僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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完璧弟と白衣の姉と

6話

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私たちは内宮を歩いていった。
様々な建築を見てはゆっくりと話すことを繰り返すばかりだった。

たまに凛が歴史の背景などを語り、それをボーっと聞くばかりでどこか上の空だった。

なぜ上の空か少し考えたけど、答えはひとつだった。

「……凛、お腹すいた。」
「確かに!そろそろ飯にする?」
「……うん、肉食べたい。」
「あはは!姉ちゃんはしょうがないな~。何食べたい?すき焼き?ステーキ?」
「……すき焼き。」
「了解!いくつかピックアップはしてたから予約しとくね!」

そう言って凛はタクシーを呼びつつ、すき焼きが食べれるお店へと進んでいく。
タクシーの中でも彼はバリバリと仕事をこなし、まさに生産性の鬼と言わんばかりの行動力を発揮していた。

そんな時、彼が突然電話がかかり少し憂鬱そうな顔をしていた。

「げ……。」
「……どうした?」
「上司からだ。」
「……出ていいよ。」
「んー、ちょっといいかな。」

上司から10コール以上の電話があるのだが、明らかに嫌そうな顔をしていた。
凛はまだ若いのもあって悩み事とかあるのかな?

「……上司苦手?」
「ああ、なんかね……怖い。」

凛の様子をみると明らかに少し怯えてるようでもあった。なんというか、瞳孔が小さくなりその話題をするのも嫌そうだった。

しばらくして、凛は社内チャットで連絡するのだけど、また電話がかかってくる。
どうやら少し自分勝手な性格をしてるようでもあった。

やがて、すき焼きのお店の前に到着すると凛はお会計を済ませて大きなため息を着いた。

「……大丈夫?」
「うん、なんとか……。とりあえずランチの後に折り返す旨を伝えたよ。」
「とりあえず、食べるか。」
「そうだね!」

私たちはお店に入る。
その店は畳が一面に敷き詰められてあって、個室がある。
それだけでも敷居が高いというのに凛はそこは金銭的に余裕があるのか涼しい顔をしていた。

しばらくすると中居さんみたいな和服の女性が私たちの前で牛脂を鍋に乗せて脂を馴染ませてから、牛肉を焼き始める。
牛肉特有の餌くささは無く、しっかりと肉の香りが広がる。

その後にタレを入れて、春菊や焼き豆腐、しらたきやネギを加えて煮込んでいた。

「ここからこの砂時計が落ちてからお召し上がりください!」
「「はーい。」」

そして、女性は礼儀正しくお辞儀をしてから私たち二人の空間ができる。
すると、少し顔色の悪い凛はゆっくりと自身の気持ちを伝えた。

「あのさ、今の上司……女性なんだけど。」
「……うん。」
「なんというか、いい人なんだよ?すごくね?だけど……。」

少し凛が躊躇うと息を飲み込む。
あの社交的な凛がこんな状態になるのだからよっぽどなのだろう。

「すごく……2人きりになろうとするんだよね。急に2人っきりでバーに行こうとかさ、この前も他の人騙して2人っきりで会議になったことあったりしたし。」
「……おおふ。」

どうやら、彼は女上司に狙われてるようだった。
しかも他の人を騙すあたりやり方が結構えぐい。

「他にもさ!こうやってことある毎に不必要な確認もとろうとするんだよ!あー!もうやってられない!」

すると、凛は少し口調が荒くなりながらすき焼きを食べる。
私もそれに合わせてすき焼きを食べるのだが、想像以上のうまさだった。
関西風は初めてだったけど、最初にしっかりと焼いたことで肉の旨みがきちんと肉に凝縮していて、春菊が香りを整えてくれている。

私は話を聞きながらほんわかと幸せを感じるのだけど、凛はそれに加えてビールを頼んでゴクゴクと飲んでいた。
どうやら、凛としては話を聴いてもらうことの方が大切だった。

「……凛的にはその人は恋愛対象とかは。」
「無いよ!相手37歳だから15歳も離れてるんだよ!?親にしか見えないから怖いんだよ!!それなのに……時々体触ってきたりさ……もう……怖くて怖くて。」

凛にもそんな感情があったのかとそっちの方が驚きだった。
どうやら凛は私に対しては懐ききった犬のようだけど、他の人に対しては距離を置くようだった。
でも、それを悟らせないように上手に笑顔を振りまいてるから、それも要因だったのかもしれない。

「ああ!もう……てか、すき焼き美味すぎるな!さすがA5の和牛だ!」

怒ってるのか美味さに浸ってるのかよく分からないけど、少しずつ食欲が出てきた。
私も無我夢中ですき焼きを食べている。

「そうだ!姉ちゃん!今度彼女役やってくれないか?」
「……え。」

凛は真剣な顔をしていた。
彼のシスコンぶりにはいつも驚かされるのだが無機質な私にとっては最早リアクションを取るほどでもなかった。
確かに良い案なのかもしれない。
その女性は一目見たら凛を諦めるだろう。
でも、それって解決してるかと言われたら少し違う気がする。

「……ごめん、それは出来ない。」
「そ……そんなぁ!」
「……凛、安易な嘘は相手を傷つけるし、その上司とはずっと居なきゃ行けない時もある。そんな時に嘘が入ると苦しいのは凛だよ。」

可哀想だけど、そこで彼を甘やかすのも妙に違うと思った。
凛の未来は明るい。
彼の輝かしい未来にこの嘘は必ず妨げになると感じた。
彼は既に解決する術は持ってるし、できないことは無いはずだ。

そこまで汲んだのか、凛は少しだけ頷いて急にスマホを触り上司に折り返しの電話を始めた。
しかも、スピーカーになっている。

「……どうしたの?」
「上司に電話!困ったらサポートしてくれないか?」
「……まあ、それくらいなら。」

すると、たった2コールで相手が出る。

「凛くん!?今どこにいるの!?」
「濱田さん、お疲れ様です。社内チャットでもあげてる通り、三重の〇〇商事さんと商談していくつか案件を頂いております。」
「そうなの!いつ帰ってくるの?」
「……えー、今日はチャットでもあげたように午後は有給使いますので直帰と部長にも事前申告してあるはずですが……。」
「知らないんだけど!なんで私には言わないのよ!」

思ったよりキツめの人だった。
声を聞くだけで胃もたれしそうだった。
凛が着信を聞くなり具合悪くなりそうになるのも少しわかる。
彼がぶつけられてるのは理不尽そのものだった。

「すみません。……以後お気をつけします。」
「それならいいわ!今日、良かったら私の家でディナーするならいいわよ!いいワインをみつけたの!」
「あの……そういったプライベートに関することは。」
「何?私の言うこと聞けないの!?じゃあ任された案件降りてもらうかもしれないわよ!」
「そ……それは。」

限界だった。
私は気がついたら凛から電話を取り上げ、変わりに私が話していた。

「……あの。」
「ん?誰?もしかして凛くん仕事なのに女といたの!?」

相手は激昂して少し罵倒するかのような感じでヒートアップする。
あまりにしょうもないことを繰り返すので5~6分ほど聞き流して、少し相手が疲れたところで私は話し始めた。

「……もういいですか!私は佐々木凛の姉ですけど、話を聞く限りでもあなたのやってることは自分の権限を超えたパワハラなのでやめてください!」
「何がよ!凛くんは情報共有してるじゃない!私には伝えてないわ!」
「……失礼ですが、社内チャットでその都度上げてるし、濱田さんは凛の出張を許す権限あるんですか?」
「う……それは。」

凛はきちんと社会人はやっている。
多少好き勝手してるところはあるのだけど、こうして案件は取ってるし、隙間時間を全て仕事に費やしていた。
それを知っているからこの女の好き勝手な発言に久しぶりに怒りを感じていた。

「……凛は、真っ当に社会人やっています。あなたの話し方を聞くと職権乱用ですよ!今も凛は具合悪そうな顔をしてます!!あなたの度が過ぎた行動にドン引きしてるんですよ!あまりにも変なことするなら私からあなたの上司に客観的な話をしますよ!」

すると、相手が想像以上に話を聞いて狼狽えていた。

「そんな……私は……ただ凛くんに指導を。」
「……指導自体には感謝してますので、もう少し距離感を考えてあげてください。それでは失礼します。」

そう言って、私は電話を切ると凛は唖然としていた。

「……凛、後は自分で何とかするんだよ。」
「姉ちゃん……ありがとう……ありがとう!」

凛はよほど嬉しかったのか泣いてしまっていた。
何故泣いてるのかは理解はできなかったけど、凛にはこれくらいは自分の要望を通して欲しいと手本を見せたのだ。

仕事は、確かにお金を貰ってるけど主張をする権利があるはずだからだ。
これで少しは相手も自分の非を認めてくれるだろう。
仕事は、いつでも誠実が1番なのだから。

「……ほら、まだすき焼き残ってるからたっぷり味わおう。」
「うん!そうだね!」

しばらく時間が経ったすき焼きは、タレと肉の出汁が野菜にもより馴染んでいて、味が妙に煮詰まったのだけど、これが思いもしない美味さだった。

少し強ばった緊張感はほぐれ、より味覚は繊細になる。
そう、今はご馳走の最中。
この贅沢な時間を集中しないでどう過ごそうか。

畳の個室にはいつまでもグツグツとした音が優しく響き渡り、すき焼きの甘い香りが心を踊らせていた。
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