僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

文字の大きさ
325 / 369
酒とタバコとバレンタインデー

4話

しおりを挟む
家の中でWeb会議が始まる。
今日は小説の締切に間に合ったのでそれの添削も含めての打ち合わせだった。
ちなみに私はある編集部の元編集長が見てるので結構厳しい。

最初は私を拾ってくれた恩人だったけど、大体3~4回はボツにされる。
私は今回の作品を既に5回も全てボツにされてボロボロだった。
何十万文字のガラクタの上に私は立っている。
それだけ、幾つものメディアが私に期待している証拠なのだ。

「おー!お疲れさやちゃん。」
「編集長~お疲れ様でーす!」
「ばーか、今俺は常務だよ、敬語使え敬語。」

ちなみに会議中はお互いシラフでないのも2人だけのルールだった。年齢差は恐らく20以上離れてるのに本当にフランクである。

「どーよ、調子は~。」
「ねぇ~今回まじで厳しくない?」
「うるせえよ、お前さんの映画化した翼の折れた天使の興行収入覚えてるか?」
「んなもん覚えてるわけないよ~。」
「35.2億円だよ。お前はその金額を背負ってるんだ。お前はそれを越えなきゃいけないんだよ。」
「生きづらいよ。私はただ酒を飲んで書きたいだけなのに。」
「いや、それがプロだからな。それで……さっきのやつ見たぞ~。」

そう言って、編集長(常務)はダルそうにパソコンをカチカチと触り私の送った小説を開く。

「うん……なんつーか、身近な人に感謝を覚えたような感じがするな。相変わらず難しい言葉ばっか使うけど、登場人物が恋愛を通して成長する過程と身近な存在に感謝するところはすごくいいと思う。若年層には刺さるだろうな。」

それを言われてドキッとする。
編集長はこのようにただの文面でも私の気持ちを的確に汲み取っていく。

「うん、とりあえずはこの方向で進めよう。物語の方向性さえ決めればあとは自由に書いても大丈夫だぞ。」
「ほんと?じゃあ、1回書いたら通るかな?」
「んなわけねえだろ馬鹿野郎。多分何回はボツ出すからな。」
「こ……この鬼め……。」
「いいじゃん、俺はお前と世界を動かすなら鬼でも悪魔でもなるよ。お前はその方がいい作品を作るんだ。」

まあでも、今の名声は確実にこの男のおかげである。
正直ぐうの音も出ない。

「へ……編集長!最後に相談いいかな!」
「あ?なんだ。」
「その~いまね……同居人と喧嘩して家出してて、どうすれば仲直りできるかなーって。」
「……切っていいか?」
「待って!お願い~!もう10年の中じゃん!」

この男、本当に血が通ってるのか?
あまりにも即断にびっくりしてしまったが、この男に人生相談すると的確に答えてくれるのだ。

「お前な……なんで物語の人間関係は書けるのに自分の人間関係を書くことができないんだよ。」
「だ……だって、何言えばいいかわかんないし、嫌われたらどうしようって。」
「ぷははは!おまえ……マジで面白いな。人間関係なんて気にしなかった一匹狼のお前が、そうなるとはな。」

そういって、男はグイッとハイボールを飲み干す音がする。
どうやら、私の話を肴に酒を飲んでるようだった。

「んなもん、ごめんって言えばいいんだよ。」
「で……でもきっかけが。」
「あ~そうだな……2月だしバレンタインでチョコでも作ってやればいいんじゃないか?」
「チョコ?」

私はポカーンとする。
そういえば人生で誰かにバレンタインチョコなんて上げたことない。
ことねぇとかに聞けばできるのかな?

「……編集長、私の物語いつもベタって没出すのに、私のアドバイスはベタじゃん。」
「うるせえ!社会人はベタな展開を繰り返すから信用が積み重なるんだよ!!」
「ご……ごめんて。」

そう言って、一括される。
まあ……今は常務になる男だから言葉の重みは違う。
これも良いアドバイスなのかもしれない。

「まあ、感謝は適度に伝えな。俺も嫁さんには世話になってるから適度に感謝の気持ちを伝えてる。小さなことでもありがとうって言うだけで人は救われるもんだぞ。」
「……そうなんだ。」
「まあ、やってみろ。お前さん……そういう経験も小説に良いアクセントになるから、書くだけでもいいがそういう経験も積んでみろや。じゃあ……俺次の予定控えてるから、来週までには次の締切終わらせてこいよ~。」

トゥルン。

そうなってWeb会議は終了している。
それと同時に送った原稿の添削も丁寧に送られてきた。

PDFには、スキャンされた私の文章と手書きで添削と校閲をしたあとが殴り書きされていた。
私はそれを見てクスッとする。

「……ったく、相変わらずアナログだな。」

でも、そのなぐり書きが妙に優しく感じた。

「……終わったみたいね。」
「ことねぇ、ありがとうね。泊めてもらって部屋も貸してくれて。」
「……いいのよ、その様子だとやっと通ったみたいだし今日はご馳走よ。」
「うわぁ!マジで?」

そう言って、リビングに行くと和牛と豚肉とレタスが並べてあり、真ん中に鍋があった。

「……ふふん、今日はしゃぶしゃぶよ。」
「まーじー!」
「……ほら、たんとお食べ。」

私は、疲れた身体に肉を流し込む。
それに合わせてビールも飲むと、疲れたからだに炭酸とホップの苦味が染み込んで全身が快感に溢れた。

「そうだ、ことねぇってバレンタインチョコとか作ったことある?」
「……逆に無いの?」
「無いよ~!施設育ちの後は小説しか書いてなかったし……編集長に仲直りでれんれんに作ってやったら?って言われた。」
「……私も個人的に作ろうかな。」
「え!いいじゃんやろうよ!」
「わかったわ。」

そう言って私たちは小さな約束を決めて、和牛をお湯につけしゃぶしゃぶをする。
さっぱりとした和牛は脂がほんのりと甘く、私の空腹を満たしていく。
そして、早くれんれんに会いたい気持ちがより一層強くなるようでもあった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...