僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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春と挫折と宮古島

4話

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「ただいま。」

俺は家に帰るとなにやらカツオのだしが聞いた和風の良い香りが家を漂っていた。
俺は今日の晩御飯はなんだろうと思いつつ自室にこもる。

「おかえりー!今日はおでんだよ!」

母ちゃんは満面の笑みで出迎えてくれた。
妙にこのやり取りをするとほっとする。
でも俺は自室に向かうことにした。

「ちょっと勉強してから飯にするよ。」
「お!相変わらず頑張るね!頑張って!」
「おう!」

俺は自室に籠り参考書を読んでは問題を解いていた。
模試まで1週間、それまで頑張って点数をあげなきゃいけない。

医学部は偏差値68あたりがスタートラインだ。
そう考えると、この壁はやはり高い
俺は基礎力を上げるためにひたすら同じ問題をやって定着化を図った。

お陰で問題を一通りみればここは解けそう?みたいな感覚が出てくるのだけど、やはり解いてみるとかなり難しかった。
応用問題なんかは答えを見ながらじゃないと解けない問題さえあった。

「やっぱ……無理そうかな?」

1時間やっていると、気が抜けてくる。
あまりの壁の高さに折れそうにさえなっていた。
学校の期末テストは10位以内には入っているのに、やはり井の中の蛙大海を知らずとこれ程今に合致するシチュエーションはないだろう。

「直輝ー!そろそろご飯どう?」
「食べるー!」

集中力が切れたタイミングで母ちゃんからの呼びかけで俺はノートを閉じた。
今無理やりやってもきっと意味がない。
飯を食ったらまたやろう。

リビングに戻ると、ご飯とおでん、そしてサラダがあった。
しかもカセットコンロを用意してるのでグツグツ煮えていて見るだけで腹がなってしまいそうだった。


「頂きます。」

俺は大根や牛すじ、しらたきに卵を食べる。
それぞれの具材に出汁が効いていて、どんどん口の中に入っていくようだった。

「美味い!すげー味が染みてるじゃん!」
「朝から仕込んだからね!」
「母ちゃん、やっぱ天才だ!」

母ちゃんの料理は本当に上手い。
AV女優を辞めてから彼女は料理を研究しだしたけど、年々上達してるような気がしていつも驚かされていた。

「へへ、直輝も成長してるけど母ちゃんもこうして成長してるんだよ!」

そういって母ちゃんは子育てを終わりかけてる人とは思えないほど若々しい笑顔をしていた。
でも、そんな母ちゃんと対等なほど俺が成長できてるのかな……不安にさえ感じてしまう。

「俺はまだまだだよ、今日も勉強したけどこんなにやってるのに成長してる気がしない。」
「えー、そうなの?」
「勉強向いてるかわかんねえよ。何してるか分からなくなる。」

そういって、俺はハッとしてしまった。

そんなこと言っていいわけが無い。
医者になるって言ったのは俺なのに。

俺は父親である直人の意志を継いで、それで母ちゃんががんが再発した時に助けられるように医者になるって言った矢先にこの発言は、思っても言っていいわけがなかった。

恐る恐る母ちゃんの顔を見ると、怒ってるどころかニターって笑っていた。




「な……なんだよ。」
「直輝、やっと弱音を正直に言えるようになったなって。」
「そうなのか?」
「その気持ちを持つのが大事だよ。それがあるからこそ人は成長するし、時間をかけて上達するんだよ。」

すると、母ちゃんがひとつの写真を見せた。
皿の上になにやら黒い物体が置かれていて、俺はそのシュールさに言葉を失った。

「……これは?」
「卵焼きだよ。」
「いや、ダークマターの間違いだろ。」
「直輝……たまにはオブラートというものを覚えようか。」

そう、何度も印象を変えられてるけど母ちゃんは料理は最初できなかった。

「最初は包丁もろくに使えなくてさ、手は傷だらけ……卵焼きもこんなに焦がしてしまうから大変だったよ。でも少しずつフライパンの温度とか、卵のことを調べたら今のような料理ができるようになったの。」
「母ちゃん……。」
「直輝、やると決めたならとことん時間をかけてみな!私は応援してるから、何度でも弱音を吐いていい、それを認めて行動すればきっとなにか掴めるはずだから。」

そういって、母ちゃんはまたニンマリと笑った。
俺はガツガツとおでんと米をたいらげてまた立ち上がる。

「……もっかい勉強してくる。」
「うん!じゃあ母ちゃんバ〇殿みて待ってるから、また弱音吐きたくなったら言ってきなね!」

そういって、母ちゃんはバ〇殿のDVDをみて笑い出す。
ちょっと俺もそれを見て笑いたくなったけど、振り返らずまた自室に籠った。

「……さっきの問題を解こう。」

俺はさっき答えを見ながら解いた問題をもう一度やる。
なんとか数式は覚えてるので、今度は答えを見ずとも正解できるようになっていた。

模試まで1週間。
これは医学部に向けの練習のようなものだ。
今まで怠けていた学生生活を取り戻すかのように、俺はその後の時間を振り絞って勉学に励むのだった。

俺の部屋は少し寒くて、ほんのりとストーブが温めるけど足は冷えきっていた。
でも、心だけは熱くたぎり足の冷たさに気がつくのは少し後だった。

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