僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

文字の大きさ
324 / 369
酒とタバコとバレンタインデー

3話

しおりを挟む
翌日が経った。
いつものようにれんれんが7時に起こしてくれるかと思ったらそんなことはなかった。

時刻は既に16時を過ぎていて、日が逆に沈みかけて私はハッとする。

「やべぇ!?洗濯お願いされたのにやってない!!」

もう干すのは不可能である。
逆にキンキンに冷えて、ことねぇに殺されるに間違いない。
少し焦って洗濯機を回す。
幸いこの洗濯機は乾燥機付きドラム洗濯機だったので何とか洗濯は何とかなりそうだった。

その後もことねぇの家事マニュアルを見ながら家事をしたけど、ゴミを出せなかったし、料理も間に合わなくて出前を頼んで初日は酷いなんてものじゃなかった。

やがて、ことねぇが帰宅の時間になる。

「……ねぇ、さやか?聞いていい?」
「ひゃ……ひゃい。」
「……私貴方に家事をお願いしたはずなんだけど、どうしてほとんど出来てなくて逆に散らかるの?夕飯はチーズ牛丼だし。」

怖い。
なんというか……波平みたいにばっかもーん!って怒られるよりも吹雪を浴びせられているかのような冷たい怖さがあった。

「……今日はお酒抜きね。」
「いやだああああ!!私締め切り前でシラフには居られないんだよおおおお!」
「……あんたね、どこまでも畜生だわ。じゃあ今日だけよ。」
「こ……ことねぇ。」

カンッ

ことねぇはため息を着いて缶をテーブルに置かれた。
確かに酒と書いてはあった。
でもそれにはひとつ問題があった。

「ことねぇ……これ甘酒じゃん。」
「……いいじゃない。頑張ったあなたに対価よ。」
「酷いよ!これじゃあアルコール摂取できないじゃん!」

こうして見ると、家事をしてくれて酒とかツマミとか定期配送とかしてくれるれんれんの有り難さがわかる。
私は彼の献身さに助けられたのだ。

チーズ牛丼を食べながら甘酒を喉に流し込む。
そして、食べ終わると片付けをして、ことねぇは少し化粧を治していた。

「ん?ことねぇ出かけるの?」
「……今日は配信なのよね。」
「うっわー、コンカフェってまーじで忙しいよな。」
「……ええ、投げ銭と広報をしないと飽きられるからね。」

そう言って、ことねぇはスマホとスタンドを着けるとまるで人が変わったかのように話し出した。

「みーんなー!もえもえきゅーん!」
「ぶっ!」

普段の低音ボイスがまるで甘える時の猫のような声に変わり、不意打ちだったので私は腹を抱えそうになった。

「オーナーメイドの、ことねでーす!あ、みやもりさんスパチャありがとうー!」

仕事モードのことねぇは本当に別人の様だった。
コメントを一つ一つ丁寧に読み上げていて、意外と配信は人気があるようだった。

「え!晩御飯?今日は、チーズ牛丼食べました♡ちょっとー!みんな、私の事チー牛っていじらないでよ!」

おい、あんたはいつもいじる側だろうが!
でもメイドモードのことねぇは本当にキャラが徹底していた。
例えば新メニューとかの話をしたり、物販とかライブの営業もちゃんとやっていて、だからこそ少しずつ独立が上手くいってるのかもしれない。

最初は何やってるんだこいつと思いながらも、徐々にことねぇの仕事に対するカリスマ性は本物だと思った。

「じゃあ!また配信来てね!行ってらっしゃいませ!ご主人様~♡」


そう言って、ことねぇは配信を閉じる。
そして、無言でセブンスターを取りだし火をつけて灰皿をテーブルに置き出した。

「……ふぅ。アラサーには堪えるわ。」
「ことねぇ……すごいな。」
「……まあね。ファンとの繋がりはこうして作っておかないと飽きられちゃうもん。」
「スパチャはいくら貰ったの!?」
「……んー、これだと……30万ちょい?」
「時給30万!?」

どうしよ、この人数ヶ月前までは時給1000円ちょいの生活をしていたのに……そりゃあ生活レベルが上がるわけだ。

しばらく見ないうちにかなりの差をつけられた気がしてとても惨めな気持ちになった。
でも、それと同時にこの配信をかなりの頻度でやってるからことねぇがどれだけ信用を積んだのかも見えてくる。

「わ……私も配信やろーかな。」
「……だめよ、あんた口下手じゃない。」
「相変わらずひでぇな!おい!」
「……冗談よ、あんたの信用の積む手段は、ひとつじゃないの?」

そう言われて、ハッとする。
そうだ、ことねぇはメイドを演じることで価値を出す。
私にできるのは……

「書くこと、それだけだ。」
「……そういうことよ。」
「ことねぇ、私頑張るよ!!」
「……ええ、頑張りなさい。そして、ちゃんと全て終わったら飯田くんに謝るのよ。」

そう言われて、私はスイッチを入れて原稿を走らせる。
この日の小説は、とにかく筆が進んだ気がする。
ただ自分の世界を語るのではなく、読者と対話するかのような……そして、ことねぇのプロ精神に感化されたかのような小説になった。

ことねぇに禁酒されたのもあったけど、久しぶりに酒の力を頼らないで小説を書いた気がする。
一通り書き終えたので私は編集者に送り終えると、時刻は12時を過ぎていた。

もう少しやりたいとは思ったけど、続きはゆっくり書こうと思う。
2万文字しかかけてなかったけど、それでもなんだか書き終えて胸を張れるような小説がかけたのだ。

「さーて、そろそろ寝るか。」

どうにもPCを使うと肩が張ってくる。
その疲れを癒すかのようにゆっくりと布団に入る。

少しだけ、私の心は寂しかった。
やっぱりれんれんがいないのが、寂しいなと思う。
会いたい。でも今の私があっていいのか分からない。
だから、ジャブの如くラインを送る。

「起きてる?」
「起きてますよ。」

いや、返信早いな。
私の震えながら送ったラインは秒で返信が来る。

「ちょっと電話しない?」
「いいっすよ!」

すると、れんれんから着信が入るので私は電話に出る。
久しぶりにシラフなので声は少し震えていた。

「……もしもし?」
「笛吹さん!元気にやってます?」

いつもの通り……優しい声に私は安心感を覚える。
やっぱりれんれんの声って落ち着くなと帰属意識に近いものを感じた。

「元気だよ、れんれんは?」
「なんか……俺の家ってこんなに広かったっけ?とか思ったらボーッとしてしまいましたよ。」

れんれんの声は妙に気力がないように見えた。
どうやら彼は彼なりに私との生活が気に入ってたのかもしれない。

「私も……なんか、小説書き終えて今日の未練は無くなったはずなのに、妙にれんれんの声が聞きたくなっちゃった。」
「あはは、俺もそんな感じですよ。落ち着かなくて筋トレしてました。」

3日会ってないだけなのにすごく懐かしくて、帰りたくなる。
会いたい、またいつものように家散らかさないでくださいとか怒られたい。

「なんかさ、今ことねぇに家事をお願いされてて……今日チャレンジしたけどダメだった。私はやっぱダメなのかなぁ……。」
「あはは、まあ最初はそんなもんっすよ。」
「れんれん、いつもあんなに大変なことやってくれてたんだね。ありがとう。」

そう言うと、れんれんはしばらく黙ってしまう。
家事ってめっちゃ大変だ。
それを彼は仕事とバイトをしながらやってくれているのだ。

どれだけ大変か、この一日で痛いほどわかった。
もしかしたら、いつか愛想をつかされるのではとか少し不安な気持ちさえある。

「いいんすよ。笛吹さんの書く小説……好きですから。家事ができないなんて、そんなので気に病む必要ないっすよ。」
「れんれん……。」

ヤバい、泣きそうだ。
なんでこいつはこんなに優しいんだろう。
シラフになると余計彼の優しさが身に染みる様だった。

「ほら、明日も早いんでしょ。俺は俺で待ってますから。ちゃんと満足したらちゃんと帰ってきてくださいね。」
「うん……ありがとう。おやすみ!」
「おやすみなさい。」

そう言って、電話を切ると妙にさっきの肩の疲れが吹き飛ぶようだった。

この日見た夢は、どんな夢かは忘れたけど心の中には確かに満たされたものがあり、明日も楽しく生きていけそうな、そんな夢だった。

部屋の中は、少し暖房の温もりが残っている。
私はその中でゆっくり……安心して深い眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...