78 / 241
籠城 前編
籠城⑤
しおりを挟む念の為ヒビが入る筋を見極めるクリス
倒壊の際どの方向に倒れるかを予測した。
ロープに体を巻き付け倒壊の際に下に落ちない様に
準備を進める彼だったが……
その手を止めた……
「駄目だ……この建物2階は全て落ちるな
倒れた際、ロープで
体を固定すれば外すにも時間がかかる」
「倒壊の際に体に巻き付いたロープも体の自由をも
奪いかね無い、いやそもそも2階が全て落ちるなら
ロープの意味が無ぇ……」
握り締めた短銃2丁の状態をチェック、ナイフも
出すもなにせ数の多いゾンビには最早玩具である。
囲まれれば銃なんぞ、恐怖心のある武器の無い
人間なら多少は効果はあるが……
八方塞がりだった。
「……」
「もう……いいか」
手が止まり空を見上げた。
「パッパラー……」
「ゲームオーバー……か」
空は彼の命の危険など素知らぬ様に何時もと
変わらぬ景色だった。大地で起こる人間の事など
関係無いと言った感じだ、時間も同じく
何が起ころうとその歩を止める事も無い。
「どうせ最後ならアイツ道連れにしてやっか……」
悪戯にドラグノフのスコープでハクを見た。
「……」
彼は真剣だった、ハクを希望を見た彼にトドメを
刺す事、其れはこの世の未練を断ち切る事でも
あったのかもしれ無い。
ユックリと引き金に置かれた指に力が入る……
決意の後押しを込めて……
「じゃあな、この腐った人生に……」
「……」
だが彼は見てしまった……ハクの懸命な姿を
何時もならターゲットの表情等、目に入り込んでも
気にする所か背景のように感じていた筈の彼の目に
吐きながらも冷えた体に手から見える赤い血を
鉄パイプを曲げたフックで配線を伝う様に
此方に向かうハクを
「……何故そんなに頑張ってんだ」
「何の為に……?」
「ヤツは逃げられた環境だった……それは確かだ」
「……」
「まさ……か」
「……俺の為?」
「ははっ、まさかな……俺は奴に殺意があった、
其れは奴も感じた筈だ」
「だが……」
「だが奴は……今鉄塔にいる……しかも逃げる
方向が逆だ」
「山側に伝う鉄塔に行くんだろ?
何故此方に向かう必要がある!」
手が血で滑り落下しそうになるも体を紐で縛り
安全帯を施したハクの体が宙にぶら下がる。
だが彼はその都度ロープを伝い無様にも
よじ登り此方に向かった
「……アイツ命落とすぞ」
「壁に書いた文字……やはり此処に」
「何の為に……俺の為……」
クリスは懸命に違う答えを導き出そうとした。
自分の今までの生き方を否定する彼の行動に
懸命にハクのメリットの理由を探る。
「何か理由がある筈だ、人間は損得で動く筈
奴のソレは何だ!」
「何なんだ!」
思わず声を上げ叫んだ。
怒りに似た感情が彼を襲う。
その声に反応し、下にいるゾンビも動きを
活発かさせた。
どれ位の時間考えたろう……
俺を助け仲間に?冗談じゃねぇ!俺は1人で
やってきた、これからも変わらねぇ!」
「仲間だ?反吐が出る!裏切る癖に!」
「……」
「裏切る?奴がか……ならそれ以前に此方に向かう
理由が無え……」
「仲間だ?……奴がそんな事考えるか?いや
そもそも今も俺は奴に殺意を持ってる
事を奴は知ってる」
「いや、そもそも仲間に引き入れる理由がねぇ……
逆だ、あるとすれば敬遠する筈だ」
「わからねぇ……」
雪の穴で過ごした過去の時間が思い出された。
あの状態と同じだ……と
そしてさっきまでの其れはハクも同様だった筈
「置いてかれたあの時、人を信用しないと俺は……
俺は……誓った」
「……」
「だが今俺の見る光景は何だ?いったい何なんだ」
「裏切る前提も何もありゃしねぇ!
元々仲間でもねぇ!廃墟では俺は奴を襲い今も」
「このままほっときゃ奴には……メリット……
しか無ぇ筈……だ……よ……な」
「体がボロボロで……向かう理由なんか
何処にも、コレっぽっちも……なぁねぇだろ」
「クソ!何なんだ!」
クリスは引き金に力を入れた。
其れはプライドだった自分が生きてきた中で培った
全てを否定するこの現状とその存在を消す為に
「……俺はあの時」
「……」
「助けて……欲しかった……」
命が助かるという結果論では無かった。
雪の穴での出来事は人を信じたい、見放したくは
無い、幼きクリスの心、今は薄れた本当の自分の
信じたかった大切な心の何か
夢でも見てるかの様な自分に向けられた現実
だがその過去の現実と同じく自分の身を挺し
此方に向かうハクもまた現実
同じ現実でありながら相対的な現実……
クリスは引き金を引かなかった
いや引けなかった……
「……」
「はは……は」
「そうか俺が……俺が信じたかった
モノが此処に……」
クリスの目には涙が流れた。
手で涙を拭うクリスは暫くうつ伏せになった。
ハクから見えない様にする為だった。
だが彼の心の闇は深く、その現実を否定したい心が
彼を再び支配して行く
「めんどくせぇ……全て……」
近づくハクにライフルを肩から背負い
近距離用の拳銃一丁をポケットの中に握り締め
指は引き金に、更には置いた指に力を入れた。
葛藤の時間は4時間も過ぎていた。
だがクリスにとっては一瞬だった
逆にハクにとっては永遠に続くかと
思われる時間だったろう。
同じ時を生きるも流れはまったく違っていた。
体力がもう殆ど無い状態のハクはクリスが苦悩
している間にほぼ到着する距離迄来ていた。
鉄塔をクリスの居る高さまで降り
ロープを鉄塔から倒壊建物近くの電柱へ
投げ込み『H』型の様に繋ぐ
其れを伝いクリスの真上付近迄、
到着したのだった。
そして着いた瞬間クリスの居る二階の半分が音を
激しくたてて一気に崩壊し始めた。
ハク「もう時間が無い!僕の手に捕まって!」
2階に手が届く様に安全帯であるロープを利用し
宙に浮いた状態でぶら下がり逆さまの姿勢でハクは
クリスへと手を伸ばす。
クリス「……」
顔を下げたままハクに近づくとクリスは手を
差し出した、しかしその手には拳銃が握られ
ハクの額に向けられた……
かつての雪の穴の時とは逆の決断……
コインでは無く拳銃を出したクリス
ハク「早く!」
差し出された手を前にクリスは未だ俯きを通す
彼の頭の中に悪魔の様なモノが囁きかけた。
囁く声「……もう自由じゃなくなるぞ、
やりたい様にやって何ものにも縛られない
自由が消えるぞ……」
クリス「やりたい様にやって……自由……」
同時に囁く声がもう一つ……
幼な心のクリス『もう自由……になって……』
「自由……」
頭に響く二つの声、今までの彼、そしてあの穴で
起きた彼の人生の分岐点前の彼自身……
そう、幼いクリス自身の心だった。
囁く声「また信じて裏切られる事を味わいたいのか
……あの時もそうだったろう、
信じた仲間に後ろから刺された事を忘れたか?」
クリス「う……裏切り」
幼な心『誰に裏切られたの?……』
囁く声「自分の身が危険になった時、仲間はお前を
どう扱ってきた?いつもそうだったろう……」
「都合の良い時だけ近づく、危険になると離れる
存在……それが人ではないのか?」
「……」
囁く声「あの時も形勢が不利となったあの時も
お前を差し出そうとした者もいたなぁ……」
クリス「あぁ……いたな、1人や2人では無かった」
「だが全ての人間じゃない、あの時の奴は……
奴は家族の為だったかも知れない……
あそこでクタばる訳には行かないと言う……」
囁く声「あの時も、この時も……敵はお前を憎み
味方はお前を利用する……」
幼な心『僕はどうしたかったのかな……』
囁く声「常に勝ち続けなければ……
お前は見捨てられている」
『見捨てられたく無いから勝つの?』
「あぁ……そうだな、俺はアイツらを纏めあげ
なきゃならなかった……奴らの弱い所も暴力性も」
「犠牲も出した……今更かもな」
『やり方は間違ってたかも知れないけど……
その本心は何だったの?』
囁く声「その全てを否定する存在は目の前だ……」
「お前の生きてきた人生全てを……」
『その全てに引っ掛かった答えが目の前に……』
『僕が生きてきた人生全てを……』
囁く声「握れ!」
幼な心『握れ!』
「お前の象徴を!引き金を!その否定する存在に
向け引くだけでお前は再び自由を手にする事が
出来る……なに、簡単な事さ……指を引くだけさ」
『僕の象徴を!手を!その肯定する存在に向け
握るだけで僕は再び本当の自由を手にする事が
出来る……なに、苦労するだけさ……
これから君は本当の意味で自由なんだから……」
俯くクリスの顔が不気味に笑う……
囁く声「そうだ……お前は……お前の本性が
それなのだ!自らの野生を取り戻せ!
生きる為に!強き自分を取り戻す為に」
幼な心『僕の本当の姿、なりたかった自分
葛藤する心、本性がそれだよ!自らを取り戻せ!
生きる為に!強き自分を取り戻す為に』
クリス「……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる