優しい君を抱きたい

ツナコ

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「男同士はさ、それぞれの自由があるのは分かるけど、俺は絶対ないな~。」同期入社の湊の行きつけのバーで、蒼は湊の隣でぼやいていた。
 蒼の仕事は旅行会社のツアー企画や添乗で、小さい旅行会社ではあるが、マニアックなツアーを企画したりリピーターも多い一部では人気の旅行会社だ。今日も熟年向けの、国内の隠れた歴史遺産をめぐるツアーの説明会を行なって何組かの客に今回のツアーの見どころを説明した。そのなかのにリピーターで、俺の説明担当の日には必ず参加する男性の話になった。五十代ほどのサラリーマン風だが、いつも一人参加でかなり近い距離感で俺の目を見て聞き入り、ボディタッチを連発してくる。今日は個人的な連絡先を聞かれどう対応すれば良いか大いに困った。お客さんだし無下にもできない。
「蒼は綺麗だしなぁ、惚れられちゃったよなぁ」
 隣りで湊がからかい気味に微笑みながらカクテルをひっかける。入社して五年、同期の湊は一年ほどバリ島で駐在員をした後、俺と一緒の部署で間もなく三年目になる。二重のすっきりとした目元に通った鼻筋、引き締まった体躯にスラリとした長身のイケメンである。湊は実家が金持ちらしく一人かまたはその時の彼女ともいろいろな国に行っている。旅行好きな蒼は羨ましい限りだ。イケメンなうえ気配りもできるいい男で、彼女が切れたことがない。スパンは短いようだが。そんな男に揶揄われ蒼は、
「からかうなよ。昔からそうやって男に言い寄られることが多くてほんと悩んでたんだ。今じゃあ得意の蹴り技で蹴散らしてやるけどさ。」
鍛えて筋肉はつくがなかなか太くならない身体や、色白で女顔の蒼は小中高、大学と痴漢に遭うことや、同級生たちに揶揄われることが多く、それに負けじと小学校から空手を習い始め今では有段者だ。
「揶揄ってるんじゃなくて、皆そそられたんじゃないの、お前に」
 そう言って湊は眩しそうに蒼をじっと見た。
「そんなわけないだろ。皆女っぽい顔だから揶揄ってただけだろ。腹立つよ、まったく」
「ほんと…無自覚で困るなお前…あ、そうだ来月の休みとれたか?」
「うん、大丈夫だ。楽しみだな、お前と一緒のバリ島も3回目か」
 もともと旅行が好きでこの仕事に就いて、湊もそうだったらしく俺達は休みが合えばふと二人で旅行に行く。バリ島は湊が駐在していたこともあり地元に詳しくいろいろなスポットに行けて楽しい。 湊は微笑んで
「そうだな、楽しみだ・・・あ、ごめん彼女から電話。ちょっと席外すな」
湊に着信が入り電話をしに席を立つ。湊が店内から外に出ようとしたときに、入ってきた客と湊がすれ違った。金髪のチャラチャラした男達だ。なぜか一瞬湊が目を眇めてお互いに見つめ合ったようだが、そのまま外に出た。男達はニヤニヤしながら、蒼と外にでた湊を見るようにして、カウンターには寄らず、蒼が行ったことのない地下へ降りていく。
(湊と知り合いなのか…?俺のこともジロジロ見てきて、嫌な感じだな) 飲んでいたカクテルが尽き、おかわりで同じものをバーテンに注文する。その時、ふと湊の座っていた側じゃない隣りの側から視線を感じ、何気なく横を向く。一つ置いた隣りの席に、男が座っていた。デカい。座っていても圧を感じる。一瞬蒼と目が合いハッとした表情をした。男が何か話しかけようと口を開きかけたところで、湊が戻ってきた。
「蒼、ごめん。彼女が電話ごしに泣いちゃって来いって言うから、今からちょっと彼女んとこ行ってくるわ」
「なんだよ、ケンカ?お前はすぐ彼女怒らせるなぁ。早く行ってやれよ」
「そうだな…今回も多分別れそうだ。話つけてくる」
「また?今回の彼女は三か月くらい?短いなぁ、謝って許してもらえよ」
「うーん、謝っても多分、続かないだろうな。つか、蒼も人のこと言えねえだろ。彼女できても続かないのは」
そうなのだ。蒼も長く人とつきあった試しがない。もって数ヶ月。いつも告白され押されてつきあうのだか、どうもいつまでも受身の蒼に、彼女達は物足りないのか愛想をつかしながら去っていく。決して嫌いなわけではないのだが、どうも自分からガツガツ押すことはできない。性に関しても淡白なことも、一つの原因かもしれない。
「まぁとりあえず行ってくるわ。蒼、今お代わり注文したところだろ。それ飲んだらお前も帰れよ。」
そう言って飲み代と言って多めの紙幣をカウンターに置いて立ち上がる。
「この店、ヤバい奴らもいるし、飲んだら早く帰れよ。じゃあ」
ヤバいって、さっきのみたいな?湊、知り合いなの?そう問おうとしたが湊はさっさと行ってしまった。奢られてしまったようでなんだか申し訳ない。
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