聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

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第三章 甘い香りとティータイム

009 褒美

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 ここはセシルの部屋ではない。
 大きなベッドに豪華な調度品。
 身体に掛けられた薄い掛け布団も肌触りが良い。

 恐らくアルベリクの部屋だ。状況を何となく察し、ベッドから降りようとすると無言でこちらを見ていたアルベリクが、急に言葉を発した。

「そのまま座っていろ。……身体は大丈夫か?」

 そう言われて身体に目を向ける。いつもの白いネグリジェ姿だ。確か、アルベリクに抱えられて……その後の記憶はない。

「……だ、大丈夫です」

 鼻が少し痛いが、大したことはない。
 それより、何故ここで寝ていたのか。
 そればかり気になってきた。

「そうか。うなされていたぞ」
「そうですか……」

 セシルは一瞬リリアーヌの顔が浮かび身震いした。夢に彼女が出てきた気がする。

「姉上は、家族を一番に大切に思っている。その家族が傷付いたとなれば黙ってはいられない人だ」

 アルベリクはセシルの顔を見て何か察しのか、リリアーヌの事を話し出した。寝言でリリアーヌの名を口に出していたのかもしれない。

「姉上の大切なものを傷付けたり奪ったりさえしなければ、お前のような他人へ関心を向けることなどないだろう」

 リリアーヌの大切なもの。セシルには耳の痛い話だ。聖女だったセシルはリリアーヌの婚約者を奪ってしまったのだから。

「とにかく、姉上には近づくな。――それより、お前。クロエに癒しの魔法を使っただろう?」
「は、はい。使いました。でも――」

 言いかけた時、喉元に剣が宛がわれた。
 いつ抜いたのか全く見えなかった。しかし、アルベリクに睨まれてはいるのだが、その瞳から怒りの色は窺えなかった。

「魔法は使うな。お前の力で、この剣を防ぐことができるのか? できないだろ。自分を守る術もない癖に、後先考えずに行動を起こすな。異端者として処刑されたいのか?」

 セシルは必死で首を横に振った。確かに、アルベリクの言う通りだ。己の浅はかさにセシルは肩を落とした。

「それから、お前は俺の所有物だ。俺の許可無しに魔法を使うことも、誰かに傷つけられることも許さない。もしまた勝手な真似をしたら――命の保証はない。返事は?」
「はい。分かりました」

 セシルが答えるとアルベリクは剣を戻しながら、セシルから目を反らし、言葉を発する。

「クロエの事は礼を言う。本人も、お前のしたことは気付いていない様だ。よって今回は不問に処す」
「えっ……」

 今、お礼を言われた?
 セシルは意外なアルベリクの言葉に耳を疑った。

「何だ。二度は言わないぞ。──そうか。褒美が欲しいのだな。一つだけ願いを叶えてやる。言ってみろ」

 さっきまで剣を向けていた癖に、急に褒美などと言われても何も思い浮かばなかった。
 さすがに隣の国への亡命資金などとは言い出せないし、思い浮かぶのは、メアリのクッキーを毎日食べたいという馬鹿げた内容だけだった。

「別に、今返事をしなくてもよい。思いついた時に――」
「あっ! 芋虫さん」
「は?」
「芋虫さんがサナギになったり羽化しそうになった時は、レオン様とクロエ様を西館の庭にお呼びしてもいいですか?」
「……話が全く見えん」
「え、えっと……その。何から話したらいいか……」

 セシルが悩み始めるとアルベリクはセシルの隣に腰を下ろした。

「なら、初めから話せ」
「初めから……ですか?」
「ああ。双子といつ出会った?」 
「えっと……」

 セシルは双子と芋虫との出会いについてポツリポツリと話し始めた。
 アルベリクは眉間にシワを寄せたままかだが、時折驚き、そして時折微笑み、そして呆れつつもセシルの話に耳を傾けた。
 そして最後まで話し終えると、芋虫の観察日記をつけることを条件に、双子の出入りを認めてくれたのだった。


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