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第三章
008 婚約者
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バルコニーの椅子に腰掛け空を見上げ、ルゥナが大きな溜め息を吐くと、ユーリが部屋から顔を出した。
「アレクシア様?」
「……ユーリ」
「夜は冷えます。そろそろお休みになりませんか? 明日は忙しいでしょうから」
「ええ。そうね」
明日は第一王子ジェラルドとの会食がある。
陛下と王妃、そしてベネディッドも一緒だ。
先程記録した昌石をユーリとスーザンにも見せ、アレクシアに相談した結果、明日の会食の際、婚約破棄へ向けて動き出すことにした。
「緊張していますか?」
「……そうね。陛下はフランクな方だったけれど、ベネディッド王子の事を気に入っていらっしゃるように見えたから、遠回しに攻めてみるわ」
アレクシアの話だと、第一王子は後継争いによりベネディッドを疎ましく思っているだろうから、不貞を仄めかしてベネディッドの評価を落とせば彼の方からすり寄ってくるだろうとの事だ。
明日の目標は第一王子を味方につける事だ。
アレクシアにも兄と弟がいる。互いに表向きは仲良くしているが、弟は野心家で温厚な兄の隙を見て王位を狙っているそうだ。
ベネディッドの悪い噂が他国まで流れてきているということは、城でその情報を握り潰せる人がいないという事になり、内部で争い事が起きているからだとアレクシアは推察していた。
だから、ベネディッドの噂は嘘かもしれないとも。
しかし、嘘だとしても、それを本当にしたい人間が何処かに存在するから噂が出来たはずで、どちらにせよ不貞絡みで婚約破棄まで追い込めるだろうと言っていた。
「あまり無理し過ぎず。取り敢えず味方を探るだけでも良いのですからね」
「分かっているわ。まずは一番力になってくれる人を見極めるわ」
「はい。あの……大丈夫ですか?」
「何が?」
「いえ。ベネディッド様の部屋から戻られてから……。やはり、ショックでしたか?」
「べ、別に。噂通りで良かったわ。その方が動き易いもの」
正直なところ、ルゥナはショックを受けていた。
体調を心配して行ってみたら、イチャイチャしているだけだったのだから。心配なんかしなければ良かった。
「そうですね。全くベネディッド様には振り回されてばかりです。彼の頭の中はどうなっているのですかね」
「さぁ? ですが、色ボケぐうたら王子は御免ですので、必ず婚約破棄してみせますわ」
◇◇
翌日、ベネディッドとの朝食の時間。
目の前のベネディッドは顔色も良くニコニコと食事中だ。
彼の隣には昨日部屋で見た使用人が控えていて、食べさせてあげたり密着している訳ではないが、ルゥナは居心地が悪く、食欲がないと言ってその場を後にした。
ルゥナの護衛をするヴェルナーは、隣を歩き心配そうに尋ねた。
「アレクシア様。食事は宜しいのですか?」
「はい。今日は陛下との会食がございますので、少々緊張しておりまして」
「あの。昨日ベネディッド様の部屋で、何か誤解があったのではありませんか?」
「誤解ですか?」
あれをどうやって誤解で収める気なのだろう。
彼の従者でヴェルナーは大変なのだと可哀想になった。
「はい。部屋にいた使用人は、アレクシア様は訪ねて来なかったと言っておりました。昨日ベネディッド様は――」
「お休みのご様子でしたので声を掛けませんでした。これでよろしいですか?」
「よろしいかと聞かれたら宜しくはありません。ベネディッド様も素直じゃないところがありますから、一度ちゃんと話し合ってください。二人はこれから長い時間を共に過ごす婚約者同士なのですから」
長い時間を共に。それはルゥナではないけれど。
アレクシアであっても、それは絶対に拒否したいことだ。
「婚約者……。そうですわね。会食が終わりましたら、婚約についてベネディッド様とお話させていただきますわ」
「アレクシア様?」
「……ユーリ」
「夜は冷えます。そろそろお休みになりませんか? 明日は忙しいでしょうから」
「ええ。そうね」
明日は第一王子ジェラルドとの会食がある。
陛下と王妃、そしてベネディッドも一緒だ。
先程記録した昌石をユーリとスーザンにも見せ、アレクシアに相談した結果、明日の会食の際、婚約破棄へ向けて動き出すことにした。
「緊張していますか?」
「……そうね。陛下はフランクな方だったけれど、ベネディッド王子の事を気に入っていらっしゃるように見えたから、遠回しに攻めてみるわ」
アレクシアの話だと、第一王子は後継争いによりベネディッドを疎ましく思っているだろうから、不貞を仄めかしてベネディッドの評価を落とせば彼の方からすり寄ってくるだろうとの事だ。
明日の目標は第一王子を味方につける事だ。
アレクシアにも兄と弟がいる。互いに表向きは仲良くしているが、弟は野心家で温厚な兄の隙を見て王位を狙っているそうだ。
ベネディッドの悪い噂が他国まで流れてきているということは、城でその情報を握り潰せる人がいないという事になり、内部で争い事が起きているからだとアレクシアは推察していた。
だから、ベネディッドの噂は嘘かもしれないとも。
しかし、嘘だとしても、それを本当にしたい人間が何処かに存在するから噂が出来たはずで、どちらにせよ不貞絡みで婚約破棄まで追い込めるだろうと言っていた。
「あまり無理し過ぎず。取り敢えず味方を探るだけでも良いのですからね」
「分かっているわ。まずは一番力になってくれる人を見極めるわ」
「はい。あの……大丈夫ですか?」
「何が?」
「いえ。ベネディッド様の部屋から戻られてから……。やはり、ショックでしたか?」
「べ、別に。噂通りで良かったわ。その方が動き易いもの」
正直なところ、ルゥナはショックを受けていた。
体調を心配して行ってみたら、イチャイチャしているだけだったのだから。心配なんかしなければ良かった。
「そうですね。全くベネディッド様には振り回されてばかりです。彼の頭の中はどうなっているのですかね」
「さぁ? ですが、色ボケぐうたら王子は御免ですので、必ず婚約破棄してみせますわ」
◇◇
翌日、ベネディッドとの朝食の時間。
目の前のベネディッドは顔色も良くニコニコと食事中だ。
彼の隣には昨日部屋で見た使用人が控えていて、食べさせてあげたり密着している訳ではないが、ルゥナは居心地が悪く、食欲がないと言ってその場を後にした。
ルゥナの護衛をするヴェルナーは、隣を歩き心配そうに尋ねた。
「アレクシア様。食事は宜しいのですか?」
「はい。今日は陛下との会食がございますので、少々緊張しておりまして」
「あの。昨日ベネディッド様の部屋で、何か誤解があったのではありませんか?」
「誤解ですか?」
あれをどうやって誤解で収める気なのだろう。
彼の従者でヴェルナーは大変なのだと可哀想になった。
「はい。部屋にいた使用人は、アレクシア様は訪ねて来なかったと言っておりました。昨日ベネディッド様は――」
「お休みのご様子でしたので声を掛けませんでした。これでよろしいですか?」
「よろしいかと聞かれたら宜しくはありません。ベネディッド様も素直じゃないところがありますから、一度ちゃんと話し合ってください。二人はこれから長い時間を共に過ごす婚約者同士なのですから」
長い時間を共に。それはルゥナではないけれど。
アレクシアであっても、それは絶対に拒否したいことだ。
「婚約者……。そうですわね。会食が終わりましたら、婚約についてベネディッド様とお話させていただきますわ」
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