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026☆ラティルに潜む悪意と癒やしの力③
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私のプレゼンという名の緑茶の素晴らしさを伝える特命が終わり、今度は先ほどと反対を見て回る。
何かがオカシイと思っていたのは私だけではなく、殿下もギルバート様もそして護衛にあたっている近衛騎士達もそれは同様で。私よりもはっきりと確実に感じとってしかもそれを把握していた。
それは私より人生経験豊富というか視察慣れしているというか町や村というものをよく知っているのだ。
「彼処には何がある」
「あ、あちらには小屋がありますが物置でして……」
見た目だけなら天の御使と思しき殿下からその麗しさに反して出たのは若干低く感じる声音でそれは空気を震わす。感情が何一つのってないあの顔はまるで裁きの女神の様だ。根が庶民的な私は土下座したい気分になる……しないけど。
「……シア、余力は」
変わらない表情がデフォルトの王太子殿下がくっきりはっきりと眉根を寄せてそう私に聞いた。魔力の余力ですね、バッチコイです。
「大丈夫ですわ、殿下」
視察の間かその前後かずっとなのかそれは定かではないけど隔離しているのね。なんらかの病持ちを一カ所に集めて。
「私と「半数は私とクロレンス嬢と共に、残りは王太子殿下の護りを」
「ギル!」
「いくらアリーがいるとしても王位継承権第一位で王太子であるウィルを連れてはいけない。そしてこれはレナーンス地方視察の統括責任者として譲れない」
分かるだろう?とギルバート様の目が語っている。本来なら近衛騎士は王族の命に従うものだからこんな風に遮って言われても困るだろうな。だけど殿下を諫めるのは女房役のギルバート様しかいないんだよね。だから……あちゃー、殿下ってば苦虫を噛み潰したような顔しちゃって。こんな顔もするのね……ってこんな顔見ると年相応に見えるわ、なんて。
「……私の護りは六名もいらない半分で良い。二人と共に中に入るものは四名、他は非常時に対応可能な距離を置いて待機、私は……ここで待つ。四名の志願は?」
近衛騎士の——確か近衛第二隊——隊長さんを殿下の護りに残して、美人な副隊長さんと中堅っぽいマッチョな三人が間髪入れずに前に出た。なんて統率がとれているのかしら。
ギルバート様が"じゃあウィル行ってくるね~"なんてひらひらと手を振るから残された殿下は超嫌そうな顔してるよ。わたしの笑顔も引きつるってもんよ。
「ほんとなら……アリーがいなかったらウィルだってあそこに無謀にも突入しようなんて言い出さないからね。最近はあんなでも僕と二人の視察だったらきちんと手筈を整えるよ。なんたって完璧王太子殿下だし」
そう言っておどけてみるギルバート様だって病が怖くないわけが無い。この世界では病にかかれば高いお金を出して教会に聖魔法の癒やしの力で治癒してもらうか、効くのか効かないのかもよく分からない薬に頼るしか無い。しかも大半が苦い。非常に苦いのだ。
聖魔法の癒やしの力を使え、尚且つ魔力も王家の方々に匹敵する私がいるからこその判断だと言うことも。
そして王太子殿下もギルバート様もこんなちっぽけなそれこそ幼子の"私"を信じて下さっているという何ものにも代え難いその信頼が嬉しかった。これって友情の芽生えとかってヤツよね!もしかして極めたら物語が進んだとしても処刑回避できるかも?!
「ふふ、分かっておりますよ?癒やしの力を持つ私がいるのなら、せめて手の届く範囲のそれが小さき弱き民ならば間に合ううちに救いたいと、いくら殿下が最速で手筈を整えても幼子はその僅かなうちに儚くなってしまうもの……それに殿下が過剰に反応したのはアルフレッド様や私と年の頃が同じだから、もありますでしょう?」
「アリーは賢いね、怖いぐらいに。……(これからの事然り色々考え込んで)夜寝られなくなったらどうしてくれるのさ」
そう言えばギルバート様は安定の隠れビビりでした。他の人には見せない、王太子殿下だけが知るそれ。私も仲間に入れてもらえたのだから友情エンドあるやも知れぬ。うん。
「あら、ギルバート様ったら随分怖がりなのですね。私が本当に怖いのは…………首が落ちる瞬間も何一つ変わらないあの目「アリー、僕が死体の入った柩に閉じ込められ死者の髪の毛が全身に絡まった話をしてあげようか?」」
「遠慮しておきますわ」
「着いたか……」
近衛の皆さまが四方を固めて下さいましたので、最初に突入されるのは美人の副隊長さんとなるようです。妻帯不可な近衛にはあちらの方々が多いと小耳に挟んだ事のある腐幼女なアリシアは、不謹慎ながらも副隊長×隊長ガチムチ受け希望ですわと心の中で副隊長を拝んでおく。ピクリと肩が反応したのは邪な気を感じ取ったとか、かしら。こんな緊急時にゴメンナサイ。微塵もそう思って無いくせにチキンで日本人な私はとりあえず心の中で謝る。
どんな病が待ち受けているのか分からないけれど。きっと今世のアリシアは強いもの。
「さて、鬼がでるか蛇がでるか。いざ、アリシア参りますわ」
知っていたけれど知らなかった。いえ、知りたくなかった。
確かにこの世界では病は怖いもの。
でも本当に怖いのは病より人間だって。
私は知っていたのに……見ないふりして現実から目を逸らしていた。
何かがオカシイと思っていたのは私だけではなく、殿下もギルバート様もそして護衛にあたっている近衛騎士達もそれは同様で。私よりもはっきりと確実に感じとってしかもそれを把握していた。
それは私より人生経験豊富というか視察慣れしているというか町や村というものをよく知っているのだ。
「彼処には何がある」
「あ、あちらには小屋がありますが物置でして……」
見た目だけなら天の御使と思しき殿下からその麗しさに反して出たのは若干低く感じる声音でそれは空気を震わす。感情が何一つのってないあの顔はまるで裁きの女神の様だ。根が庶民的な私は土下座したい気分になる……しないけど。
「……シア、余力は」
変わらない表情がデフォルトの王太子殿下がくっきりはっきりと眉根を寄せてそう私に聞いた。魔力の余力ですね、バッチコイです。
「大丈夫ですわ、殿下」
視察の間かその前後かずっとなのかそれは定かではないけど隔離しているのね。なんらかの病持ちを一カ所に集めて。
「私と「半数は私とクロレンス嬢と共に、残りは王太子殿下の護りを」
「ギル!」
「いくらアリーがいるとしても王位継承権第一位で王太子であるウィルを連れてはいけない。そしてこれはレナーンス地方視察の統括責任者として譲れない」
分かるだろう?とギルバート様の目が語っている。本来なら近衛騎士は王族の命に従うものだからこんな風に遮って言われても困るだろうな。だけど殿下を諫めるのは女房役のギルバート様しかいないんだよね。だから……あちゃー、殿下ってば苦虫を噛み潰したような顔しちゃって。こんな顔もするのね……ってこんな顔見ると年相応に見えるわ、なんて。
「……私の護りは六名もいらない半分で良い。二人と共に中に入るものは四名、他は非常時に対応可能な距離を置いて待機、私は……ここで待つ。四名の志願は?」
近衛騎士の——確か近衛第二隊——隊長さんを殿下の護りに残して、美人な副隊長さんと中堅っぽいマッチョな三人が間髪入れずに前に出た。なんて統率がとれているのかしら。
ギルバート様が"じゃあウィル行ってくるね~"なんてひらひらと手を振るから残された殿下は超嫌そうな顔してるよ。わたしの笑顔も引きつるってもんよ。
「ほんとなら……アリーがいなかったらウィルだってあそこに無謀にも突入しようなんて言い出さないからね。最近はあんなでも僕と二人の視察だったらきちんと手筈を整えるよ。なんたって完璧王太子殿下だし」
そう言っておどけてみるギルバート様だって病が怖くないわけが無い。この世界では病にかかれば高いお金を出して教会に聖魔法の癒やしの力で治癒してもらうか、効くのか効かないのかもよく分からない薬に頼るしか無い。しかも大半が苦い。非常に苦いのだ。
聖魔法の癒やしの力を使え、尚且つ魔力も王家の方々に匹敵する私がいるからこその判断だと言うことも。
そして王太子殿下もギルバート様もこんなちっぽけなそれこそ幼子の"私"を信じて下さっているという何ものにも代え難いその信頼が嬉しかった。これって友情の芽生えとかってヤツよね!もしかして極めたら物語が進んだとしても処刑回避できるかも?!
「ふふ、分かっておりますよ?癒やしの力を持つ私がいるのなら、せめて手の届く範囲のそれが小さき弱き民ならば間に合ううちに救いたいと、いくら殿下が最速で手筈を整えても幼子はその僅かなうちに儚くなってしまうもの……それに殿下が過剰に反応したのはアルフレッド様や私と年の頃が同じだから、もありますでしょう?」
「アリーは賢いね、怖いぐらいに。……(これからの事然り色々考え込んで)夜寝られなくなったらどうしてくれるのさ」
そう言えばギルバート様は安定の隠れビビりでした。他の人には見せない、王太子殿下だけが知るそれ。私も仲間に入れてもらえたのだから友情エンドあるやも知れぬ。うん。
「あら、ギルバート様ったら随分怖がりなのですね。私が本当に怖いのは…………首が落ちる瞬間も何一つ変わらないあの目「アリー、僕が死体の入った柩に閉じ込められ死者の髪の毛が全身に絡まった話をしてあげようか?」」
「遠慮しておきますわ」
「着いたか……」
近衛の皆さまが四方を固めて下さいましたので、最初に突入されるのは美人の副隊長さんとなるようです。妻帯不可な近衛にはあちらの方々が多いと小耳に挟んだ事のある腐幼女なアリシアは、不謹慎ながらも副隊長×隊長ガチムチ受け希望ですわと心の中で副隊長を拝んでおく。ピクリと肩が反応したのは邪な気を感じ取ったとか、かしら。こんな緊急時にゴメンナサイ。微塵もそう思って無いくせにチキンで日本人な私はとりあえず心の中で謝る。
どんな病が待ち受けているのか分からないけれど。きっと今世のアリシアは強いもの。
「さて、鬼がでるか蛇がでるか。いざ、アリシア参りますわ」
知っていたけれど知らなかった。いえ、知りたくなかった。
確かにこの世界では病は怖いもの。
でも本当に怖いのは病より人間だって。
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