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第三章 ブランジェさん家
012 失礼な男性
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帰りも定期便に乗せてもらい、ルーシャとヒスイは夕暮れ時にブランジェさん家まで帰って来た。
あの失礼な常連客はもう店に着いているようだ。
見知らぬ馬が一頭、店の横に繋がれている。
「あの人。ロイさんやミールさんに失礼なことを言っていないといいのだけれど」
「多分、言ってますよ。もう聞こえてきてます」
「ええっ。大変だわっ」
店に近づくと確かに怒鳴り声が聞こえてきた。
しかしルーシャが店に入ろうとすると、ヒスイはルーシャの腕を掴み足止めをした。
「どうして止めるの!?」
「ルーシャ。会話を聞いてみてください」
「会話を?」
ルーシャは窓から店内を覗き聞き耳を立てると、ロイの怒鳴り声が聞こえた。
「お前は何も分かっていない。そんなことを言うなら二度と店に顔を出すな! 帰れ!」
「あなた。それは言い過ぎよ」
「ミールは黙っていろ!」
初めて聞くロイの怒声に、ルーシャは萎縮した。
お客さん相手にここまで怒るとは、あの男性はどれだけ酷いことを言ったのかと勘繰ってしまう。
そして今度は、あの男性の声が聞こえてきた。
「ミル婆もミル婆だ。あんなガキどもにパンを売らせやがって。いつからウチのパンを味じゃなくて顔で売るようになったんだよ!」
「ルーシャさんとヒスイ君に何てことを言うんだ。あの子達は毎日汗水流して良いものを作ってくれているんだ。それに、ルーシャさんはここにお前とお見合いする為に来てくれたんだぞ!」
ウチのパン? お見合い?
店内に行き交う言葉の数々から、ルーシャは気付く。あの男性が誰なのか。
隣のヒスイに目を向けると、彼はとっくに分かっていたという顔をしていた。
「はぁ? あんな年の離れたクソガキとお見合いとか馬鹿じゃねぇの。見た目だけで中身の無いもんばっか売ってると、この店は潰れちまうよ。まぁ、その方が俺も好きな場所で生きていけるから、それもいいかもな!」
「カルロっ! お前はやっぱり店を潰す気だったんだなっ」
「不味いアップルパイなんか売ってる店。潰れちま──」
パンっという音が店内に響いた。ミールがカルロの頬を叩いたのだ。
「ロイのアップルパイは確かに不味いわ。しかも、ロイ自身はそれに気付いてなかったけれど。ルーシャさんのアップルパイは美味しいのよ。ちゃんと食べてからいいなさい!」
「はっ。どうせジジババの舌が認めた物なんか……」
その時ルーシャは我慢できずに店内に飛び込んだ。
そしてアップルパイを指差し声を張った。
「文句ばっかり言ってないで食べてください。荷物を見ていてくれたお礼です。約束しましたよね」
「ちっ……」
店の喫茶スペースで、カルロはルーシャのアップルパイを食べることになった。
見た目は合格。香りも良さそう。
辛辣な四人の視線を浴びながら、カルロはひと口、アップルパイを口に入れた。
「不味……くはない。普通だ」
「普通って……」
「金を払うほどの価値は感じない。普通だ」
そういうとカルロは立ち上がり、店の食パンを千切って口に放り込んだ。これもいつも通りウマイ。
「お前、俺と見合いする為に来たんだってな」
「ええ。そうよ」
「俺はお前みたいなガキはタイプじゃない」
「なんですって!?」
お見合いは成立しなくて良い。
ルーシャからしたら、断られるのは万々歳だ。
しかし、こんな言われようには腹が立った。
「だが、お前の作った物は悪くない。普通に食べられる。多分、毎日でも食える。だから、嫁にもらってやってもいいぞ」
「えぇっ!? わ、私は嫌です。貴方みたいに失礼極まりない人、初めてです」
「おお。いいじゃんか。俺みたいな奴が初めてなら、これから新しい発見がたくさんあって毎日楽しいぞ」
「た、楽しくなんか……」
「因みに、お前いつくだ?」
「十五ですけど」
「マジでガキかよ。でも、それならこれから成長が見込めるって事だよな」
ルーシャの平らな胸を眺め、カルロは鼻で笑う。
こんな屈辱初めてだ。
ルーシャは咄嗟にヒスイの後ろに隠れた。
しかしルーシャはヒスイの背中に触れ、気が付いた。
ヒスイが怒っている。
多分、今まで無いぐらい、怒っている。
ヒスイが拳を握りしめ、切れる寸前、別の人物の怒号が響いた。
「カルロ! ルーシャさんをそんな目で見るな! お前なんかにルーシャさんはもったいない。店から出ていけ!」
「はぁ? 俺がどんな思いで今日まで過ごしてきたか……」
「どうせ女の尻でも追っかけておったんだろ」
「んな訳あるか! 俺は俺で店を盛り立てようと思って食材探してたんだよ!」
「カルロ、そうだったの?」
「ああ。店が流行って金回りが良くなれば嫁だって来んだろ!」
結局嫁かよ。と内心ルーシャは思ったが、カルロは店を潰そうとは思っていないし、パン職人として味にこだわりを持っている人なのかもしれないとも感じた。
カルロのパンを食べたこともないのに、否定してしまったら、彼と同じになってしまう。それは嫌だ。
「私、カルロさんの作ったパン、食べてみたいです」
「おい。……食ったら惚れるぞ?」
まさかの返しにルーシャは言葉を失った。
カルロはレイスの言った言った通り、女好きなパン職人なのだと確信した。
あの失礼な常連客はもう店に着いているようだ。
見知らぬ馬が一頭、店の横に繋がれている。
「あの人。ロイさんやミールさんに失礼なことを言っていないといいのだけれど」
「多分、言ってますよ。もう聞こえてきてます」
「ええっ。大変だわっ」
店に近づくと確かに怒鳴り声が聞こえてきた。
しかしルーシャが店に入ろうとすると、ヒスイはルーシャの腕を掴み足止めをした。
「どうして止めるの!?」
「ルーシャ。会話を聞いてみてください」
「会話を?」
ルーシャは窓から店内を覗き聞き耳を立てると、ロイの怒鳴り声が聞こえた。
「お前は何も分かっていない。そんなことを言うなら二度と店に顔を出すな! 帰れ!」
「あなた。それは言い過ぎよ」
「ミールは黙っていろ!」
初めて聞くロイの怒声に、ルーシャは萎縮した。
お客さん相手にここまで怒るとは、あの男性はどれだけ酷いことを言ったのかと勘繰ってしまう。
そして今度は、あの男性の声が聞こえてきた。
「ミル婆もミル婆だ。あんなガキどもにパンを売らせやがって。いつからウチのパンを味じゃなくて顔で売るようになったんだよ!」
「ルーシャさんとヒスイ君に何てことを言うんだ。あの子達は毎日汗水流して良いものを作ってくれているんだ。それに、ルーシャさんはここにお前とお見合いする為に来てくれたんだぞ!」
ウチのパン? お見合い?
店内に行き交う言葉の数々から、ルーシャは気付く。あの男性が誰なのか。
隣のヒスイに目を向けると、彼はとっくに分かっていたという顔をしていた。
「はぁ? あんな年の離れたクソガキとお見合いとか馬鹿じゃねぇの。見た目だけで中身の無いもんばっか売ってると、この店は潰れちまうよ。まぁ、その方が俺も好きな場所で生きていけるから、それもいいかもな!」
「カルロっ! お前はやっぱり店を潰す気だったんだなっ」
「不味いアップルパイなんか売ってる店。潰れちま──」
パンっという音が店内に響いた。ミールがカルロの頬を叩いたのだ。
「ロイのアップルパイは確かに不味いわ。しかも、ロイ自身はそれに気付いてなかったけれど。ルーシャさんのアップルパイは美味しいのよ。ちゃんと食べてからいいなさい!」
「はっ。どうせジジババの舌が認めた物なんか……」
その時ルーシャは我慢できずに店内に飛び込んだ。
そしてアップルパイを指差し声を張った。
「文句ばっかり言ってないで食べてください。荷物を見ていてくれたお礼です。約束しましたよね」
「ちっ……」
店の喫茶スペースで、カルロはルーシャのアップルパイを食べることになった。
見た目は合格。香りも良さそう。
辛辣な四人の視線を浴びながら、カルロはひと口、アップルパイを口に入れた。
「不味……くはない。普通だ」
「普通って……」
「金を払うほどの価値は感じない。普通だ」
そういうとカルロは立ち上がり、店の食パンを千切って口に放り込んだ。これもいつも通りウマイ。
「お前、俺と見合いする為に来たんだってな」
「ええ。そうよ」
「俺はお前みたいなガキはタイプじゃない」
「なんですって!?」
お見合いは成立しなくて良い。
ルーシャからしたら、断られるのは万々歳だ。
しかし、こんな言われようには腹が立った。
「だが、お前の作った物は悪くない。普通に食べられる。多分、毎日でも食える。だから、嫁にもらってやってもいいぞ」
「えぇっ!? わ、私は嫌です。貴方みたいに失礼極まりない人、初めてです」
「おお。いいじゃんか。俺みたいな奴が初めてなら、これから新しい発見がたくさんあって毎日楽しいぞ」
「た、楽しくなんか……」
「因みに、お前いつくだ?」
「十五ですけど」
「マジでガキかよ。でも、それならこれから成長が見込めるって事だよな」
ルーシャの平らな胸を眺め、カルロは鼻で笑う。
こんな屈辱初めてだ。
ルーシャは咄嗟にヒスイの後ろに隠れた。
しかしルーシャはヒスイの背中に触れ、気が付いた。
ヒスイが怒っている。
多分、今まで無いぐらい、怒っている。
ヒスイが拳を握りしめ、切れる寸前、別の人物の怒号が響いた。
「カルロ! ルーシャさんをそんな目で見るな! お前なんかにルーシャさんはもったいない。店から出ていけ!」
「はぁ? 俺がどんな思いで今日まで過ごしてきたか……」
「どうせ女の尻でも追っかけておったんだろ」
「んな訳あるか! 俺は俺で店を盛り立てようと思って食材探してたんだよ!」
「カルロ、そうだったの?」
「ああ。店が流行って金回りが良くなれば嫁だって来んだろ!」
結局嫁かよ。と内心ルーシャは思ったが、カルロは店を潰そうとは思っていないし、パン職人として味にこだわりを持っている人なのかもしれないとも感じた。
カルロのパンを食べたこともないのに、否定してしまったら、彼と同じになってしまう。それは嫌だ。
「私、カルロさんの作ったパン、食べてみたいです」
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まさかの返しにルーシャは言葉を失った。
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