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033☆閑話 マシューくんの視察同行遠征にっき…………という名の独白②

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 レナーンス地方視察出発当日——……

 護衛といえども何も騎馬だけでの同行ではありません。殿下方が乗られる馬車の前後に一台づつの計二台は護衛わたしたちが乗る馬車となり、その周りを騎馬で護衛する者は町や村で交代します……と言うのは建前で、身体の大きな奴ほど狭っ苦しい馬車を避ける傾向があるらしく、第一隊で小柄な私とベルシュ様は馬車に押し込まれます。はっきり言ってずっと馬車はお尻が痛いから勘弁して欲しいのですが……

『ふふ、腰とお尻が痛いのですね?』

 何故か興奮気味に頬を染め嬉々として私の手をとるアリシア様。先ほどから無表情の殿下にある意味穴があきそうな視線で刺されまくっているのですが……まだ死にたくないので勘弁して下さい。

『これを使ってみて下さいませ!近衛騎士ですもの口が固いモニターをタダでゲットよっ!!!』

 高笑いが聞こえてきそうな雰囲気に顔が引きつらない様に半ば押し付けられたそれを受け取ります。
 …………これ、一体なんなんでしょうか?

『ああ、それマシューもアリシア様からもらったの?』

『ベ、ベルシュ様』

 ひょいと、音も気配もなくいきなり肩口からベルシュ様が覗き込んでくるのでビクリと身体が震えてしまいました。背があまり変わらない——若干私の方が高い——ので顔が肩にしっかりと乗っていますね。
 はぁ、…………それにしてもなんでこの方は近衛師団ここなんかにいるのでしょうか。

 ベルシュ様はれっきとした公爵家のご子息です。しかも嫡子。つまりルクソール公爵令息であるギルバート様と同列……否、陛下の姉姫が降嫁しているので殿下とは従兄弟となります。しがない伯爵家の三男と違い継ぐ家があるはず……なのに爵位は年の離れた弟君に譲られるらしく近衛師団ここにいるのですよ。ほんと謎。


 なんと、アリシア様から押し付……渡されたものは高性能なクッションでした。これなら長時間馬車に乗ってもお尻も腰も痛くないっ!!!なんて素晴らしい!!!とりあえずこの画期的なお品を座る前後に拝んでおきます。

『あはは、マシューってばクッション拝んでるの?可愛い~』

『……ベルシュ様、私は可愛くありませんし、成人して久しい男に可愛いは褒め言葉ではありません』

『そう?』

 こてりと金の髪をさらりと揺らしながら頭を傾げるベルシュ様は年上とは思えませんし可愛いと思いますけど。私は小柄かもしれませんが可愛くありません。


 そうして町や村を経由してスミナル伯爵のお城……というか砦に到着。同じ伯爵家でもこれほど違うものなのですね…………うち領地経営下手かよ。

 殿下は婚約者であるアリシア様と同室を希望されましたが、殿下が幼女趣……ゲフン、なら自分の娘をあわよくば側室にでもねじ込みたいスミナル伯爵がクロレンス公爵を引き合いに出してそれを拒否。部屋が少し離れてしまったのでアリシア様がお休みになられた後ガッチガチの結界をお部屋に展開し自分の護衛のほとんどをアリシア様にあてる徹底ぶり。



 そしてその次の日、スミナル伯爵令嬢マクガレーテ様御年おんとし八歳が殿下に熱烈アプローチなんてされるものだから、傍目にはそうとは見えないものの殿下の機嫌は相当悪いと思われる。
 熱烈アプローチに若干不機嫌な雰囲気を外に漏らし漂わせた殿下が最後通牒。

『失せろ。私はアリシア以外に興味は無い』

『そ、そんな』

 ちょっ、殿下っ!アリシア様を引き合いに出してはいけないと思います!矛先がアリシア様になってしまわれます。……完璧王太子殿下はどうやら恋愛面はかなりのポンコツらしい。
 キッとアリシア様を睨んで去って行くマクガレーテ様。
 ギルバート様は大爆笑中……止めて下さい。

『ギル』

『ウィル……くっ、ふふ、』

 絶対零度な声音にもめげずに笑い続けるギルバート様。殿下はアリシア様限定でどうやら幼女趣味では無いらしい。
 …………確かに幼女趣味なら婚姻までアリシア様の純潔を守るなどと言う真名の宣誓ちかいはしないよな。と、一人納得……というか多分近衛師団みんなはこれに気付いているよな~なんて今更な自分にちょっとへこむ。

『殿下はおモテになるのですね(幼女に)』

『シア』

 不穏な副音声が聞こえた気がするが、聞こえないふりをすると殿下の表情筋が仕事をしていらっしゃる。……これもアリシア様限定。

『うへぇ、な、何をなさいますのっ!』

『有象無象に言い寄られ可哀想な私を婚約者に慰めて貰おうかと』

 楽しそうだったアリシア様は一転、殿下に捕獲……じゃなくて抱えられ喚き始めた。

『私は俵じゃないー!横に抱えないでーっ!!!』

『たわら?シアはよく分からない事ばかり言うね。面白い』

『おもしろく無いから離して~!』

『見ていて飽きないし興味深い』

 うん、見ないふり見ないふり。平常心、平常心。
そう思っていたら殿下に抱えられたアリシア様がこちらを見た。…………それはもう穴があくほどに。何でしょうか?何か御用でしょうか?殿下から助けるとかは無理ですからね。

『あっ、お茶の準備が出来たらしいからウィルを呼びに来たんだった。アリーのその服整えなきゃいけないから降ろしてあげて。せっかく綺麗にしてウィル呼びに来たのにね~』

 ギルバート様の鶴の一声でアリシア様は漸く降ろされ、乱れたリボンやらレースを整えられた。そして爆弾発言を始める。

『……私……将来、殿下が陛下になった頃って好みじゃないというか大きいしガッチリしてるし苦手なんだよね。許容範囲はお父様くらいだし』

『へぇ、アリーその話後で聞かせてね』

『?ギルバート様はうちのお父様とルクソールのおじ様を足して割ったような体型の宰相補佐でしたよ。ギルバート様の背は殿下の方が頭一つ分くらい高かったかな……私なんてお母様より少し大きいくらいしか育たないからその頃の殿下と私を比べたら大人と子供みたいだし』

『僕ウィルより小さいのっ?!』

『栄養バランスの良い食事と睡眠、あとは適度な運動で育ちますよ。私も頑張ろうかな……』

『それ、後で詳しく!!!』

 ギルバート様とガッチリと握手するアリシア様…………将来?未来?えっ、え゙っ?!
 今、なにやら聞いてはいけない事を聞いた気がしますが、とりあえず私は壁です、壁。



『あっ、見聞きした事は忘れた方が良いよ。…………まぁ今回許可が出たって事にして囲ってしまうんだけどね~』

『???』

 近衛ですし守秘義務があるので前半は分かるのですが、ベルシュ様は後半よく分からない事を仰っていた。












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