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傍観者にしかなれなかったとある男の独白

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あぁ、僕では駄目だったのだろうか?
きっと君を悲しませたりはしないのに、

そんな想いも、もう遅い。


いつも君を見るとそう思うんだ。そんな僕を関係なしに、君はひかりの映らない目で僕を見る。




「何を見ているんだい?」

「えぇ、この花を見ているのよ。とても綺麗でしょう。この色はカレが好きな色なの!」
「そうだわ、花瓶を持ってきて頂戴。これをカレに見せてあげたいわ」

「わかった、持ってこさせよう。喜んで貰えるといいね」

「そうね。きっと喜んで貰えるわ!」

そう少し嬉しそうに、照れくさそうに、
笑らう。何も見えていないような、暗い目をしながら、

君は夢を見ている。きっと醒めることのない。



彼女は僕の幼馴染である。身分が高い家に生まれ、令嬢として育った。

彼女は教養があり、礼儀正しい。少し、高飛車な態度だか、それはそれでご愛嬌
だろう。

僕のことも見ていてくれるような優しい人だ。

そして何より、華が咲くような彼女の笑みを、僕は可愛らしく、美しく思う。

そんな人なのである。

まあもちろん、そんな彼女には婚約者がいた。彼は僕よりもずっと身分が高く、彼女と並んでも見劣りしない、お似合いな人だった。

彼と楽しそうな君を見ているのは嬉しいような、哀しいような気持ちになるだか

きっと彼となら君は幸せになれるはず…と思っていた。



そんな時、あの子が現れた。
あの子は神にでも愛されているような子だった。

そんなあの子を彼は愛してしまった。
まあ、しかたはないような気もするがね、


彼女は愛されなくなった。


「何故なの、ねぇ、なぜなの?
     カレは私の婚約者よ」
「なぜ、あのコがカレのそばにいるの?
     まるで、カレが……… 」

「そんなことはないよ、きっと。
    彼は君のことを愛しいるじゃないか」

「そうよね、そんな訳があるはずかないものね」

「そうだよ、きっとないよ」

きっとないだろうと思いなが、
僕は少し不安になった。



しかし、神は残酷だ。



「なぜ婚約破棄なんて、何か私がしてし
    まいましたか?なぜ、なぜ…」

「なぜだと、それはキミが1番分かっているんじゃないか!あのコにあんなことをしておいて!」

「なんのことか分かりませんわ、私は何もしていません!私を信じて下さい。私を愛しているならば!」

「信じられないな、キミなんて。俺が愛しているのはあのコだ。だから、あのコを信じる!」
「それに、キミなんて愛していない!」

その言葉に彼女は傷つき、崩れ落ちてしまった。


この惨劇の中、僕はただ立っていた。身体が動かなくなり、君の側にも行くこともできずに。


全てが終わり、彼女は婚約破棄され部屋に篭ってしまった。

しばらくして、彼女に会いに行くことにした。

部屋の中から楽しそうな声が聞こえた。
あぁ、きっと君は立ち直ることができたのか?と思ったが、なにか可笑しい…

すると、

彼女は婚約破棄されたことなんて忘れていた。彼に恋をしていた時にすべてもどっていた。

ただ、光のない暗い目を除いて、


君は壊れてしまった。
彼に信じられない、愛していないと言われて


そして、今も幸せな夢を見続けている。




彼女は今、僕の家にいる。部屋を1つと、ガラス張りの温室を行き来している。

両親には、彼女に尽くしなさいと言われている。彼がいなくなったから、次は僕が支えなさい、ということらしい。

まあ、あわよくばと考えているのだと思う。

しかし、両親には悪いのだか、僕には無理である。


彼に愛されていないと彼女が薄々感じていた時、聞いたのだ。

「僕じゃあ駄目かい?」

「どうしたのよ?いきなり」

「いや、僕では君の隣にずっといられないのかと思ったんだけど」

「何を言っているのよ。アナタは幼馴染なのだから、これからも手助けしてくれるのでしょう?」

「もちろんだよ。君の頼みとあらばいくらでも」


僕は君にとって、いることが当然の人間


僕はどう足掻いても、当事者にはなり得ない。
ただの傍観者なのだ。



そんな僕はこれからも君の幸せを願う。


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