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直輝と別れと小さな夢
3話
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ある海辺の小さな病棟で俺は走っていた。
気持ちはとにかく穏やかじゃない、焦りと絶望が頭を支配して焦燥感に駆られる。
やがて目的の部屋に着くと、そこには母ちゃん……いや、母ちゃんだったものが目を閉じて動かない。
寝てるのとは違う、硬直のような気味の悪い時が止まったような姿だった。
頬は痩せこけ、あの金髪もやや抜けている。
そう、母ちゃんがもうここにはいなかったのだ。
俺はその場で崩れ、全身を蝕む後悔に近い感覚が体を無気力にさせたあと、受け入れられない現実で大きな声を腹の奥から上げてしまう。
俺は、何も出来なかった。
☆☆
「……きー!直輝ー!」
「うわぁあ!!?」
俺は見慣れた天井で声を上げてしまう。
声の方を見ると、先程無気力でただのたんぱく質へと成れ果ていたはずの母ちゃんが起こしに来ていた。
「もうー!どうしたの!そんなお化け見るような顔をして!!」
「……生きてる。」
「ちょっと!たしかに昨日ガンとは伝えたけど流石に明日死ぬことは無いわよ!」
母ちゃんはいつも通りの明るさに戻っていてプンスカと言わんばかりに怒っている。
なんて縁起でもねえ夢を見たんだ。
どこか生気に溢れた無敵に見える母ちゃんを見て安堵する。
「……すまん、嫌な夢見た。母ちゃんは……もう平気なのか?」
「うーん、怖いけど……話したら楽になった!」
いやポジティブすぎるだろ。
やっぱメンタル鋼だわこの母ちゃん。
「それに、まだまだ私は死ねないからね!やりたいこと沢山あるし、こんなに可愛い息子を置いて死んでたまるもんですか!手術は死ぬためじゃなくて……これからも毎日を生きるための試練なんだから、望むところよ!」
「なんだよ、それ!」
少し笑ってしまった。
でも、こんな母ちゃんともいつかは今生の別れが来てしまう。
今回はいい機会だった。
残りの母ちゃんとの時間とか、後悔のないようにとか、いつか母ちゃんが困ったら助けられる存在になりたいとか……色々気付かされた。
「手術のあと寂しがるなよー。」
「えへへ、大丈夫よ。あ、お土産のちんすこう楽しみにしてるから。」
そう言って、母ちゃんはいつも通りの日常を過ごしてくれるおかげで俺も当たり前の日常を過ごす。
今日の朝ごはんは奮発したのかフレンチトーストだった。
ホイップバターを添えてあって、グラニュー糖が溶けているのかフレンチトーストの裏面がパリパリと飴に近い食感がする。
そこにベリーソースを添えてあって朝から気合入ってるなと感心してしまった。
「それにしても、こうして見ると本当に父さんそっくり……!」
「何よ、急に。」
俺の父は、とうに亡くなっている。
母に人生を託して、津波に飲まれ海の藻屑となっているとの事だった。
どんな顔をしていたのかすらも、俺は知らなかった。
「どんな人だったの?」
「名前は直人って人だった!不思議な人でね~、いつも勉強が出来てて、未来を見据えてるのか遠くを見ているような目をしてたな。」
「いや、すげー変わった人だな。」
「うん!変だった……でも、好きだった!」
母ちゃんは男を作ったり、再婚したりしないのは今も心のどこかでその人が生きているからなのかもしれない。
それって母ちゃんなりの覚悟のあり方だし、やっぱり母ちゃんは凄い。
じゃあ、俺も覚悟を見せなきゃ行けない。
「んじゃあ、行ってくるな。」
「うん!」
「俺……修学旅行、楽しむよ。」
「……うん、母ちゃんの好きだったところだし、楽しんできてね!」
「おう。」
俺は玄関を出て、いつもの学校へと出発する。
なんか、いつもよりも日常がありがたいなと言う思いを心に抱いて、いつもより強めの1歩をふむ。
太陽は寒さを温める晴天で、空はどこまでも青く美しい。
風は今日は凪いでいて、向かい風ひとつない。
俺の日常って、案外奇跡だらけなんだなと思って俺は2歩3歩と前に進んだ。
☆☆
「そうか、遥香さんがな……。」
「でも、とにかく今は治療に専念しようと思うんだ。」
「それがいい。」
こいつは、悪友の飯田蓮。
よく家に遊びに来てくれるコイツにだけは、我が家の状況を伝えることにした。
俺も……どうにも今の状況を胸の内にしまうにはどうにも若すぎた。
ザワつくし、妙に不安がチラつく。
本当に手術の時に一緒に居てやれなくていいのか?
もし医療ミスとかあって、あの悪夢が現実にならないかとか……そんなことが歩く度に頭の中を大往生していた。
「……怖いよな、親が死ぬって。」
「飯田……。」
「でも、俺も修学旅行行ってあげた方がいいと思う。俺もさ、ピンピンだった親父がくも膜下出血で亡くなったから気持ちは少しは分かるぞ。」
「いや、流石にそこまで重くは無いぞ。」
「おいいい!?せっかく人が慰めてるのに!!」
「すまんすまん……でもありがとう。」
そういえばこいつも親父さんが若くして亡くなって、母親とも決別している。
ある意味、人生ハードモードなやつだった。
でも、それをバネに友達をつくったり、彼なりに努力して生徒会長候補になるほどなのだ。
こんなに尊敬できる友人はそうそういない。
「子はいつか親を看取るもんだ。その時に、強くなった自分でいた方が親は幸せだと思う。大丈夫だ、お前はまだまだ強くなれる。」
「飯田、すまん……ありがとう。」
「おうよ!楽しもーぜ!修学旅行!!」
俺と飯田は静かにグータッチを交わす。
学校の屋上は地上よりも遥かに冷えてもう20分とこの場にいるのはキツいと感じる程の極寒だった。
でも、今はどこか暖かい。
それは、体感ではなく……友情による温かさだと気がつくのには少し時間がかかった。
修学旅行まで、あと4日。
母ちゃんはその日、手術を受けることとなる。
気持ちはとにかく穏やかじゃない、焦りと絶望が頭を支配して焦燥感に駆られる。
やがて目的の部屋に着くと、そこには母ちゃん……いや、母ちゃんだったものが目を閉じて動かない。
寝てるのとは違う、硬直のような気味の悪い時が止まったような姿だった。
頬は痩せこけ、あの金髪もやや抜けている。
そう、母ちゃんがもうここにはいなかったのだ。
俺はその場で崩れ、全身を蝕む後悔に近い感覚が体を無気力にさせたあと、受け入れられない現実で大きな声を腹の奥から上げてしまう。
俺は、何も出来なかった。
☆☆
「……きー!直輝ー!」
「うわぁあ!!?」
俺は見慣れた天井で声を上げてしまう。
声の方を見ると、先程無気力でただのたんぱく質へと成れ果ていたはずの母ちゃんが起こしに来ていた。
「もうー!どうしたの!そんなお化け見るような顔をして!!」
「……生きてる。」
「ちょっと!たしかに昨日ガンとは伝えたけど流石に明日死ぬことは無いわよ!」
母ちゃんはいつも通りの明るさに戻っていてプンスカと言わんばかりに怒っている。
なんて縁起でもねえ夢を見たんだ。
どこか生気に溢れた無敵に見える母ちゃんを見て安堵する。
「……すまん、嫌な夢見た。母ちゃんは……もう平気なのか?」
「うーん、怖いけど……話したら楽になった!」
いやポジティブすぎるだろ。
やっぱメンタル鋼だわこの母ちゃん。
「それに、まだまだ私は死ねないからね!やりたいこと沢山あるし、こんなに可愛い息子を置いて死んでたまるもんですか!手術は死ぬためじゃなくて……これからも毎日を生きるための試練なんだから、望むところよ!」
「なんだよ、それ!」
少し笑ってしまった。
でも、こんな母ちゃんともいつかは今生の別れが来てしまう。
今回はいい機会だった。
残りの母ちゃんとの時間とか、後悔のないようにとか、いつか母ちゃんが困ったら助けられる存在になりたいとか……色々気付かされた。
「手術のあと寂しがるなよー。」
「えへへ、大丈夫よ。あ、お土産のちんすこう楽しみにしてるから。」
そう言って、母ちゃんはいつも通りの日常を過ごしてくれるおかげで俺も当たり前の日常を過ごす。
今日の朝ごはんは奮発したのかフレンチトーストだった。
ホイップバターを添えてあって、グラニュー糖が溶けているのかフレンチトーストの裏面がパリパリと飴に近い食感がする。
そこにベリーソースを添えてあって朝から気合入ってるなと感心してしまった。
「それにしても、こうして見ると本当に父さんそっくり……!」
「何よ、急に。」
俺の父は、とうに亡くなっている。
母に人生を託して、津波に飲まれ海の藻屑となっているとの事だった。
どんな顔をしていたのかすらも、俺は知らなかった。
「どんな人だったの?」
「名前は直人って人だった!不思議な人でね~、いつも勉強が出来てて、未来を見据えてるのか遠くを見ているような目をしてたな。」
「いや、すげー変わった人だな。」
「うん!変だった……でも、好きだった!」
母ちゃんは男を作ったり、再婚したりしないのは今も心のどこかでその人が生きているからなのかもしれない。
それって母ちゃんなりの覚悟のあり方だし、やっぱり母ちゃんは凄い。
じゃあ、俺も覚悟を見せなきゃ行けない。
「んじゃあ、行ってくるな。」
「うん!」
「俺……修学旅行、楽しむよ。」
「……うん、母ちゃんの好きだったところだし、楽しんできてね!」
「おう。」
俺は玄関を出て、いつもの学校へと出発する。
なんか、いつもよりも日常がありがたいなと言う思いを心に抱いて、いつもより強めの1歩をふむ。
太陽は寒さを温める晴天で、空はどこまでも青く美しい。
風は今日は凪いでいて、向かい風ひとつない。
俺の日常って、案外奇跡だらけなんだなと思って俺は2歩3歩と前に進んだ。
☆☆
「そうか、遥香さんがな……。」
「でも、とにかく今は治療に専念しようと思うんだ。」
「それがいい。」
こいつは、悪友の飯田蓮。
よく家に遊びに来てくれるコイツにだけは、我が家の状況を伝えることにした。
俺も……どうにも今の状況を胸の内にしまうにはどうにも若すぎた。
ザワつくし、妙に不安がチラつく。
本当に手術の時に一緒に居てやれなくていいのか?
もし医療ミスとかあって、あの悪夢が現実にならないかとか……そんなことが歩く度に頭の中を大往生していた。
「……怖いよな、親が死ぬって。」
「飯田……。」
「でも、俺も修学旅行行ってあげた方がいいと思う。俺もさ、ピンピンだった親父がくも膜下出血で亡くなったから気持ちは少しは分かるぞ。」
「いや、流石にそこまで重くは無いぞ。」
「おいいい!?せっかく人が慰めてるのに!!」
「すまんすまん……でもありがとう。」
そういえばこいつも親父さんが若くして亡くなって、母親とも決別している。
ある意味、人生ハードモードなやつだった。
でも、それをバネに友達をつくったり、彼なりに努力して生徒会長候補になるほどなのだ。
こんなに尊敬できる友人はそうそういない。
「子はいつか親を看取るもんだ。その時に、強くなった自分でいた方が親は幸せだと思う。大丈夫だ、お前はまだまだ強くなれる。」
「飯田、すまん……ありがとう。」
「おうよ!楽しもーぜ!修学旅行!!」
俺と飯田は静かにグータッチを交わす。
学校の屋上は地上よりも遥かに冷えてもう20分とこの場にいるのはキツいと感じる程の極寒だった。
でも、今はどこか暖かい。
それは、体感ではなく……友情による温かさだと気がつくのには少し時間がかかった。
修学旅行まで、あと4日。
母ちゃんはその日、手術を受けることとなる。
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