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第三章

013 信用できない

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 ルゥナに出来ることといえば、薬関連の事だ。
 王妃は、元気なベネディッドを見て、解毒薬の存在を疑っていた。

「解毒薬は完成しているのですか? それか、予防できるような薬などは――」
「王妃に探りを入れる様に頼まれたのか?」
「違います。今回は多めに薬を盛ったのに……。今日もお元気な姿でしたので、そういった物があるのかも知れないと王妃が言っていたのです。もしそれがあるなら、私にも解毒薬作りの手伝いを――」
「必要ない。そう言って王妃に情報を流すのだろう? そしてベネディッド様を亡き者にすれば、婚約だって無かった事にされる。お前自身にも傷がつかず、一番良い結果なのだろ? ベネディッド様はお前を国に返すべきかを案じていたのに」

 悔しそうに拳を握りしめるヴェルナーに、ルゥナは伝えきれない胸の内を苦しく思った。

「私だって、ベネディッド様の身を案じております。婚約を破棄したい事には変わりませんが、いくら浮気男だとしても、命まで奪おうだなんて思いません。ヴェルナーは知らないと思いますが、私はベネディッド様に命を救われたのですよ」
「だとしても……信用できない。第二王子宮には連れて行くが、部屋から一歩も出るな」

 信用できない。
 当たり前だ。ユーリだって同じ事を言うだろう。 
 突きつけられた言葉を受け入れたくなくて、ルゥナは言い訳ばかり心の中で探していた。

「それでも構いません。ですが、これだけは聞いてください。王妃はジェラルド様の誕生パーティーで暗殺を計画していたそうです。けれど、私と協力できると踏み、明後日の茶会にて計画を実行に移そうとしています。私を暗殺しようとしたルナステラの者が捕らえられていることを知っていて、その者にベネディッド様が暗殺されたように見せかけ、毒殺しようとしているのです。ただ、計画を阻止できたとしても、根本的な解決にはなりません。王妃の企ての証拠を――」
「もう一度言う。俺はお前を信用しない。一度失ったものは簡単には戻らない。今の言葉はこちらを騙す為の嘘かもしれないのだから。それと、王妃を欺けば命を失うぞ。自分の身が惜しければ、ただ流されるまま従っておけばいい」
「えっ?」

 今のは、どういう意味だろうか。
 まるでルゥナの身を案じてくれているかのように聞こえ、その真意をヴェルナーに尋ねようとした時、背後から声がした。

「あれ? まだこんなところにいたのか?」

 ここはヴェルナーが切り離した別の空間なのに、いつの間にかベネディッドは後ろにいた。
 ここは魔剣で作られた場所だから、所持者であるベネディッドは出入り自由なのだろうか。しかし、何故魔剣の所持者ではないヴェルナーが使いこなしているのか疑問が湧いた。魔剣は所持者を選ぶと聞いたことがあるからだ。それはたいてい一人の筈だ。

「ベネディッド様。アレクシア様は王妃の茶会に呼ばれ――」
「王妃のだって!? アレクシア、顔色が悪い。どこか苦しいのか?」

 ベネディッドはルゥナへと駆け寄ると、手を握りしめて顔を近づけた。紅い瞳は不安気で、アレクシアを心から心配してくれているのだと伝わってきた。
 ベネディッドは何故会食での事を怒っていないのだろう。

「いえ。私は……」
「ベネディッド様。アレクシア様から離れてください。彼女は婚約を破棄する為に王妃と手を組むそうです。王妃は解毒薬についてアレクシア様を通して探りたいようです。この際、理由は何でもいいので、陛下に婚約破棄を申し出てはいかがですか?」

 ルゥナが口ごもると、ヴェルナーがベネディッドに進言した。まさか、こんな形で婚約破棄できる可能性が出てくるとは思わなかった。
 しかし、ベネディッドは顔をしかめていた。

「婚約破棄? ……それは嫌だ。まさか、婚約を破棄したくて会食であのようなことを?」
「はい」
「そうか。……会食での父との会話は、すまなかった。私は側室には興味はない。ただ、母が側室であることは事実だ。だから側室自体を否定することは出来ない。それから……。解毒薬の話が出ているという事は、アレクシアは王妃が私に何をしているか、知っているのだな?」

 母親が側室。 
 確かに、それを否定したくない気持ちは分かる。
 ベネディッドは両親を大切に思っているのだ。
 それに、王妃の事も分かっていた。
 なのにどうして、王妃へ対する嫌悪感が、ベネディッドから見られないのだろうか。

 ベネディッドがルゥナの返事を待っているので、戸惑いながらも首を縦に振ると、彼は表情を明るくさせた。

「そうか。なら話が早い。誤解させてすまなかった。これから体調を崩した時は、食事はヴェルナーに食べさせてもらうよ。それなら気にならないだろう?」
「は……い?」

 ベネディッドは悪びれた様子もなくそう尋ねた。
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