聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

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第七章 争乱と奇跡の力

012 それぞれの道は

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「アル。国王はセシルの存在を知らない。知っているのはここにいる私達とクリス王子だけだ」

 エドワールはアルベリクにそう言い微笑みかけ、言葉を続けた。

「一週間後、もしも国王への献上品のセシルが、病で倒れて死んでしまって別の献上品に変えたとしても、誰も困らない。それに、クリス王子は死んだ者を追うことなど出来ないだろう――この意味、分かるだろ?」
「はい。兄上」

 アルベリクはセシルの頬に手を添え、見つめ合うと、セシルを抱きしめた。

 セシルはまだ状況が分かっていなかった。
 爺やが何も話さず立っているだけでいいと言い。
 その通りにしただけだった。

 でも、エドワールの話だと……。

「アルベリク様。私は病で死ねばいいのですか?」
「は? 違う。一週間以内にこの国から出ればいいだけだ」
「え……えぇ?」

 困惑するセシルの肩にアルベリクはポンっと手を乗せた。
 そして真面目な顔で一言。

「後で説明する」
「アル。この先苦労しそうだね。さてさて。ディルク様。お恥ずかしいところばかり見せてしまいましたね」
「いえ、俺はこれからシュナイト領へ帰ります。アルベリクも忙しくなりそうですから、ま、頑張れよ。お二人さん」
「お、送っていくぞ」
「いいよ。俺は邪魔だろうしさ~」

 仲良く肩を組むアルベリクとディルクを前に、セシルはまだ何が起きたのか分からないでいた。

「セシル。善は急げだ。明日、屋敷を出よう」
「はいっ」

 セシルはアルベリクに抱き上げられ、西館へと戻っていった。明日の準備をするために。

 ◇◇

 本館の裏庭にて。

 リリアーヌはクリスに追いつき、その哀愁漂う背に向かって声をかけた。自分がクリスを支えなくてはという一心で。

「クリス様?」
「……何?」
「えっと……。わ、私では、ご不満ですか? 私は幼い頃にクリス様にお会いしてから、ずっとお慕いしておりました」
「そう。美しいリリアーヌ。きっと君は僕の素敵なパートナーになれるよ」

 クリスは微笑み、リリアーヌを優しく抱きしめた。

 初めてだ。クリスを全身で感じたのは。
 とても心が安らぎ、癒されていく。

 クリスもリリアーヌを受け入れてくれたのだ。
 この人を二度と離したくない。
 リリアーヌはそう思った。

「クリス様。これ……」
「これは……。どうしてリリアーヌが?」

 クリスはリリアーヌからアクアマリンの指輪を受け取った。
 これはセシルに渡したはずの指輪だ。

「アルベリクから返されたのです」
「アルベリク……。セシルが指輪をしていたね。それも、アルベリクが?」
「さあ? 誰からかは分かりませんが、セシルは想う人がいるのに、クリス様の指輪を受け取ったのです。あの子はクリス様を騙していたのですわ」
「騙す? この僕を?」
「ええ。クリス様。私はあの子とは違います。ずっとクリス様に尽くして参りますわ」
「ありがとう。リリアーヌ。君がいてくれて良かった。君はどんな僕でも受け入れてくれるんだね。今夜はずっと君と過ごしたい。……いいかな?」
「はい。もちろんですわ」

 リリアーヌは幸せだった。クリスが自分を選んでくれたのだと身をもって感じたのだから。
 
 リリアーヌを抱きしめているクリスの顔が、笑っていない事など、気付きもせずに。
 
 ◇◇

「セシル!? なんだその格好?」

 西館に戻るとアルベリクの隣を歩くセシルを見て、レクトが叫んだ。

「えっと……」
「俺の作ったメイド服は?」
「あっ。爺や様の所に、置いてきちゃった」
「えぇ!? じゃあ取りに行ってくる!」

 レクトは本館へと走って行った。
 でも、あのメイド服を着ることは、もうないかもしれない。
 レクトにはそんな事、言えないけれど。

 メアリはセシルの手を取り、無事に帰ってきたことを喜んでいる。

「セシル。とても似合っているけれど……何があったのか、お話して欲しいわ」

 セシルはアルベリクと顔を見合わせた。
 正直、自分ではどう説明したらよいか分からなかったから。

「婆や。レクトが戻ってきたら話す」
「はい。では、お茶を入れますね」

 レクトが戻ってくると、アルベリクは二人に本館での出来事を話した。

 エドワールはセシルを聖女に仕立て上げ、国王への献上を決めたこと。しかし、それはクリスがセシルを諦めるための嘘で、アルベリクと一緒に国を出ればいいとのことだった。

 セシルもやっと話の流れを理解し頷いた。
 メアリとレクトは黙ってその話を聞いていた。

 いや、レクトは時折「ん?」とか「はあ!?」とか「えっ!」とかいろいろ反応していて面白かった。そう言えば、セシルが魔法を使えることを知らないのはレクトだけだ。

「ってことは、明日でアル様とはお別れ……?」

 レクトは話を聞き終えると放心状態だった。
 それほどまでにアルベリクを慕っていたのだろう。
 セシルは意を決して尋ねてみた。

「レクトも……一緒に行く?」
「へ?」

 レクトは驚いた顔をして、アルベリクは眉間にシワを寄せて隣に座るセシルを睨んだ。

「あれれ? 違った……かな?」
「いや。俺はここに残るよ。ファビウス家に仕えるのが、ローエン家の使命だからな」

 レクトは胸を張ってそう答えると、メアリが隣で微笑んでいた。

「ふふふ。頼もしいわ。でも、アル様もセシルもいなくなるなんて、寂しいわね」
「明日の夜に屋敷を出ていく」
「では、明日の夜は美味しいお料理を作りますね」

 メアリの寂しげな笑顔に、セシルも少し寂しさを覚えた。
 でも、テーブルの下でずっと、アルベリクがセシルの手を握っていてくれたから、大丈夫だって思えた。

 きっとこの先何が起きても、大丈夫だって。



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