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第二章 王都への道
003 ボス火狼
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『ガルォォォォォッ』
火狼のボスは咆哮と共に、ヒスイに向かって炎を吐いた。リックは咄嗟に幌を閉じ、ルーシャをシュヴァルツの後ろにかくまい、叫ぶ。
「やべぇの来たぁぁぁぁぁぁ!?」
「リック君! ヒスイが外にっ」
「あっ。そうだった。この幌は防炎加工がしてあるから多分大丈夫だけど、外は……。あちっ」
リックは外へ出ようとして幌に触れ、反射的に手を引っ込めた。
「だっ大丈夫!?」
「くそっ。火傷した。……シュヴァルツ」
シュヴァルツはリックの代わりに幌をめくり上げ、外の様子がその隙間から見ることが出来た。
「あれ? ヒスイ殿。ボス火狼とおしゃべりしてる?」
「本当だわ。お話ししているみたい」
火狼とヒスイは数メートル離れたまま向かい合い、言葉を交わしているように見えた。地面には焦げた跡が残り、ヒスイの周りだけそれを免れていた。
「ヒスイ殿って、魔法使いなのか?」
「さぁ? ボス火狼さん。凄く不機嫌そうだけれど、大丈夫かしら」
「うーん。ヒスイ殿は涼しい顔してるし。今のところ、ここで様子見としましょうかね……」
◇◇◇◇
ヒスイは火狼の炎を真っ正面から受けた。
しかしこんな身体でも元は水竜である。
水を操れるヒスイにとって、火を防ぐことなど朝飯前の事だ。
ただ、ヒスイは争い事は好まない。あまりにも火狼が不機嫌そうなので、炎を打ち消すことは止めてあげた。
そんな事をしたら余計に暴れだしそうだから。
火狼は何の変化もなく目の前に立つヒスイに面食らい、興奮状態のまま大きな口を開いた。
『貴様、俺の炎を止めたな。俺の縄張りでデカい顔しやがって、どういうつもりだ!?』
「はじめまして。僕は、ただの通りすがりの水竜ですよ。空腹で激昂されているようですが、どうやら森に僕がいたことで、狩り部隊はお仕事をサボってしまったみたいですね」
『す、水竜だと!? だから皆ビビってたのか……』
ボス火狼の周りには、他の火狼は一匹もいなかった。
あれだけ遠吠えが聞こえていたのに、他の火狼達は、ここへ来る途中でヒスイの気配を感じとり、尻尾を巻いて巣穴へ逃げたのだ。
ここまで来たのは、空腹と怒りで我を失っていたボス火狼のみだった。
「縄張りを荒らしてすみません。明日の朝には抜けますから。他の火狼に伝えておいてください。そんなに怖がらなくても、僕はただ森を通っただけですから、なにもしませんって」
にこやかに謝罪する水竜を見て、火狼は思った。
この水竜は何故、人の姿をしているのだろうか、と。
それに、人間を連れているのも不思議だし、思いっきり炎を吹き付けたのにお咎めもなしとは変だ。
きっとこの水竜は何かを隠している。
火狼は牙をむき出しニヤリと卑しく微笑んだ。
『もしや貴様、禁忌を犯すつもりか?』
「何の話ですか?」
『貴様、人を喰らうつもりだろう?』
「人を……ですか?」
『ああ。今、守護竜は弱っているからな。目を盗んで喰らうのだろ? 人間を二人連れているな。黙っててやるから、俺にも一人寄越せ』
「…………」
『おいおい。そんな怖い顔するなよ。一人が嫌なら半分だけでも──』
火狼は途中で言葉を発することが出来なくなった。
理由が分からないまま、目の前が真っ暗になる。
暗く消え行く意識の中で水竜の声が微かに聞こえた。
「口を慎め。お前、この国から消されたいのか?」
火狼のボスは咆哮と共に、ヒスイに向かって炎を吐いた。リックは咄嗟に幌を閉じ、ルーシャをシュヴァルツの後ろにかくまい、叫ぶ。
「やべぇの来たぁぁぁぁぁぁ!?」
「リック君! ヒスイが外にっ」
「あっ。そうだった。この幌は防炎加工がしてあるから多分大丈夫だけど、外は……。あちっ」
リックは外へ出ようとして幌に触れ、反射的に手を引っ込めた。
「だっ大丈夫!?」
「くそっ。火傷した。……シュヴァルツ」
シュヴァルツはリックの代わりに幌をめくり上げ、外の様子がその隙間から見ることが出来た。
「あれ? ヒスイ殿。ボス火狼とおしゃべりしてる?」
「本当だわ。お話ししているみたい」
火狼とヒスイは数メートル離れたまま向かい合い、言葉を交わしているように見えた。地面には焦げた跡が残り、ヒスイの周りだけそれを免れていた。
「ヒスイ殿って、魔法使いなのか?」
「さぁ? ボス火狼さん。凄く不機嫌そうだけれど、大丈夫かしら」
「うーん。ヒスイ殿は涼しい顔してるし。今のところ、ここで様子見としましょうかね……」
◇◇◇◇
ヒスイは火狼の炎を真っ正面から受けた。
しかしこんな身体でも元は水竜である。
水を操れるヒスイにとって、火を防ぐことなど朝飯前の事だ。
ただ、ヒスイは争い事は好まない。あまりにも火狼が不機嫌そうなので、炎を打ち消すことは止めてあげた。
そんな事をしたら余計に暴れだしそうだから。
火狼は何の変化もなく目の前に立つヒスイに面食らい、興奮状態のまま大きな口を開いた。
『貴様、俺の炎を止めたな。俺の縄張りでデカい顔しやがって、どういうつもりだ!?』
「はじめまして。僕は、ただの通りすがりの水竜ですよ。空腹で激昂されているようですが、どうやら森に僕がいたことで、狩り部隊はお仕事をサボってしまったみたいですね」
『す、水竜だと!? だから皆ビビってたのか……』
ボス火狼の周りには、他の火狼は一匹もいなかった。
あれだけ遠吠えが聞こえていたのに、他の火狼達は、ここへ来る途中でヒスイの気配を感じとり、尻尾を巻いて巣穴へ逃げたのだ。
ここまで来たのは、空腹と怒りで我を失っていたボス火狼のみだった。
「縄張りを荒らしてすみません。明日の朝には抜けますから。他の火狼に伝えておいてください。そんなに怖がらなくても、僕はただ森を通っただけですから、なにもしませんって」
にこやかに謝罪する水竜を見て、火狼は思った。
この水竜は何故、人の姿をしているのだろうか、と。
それに、人間を連れているのも不思議だし、思いっきり炎を吹き付けたのにお咎めもなしとは変だ。
きっとこの水竜は何かを隠している。
火狼は牙をむき出しニヤリと卑しく微笑んだ。
『もしや貴様、禁忌を犯すつもりか?』
「何の話ですか?」
『貴様、人を喰らうつもりだろう?』
「人を……ですか?」
『ああ。今、守護竜は弱っているからな。目を盗んで喰らうのだろ? 人間を二人連れているな。黙っててやるから、俺にも一人寄越せ』
「…………」
『おいおい。そんな怖い顔するなよ。一人が嫌なら半分だけでも──』
火狼は途中で言葉を発することが出来なくなった。
理由が分からないまま、目の前が真っ暗になる。
暗く消え行く意識の中で水竜の声が微かに聞こえた。
「口を慎め。お前、この国から消されたいのか?」
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