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完璧弟と白衣の姉と
7話
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冬の太平洋は強く波を打ち付けて、それが小さなしぶきとなって時折こちらに降り掛かっている。
ここは、伊勢神宮ともうひとつの人気スポットの夫婦岩という場所である。
この場所は神社のある岬と、2つの岩がしめ縄で結ばれている。
周りには熟年の夫婦や若い女性グループなど多種多様な人が集まっていることからも知る人ぞ知る隠れた名所なのだ。
それが夕焼けに染まった空と少し乱れた水平線がハーモニーを奏でるようだった。
「あー、なんか……すごいところに来ちゃったね。」
「……うん、意外と私自然好きかも。」
凛は妙に黄昏ていた。
きっと先程上司の件をまだ引きずっていたのだろう。
意外と器用で立ち回れるようで、メンタルが弱いところはまだまだ可愛らしい一面だなと感じてしまう。
私は、彼の手を引いて前に進む。
「え、姉ちゃん?」
「……気にしない、気にしない。」
自分の心のうちを読まれたと思ったのか彼は赤面してしまったようだった。
朝とは真逆である、彼に手を引かれるのではなく私が手を引いていた。
そして、また強くなみが打ち付けて身体に水しぶきが打ち付ける。
「……昔の凛は、確か泣き虫だったね。」
「やめてくれよ。……あれから変わろうとしたから。」
ふと、その動作に追憶が脳裏をよぎる。
凛は昔は体が小さく、私に泣き疲れてはこうして夕陽とかを見つめていた。
私は、立場が逆転したと思ったけどやっぱりこの男の姉だった。
やがて岬の鳥居に着いてお参りをする。
お参りしながら、妙に過去の後悔がフラッシュバックするようだった。
親と口論になって、研究職をつづけて……そして教授をぶん殴り、孤立して……
妙に私の人生とは諦めと挫折がまるで焼肉の網の焦げカスのようにへばりついて、取れる術すら知らなかった。
でも、今はこうして許している。
それはこの最愛の弟が私の手を引いてくれたからだ。
私は私自身を許すことができた。
それが今の最大の収穫かもしれない。
「なんか、姉ちゃんいい顔するようになった。」
「……そうかな?」
そう、今私には唯一気にかけてくれてる凛がいる。
それだけでもすごく幸せだ。
自暴自棄になって男に身を委ねていたけど、本当に求めていたのはこういった心を満たせる信頼だったのかもしれない。
「……凛、私は未だに研究職のことを引きずっていたけど、今はこの教師というステージを頑張るよ。」
「俺も!今の仕事好きだから……ふー、頑張るぞー!」
凛は少し瘴気を晴らすかのように夫婦岩に叫んだ。
その様子を見て、私たちは笑い合う。
何もない自然で馬鹿みたいに本音を晒す。
妙にそれが歳不相応で、楽しかった。
☆☆
帰りの列車はとても静かだった。
新幹線に乗りながら、今私はどこにいるのかよく分からない暗闇を駆け抜けている。
凛はというと……寝ていた。
彼は移動中もどんな時も旅行だけど仕事に費やしていた。
そして、昔家族とお出かけしてた時に後部座席で私にもたれかかっていた時と、全く同じ姿勢と首の角度で寝ていて、安心しきった顔で眠っている。
全く、22にもなって姉離れしてないなと少しくすりと笑ってしまう。
新幹線はアナウンスで静岡市を通ったのであと1時間でこの旅は終わることとなる。
意外と暇な時間ってどう過ごせばいいか分からないな。
少し宮島先生にラインをしてみる。
「……赤福餅買ってきましたので明日食べませんか?」
すると、すぐに返信が帰ってくる。
「え!買ってきてくれたんですか!?ありがとうございます!」
そういえばお土産買ってくるなんて人生で初かもしれない。今まで私はこういった人間関係でお金は無駄だと思って一切使わなかった。
まあ、そのお金の行先がパチンコだったのだけど。
「……松本先生にも渡そうかなと。」
「いいじゃないですか!じゃあまた3人でお茶会でもしましょー!」
お茶会、という如何にも女子な提案をできる宮島先生は私に持ってないことだらけだったのでこの人も今の佐々木結愛にとっては必要不可欠なのかもしれない。
普段はそういったコミュニケーションは苦手だけど、私はその提案に乗ってみることにした。
そう、色々試すのだ。
私はそうやって今まで目にも止めなかったことにも触れてみた方が良いのかもしれない。
「そういえば午後は松本先生も授業はなかったみたいだったんで、思い切って有給とって休みませんか?」
有給か……そういえばこっちも2年くらいまともに使ってなかったので20日以上溜まっていたはず。
今まで無機質だった心が妙に温まり顔がニヤけている。
そう、あの頃とは違うのだから少しだけ肩の力を抜いていこう。
気が付けば、新横浜を抜けていて間もなく東京駅に近づいていることに気がつく。
そろそろ凛を起こすことにしよう。
「……凛、凛!起きて。」
「ん……ああ、寝てたか。」
「……うん、今新横浜を抜けたとこ。」
「じゃあもうすぐだね!起こしてくれてありがとう!」
間もなく東京駅に到着して私たちはホーム降りてから人混みに紛れて改札を抜ける。
「……ねえ、凛?ちょっと同僚と明日昼過ぎから家で女子会しようかなと思ってるんだけど。」
「え!?めっちゃいいじゃん!一応明日は在宅だけど……家綺麗にしとくよ!」
「……ありがとう。」
旅を終えたけど、賑やかなこの街並みは私たちを前に進め、次の物語のページをめくることとなる。
赤福餅の手提げ袋を片手に、ゆらりゆらりと揺られながら。
ここは、伊勢神宮ともうひとつの人気スポットの夫婦岩という場所である。
この場所は神社のある岬と、2つの岩がしめ縄で結ばれている。
周りには熟年の夫婦や若い女性グループなど多種多様な人が集まっていることからも知る人ぞ知る隠れた名所なのだ。
それが夕焼けに染まった空と少し乱れた水平線がハーモニーを奏でるようだった。
「あー、なんか……すごいところに来ちゃったね。」
「……うん、意外と私自然好きかも。」
凛は妙に黄昏ていた。
きっと先程上司の件をまだ引きずっていたのだろう。
意外と器用で立ち回れるようで、メンタルが弱いところはまだまだ可愛らしい一面だなと感じてしまう。
私は、彼の手を引いて前に進む。
「え、姉ちゃん?」
「……気にしない、気にしない。」
自分の心のうちを読まれたと思ったのか彼は赤面してしまったようだった。
朝とは真逆である、彼に手を引かれるのではなく私が手を引いていた。
そして、また強くなみが打ち付けて身体に水しぶきが打ち付ける。
「……昔の凛は、確か泣き虫だったね。」
「やめてくれよ。……あれから変わろうとしたから。」
ふと、その動作に追憶が脳裏をよぎる。
凛は昔は体が小さく、私に泣き疲れてはこうして夕陽とかを見つめていた。
私は、立場が逆転したと思ったけどやっぱりこの男の姉だった。
やがて岬の鳥居に着いてお参りをする。
お参りしながら、妙に過去の後悔がフラッシュバックするようだった。
親と口論になって、研究職をつづけて……そして教授をぶん殴り、孤立して……
妙に私の人生とは諦めと挫折がまるで焼肉の網の焦げカスのようにへばりついて、取れる術すら知らなかった。
でも、今はこうして許している。
それはこの最愛の弟が私の手を引いてくれたからだ。
私は私自身を許すことができた。
それが今の最大の収穫かもしれない。
「なんか、姉ちゃんいい顔するようになった。」
「……そうかな?」
そう、今私には唯一気にかけてくれてる凛がいる。
それだけでもすごく幸せだ。
自暴自棄になって男に身を委ねていたけど、本当に求めていたのはこういった心を満たせる信頼だったのかもしれない。
「……凛、私は未だに研究職のことを引きずっていたけど、今はこの教師というステージを頑張るよ。」
「俺も!今の仕事好きだから……ふー、頑張るぞー!」
凛は少し瘴気を晴らすかのように夫婦岩に叫んだ。
その様子を見て、私たちは笑い合う。
何もない自然で馬鹿みたいに本音を晒す。
妙にそれが歳不相応で、楽しかった。
☆☆
帰りの列車はとても静かだった。
新幹線に乗りながら、今私はどこにいるのかよく分からない暗闇を駆け抜けている。
凛はというと……寝ていた。
彼は移動中もどんな時も旅行だけど仕事に費やしていた。
そして、昔家族とお出かけしてた時に後部座席で私にもたれかかっていた時と、全く同じ姿勢と首の角度で寝ていて、安心しきった顔で眠っている。
全く、22にもなって姉離れしてないなと少しくすりと笑ってしまう。
新幹線はアナウンスで静岡市を通ったのであと1時間でこの旅は終わることとなる。
意外と暇な時間ってどう過ごせばいいか分からないな。
少し宮島先生にラインをしてみる。
「……赤福餅買ってきましたので明日食べませんか?」
すると、すぐに返信が帰ってくる。
「え!買ってきてくれたんですか!?ありがとうございます!」
そういえばお土産買ってくるなんて人生で初かもしれない。今まで私はこういった人間関係でお金は無駄だと思って一切使わなかった。
まあ、そのお金の行先がパチンコだったのだけど。
「……松本先生にも渡そうかなと。」
「いいじゃないですか!じゃあまた3人でお茶会でもしましょー!」
お茶会、という如何にも女子な提案をできる宮島先生は私に持ってないことだらけだったのでこの人も今の佐々木結愛にとっては必要不可欠なのかもしれない。
普段はそういったコミュニケーションは苦手だけど、私はその提案に乗ってみることにした。
そう、色々試すのだ。
私はそうやって今まで目にも止めなかったことにも触れてみた方が良いのかもしれない。
「そういえば午後は松本先生も授業はなかったみたいだったんで、思い切って有給とって休みませんか?」
有給か……そういえばこっちも2年くらいまともに使ってなかったので20日以上溜まっていたはず。
今まで無機質だった心が妙に温まり顔がニヤけている。
そう、あの頃とは違うのだから少しだけ肩の力を抜いていこう。
気が付けば、新横浜を抜けていて間もなく東京駅に近づいていることに気がつく。
そろそろ凛を起こすことにしよう。
「……凛、凛!起きて。」
「ん……ああ、寝てたか。」
「……うん、今新横浜を抜けたとこ。」
「じゃあもうすぐだね!起こしてくれてありがとう!」
間もなく東京駅に到着して私たちはホーム降りてから人混みに紛れて改札を抜ける。
「……ねえ、凛?ちょっと同僚と明日昼過ぎから家で女子会しようかなと思ってるんだけど。」
「え!?めっちゃいいじゃん!一応明日は在宅だけど……家綺麗にしとくよ!」
「……ありがとう。」
旅を終えたけど、賑やかなこの街並みは私たちを前に進め、次の物語のページをめくることとなる。
赤福餅の手提げ袋を片手に、ゆらりゆらりと揺られながら。
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