僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

文字の大きさ
92 / 369
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー

2話

しおりを挟む
※この作品は「小説家になろう」「note」にも掲載中です

休憩が終わり…
私はタバコの吸殻を捨てて職場に戻る。

休憩は30分を2回取る形式となる。
最初はタバコを吸うことにして、次に食事をする。

タバコは美味しいけど、食べ物を食べて美味しいという感覚は無い。
ただのカロリー補給としか考えてない。
そう考えると、甘いとか辛いとか…そんな感覚が薄れていったのだ。

ちなみに言うと私は空腹時の方がパフォーマンスが高かったりする。
お腹が空くとイライラしてそれが逆に頭が冴えたりして、その結果今の人気に繋がるのも秘訣の一つだ。

「戻りました。」
「ことねさん!おかえりなさい!」

舞衣ちゃんが店を守っててくれたみたいだけどどうにも粗が沢山見えてしまう。
チェキが終わったらお会計をしてご退店頂くのが普段の流れなのだけれど、伝票が整理されてないからほかの女の子からみて今どんな状況なのかがわからない。

それに、急いで掃除をしたのかテーブルの上が少し汚く感じてしまう。

フードも…作ってからお出しするのに時間がかかって冷めてしまっている。

私には…メイド喫茶のそんな声が聞こえてくる。

「結構大変だった?」
「そ…そうなんですよ!急にお店が回らなくなって!いま結構バタバタしてます!」
「…任せて。」

私はまずバックヤードの人間に冷めたフードを1分だけレンジでチンしてもらうように支持をした後に、
伝票を整理する。

終わったタスクにはチェックをして、入店順に整理をする。

その後は、ご主人様にコミュニケーションを取りながら、飲み終わったジュースなどを片付けて、1回通る度に最低2つの仕事をしていたら、ものの3分で落ち着いてしまった。

そして、食べ物も暖かく最高に美味しい状態でご主人様にお出ししてみると、とても美味しそうに召し上がっていた。

「すごい…魔法みたい。」

舞衣ちゃんはうっとりしている。
私はもう10年近くやっているから、最適化されているのかも知れない。

「舞衣ちゃんは、ご主人様への対応は素晴らしいわ。敢えて改善点をあげるとしたら、伝票を分かりやすくしてみんなの協力を得るといいかも。後は仕事の移動が無駄に多いから、あそこに行くついでにテーブルを吹く、下げ物をする、他のメイドさんに声掛けをしたりお願いする。ここをやるとお店はより良く回すことが出来るわ。」
「あ…ありがとうございます!」
「期待してるわ。」

ぶっちゃけ人には期待してないけど、期待しているという言葉を与えるだけで人は頑張りたくなるものだ。

私は、メイドであると同時に中間管理職のようなものにもなっていた。
実態は、メイド喫茶のアルバイトなんだけどね。

その後も一通りご主人様が途絶えることはなく、一日はあっという間に過ぎてしまった。

☆☆

「お疲れ様でしたー!」
「うん、お疲れ様。」

他の子が徐々に着替えを終えて店を出る。
今日の売上も絶好調、さすがは東京である。
固定客も一日に10回もリピートしてくれたおかげで今日も私の完璧な一日は終わろうとした。

ああ、最高。
そろそろニコチン摂取したくなってきたけど。

そろそろ私も店を出ようとすると、まだ1人残っていた。

「あら、舞衣ちゃん。」

そう、先程から私を慕ってくれる可愛い後輩の舞衣ちゃんである。忘れ物かな?

「ことねさん…今日よかったら一緒にご飯どうですか?」

なんと、お食事のお誘いである。
私としてはニコチン吸いたい気持ちはあるのだけど、こうしてメイドさんのケアもしなきゃという気持ちがある。

「わかったわ…、少し離れたところでも大丈夫?今日は少し美味しいものでも食べに行きましょ!」
「え!いいんですか!私も出しますよ。」
「いいのよ、ここは先輩の私に肩を持たせてよ。」

私は、そんな素敵な先輩を演じる。
しかし、タバコが吸いたい。
今は上手く演じてるけど…慢性的なニコチン中毒の私にとってはガタが来てしまいそうだった。

☆☆

秋葉原は知名度とプライベートの観点で見送りたいので私は赤坂見附のオイスターバーに行ってみることにした。

赤坂見附はビジネス街と、繁華街が混ざったようなところで私のご主人様は比較的少ない。
どうにも有名になると、そういった肩身の狭い暮らしになってしまうのがどうにもくたびれてしまう。

「私!港区でご飯なんて初めてです!」

舞衣ちゃんはウキウキしている。
新しいドッグランを見つけた犬のようでもあった。

「あれ、舞衣ちゃん…今いくつ?」
「17です!」
「おっと…めっちゃ20歳くらいだと思ったわ。」

しまった。軽く飲みに行くつもりだったが、相手は未成年…増してや高校生である。

「そういえば、ことねさんは…?」
「28、もうババアよ。」
「ばば!?いえいえ…めちゃくちゃ綺麗なお姉さんじゃないですか!まだまだこれからですよ!」

舞衣ちゃんはそう言ってくれる。
とはいえ…28というのは婚礼適齢期、親にもいい人はいないの?とかそういった声も会う度に言われてしまう。

結婚すべき、正社員であるべき…日本にはそんなしみったれた同調圧力しかない。

「ごめん、今回オイスターバーでもいい?健全な時間に解散するようにするから。」
「もちろん!」

私は、オイスターバーに入る。
そこには氷が敷き詰められたところに牡蠣が沢山並んでいる。

お店は木を基調とした少しレトロな雰囲気を出していて、海の近くのお店のようだった。

「いらっしゃいませ、ことねさん。」
「松澤さん!ご無沙汰しています。」

ここの店長の松澤さんだ。
今日もスーツを着こなし、縁の薄い眼鏡をつけていて清潔感もありダンディだった。

「お友達ですか?」
「んーん、同僚よ。ちなみに未成年だからノンアルカクテルをおねがいするわ。」
「承知しました。ことねさんは?」
「んー、牡蠣だから…シャルドネワインの少し樽の香りがするものをお願い。」
「承知しました。牡蠣はおまかせでいいですよね。」
「ええ、それでお願い。」

この店は月に1回ほど行くのが私の日課である。
普段栄養が偏っているのでマンネリ防止のためである。
あとは、ここの店長はメイドと分かっても真摯に対応してくれるので楽なのもある。

「すごい…大人の女性って感じでかっこいいです!」

そんな私とは裏腹に…舞衣ちゃんは私を羨望の眼差しで見つめている。
どうしよう、憧れは理解に最も遠い感情だと好きなアニメの中ボスが言ってた気がする。

「最近どう?慣れた?」

この子は入ってもう半年ほどになる。
SNSでも丁寧にファンに対応をしているし、見込みはありそうな感じではある。

「はい!最初は虐められたり、掲示板の悪口とか気にしてましたけど…プライベートが充実したのもあって気にならなくなりました!」
「そう…素敵な事ね。」

その時に飲み物が出される。
私は白ワイン、舞衣ちゃんは柑橘系のノンアルカクテルだ。

「乾杯!」
「か…乾杯!」

彼女は慣れない手つきで乾杯をする。

グラスの縁が私より高かったので失礼をしているのだが、きっとそれにも気づけていないと思う。
だが、少しずつ覚えればいいと直ぐに忘れてしまう。

「ことねさんは…掲示板の悪口とか見ないんですか?」
「んー、たまに見たりする事もあるけど…気にはならないわ。」
「凄いですね!やっぱことねさんレベルになるとそういったアンチも受け入れられるんですね。」

全く違う、私はそうやって妬みをするメイドの書き込みやご主人様からの見下された文章を見て、この残酷さや醜さこそ人間らしさなのだと思って楽しんでしまうのでかなり私を色眼鏡で見ているのかもしれない。

「まあ…そんな所ね。いちいち相手にして反応するのもめんどくさいってのもあるけど。」
「そうなんですね……。あれ、メイド以外の仕事とかは考えたりしてるんですか?あとは…結婚とか。」

私の鋼のメンタルは秒で崩壊してしまった。

「ぐ…ぐふっ…ま…まあ…おいおいね。」
「なんか…ごめんなさい。」

純粋な疑問は時折人にダメージを与えてしまう。
私は、そんな苦しみごと白ワインを喉に流し込んだ。

それと同時に、牡蠣が松澤さんから差し出される。
「お待たせしました。こちら…九州の唐津湾という所から取れた塩気が強い牡蠣、そして、広島の牡蠣、最後に五島列島から取れた岩牡蠣です。」

私たちのテーブルにガラス皿が氷を敷き詰められて差し出される。
私たちはそれをちゅるんと飲み込む。
牡蠣から出る海の香りと濃厚かつクリーミーな味わいが口の中に広がる。

美味しい…月に1回のそんな感情。
タバコを吸う時と同じくらい幸せになるのだ。

気分がいいから少し…この子に私の話をしてみよう。

「私はね…就職しないわ…出来ないの。」
「出来ない?」
「私は、メイド喫茶のメイドが天職だったの。それ以外の仕事だとどうにも気が狂いそうになってダメだったの…。ほんと…それだけよ。」
「じゃあ…ことねさんは根っからのプロだったんですね!私も…メイド以外のことねさんは想像できません!」

想像以外の言葉に面食らってしまった。
こんな私をポジティブに、受け止めてくれたのははじめてだった。

もう少し試してみよう。

「結婚願望はないわ…もちろん恋愛感情もない。
28年間恋人がいたことすらもなかったわ。
でも、ご主人様への愛だけはもっている。そんな私は…どう思う?」

彼女は、牡蠣をちゅるんと口に入れ…いつの間に注文されたフィッシュアンドチップスやワタリガニのパスタを口に運び、グイッとノンアルカクテルを飲み込むと…はっきりと言った。

「それがことねさんにとっての幸せなら…それでいいと思います!幸せは人それぞれだから比べて不幸になる必要はありません!私は逆にことねさんよりももってないことが多いのですから!」

ああ、この子は本当にいい子なのかもしれない。
基本的にメイドさんは物は隠したり壊したり掲示板で悪口を書くものだと思ったけど…この子はいい子だ。

妙に口に運ぶワインの風味が美味しく感じるのは…きっとワインだけじゃないだろう。

たまには人と触れ合うのも幸せなのかもしれない。

そんな感じで談笑をすると…気がついたら21時をすぎていた。

「そろそろ…帰りましょ。」
「はい!」

私たちは、オイスターバーを後にした。
そろそろ…ニコチンがきれそうで少し我慢の限界だった。

繁華街は勢いをまし、これからキャバクラに行こうとする会社員や…バーにいくOLがいてここはオフィス街のオアシスなのだと感じた。

人の流れが留まることがなく…川のように流れている。

「こ…ことねさん!」

目の前に舞衣ちゃんが恐れおののいた表情でこっちを見ていた。

気がつくと、私はセブンスターを手に取りライターの準備をしていた。

もう…耐えられない。

「すううううううううう……はああああ。」

仕事が円滑に進む、酒や食べ物の美味しさ、承認欲求が満たされる…そんなものとは比べ物にならないほどの快感が全身を巡る。

そう、この感覚を求めていた。
砂漠で長時間歩いた後に水を初めて飲むような…そんな快感だった。

「…ごめん、私はそんなにできた人間じゃないから…。」

普段絶対見せない面を初めて見た舞衣ちゃんは…失望したのだろうか。
それはそれで仕方がないことだ。
私はもっと…いい加減な人間なのだから。

「ことねさん、タバコ吸うんですね!ギャップとかっこよさに見とれてました!…でも、タバコは喫煙所で吸いましょう!」

私は、夢のない人間だ。
そんな私に…小さな理解者が初めて出来た瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...