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第四章 二人きりでの馬車の旅
008 約束のあの子
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どうしたのか心配していたら、夕方頃にフラッと喪服姿で現れた。
そしてその子は、シスターに向かって急に叫んだ。
「嘘つき! 神様はいつも見ているんじゃなかったの? 毎日毎日お祈りしたのに、どうして母様は死んでしまったの!?」
「神様はいつも見ていますよ。神を信じましょう。あなたの心は救わるでしょう。きっとお母様も……」
シスターはその子を優しく抱きしめようとしたが、その子はそれを許さなかった。
「触るな。嘘つき。神様なんかいない。みんな大っ嫌いだっ」
教会を飛び出し、あの子は庭のアーケードの中で丸くなって、小さな花の蕾を見つめていた。その顔は青白く血の気が全くなくて、今にも倒れてしまいそうだった。
セシルは花を何本か摘み、その子に持っていってあげた。
「これ。お母さんにあげて?」
「いらない。あっち行って」
「……悲しい時は、泣くとスッキリするよ」
「泣いちゃ駄目なんだ。みっともないから……駄目なんだ」
そう言ってうずくまるその子は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「私はすぐ泣くよ。嫌なことがあると、シスターの膝の上でたくさん泣くの。そうするとね。嫌なこともすぐ忘れちゃうの」
「単純だね」
「うん。……ほら、どうぞ?」
「は?」
セシルはその子のとなりに座って、自分の両膝をポンポンと叩いた。
「いいよ。泣いちゃ駄目だから」
「いいよ。泣いていいから。誰もいないよ。あなたと私しか」
「……」
その子は何も言わずにセシルの膝に頭を乗せた。
セシルはそのサラサラの髪をゆっくりと撫でてやった。
シスターの真似をして。
「神様はいつも見ていますよ」
「嘘だ。神様なんか、いない」
「いるよ。シスターがいるって言ってるもん。──でもね。神様は見ているだけで何もしてくれないよ。寂しい時抱きしめてもくれないし、話しかけても何も答えてくれない。信じてたら救われるって言うけど、私はまだ救われたことないし。だから、自分で頑張るしかないんだよ」
「やっぱり嘘つきだ。そんなの、いないのと変わらないじゃないか」
「シスターは嘘つかないもん。きっとシスターには神様がいるんだと思う。だから優しいのかも。私にだって、お母さんみたいに優しいんだよ」
「お母……さん?」
「うん。私、お母さんいないんだけどさ。もしシスターが死んじゃったら、泣いちゃ駄目なんて出来ないと思うの。あなたもそうでしょ?」
「うん……」
「泣いていいよ。泣き止んだら、お母さんにお花をあげよう。神様はお花なんかくれないでしょ。あなたがやらなきゃ」
「うん……うん……」
その後その子はセシルの膝の上でずっと泣き続けた。
たくさん泣いて泣いて、泣きつかれて、二人とも眠ってしまい。気付いた時には朝になっていた。
「ねえ。君の名前は?」
「私はセシルだよ」
「セシル……。ありがとう」
「えへへ」
「もうここには来ないから。……でも、泣きたくなったら来てもいい?」
「うん。いいよ」
「セシル……。神様は見ているだけ。何もしてくれない。だから自分で頑張るしかないんだよね。だったら僕、自分で頑張ってみるよ。シスターに酷いこと言ったって謝っておいて」
「それは……自分で謝った方がいいと思う」
「そうだね。あははっ。セシル」
その子はセシルにピョンっと抱きつき言葉を続けた。
薔薇の様な甘い香りがする。
「きっと母様が君と僕を出会わせてくれたんだと思う。いつかきっと、迎えに来るから……僕がもっと強くなったら……」
「うん。楽しみにしてるよ」
その子はいつもの様にキラキラした笑顔をセシルに向けた。
その瞳は、セシルが知っている、アルベリクと同じ色で……。
「やっぱり、あの時のあの子が……アルベリクだったんだ」
アルベリクは約束通り、セシルを迎えに来てくれたのだ。
セシルがそう確信した時、馬車の扉が音もなく開いた。
アルベリクかと思いセシルが扉に近づくと、扉の隙間から土で汚れた手がぬっと馬車の中に入り、小汚ない男が顔を覗かせた。
「やあ。可愛いお嬢さん?」
そしてその子は、シスターに向かって急に叫んだ。
「嘘つき! 神様はいつも見ているんじゃなかったの? 毎日毎日お祈りしたのに、どうして母様は死んでしまったの!?」
「神様はいつも見ていますよ。神を信じましょう。あなたの心は救わるでしょう。きっとお母様も……」
シスターはその子を優しく抱きしめようとしたが、その子はそれを許さなかった。
「触るな。嘘つき。神様なんかいない。みんな大っ嫌いだっ」
教会を飛び出し、あの子は庭のアーケードの中で丸くなって、小さな花の蕾を見つめていた。その顔は青白く血の気が全くなくて、今にも倒れてしまいそうだった。
セシルは花を何本か摘み、その子に持っていってあげた。
「これ。お母さんにあげて?」
「いらない。あっち行って」
「……悲しい時は、泣くとスッキリするよ」
「泣いちゃ駄目なんだ。みっともないから……駄目なんだ」
そう言ってうずくまるその子は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「私はすぐ泣くよ。嫌なことがあると、シスターの膝の上でたくさん泣くの。そうするとね。嫌なこともすぐ忘れちゃうの」
「単純だね」
「うん。……ほら、どうぞ?」
「は?」
セシルはその子のとなりに座って、自分の両膝をポンポンと叩いた。
「いいよ。泣いちゃ駄目だから」
「いいよ。泣いていいから。誰もいないよ。あなたと私しか」
「……」
その子は何も言わずにセシルの膝に頭を乗せた。
セシルはそのサラサラの髪をゆっくりと撫でてやった。
シスターの真似をして。
「神様はいつも見ていますよ」
「嘘だ。神様なんか、いない」
「いるよ。シスターがいるって言ってるもん。──でもね。神様は見ているだけで何もしてくれないよ。寂しい時抱きしめてもくれないし、話しかけても何も答えてくれない。信じてたら救われるって言うけど、私はまだ救われたことないし。だから、自分で頑張るしかないんだよ」
「やっぱり嘘つきだ。そんなの、いないのと変わらないじゃないか」
「シスターは嘘つかないもん。きっとシスターには神様がいるんだと思う。だから優しいのかも。私にだって、お母さんみたいに優しいんだよ」
「お母……さん?」
「うん。私、お母さんいないんだけどさ。もしシスターが死んじゃったら、泣いちゃ駄目なんて出来ないと思うの。あなたもそうでしょ?」
「うん……」
「泣いていいよ。泣き止んだら、お母さんにお花をあげよう。神様はお花なんかくれないでしょ。あなたがやらなきゃ」
「うん……うん……」
その後その子はセシルの膝の上でずっと泣き続けた。
たくさん泣いて泣いて、泣きつかれて、二人とも眠ってしまい。気付いた時には朝になっていた。
「ねえ。君の名前は?」
「私はセシルだよ」
「セシル……。ありがとう」
「えへへ」
「もうここには来ないから。……でも、泣きたくなったら来てもいい?」
「うん。いいよ」
「セシル……。神様は見ているだけ。何もしてくれない。だから自分で頑張るしかないんだよね。だったら僕、自分で頑張ってみるよ。シスターに酷いこと言ったって謝っておいて」
「それは……自分で謝った方がいいと思う」
「そうだね。あははっ。セシル」
その子はセシルにピョンっと抱きつき言葉を続けた。
薔薇の様な甘い香りがする。
「きっと母様が君と僕を出会わせてくれたんだと思う。いつかきっと、迎えに来るから……僕がもっと強くなったら……」
「うん。楽しみにしてるよ」
その子はいつもの様にキラキラした笑顔をセシルに向けた。
その瞳は、セシルが知っている、アルベリクと同じ色で……。
「やっぱり、あの時のあの子が……アルベリクだったんだ」
アルベリクは約束通り、セシルを迎えに来てくれたのだ。
セシルがそう確信した時、馬車の扉が音もなく開いた。
アルベリクかと思いセシルが扉に近づくと、扉の隙間から土で汚れた手がぬっと馬車の中に入り、小汚ない男が顔を覗かせた。
「やあ。可愛いお嬢さん?」
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