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第三章
006 隠し事
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温室にはバナナやパイナップルといった見たこともない異国の果物がなっていた。
ロンバルトは交易が盛んで色々な物が流入してくるそうだ。この温室はコリンの趣味だそうで、第二王子宮の者しか栽培していることも知らないらしい。
ルゥナとユーリは、温室を管理しているクロウドさんという執事に収穫方法を教えてもらい、昼食は採れたての果物を皆でいただいた。
みずみずしくて美味しくて、つい食べ過ぎてしまった。
それから食休みにと湖を眺めている時に、ベネディッドはまた王妃様のお茶会に呼ばれていた。ヴェルナーも茶会には必ずついていくそうなので、ルゥナとユーリは部屋で待機するように言われて戻り、スーザンと顔を会わせた時、ふと我に返った。
「記録するのを忘れていたわ」
「そうですね。とても楽しく収穫をしてしまいました。ですが……記録すべき状況も、なかったような気がします」
「……確かに」
朝食時同様、ベネディッドは爽やかなイケメン王子だった。パイナップルはそのまま食べると舌がいたくなるからと、ヨーグルトを食べるように勧めてくれたり、美味しいと言えば微笑んだり。
城外では番犬みたいだったのに、城へ戻ってからは人懐っこい子犬みたいになった。
ユーリもルゥナと同じように感じているようだ。
「やはり、ベネディッド様は、魔剣を手にすると好青年になるのではないでしょうか」
「温室ではヴェルナーが持っていたわ。朝食の時も……」
「朝、訓練の時は使っていたので、剣を持つと魔力が増幅して実直になられるとか?」
「うーん。本当に良く分からない方だわ。城に戻ってからは特に。にこにこ挨拶したかと思えば、年上の女性達に……。そう言えば、温室は男性の使用人だったからかしら?」
「朝食の時はいががでしたか?」
「……女性の使用人だったけれど、自立していたわ。という事は、本当に昨日は具合が悪かっただけなのかしら。でも、あの自然と出てくる体たらくな言葉の数々……」
頭を抱えるルゥナとユーリに、スーザンは悩みながらも口を挟んだ。
「……取り敢えず。もう少し様子を見ましょう。私達は、彼が実際にどのような人間なのか知る必要はないのですから。婚約を破棄できる為の証拠集めをする為に、ここにいるのです」
「そうね。スーザンの言う通りだわ」
彼が年上の使用人を相手に甘えているのは、この目で見たのだから、ベネディッドが本来どんな人物なのか、深く知る必要はない。
本物のアレクシアの為に、婚約を破棄する材料を集めさえすればいいだけなのだ。
ルゥナはただの替え玉であってアレクシアではない。
ルゥナの気持ちなど、何一つ意味を為さないのだから。
◇◇
湖をバルコニーから見下ろしながら、スーザンへのお土産用として収穫したバナナを三人でいただいていると、ヴェルナーが部屋を訪ねてきた。
「アレクシア様。本日ベネディッド様は、ご公務が忙しく、夕食はご一緒できなくなりました」
「そうですか。……あの。もしかしたら、体調を崩されているのではありませんか?」
「それは……その」
ヴェルナーは左下へと顔を俯かせ表情を隠した。
やはり、何か隠しているのだ。
「まさか、火竜討伐の際にお怪我でもされたのではありませんか?」
「いや。それはないですが……」
「ベネディッド様はどちらですか?」
「今は自室で休んでいま……。あっ」
言いかけた口元を手で覆うが、しまったといった顔のヴェルナー。なんて分かりやすい人なのだろう。
しかし、自室で休むという事は、午前中に体を動かして傷がぶり返したのか。もしくは、凶悪なドラゴンは死の間際に呪いをもたらすと聞いたことがあるので、魔的な何かに苦しんでいるのかもしれないとルゥナは思案した。
「やはり、どこか具合が悪いのですね。私の回復薬はよく効くのです。何かお役に立てるかもしれません。ベネディッド様と、お会いできませんか?」
「いや、それは……。あ、コリン様」
突然現れたコリンは、戸惑うヴェルナーを押し退け、アレクシアへ礼をすると真剣な眼差しで口を開いた。
「あの、アレクシア様。折り入ってご相談があるのですが」
「コリン様。その前に、ベネディッド様に会わせていただけますか? 具合が良くない事は、ヴェルナーの反応から察しております。お役に立てる事があれば力になりたいのです」
「えっ? そうですね。……分かりました。部屋にご案内します」
「コリン様、よろしいのですか?」
「ああ。――アレクシア様。私について来てください」
コリンについていきベネディッドの自室へと案内された。会えばお喋りの止まらないコリンが、今は静かに前へと足を向けるだけである。
緊張しながら廊下を歩いていくと、気がつくと大きな扉の前にいた。
「この先がベネディッド様の自室にございます。こちらの扉を入りまして廊下を進んだ先にございますので、とうぞ」
「はい。ありがとうございます」
扉を開けて廊下を進むと、奥にもうひとつ扉が見えた。扉は開いていて、中から女性の声が漏れ聞こえていた。
「ベネディッド様の為に、出来ることは何でもしたいのです」
ロンバルトは交易が盛んで色々な物が流入してくるそうだ。この温室はコリンの趣味だそうで、第二王子宮の者しか栽培していることも知らないらしい。
ルゥナとユーリは、温室を管理しているクロウドさんという執事に収穫方法を教えてもらい、昼食は採れたての果物を皆でいただいた。
みずみずしくて美味しくて、つい食べ過ぎてしまった。
それから食休みにと湖を眺めている時に、ベネディッドはまた王妃様のお茶会に呼ばれていた。ヴェルナーも茶会には必ずついていくそうなので、ルゥナとユーリは部屋で待機するように言われて戻り、スーザンと顔を会わせた時、ふと我に返った。
「記録するのを忘れていたわ」
「そうですね。とても楽しく収穫をしてしまいました。ですが……記録すべき状況も、なかったような気がします」
「……確かに」
朝食時同様、ベネディッドは爽やかなイケメン王子だった。パイナップルはそのまま食べると舌がいたくなるからと、ヨーグルトを食べるように勧めてくれたり、美味しいと言えば微笑んだり。
城外では番犬みたいだったのに、城へ戻ってからは人懐っこい子犬みたいになった。
ユーリもルゥナと同じように感じているようだ。
「やはり、ベネディッド様は、魔剣を手にすると好青年になるのではないでしょうか」
「温室ではヴェルナーが持っていたわ。朝食の時も……」
「朝、訓練の時は使っていたので、剣を持つと魔力が増幅して実直になられるとか?」
「うーん。本当に良く分からない方だわ。城に戻ってからは特に。にこにこ挨拶したかと思えば、年上の女性達に……。そう言えば、温室は男性の使用人だったからかしら?」
「朝食の時はいががでしたか?」
「……女性の使用人だったけれど、自立していたわ。という事は、本当に昨日は具合が悪かっただけなのかしら。でも、あの自然と出てくる体たらくな言葉の数々……」
頭を抱えるルゥナとユーリに、スーザンは悩みながらも口を挟んだ。
「……取り敢えず。もう少し様子を見ましょう。私達は、彼が実際にどのような人間なのか知る必要はないのですから。婚約を破棄できる為の証拠集めをする為に、ここにいるのです」
「そうね。スーザンの言う通りだわ」
彼が年上の使用人を相手に甘えているのは、この目で見たのだから、ベネディッドが本来どんな人物なのか、深く知る必要はない。
本物のアレクシアの為に、婚約を破棄する材料を集めさえすればいいだけなのだ。
ルゥナはただの替え玉であってアレクシアではない。
ルゥナの気持ちなど、何一つ意味を為さないのだから。
◇◇
湖をバルコニーから見下ろしながら、スーザンへのお土産用として収穫したバナナを三人でいただいていると、ヴェルナーが部屋を訪ねてきた。
「アレクシア様。本日ベネディッド様は、ご公務が忙しく、夕食はご一緒できなくなりました」
「そうですか。……あの。もしかしたら、体調を崩されているのではありませんか?」
「それは……その」
ヴェルナーは左下へと顔を俯かせ表情を隠した。
やはり、何か隠しているのだ。
「まさか、火竜討伐の際にお怪我でもされたのではありませんか?」
「いや。それはないですが……」
「ベネディッド様はどちらですか?」
「今は自室で休んでいま……。あっ」
言いかけた口元を手で覆うが、しまったといった顔のヴェルナー。なんて分かりやすい人なのだろう。
しかし、自室で休むという事は、午前中に体を動かして傷がぶり返したのか。もしくは、凶悪なドラゴンは死の間際に呪いをもたらすと聞いたことがあるので、魔的な何かに苦しんでいるのかもしれないとルゥナは思案した。
「やはり、どこか具合が悪いのですね。私の回復薬はよく効くのです。何かお役に立てるかもしれません。ベネディッド様と、お会いできませんか?」
「いや、それは……。あ、コリン様」
突然現れたコリンは、戸惑うヴェルナーを押し退け、アレクシアへ礼をすると真剣な眼差しで口を開いた。
「あの、アレクシア様。折り入ってご相談があるのですが」
「コリン様。その前に、ベネディッド様に会わせていただけますか? 具合が良くない事は、ヴェルナーの反応から察しております。お役に立てる事があれば力になりたいのです」
「えっ? そうですね。……分かりました。部屋にご案内します」
「コリン様、よろしいのですか?」
「ああ。――アレクシア様。私について来てください」
コリンについていきベネディッドの自室へと案内された。会えばお喋りの止まらないコリンが、今は静かに前へと足を向けるだけである。
緊張しながら廊下を歩いていくと、気がつくと大きな扉の前にいた。
「この先がベネディッド様の自室にございます。こちらの扉を入りまして廊下を進んだ先にございますので、とうぞ」
「はい。ありがとうございます」
扉を開けて廊下を進むと、奥にもうひとつ扉が見えた。扉は開いていて、中から女性の声が漏れ聞こえていた。
「ベネディッド様の為に、出来ることは何でもしたいのです」
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