僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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松本みなみの婚活日記

16話

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列車は普段よりも少し早くどんどんと駅を通過していく。
私は小田急線はせいぜい町田くらいまでしか行ってなかったのだけど、相模大野を通過する頃には神奈川県でも広大な田園が目立つようになって同じ列車なのに見ている景色が少しずつ変わってるように見えた。


吉良さんは、さっきまで取引先とやり取りをしていた様子だったのだが、一通り終えるとカバンの中から何かを差し出した。

「松本さん、これ……よかったら。」

温かい缶コーヒーだった。
しかも私がいつも学校の屋上で飲んでるやつ。
味も微糖だったので、とても良いチョイスだと言えるだろう。

でも、妙に私の心を見透かされてるようで内心穏やかではなかった。

「ありがとうございます。」

お礼を言って私は退屈な田園風景を見ながらコーヒーを飲む。
今日は全国みぞれや雪の予報なので山を見ると曇っている。
山肌が少しだけ白みを帯びていて雪が降ってしまいそうでもあった。

電車の中は温かいけど、妙に暖房で不安定に温められたので背中は汗ばんでるのに手足が妙に冷たい。
そんな不調をコーヒーが温めてくれている。

「お口にあいました……?」

少しだけ、吉良さんが不安そうな顔をする。
まるで、初めてお手をして合ってるか分からない犬のようで妙にきゅんとしてしまう。
普段なら突き放すけど、今はそれではないと感じてしまった。

「100点です。普段これしか飲まないので!」
「そうなんですね!」

すると、吉良さんは小さなメモ用紙にペンで紙に松本さんは微糖が好きと書いてあった。

「ちょっと!?なにやってるんですか!」
「え……あ、すみません。僕覚えるのが苦手で、仕事でも取引先の要望とかメモするようにしてるんですよ。」

変わってるとおもったけどどうやら習慣でやってるみたいだ。
でも、なんだろう。
私の事をメモしてくれるのは妙に満たされてる感じもする。
この人、いつも一生懸命なだけなんだよな。

「私のメモどれくらい貯めてるんですか?」
「え!?いや……ちょっとみせられないですよ!」
「えー?見せてくださいよ!」

私は強引に彼のメモ帳を見ると、こと細かく私の事が書いてあった。

社会科教諭で生徒に地理子とニックネームをつけられてること。
生徒会顧問をしていて、業務量に不満を感じてる事。
好きな物はカレーとビールであること。
酔っ払ったのか、私の発言を事細かにメモをしていた。

あまりの一生懸命さにちょっと笑ってしまった。

「あはは、ちょっと……どんだけ書いてるんですか。」
「すみません……。」
「じゃあ今度宿題ですね、今日の私の可愛さについてレポートを書いてみてくださいよ。」
「そ、それくらいなら50万文字の論文として提出を……!」
「それは恥ずかしいのでやめてください。」

冗談……には思えないけど、そんなもの渡されたら逆に恥ずかしさと申し訳なさで死にたくなる。
50万文字って、それだけで本が出来ちゃうじゃないの。

そんな事を話していたら、ついに小田原へと到着する。
駅は驚く程広く綺麗でデパートが併設してあった。
小田原ってもう少しレトロな雰囲気あったけど、外装は綺麗だし清掃だって行き届いている。

それにお店だって沢山あって内心ワクワクが止まらなかった。

そして、私は空腹であることに気がつく。
恐らく電車に乗ってから2時間ほど経ったのだろうか、妙に腹ぺこだった。
こういう時は山盛りのご飯とか食べたい。
というか、小田原に来たんだし海鮮が食べたいなんて思うと吉良さんはニコニコしていた。

「さて!海鮮丼たべましょうか!ガッツリしたやつ!!」

この人、つくづくエスパーなんだろうか。
スパイなファミリーのピンク髪のピーナッツが好きな娘を彷彿とさせる。
多分メモ帳にガッツリ系と寿司などの海鮮が好きとも書いてあるからそこからプロファイルしてる可能性が高いんだけどね。

「え……ええ、飛びっきりのやつお願いしますよ。」
「もちろん!」

私たちは小田原から数駅列車に乗り早川という駅へと到着する。
少しだけ歩くと漁港と道の駅が併設している所へと到着した。

漁港のすぐ隣は堤防となっており、今日は少し高波もあって水しぶきがほんのりと霧のようになっている。

施設に入ると1階はお土産屋さんで2階は食堂になっていた。かなりの人気店なのか食堂にはたくさんの人が並んでいる。

「おお……なんか、おいしそうですね。」
「そうなんですよ!たまにここ食べに行くんですよね!取引先と飯に連れて行ってもらってからは行きつけなんですよ!」

グルメのためにわざわざ小田原か。
フリーランスだし、こんなにも移動するのはほんとすごいと思う。
社畜の私は同じ校舎で同じ作業をしてると言うのに。

そして、私たちは15分ほど並ぶと食券の前に立ち食べ物を選ぶことにした。

「……なににしようかしら。」

基本的には丼がメインだった。
サーモンいくら丼とか、アジしらす丼とか様々な組み合わせがある。
でも、どれを選べば良いか想像もつかなかった。

「僕は頂上丼にしようかな!」
「頂上丼?」

みると、名物として書いてあった。
山のようにマグロやサーモンなどの刺身がのっていて、いくらが散りばめられたものだった。

やばい!腹減りすぎてこんなのを求めていたからより空腹を感じる!

「これ!これにします!」
「ははっ、いいですね。」

私たちはおそろいで頂上丼を頼み、二人で先程の高波が見れるテラス席へと座る。
先程の山岳地帯とは打って変わってここは比較的温暖な場所だったので陽だまりが妙に心地よかった。

しばらくして、私たちは出来上がった丼を受け取りテーブルに座る。

丼の佇まいに私は戦慄する。
高さだけで定規といい勝負の丼がいくつもの刺身を乗せて山のように盛られている。
上にはいくらが散りばめられていて、ごまも着いている。仕上げに細い万能ねぎも乗っていて、私の空腹をこれでもかと満たしてくれそうだった。

私は醤油を付けて食べると、その美味さに絶句してしまった。
魚の切り身一つ一つが脂が乗っていて美味い。
山を食べても食べても米が見えてこないでまるで魚のビュッフェが丼に集約されるようなボリュームだった。

吉良さんもとても幸せそうな顔をしている。

「これ!最高に美味いですね!」
「良かった、僕のイチオシを気に入ってくれて。」

しかし、それだけではなかった。
流石に刺身ばかり食べると飽きてくるのだが、そこにさらに仕掛けが用意されていた。

魚の出汁が用意されていて、それは少しとろみがあってほんのりと熱い。
これを丼に入れると……少しだけ魚の表面が白身を帯びて出汁茶漬けへと変貌する。
とろみのある出汁が魚とマリアージュしていて、魚を噛むと旨みが湧いてくる。

私は生まれてこの方26年、少しだけ歳をとって食欲が治まったように感じたけど、それを吹き飛ばすようにペロリと平らげてしまった。

「……ふぅ。」
「美味しかったですね。」
「とても、美味しかったです。」

もう、26の女とは思えないほどガツガツ食べてしまった。
なんだろう、意味でのデートとは違う……手探りもなく自分を出せてる感覚が妙に心地よい。
というか、ぶっちゃけ楽しい。

ふと私の顔が緩んで笑顔になりかけるけど、少しだけキリッと表情をとどめる。

「……吉良さんってちょっと面白い方なんですね。」
「ん?それ、褒めてますか?」
「ええ、まあ……。」

顔はタイプじゃないといつも思ってたけど、イメチェンしてどタイプへと変貌してしまったので、この男を否定する理由はもうどこにもいなくなっていた。
それでいて、この人は私を受け入れて大切にしてくれている。

「僕も、松本さんと居るの楽しいです。こんな気持ち……はじめてです。」

あどけない表情の不器用な吉良さんの笑顔に妙に体が熱くなった。
ほんと、ストレートで良い奴なんだと心から思う。

「そろそろ、でますか。」
「そうですね、客足もどんどん増えてますし。」

もう少し座って話したかったけど、座れずに右往左往してる人もいたので速やかに私たちは席を離れる。
本当に美味しいところだった、また来よう。

私たちは道の駅を出ては少し海辺を散歩して、波音を静かに聞いていた。

「なんか、不思議な気分ですね。」

私がそう言うと、吉良さんは意味を理解しきれてないのか疑問顔だった。

「どうかしました?」

そう、この男との出会いは本当に突然だった。

「だって、私たちが知り合ったのはあのバーですもん。
酔っ払って介抱して、今こうして見る景色の綺麗さを分ちあうとは……到底思えないですもん。」
「あはは、その節は本当にお世話になりました。」
「全くですよ。」

ぶっちゃけ、私たちの出会いはめちゃくちゃだった。
知らない男を家に泊めては、次の日仕事なのに夜の2時まで夜更かしをして寝不足で……気分は最悪だったのに、今はこの男と最高の気分を分かちあっている。

私が最初に行った不思議な気分というのを、ゆっくりと彩るように理由つけして私の心を自分でゆっくりと理解していった。


「吉良さん、次は……どこ行きます?」

私がそう言うと、吉良さんは心から嬉しそうにしていてこのデートを頑張ろうとする雰囲気が手に取るようにわかった。

そんな私たちを祝福するように海岸の波音は優しく音を奏でる。
まだ序章なのに、私はこんなにも満たされている。
だからこそ、まだ少し試してみたいと好奇心が私の心を動かしていた。
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