優しい君を抱きたい

ツナコ

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「ぐっ・・・!」
朝陽は悶絶しその場に崩れ落ちた。蒼は急いでパンツとズボンを引き上げベルトを締める。トイレから脱出し、カウンターに紙幣を置いて
「お釣りは要らないので、ご馳走様」
と出口へ向かった。

そこで階下から上がってきた先ほどの柄の悪い三人組とぶつかりそうになる。
「あれ?あんた一人?あいつ先に帰ったの?ラッキー。あんた美人だよね~。俺らと飲み直さない?」
こんな時に、何なんだよもう・・・!肩を組もうとしてきた男の腕を捻り上げる。
「いてっ!なんだこいつ…」
空手二段をなめるな、と捕まえようと手を伸ばしてくる後の男二人の足元を蹴り上げ転がして、急いで店を出た。

朝陽はトイレから出てこない。軽く蹴ったつもりだったが、苦しんでるだろうか。申し訳ない・・・と思いながら、蒼は急ぎ帰途に着いたのだった。
 

「ふー・・・」
もうすぐ退社時間になる社内で、蒼はため息をついた。あの金曜日の夜、帰り道で湊から、やはり彼女と別れたこと、一人残して無事に帰れたのかとメールが来た。

大丈夫だ、と返したものの、黙っているのもモヤモヤして、隣りに座っていた男に口説かれたこと(フェラされたことは触れずに)、チンピラ風三人組に絡まれたこと、それらを空手技で撃退し帰ってきたと返し、ふと、あの三人組は知り合いなのか聞いてみた。

それについての返事はなく、しきりに何もされなかったかと湊は気にしていた。何もなかったよ、と返し、悶々と朝陽にされたことを思い出しながら、休みだった土日は一人暮らしのワンルームを掃除したり、撮り溜めていたテレビ番組を見たりのんびりと過ごした。のんびりとはしていても何度もあの時を思い返し
「あー、恥ずかしい・・・。」
と独り言をつぶやく。


 それは月曜日の仕事が始まっても収まらず、仕事の合間合間に朝陽の顔を思い浮かべ溜息をついてしまう。

そしてまた金曜日、湊は明日からバリ島へ添乗員として出発するため今日は早めに退社するらしい。バリ島は駐在していたこともあり、ツアーが入ると湊は度々添乗員として参加していた。

「蒼・・・なんだか今週は様子がおかしかったな。本当に、何かあったのか?」

何もないよと慌てて返すと、
「じっくりまた飲みでも行きたいけど・・・今月はバリ島ツアーがあと二本入ってるんだ。お前との旅行の時までバタバタだな」
「湊、忙しいよなぁ・・・、体調崩さないようにな。ていうか、俺とも今回バリ島で良かったの?俺、違う国でも良かったのに」

何回も直前に仕事で行ったところなんて嫌ではないかと思ったが、
「いや、お前に案内したいいろんな場所も増えたし、またお前と行ける穴場スポットもちょこちょこ見てくるよ。お前とはまた別」  
とにっこり微笑む。

俺とばかり旅行に行って、彼女とも行けば良かったのにな、と思ったが俺も同じか。湊と行くと気を使わなくて良いし、特に年に1回は行くバリ島は湊の案内がとても楽しかった。
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