上 下
17 / 59
第二章

007 祝宴

しおりを挟む
 スーザンにすり鉢の片付けを任せ、ユーリと二人で外の調理場に薬草を持っていくと、芋やお肉の入ったスープが大鍋でグツグツと煮込まれているところだった。

 ベネディッドが討伐対象だった火竜を倒したので、今夜は宴が開かれるそうだ。ユーリは折角だからと薪割りの手伝いを始めている。

 ルゥナは調理担当の騎士に薬草のことを説明した。
 彼は味見をし顔色を良くさせると、その効果を実感してくれた様子で、快く受け取りスープに混ぜてくれた。

 騎士は大層機嫌良くスープを混ぜているので、ルゥナはベネディッドについて探ってみることにした。

「あの。ベネディッド王子はどんな方なのですか?」
「どんなって……。ベネディッド様は、討伐隊の隊長なのですよ。初めて参加した黒竜の討伐で、見事に奴の心臓を貫き魔剣を手に入れたんです。そこから先はもう魔剣の効果もあるのか誰よりも強くて」
「そう。知らなかったわ。そんなに強いのでしたら、女性にも人気がありそうね」
「あー。ですが、剣を持っている時はすごく無愛想なんですよね。女性を寄せ付けなくて……。ただ、城にいる時は……いえ。何でもないです」

 自慢気に話していた騎士は、ルゥナの質問に急に瞳を曇らせた。
 やはり女癖が悪いのだろう。
 ルゥナは逸る気持ちを抑え、平静を装い騎士に尋ねた。

「お城では、どんな方なの?」
「それが……完全にスイッチオフになるんですよ。別人みたいに」
「まぁ。そうなのね。その話、もっと聞きたいわ」
「はい。城だといつも――ぁ。べ、ベネディッド様……」

 ルゥナの背後へ目を向けて焦る騎士を見て振り返ると、ベネディッドが立っていた。眉間にシワを寄せて、息を切らしている。

「テントにいないと思ったら、こんなところで何をしているのだ?」
「あ、薬草を……」
「薬草?」
「はい。討伐でお疲れの皆さんに、元気になっていただきたかったのです」
「そうか。あまり出歩くな」
「はい」

 もしかしたら、心配して探しに来てくれたのかもしれない。ユーリだって一緒なのに。
 これも、女たらしのテクニックなのだろうか。

 ◇◇

 外は暗くなり、普段ならとっくにベッドで夢の中にいる時間ではあるが、ルゥナはまだ起きていた。
 簡易ベッドに寝転び、隣のスーザンへ目を向けると、彼女は寝息を立てて眠っている。モッキュも一仕事終えたといった様子で、丸くなって枕元の葉っぱの上でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。

「よく眠れるわね……」

 ルゥナの呟きは、外の喧騒でかき消された。
 宴はまだ続いている。討伐した喜びを騎士達が歌と共に祝っているのだ。
 こんな夜更けまで騒いでいて、明日の早朝に出発出来るのだろうか。ルゥナも一口だけワインをいただいたが、彼らはもう何杯目か分からないほど浴びるように飲んでいた。

 宴の間もベネディッドを観察してみたが、ワインを一杯だけ飲むと一人静かに剣を磨いていた。
 宴中なのに、最後にドラゴンを仕留めたのは彼なのに、自慢話をする訳でもなく、女性をはべらすこともなかった。
 まぁ、ここに女性はルゥナとスーザンしかいないけれど。今は外面モードなのかもしれない。城では別人だそうなので、やはり城に入ってからが勝負だ。

 色々と考えていると、テントの幕が開く音がした。
 ベネディッドが戻ってきたのだ。

『まだ起きていたのか?』
『はい。外がうるさくて眠れませんでした』
『そうか。スープを飲んだら回復したらしく、まだまだ収まりそうにない。彼女は寝たか?』
『アレクシア様ですか?』
『ああ。一応、締める前に確認してきてくれ』

 ベネディッドとユーリの会話に聞き耳を立てていたルゥナは急いで寝たフリをした。……けれど、それがユーリに通用するはずもなく、薄目を開けて確認した時に目が合ってしまった。

「既におやすみのご様子です」

 ユーリはベネディッドに嘘の報告をすると、仕切りの向こうへと戻って行った。


しおりを挟む

処理中です...