタルは死ぬじゃないですか」
失恋か羞恥か。
「しかし一番確実に現状打破できる。それくらい安いものだろうな」
「ひとでなし。横暴伯爵だ」
行き場のないむしゃくしゃを発するように、ずっと捏ねていた握り飯を無理やり口の中に押し込み、水筒の水で流し込む。シリルくんは「僕はまだ爵位をついでない」とか、これまたどうでも良くて子供みたいな揚げ足取りをしてくるがそんなものは無視だ。
「ただな」
急に暴君からいつもの貴公子らしい表情に戻ったシリルくんが、右手で顎に触れ少し考えるように小首を傾げた。
「ジェラード殿下がそういった事を中途半端にしている事に違和感があるな」
それは俺から見ても同感だったので少し顔を上げて頷く。
「殿下は王族として醜聞を避けなければいけませんからね。男の恋人なんて適切に処理すべきなのに放ったらかしは危機意識が低いですよ」
「何故君が臣下目線なんだ」
「臣下というより、殿下に健やかであって欲しい民目線です」
「なお悪い」
呆れたと言わんばかりに、頬杖を付いて半目で睨まれた。
「この際男だどうだは関係ない。恋人と別れもせずに、別の異性に秋波を送るような真似は不誠実で倫理観に欠けるだろう。婚姻後に正式な手続きをもって側妃や愛妾を設けるのとはわけが違う」
「……確かに」
「その点を見ると何か事情があるように思えるんだ。勝率ゼロの負け戦に君を送り出したいわけじゃない」
頬杖のままに真っ直ぐ俺を見て、シリルくんはにこり、と必殺色男スマイルを浮かべる。必殺技の使い所が完璧過ぎて、うっかりちょっと尊敬しそうになった。
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多忙時、お返事を返す事ができない事があります。コメント等全て読ませていただいておりますが、その辺りは申し訳ございません。
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