右肩に取り憑いた美貌の背後霊が、俺を溺愛執着する神様だった話

こぶじ

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6:インマヌエル

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 主たる神は、海を作り、大地を作り、陽を作り、大気を作った。

 陽神は眩い神だった。眩過ぎて、自分自身もそれ以外のものも自身からは見えなかった。
 陽神はひとりだった。いつも自分の為に取り留めのない独り言を口にして過ごした。
 陽神は暖かく、よく愛された。但し、彼は自分の暖かさも愛も知らなかった。

 憐れんだ主神は、陽神に寄り添う陰を与えた。
 陰が沿うと、陽神は世界の陰影を知った。世界の意味を知った。世界の温度を知った。

 陽神は陰を深く愛した。
 そして陰もまた、陽神に全身全霊の愛を捧げ、弛まぬ献身の果てに神と成った。
 そして、主神より陰神と陽神は互いを支え合う番と認められた。



 陽神は主神の作り給うたこの世界が好きだった。陰神と共にこの世界の様々を見た。
 陽神は、とりわけ人の子を導き苦楽を見守る事に関心を持った。善良な魂を庇護し導く事は全ての神々の悦びだったが、陽神はそれをより近くで見届ける術はないかと考えた。
 そして渋る陰神と五百年だけと約束し、陽神は人の魂の形を真似て輪廻転生を旅する事にした。











 ジュリアン先生とマルヴィナの家を辞した後、俺は夜市で幾つか日用品を買い込んでゆったり自宅に帰り、それからせっまい自室の浴室でじっくり湯浴みして、寝間着を着た頃には夜半に差し掛かっていた。
 薄暗い部屋の中、寝台の端にどっかり腰を下ろしゆっくり息を吐いた。

「アメス、こないだは酷い事言ってごめんな」

 夜の静寂の中しばらく待つと、いつもの右肩じゃなく俺の正面に黒いモヤが現れた。それがだいたい人の大きさくらいになった所で、そこからアメスが姿勢良く歩み出て、役目を終えたモヤはじんわりと霧散した。
 登場こそ仰々しかった癖に、アメス本人はふてくされた可愛い顔してやがる。十日経ってもまだその熱量で拗ねてると思ってなかったからつい小さく笑ってしまう。

「誠意が足りていない」

 笑ったのバレてら。さすが目敏い。

「悪かったって。こないだはさ、お前が主神の事あんまり大事そうにするから俺ヤキモチ焼いちゃったんだよね」

 甘えるように上目遣いでアメスを見つめると、俺の事この世の何より大好きなこいつの表情からすぐに険が取れて、心なしかそわそわし始めた。俺に触れたくて仕方ないのを、どうやら生意気にも堪えてるらしい。また笑いそうになるけど、何度も同じやり取りする気はないから一度奥歯を噛んで「俺、記憶が無い間もお前の事はちゃんと愛してんの、すごいだろ?」って畳み掛けると、アメスはころっと表情を軟化させた。ちょろい。

「主神を殊に尊び敬うよう、私に教え込んだのはお前だろう」

「そうだよなあ。お前は俺の言いつけを守ってるだけだもんな」

「お前の言いつけを守って五百年待った。だが五百年経っても、お前は私の下に帰って来なかった」

 如何にも酷い裏切りだって顔で「二十三日の遅刻だ」と俺を睨んでくるが、嫉妬深いこいつはよくこの顔をするから、俺としてはもう可愛くて可愛くて仕方が無い。

「人の輪廻転生って記憶保持が難しいように出来てんのな。今世ではアメスの事思い出せて良かった」

「私が働きかけた結果だ」

「そうな。ありがとう、アメス」

 俺が指先で呼んだらすぐ、アメスは寝台に腰掛けている俺の前に跪いた。ほとんど唇を動かさずに「おいで」と俺が囁くと、脚間に体を滑り込ませるように俺の腰を両腕で抱き締めた。俺の腹に頬を寄せているアメスの無防備な頭をしばらく撫でてやる。艷やかな黒髪は、不思議な程引っかかりの一つもない。さすが神だ。

「お前さあ、なんで俺の肩にいたの?」

 いつもは俺をすっぽり頭から抱き締めてるか、今みたいに俺に跪くのが好きだろ。

「お前の目線で、お前と同じものを見てみたかった」

 うーん。どちゃくそ可愛い事言うじゃねえか。やってる事不気味な背後霊の癖に。ついついアメスの頭頂部に頬擦りしちゃう。

「あーあ。お前と離れた俺が馬鹿だったなあ」

 俺の呟きにアメスは「そうだな」と、満足そうに喉で笑った。こいつは俺のこの言葉が聞きたかったんだろう。不安にさせてごめんな。

 アメスは俺の腰を抱き締めたまま、「イム」とやっと俺の名前を呼んだ。どうやら小さな意趣返しだったらしい。

「枢機卿のお前がいつまでも遊んでいるから主神が怒っている」

「うへえ。お役目の事も忘れてたからまだ生身なんよなあ。さすがに今人の身を捨てるのは親に悪いしなあ。とりあえず神官にでもなるかあ」

「よく祈れば赦しを乞えるかもな」

「りょーかーい。じゃあどうせなら主教会の総本山行こうぜ」

「こちらと容易く生き来出来る距離では無いが良いのか」

「いーよ。俺はお前がいればどこでも」

 無言で顔を上げたアメスの目が物欲しそうに見えたのは、きっと俺の勘違いじゃないだろう。
 こいつ相手にしか出さない甘やかす声で「お前がいい」って目元を撫でて繰り返してやれば、いつもは物憂げに見える水色の目がギラついた。
 本当、かわいいなあお前。

「ちゃんとお迎えに来れたからご褒美やらねえとなあ」

 俺がにんまり笑うと、俺の可愛い犬は喉を鳴らして唸った。
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