僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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遥香と秘境の吊り橋物語

16話

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「すみません、チェックアウトで。」
「かしこまりました。それでは行ってらっしゃいませ。」

身支度を整えて、遂に私たちは出発する。
時刻は10時、空は青く澄みわたり昨日は気が付かなかった紅葉が見えてくる。

この秘境にも明確に秋が来た事を肌で感じていた。

「……あの……遥香さん?峠道ですけど大丈夫ですか?」
「うん!昨日で慣れたから大丈夫!」

全員をCX5に乗せて遂に寸又峡を私たちが離れる。
車の中に音楽が流れる。

最初に流れた曲はCreepyNutsの「のびしろ」だった。

「へー!遥香さんもラップの曲聴くんですね!私も好きですよ、このアーティスト!」
「あら彩奈ちゃんも分かるんだ!」

私は最近この曲が好きだ。
サボり方とか逃げ方みたいなネガティブなワードを柔らかい頭とか、それも経験でのびしろしかないと背中を押してくれるようだった。

私だってAV女優をしてたけど、それも大切な経験だったし、みんなと知り合えたこと、この道で挫折したことも全てがのびしろだと考えると、この狭い道のりも心地よく感じた。

時折見える断崖絶壁は紅葉のパノラマをみせる最高の展望台に見えたし、奈落には美しい川が広がっていたし、世界は厳しい自然と美しい自然が共存してると昨日とは全く違うものに見える。

「すごい、昨日あんなに苦労した道が……。」
「へへ、母ちゃん……のびしろしかないわ!」
「うるせえよ、でも……今日は任せたぜ母ちゃん。」
「直輝こそ、ナビ頼むわよ!」

対向車も怖かったけど、遠目で分かれば路肩に止めて譲ればいい。私はあっさりと昨日の峠道を抜けて昨日の道の続きを進むことにした。

さて、ここからが本番である。
道は少しずつ険しくなる。
落石も目立ち、道はボロボロしてきて道も狭くなる。
でも、車通りは少ないし私は妙にリラックスをしていた。

「あ、遥香さん!もう少ししたら井川大橋ってとこ行きませんか?」
「井川大橋?聖地なの?」
「はい!あ、でも今朝みたいなしんどい橋じゃないので!すぐ寄れますよ!」
「いいじゃない!直輝、ナビよろしく!」
「あいよ!」

私たちは井川大橋に舵を切る。
道は多少は険しいものの、まだまだ進めた。

紅葉に井川湖というグリーンのダム湖がみえてきて、これはこれで変化を感じて飽きることを知らなかった。

「そういえばことねさん、静かね。」
「ああ、寝てますよ。」
「寝てる!?」

確かに二日酔いとは聞いていたけど……それほど夜更かししすぎたのだろうか。
私も若干昨日の記憶が曖昧だ。

「もう、ほんと……大変だったんですよ。売店でもビールを飲んだりしだして、急に説教上戸になったり、通行人のおじさんたちに絡みだしたりで……。」
「あんなことねさん、初めて見たわ。彼女あんまり飲ませちゃダメです!」
「……私が寝てる間に何が。」

どうやら、それはまたのお話のようだった。

さて、車で進むこと20分程したら崖から大きな吊り橋がかかってるのがすぐに分かった。

「母ちゃん、あれで間違いないみたい。」
「おっけー!」

私たちは駐車場で車を停めて井川大橋を目指す。
ちなみにことねさんは置いてきた。
めちゃくちゃ爆睡してたから。

井川大橋はいわゆるワイヤーや金属で作られた比較的新しい橋だった。
というか、この二日間で渡った橋で1番頑丈と言っても過言では無い。

隣ではツーリングに来た男女がバイクを橋の真ん中に停めて写真を撮っていた。

「バイク走ってもいいんだね!この橋。」
「というか、普通車でも行けるみたいだよ。」
「いや、出来そうだけどちょっと怖いわ。」

ぼんやりと景色を見る。
先程の井川湖が下に広がる。

周りには紅葉が山を彩り緑、黄色、赤と様々な色があり天然の信号機のようにカラフルであった。
橋は頑丈で恐怖感はなく、少し強めに吹く風が冷たくも心地よく頭をスッキリさせてくれる。

湖と、木々の匂い……それらが風に運ばれて険道を走る疲れが癒される気がした。
さらに面白いことに、紅葉の山々の頂点は白く雪がかかっている。
位置から推測するに、あれは長野県や山梨県を分ける南アルプスである。

標高が桁違いに高く、晴天の青と紅葉に白のアクセントを加えて秋の山の美しさをさらに強めて行った。
一度に四季を感じられて、なんと贅沢なところなのだろう。

「みんな!写真撮りますよ!」

彩奈ちゃんが自撮り棒を用意して私たちにカメラを向ける。
私たちは各々で表情やポーズをして、この景色の一部を切り取る。

また、私たちの旅の1ページが1枚作られたような気がした。

「ことねさんも撮ってあげれば良かったかな。」
「大丈夫ですよ!写真の右上に丸い枠つくってそこにことねさんの写真貼り付けますから!」
「いや、それは修学旅行の欠席者みたいで可哀想だからやめてあげなよ。」

「うわあああ!」

修学旅行の欠席という単語で突然直輝が苦しみだした。
ああ……しまった。

「え、どうしたの?直輝くん…。」
「この子小中で修学旅行欠席してて、それトラウマなのよ……。」
「ごめん!直輝くん!やめとく、やめとくから!」

本人に悪気は無いのはわかるけど、直輝も意外と遂この間までは弱かったので地雷が多いのである。
直輝も乗り越えてくれればいいんだけどな……。

「……すまん、取り乱した。」
「ほんとごめん……。」
「でも、俺高校の修学旅行は……行くよ。」

そんな直輝からは前向きな言葉が出てきた。
学校の1番の嫌な思い出のはずなのに、彼は向き合っていた。

「だって、みんなが居るし……もうあの頃の俺じゃないからさ、人生最後の修学旅行くらい、楽しみたいし。」

いかん、ちょっと目尻が熱くなった。
直輝は昔は虐められたり、孤立をして私もあの頃は忙しくて向き合う事ができず、見て見ぬふりをしていた罪悪感もあったけど、それを乗り越えようとしてるのだ。

子どもって知らないうちに大きくなるもんだと……私の心は既に色んなものでいっぱいだった。
なによりも、子どもがのびしろで溢れてることが何より誇らしかった。

涙をこらえ、私は大きく伸びをする。

「さて!行きますか!最後の……畑薙湖まで!」

私たちは、また旅を通してひとつ成長できた。
知らないところだと、息子も私も……みんなさえ成長させてくれるのだ。

風が強く吹き荒れ、肌を冷やし髪をなびかせて行先に進んでまるで追い風のようだった。

私たちは静岡県の北部を目指す。
地図では分からない、歩いてるからこそわかる山奥の最果ての地へと進んでいく。

さて、どんな世界が待っているのだろう。
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