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【おまけ完結】4
トマス様の診療の為、俺とユーインが部屋を出されるのは理解できる。トマス様への謝辞を伝える事も叶ったわけだし、本来なら城での用向きを終えた俺たちは速やかに下城を促されて然るべきだ。
しかし、そこに来てジェラード殿下からの“話をしよう”の提案である。警戒しないわけが無い。
この一見善良そうな第一王子に、ここ最近腥い噂が流れているのだ。
元は、外遊先で俺が風邪ごときで弱って、馬鹿ユーインに「マローナが食べたい」なんてボヤいてしまったのがいけなかった。馬鹿が字面通りの意味に受け取ってマローナを探しに行くことくらい、よく考えればわかることだ。
その時、出先でユーインが世話になった人間が、まさかこの王国の第一王子のお相手だったとは。こいつは運が良いのか悪いのかわからない。
俺も、その恩人が巷で話題の彼の人だと気づいたのは直接顔を合わせたつい先程のことなので、正面切ってユーインを責めるつもりはない。
ただ、何の心構えもなく「先日お世話になったトマスくんと、恋人のジェッドくんを見つけた」と聞いて案内されてみれば、その場にジェラード殿下がいた時の俺の衝撃は理解して欲しい。八つ当たりじみているのはわかっているが、どうにもユーインを詰りたくてたまらない。
その上、そのジェラード殿下に愛でられている、明らかに恋愛関係であろう少年が例の“恩人トマスくん”なのだと理解した瞬間、俺は恐怖で背が粟立った。何て人達の世話になった上に怪我までさせてるんだ、うちの馬鹿犬は。
先の豊饒祭で一躍時の人となった、正体不明の第一王子の婚約者。殿下の寵愛を一身に受けていた彼の婚約者が、きっとこの少年なのだろう。
俺は恐怖をいなして気丈なふりをし続けるしかなかった。
「では、内緒話をしようか」
高位武官だと言われたら信じてしまいそうな程筋骨逞しい長駆と、それに相応しい彫りの深い男らしくも麗しい顔立ち。この恵まれ過ぎた外見で、身分は大国の第一王子だというのだから、俺らでは何一つ敵うものがない。
その何もかもを持っているだろう男に、俺たちは今紛うこと無く威圧されている。
ジェラード殿下は、トマス様がいる寝室の扉を後ろ手でぴたりと閉じると、非の打ち所のない美しい微笑みを浮かべて、先程の意味深長な言葉を吐いた。
ユーインもジェラード殿下の言葉の不穏さに気付いたらしく、俺の表情を一瞬盗み見てから、配下騎士の正しい所作で俺の後ろに控えた。
出来るなら、こいつも揃って生きて帰りてえなあ。
「どういった、内容でしょうか」
「コンラッド卿、そう難しい話ではない。貴公は、トマスを何者だと認識している?」
―――何を言わんとしているんだ?
無意識的につばを飲み込む。喉が張り付いて仕方が無い。
わざわざ秘匿しているだろうことを、何故改めて問うたのか。本来なら、もし仮にトマス様が婚約者でなく愛人なのだとしても、この場では有耶無耶にして、明確にすべきことではないのではないか。
笑みを崩さないジェラード殿下からは、本音と建て前のどちらを求めているのか読み取れない。
「…ジェラード殿下の、お相手、と承知しております」
「相手、とは何だ?」
心臓が早鐘を打ち、背筋に冷たい汗が伝う。
「…………婚約者様でございます」
ジェラード殿下の美麗な笑みが、仄かに暗く、しかし楽しそうに歪む。その様が、まるで死刑宣告のように見て取れて、自然と視線が力無く床に落ちる。
「そうだ。トマスは俺の婚約者だ。その答えを早々に口にしてくれて良かった。その事実を今更誤魔化しても、貴公の認識が変わる訳では無い事は判っている。だから交渉だ」
「交渉、ですか?」
現状の切羽詰まった脳内にはなかった単語が殿下から飛び出し、内心激しく動揺する。
「貴公も、俺の良からぬ噂は複数知っているだろう?婚約と廃嫡に関した噂は愉快なものが多い」
窓際にゆっくりと歩み寄った殿下が、薄布を開けて優雅に城下を見下ろす。外は曇っているのか、強い光は差し込まない。
「…下衆な勘繰りばかりで、ジェラード殿下のお耳に入れるまでも無いものばかりでございます」
「殆どがそうだな」
窓台に軽く腰を預けながら、「だが、俺が婚約者を盲目的に愛慕しているという話は事実だな」と朗らかに笑う。
「ああ、あと軍部が俺を取り込みたがっているという話も事実に近い。俺の魔法術の能力は、軍部以外では持て余すだろうと陛下が懸念されていてな」
「殿下は魔法術の才にも恵まれていらっしゃると、かねがね伺っております。その才を振るえば、王国は安泰でしょう」
無意識に声が震えた。それに気付いているだろう殿下が笑みを深くする。
「ここ数日のうちに、俺の魔法術能力について胡散臭い噂を聞かなかったか?」
「……事実であれば、我が国も余所事ではないからと、父より聞き及んでおります」
「何故市井ではなく、領主間にそのような噂事が回っているかわかるか」
「噂の出処が、政の上層部なのではないかと」
殿下が闊達に頷く。
「出処はうちの軍部だ」
「それも、機密なのではないでしょうか」
「特段機密のうちには入らない。出処の詳細等は些事だからな。重要なのは、その噂の真偽だろう」
「それ、は、そうですが……」
その真偽を殿下から聞く利点は、俺には一つもない。当然そのことをよくわかっているだろうジェラード殿下が、その話を俺にするということはつまり“脅し”だ。
殿下の笑みがまた、仄暗く歪む。
「貴公が察している通り、俺の特異な魔法術とやらの噂の内容は事実だ」
透き通るような瞳でじっと見つめられ、美しいはずのそれが恐ろしく、冷たい汗が背を流れる。
「軍部は抑止力として期待しているらしく、情報を小出しにしている。もちろん、信じる信じないは貴公に任せよう」
交渉などとは名ばかりで、俺に与えられた選択肢は「殿下の婚約者について、“黙して生きるか”、“暴露して死ぬか”」の二つだ。
「ジェラード殿下の、婚約者様についてはもちろん他言致しません。生涯違うことはありません」
怖気を堪えて真っ直ぐにジェラード殿下を見つめ、はっきりと誓言する。満足気に頷く殿下の姿は、磊落な人物にしか見えない。
「賢明なコンラッド卿に、特別に追加情報を与えようか」
雲間から陽光がいでたらしく、ジェラード殿下の背後の窓から眩しい程の光が溢れ目がくらむ。逆光も合わさって、殿下の表情が読めなくなる。
「本来魔法術は術式を書く時点で対象が目の前にある必要があるが、俺だけが描ける件の術式は、対象がどこにいようが関係なく動く。対象がどこに逃げ隠れようとも、だ。面白いだろう?」
死刑宣告は回避したのではなく、猶予を得ただけらしい。
「私達に、逃げ場はないということですね」
窓外はまた雲が太陽を隠したらしく、室内もまた薄暗さを取り戻す。ただ、俺のくらんだ目だけが、あるはずのない光を焼き付けて、視界を大きく狭めている。
「出来れば、あまり貴公等に使いたくは無いんだ。俺の婚約者が誰かを想って泣くのは、相手を殺しても殺し足り無い程に酷く業腹だからな。貴公の番犬にもよく言い含めておいてくれ」
「…御意に御座います」
下城した俺らは、借り出した馬車に這々の体で乗り込んだ。実家の馬車は父上が乗って先に帰ってしまったので、多少の乗り心地の悪さは目をつぶるしかない。
「ね、坊っちゃん。ジェッドくん怖かったな」
二人きりになった途端、配下の従順さをかなぐり捨てたユーインは俺の向かいから隣に座り直して、馴れ馴れしく肩をくっつけてくる。顔が近い。無駄に顔が良くてムカつく。
この馬鹿は、うちで雇われた一年前からやたらと馴れ馴れしく、何かにつけ俺を構ってくる。誰に対しても図々しいところがあるので特に気にしていなかったが、実は最初から俺を口説いているつもりだったのだと、極々最近本人から告げられたばかりだ。雇い主の息子を躊躇いなく口説く図太さよ。
「お前殿下を気安く呼ぶのやめろよ。あと、トマス様から接触がある分には親しくして構わないが、お前からトマス様に関わるなよ」
「えー、やっぱダメかな?」
「悋気に触れたら確定死だぞ」
「あーさっきの噂の魔法術云々ってやっぱりそういうこと?死ぬって比喩表現じゃなく、物理的まじ死?」
「まじ死」
「どうやって死ぬ?」
「どうとでも殺せるって話だ。病死でも自殺でも他殺でも事故死でも。どういう理屈が知らねえけど」
「…暗示系の派生かな。それだけならまだしも遠隔で使えるなんてことまで事実なら、とんでもない人間兵器だね」
「周辺国が騒ついてるのはそういうことだ。各国の頭が殺されたとしても、物的証拠は一つも残らないらしい」
「まるで呪いだな」
「もう実際そう呼ばれ始めてるだろうな。ユーイン、お前も呪われないようにしろよ」
俺の心配を一つも理解する気のない馬鹿は、目を輝かせて俺の肩を引き寄せる。
「上手いこと呪われれば、コンラッドと一緒に死ねるのかな。それはそれで凄くいいな」
頬を紅潮させ、恍惚の表情でそんなことを言う。これがこいつの本性だ。
わざと大きく溜め息をつく俺を気にする様子もなく、ユーインは俺の顎を力まかせに抑え込んで唇を奪ってくる。俺はまだお前の告白に返事をしてないんだが。
「私達も幸せになろうね、コンラッド」
面倒な人間に好かれてしまっているってのは、俺も人様のことを言えない。
【おまけのおまけ】
「トマスくん。何かさあ、ジェラードがまた楽しそうに仕立て屋呼ばせてるんだけどー。今度は何やるのお?」
「先日、国王陛下から呼び立てられて、結婚式だけでもやらないかと、予定変更の打診を受けたらしいんです。豊饒祭で、ええと、殿下と、婚約者の仲睦まじい様がなかなか国民受けが良かった、とかで…」
「…ジェラードもしかしてさあ、トマスくん着飾りたいってだけで結婚式やる事了承したんじゃなぁい?」
「そうなんですかね?」
「だってさあ、結婚式やるとしてもジェラードが学院卒業してからだから、早くとも二年後でしょお?今から何仕立てるんだって話だよー」
「それ、俺も聞いたんですけど」
「デート用だ」
「あ、殿下。おかえりなさいませ」
「あー、自分が変装するんじゃなくトマスくんを変装させていちゃデートしたいってことねえ。把握把握~」
「トマス、俺とデートしてくれるだろう?」
「楽しみです。でも、服ができるまではしばらく殿下とデート我慢なのは少し寂しいですね」
「俺のトマスが可愛い」
「ジェラード、お針子さん急かすなよお」
「約束は出来ない」
「急がなくても、それまでは家デートしましょう」
「そうだな。どこにいてもトマスは可愛いからな」
「トマスくんガチ傾国」
しかし、そこに来てジェラード殿下からの“話をしよう”の提案である。警戒しないわけが無い。
この一見善良そうな第一王子に、ここ最近腥い噂が流れているのだ。
元は、外遊先で俺が風邪ごときで弱って、馬鹿ユーインに「マローナが食べたい」なんてボヤいてしまったのがいけなかった。馬鹿が字面通りの意味に受け取ってマローナを探しに行くことくらい、よく考えればわかることだ。
その時、出先でユーインが世話になった人間が、まさかこの王国の第一王子のお相手だったとは。こいつは運が良いのか悪いのかわからない。
俺も、その恩人が巷で話題の彼の人だと気づいたのは直接顔を合わせたつい先程のことなので、正面切ってユーインを責めるつもりはない。
ただ、何の心構えもなく「先日お世話になったトマスくんと、恋人のジェッドくんを見つけた」と聞いて案内されてみれば、その場にジェラード殿下がいた時の俺の衝撃は理解して欲しい。八つ当たりじみているのはわかっているが、どうにもユーインを詰りたくてたまらない。
その上、そのジェラード殿下に愛でられている、明らかに恋愛関係であろう少年が例の“恩人トマスくん”なのだと理解した瞬間、俺は恐怖で背が粟立った。何て人達の世話になった上に怪我までさせてるんだ、うちの馬鹿犬は。
先の豊饒祭で一躍時の人となった、正体不明の第一王子の婚約者。殿下の寵愛を一身に受けていた彼の婚約者が、きっとこの少年なのだろう。
俺は恐怖をいなして気丈なふりをし続けるしかなかった。
「では、内緒話をしようか」
高位武官だと言われたら信じてしまいそうな程筋骨逞しい長駆と、それに相応しい彫りの深い男らしくも麗しい顔立ち。この恵まれ過ぎた外見で、身分は大国の第一王子だというのだから、俺らでは何一つ敵うものがない。
その何もかもを持っているだろう男に、俺たちは今紛うこと無く威圧されている。
ジェラード殿下は、トマス様がいる寝室の扉を後ろ手でぴたりと閉じると、非の打ち所のない美しい微笑みを浮かべて、先程の意味深長な言葉を吐いた。
ユーインもジェラード殿下の言葉の不穏さに気付いたらしく、俺の表情を一瞬盗み見てから、配下騎士の正しい所作で俺の後ろに控えた。
出来るなら、こいつも揃って生きて帰りてえなあ。
「どういった、内容でしょうか」
「コンラッド卿、そう難しい話ではない。貴公は、トマスを何者だと認識している?」
―――何を言わんとしているんだ?
無意識的につばを飲み込む。喉が張り付いて仕方が無い。
わざわざ秘匿しているだろうことを、何故改めて問うたのか。本来なら、もし仮にトマス様が婚約者でなく愛人なのだとしても、この場では有耶無耶にして、明確にすべきことではないのではないか。
笑みを崩さないジェラード殿下からは、本音と建て前のどちらを求めているのか読み取れない。
「…ジェラード殿下の、お相手、と承知しております」
「相手、とは何だ?」
心臓が早鐘を打ち、背筋に冷たい汗が伝う。
「…………婚約者様でございます」
ジェラード殿下の美麗な笑みが、仄かに暗く、しかし楽しそうに歪む。その様が、まるで死刑宣告のように見て取れて、自然と視線が力無く床に落ちる。
「そうだ。トマスは俺の婚約者だ。その答えを早々に口にしてくれて良かった。その事実を今更誤魔化しても、貴公の認識が変わる訳では無い事は判っている。だから交渉だ」
「交渉、ですか?」
現状の切羽詰まった脳内にはなかった単語が殿下から飛び出し、内心激しく動揺する。
「貴公も、俺の良からぬ噂は複数知っているだろう?婚約と廃嫡に関した噂は愉快なものが多い」
窓際にゆっくりと歩み寄った殿下が、薄布を開けて優雅に城下を見下ろす。外は曇っているのか、強い光は差し込まない。
「…下衆な勘繰りばかりで、ジェラード殿下のお耳に入れるまでも無いものばかりでございます」
「殆どがそうだな」
窓台に軽く腰を預けながら、「だが、俺が婚約者を盲目的に愛慕しているという話は事実だな」と朗らかに笑う。
「ああ、あと軍部が俺を取り込みたがっているという話も事実に近い。俺の魔法術の能力は、軍部以外では持て余すだろうと陛下が懸念されていてな」
「殿下は魔法術の才にも恵まれていらっしゃると、かねがね伺っております。その才を振るえば、王国は安泰でしょう」
無意識に声が震えた。それに気付いているだろう殿下が笑みを深くする。
「ここ数日のうちに、俺の魔法術能力について胡散臭い噂を聞かなかったか?」
「……事実であれば、我が国も余所事ではないからと、父より聞き及んでおります」
「何故市井ではなく、領主間にそのような噂事が回っているかわかるか」
「噂の出処が、政の上層部なのではないかと」
殿下が闊達に頷く。
「出処はうちの軍部だ」
「それも、機密なのではないでしょうか」
「特段機密のうちには入らない。出処の詳細等は些事だからな。重要なのは、その噂の真偽だろう」
「それ、は、そうですが……」
その真偽を殿下から聞く利点は、俺には一つもない。当然そのことをよくわかっているだろうジェラード殿下が、その話を俺にするということはつまり“脅し”だ。
殿下の笑みがまた、仄暗く歪む。
「貴公が察している通り、俺の特異な魔法術とやらの噂の内容は事実だ」
透き通るような瞳でじっと見つめられ、美しいはずのそれが恐ろしく、冷たい汗が背を流れる。
「軍部は抑止力として期待しているらしく、情報を小出しにしている。もちろん、信じる信じないは貴公に任せよう」
交渉などとは名ばかりで、俺に与えられた選択肢は「殿下の婚約者について、“黙して生きるか”、“暴露して死ぬか”」の二つだ。
「ジェラード殿下の、婚約者様についてはもちろん他言致しません。生涯違うことはありません」
怖気を堪えて真っ直ぐにジェラード殿下を見つめ、はっきりと誓言する。満足気に頷く殿下の姿は、磊落な人物にしか見えない。
「賢明なコンラッド卿に、特別に追加情報を与えようか」
雲間から陽光がいでたらしく、ジェラード殿下の背後の窓から眩しい程の光が溢れ目がくらむ。逆光も合わさって、殿下の表情が読めなくなる。
「本来魔法術は術式を書く時点で対象が目の前にある必要があるが、俺だけが描ける件の術式は、対象がどこにいようが関係なく動く。対象がどこに逃げ隠れようとも、だ。面白いだろう?」
死刑宣告は回避したのではなく、猶予を得ただけらしい。
「私達に、逃げ場はないということですね」
窓外はまた雲が太陽を隠したらしく、室内もまた薄暗さを取り戻す。ただ、俺のくらんだ目だけが、あるはずのない光を焼き付けて、視界を大きく狭めている。
「出来れば、あまり貴公等に使いたくは無いんだ。俺の婚約者が誰かを想って泣くのは、相手を殺しても殺し足り無い程に酷く業腹だからな。貴公の番犬にもよく言い含めておいてくれ」
「…御意に御座います」
下城した俺らは、借り出した馬車に這々の体で乗り込んだ。実家の馬車は父上が乗って先に帰ってしまったので、多少の乗り心地の悪さは目をつぶるしかない。
「ね、坊っちゃん。ジェッドくん怖かったな」
二人きりになった途端、配下の従順さをかなぐり捨てたユーインは俺の向かいから隣に座り直して、馴れ馴れしく肩をくっつけてくる。顔が近い。無駄に顔が良くてムカつく。
この馬鹿は、うちで雇われた一年前からやたらと馴れ馴れしく、何かにつけ俺を構ってくる。誰に対しても図々しいところがあるので特に気にしていなかったが、実は最初から俺を口説いているつもりだったのだと、極々最近本人から告げられたばかりだ。雇い主の息子を躊躇いなく口説く図太さよ。
「お前殿下を気安く呼ぶのやめろよ。あと、トマス様から接触がある分には親しくして構わないが、お前からトマス様に関わるなよ」
「えー、やっぱダメかな?」
「悋気に触れたら確定死だぞ」
「あーさっきの噂の魔法術云々ってやっぱりそういうこと?死ぬって比喩表現じゃなく、物理的まじ死?」
「まじ死」
「どうやって死ぬ?」
「どうとでも殺せるって話だ。病死でも自殺でも他殺でも事故死でも。どういう理屈が知らねえけど」
「…暗示系の派生かな。それだけならまだしも遠隔で使えるなんてことまで事実なら、とんでもない人間兵器だね」
「周辺国が騒ついてるのはそういうことだ。各国の頭が殺されたとしても、物的証拠は一つも残らないらしい」
「まるで呪いだな」
「もう実際そう呼ばれ始めてるだろうな。ユーイン、お前も呪われないようにしろよ」
俺の心配を一つも理解する気のない馬鹿は、目を輝かせて俺の肩を引き寄せる。
「上手いこと呪われれば、コンラッドと一緒に死ねるのかな。それはそれで凄くいいな」
頬を紅潮させ、恍惚の表情でそんなことを言う。これがこいつの本性だ。
わざと大きく溜め息をつく俺を気にする様子もなく、ユーインは俺の顎を力まかせに抑え込んで唇を奪ってくる。俺はまだお前の告白に返事をしてないんだが。
「私達も幸せになろうね、コンラッド」
面倒な人間に好かれてしまっているってのは、俺も人様のことを言えない。
【おまけのおまけ】
「トマスくん。何かさあ、ジェラードがまた楽しそうに仕立て屋呼ばせてるんだけどー。今度は何やるのお?」
「先日、国王陛下から呼び立てられて、結婚式だけでもやらないかと、予定変更の打診を受けたらしいんです。豊饒祭で、ええと、殿下と、婚約者の仲睦まじい様がなかなか国民受けが良かった、とかで…」
「…ジェラードもしかしてさあ、トマスくん着飾りたいってだけで結婚式やる事了承したんじゃなぁい?」
「そうなんですかね?」
「だってさあ、結婚式やるとしてもジェラードが学院卒業してからだから、早くとも二年後でしょお?今から何仕立てるんだって話だよー」
「それ、俺も聞いたんですけど」
「デート用だ」
「あ、殿下。おかえりなさいませ」
「あー、自分が変装するんじゃなくトマスくんを変装させていちゃデートしたいってことねえ。把握把握~」
「トマス、俺とデートしてくれるだろう?」
「楽しみです。でも、服ができるまではしばらく殿下とデート我慢なのは少し寂しいですね」
「俺のトマスが可愛い」
「ジェラード、お針子さん急かすなよお」
「約束は出来ない」
「急がなくても、それまでは家デートしましょう」
「そうだな。どこにいてもトマスは可愛いからな」
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感想ありがとうございます!
書き手としてはすごく楽しかったシーンなので、楽しんで読んで頂けてとても光栄です。
今追加中のおまけ話にも少しジェラードの腹黒ちら見せシーンあります。そちらまでお付き合い頂けたら嬉しいです。