僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー

14話

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私がメイドを辞めるまでは、そう長く感じることはなかった。

辞めるまでの記憶はほとんどない、とにかく忙しかったことだけが体が覚えてくれた。

嬉しいこともあった。有給を取って会いに来てくれた人もいた。だけど——それでも、私はその場所を終わらせた。

わたしは、結局のところ愛されていた。
そんな……夢のような日々が終わった、終わらせてしまった。

チュンチュン……

朝は、不思議と小鳥のさえずりと朝日の陽光が目に入りパッと目を覚ましてしまう。

今の私は……何者でもない人間だ。
フォロワー1万人の人気メイド、ことねはものの数週間でこんなに人生が変わってしまうのかと驚いてしまう。

まるで、さっきまでディズニーランドで夢のような体験をしてきたのに、数分歩くと見慣れた都会の喧騒に戻る絶望感に近いものを感じる。

ちなみに私はメイド喫茶を辞めたあとは酷く体調を崩した。
きっと、身体のエネルギーが行先を見失ったのと……大丈夫に見えて無理をしていたのかもしれない。

クーラーなんて大層なものは無いので扇風機で誤魔化すのだが……どうにも苦しい。

わたしはスマホを見る気力さえも失われていた。
舞衣ちゃん、そしてさやかからはLINEの通知は来ているのだが、2日以上返していない。

それだけ、私の心は疲弊して誰にも頼れないと言う状況になっていた。

このまま誰にも気づかれず、消えていくんだろうか。


すると、ピンポーンというインターホンの音が聞こえた。
わたしはここ数日で気がついた。
働いてる間はセールスとかの勧誘が家に来ていたことに。
ちょっと出るのが怖くさえ感じる。

わたしは、恐る恐る耳を立てた。

「ことねさーん!舞衣です!」

どうやら、違ったみたいだ。
メイド喫茶のメイドで今でも連絡をとったり会ったりするのは舞衣ちゃんだけだった。

「……こんにちは。」
「ちょ!?ことねさん!まだパジャマじゃないですか!それに……顔色悪い?」
「メイド喫茶を辞めてから、体調が優れないの。」
「無理してたのかもしれないですね。スーパーで何か買ってきますよ。」
「あ……あの……!」
「はい?」
「タバコ……セブンスター。」
「それは未成年なので無理です。風邪薬買ってきますね!」

体調悪いせいでタバコを買う元気はなかったのだが、頼る人がいると吸いたくなるもの。
そして、体調を崩した私は未成年にタバコの購入をお願いしようとしていた。

ふう……。

体が重いし、吐き気がする。
気持ちもどこか落ち込むような感じがする。
死んでもいい、だなんてよく思ってたけど……死にそうになると人は不思議と生きていたくなるものなんだな。

気がつくと、わたしは30分ほど天井を見つめていたようだった。
しばらくして、舞衣ちゃんがもどってくる。

「ことねさーん!これ……スポーツドリンクと風邪薬です。今からうどん作りますね!」

彼女は手際よく包丁を使ってネギを切り、鍋を沸かせてうどんを作ってくれた。

「はい!とにかく栄養を取りましょう!免疫も着きますし!」

彼女のうどんをすする。
有り触れたうどんの味だ。

鰹だしのきいたツユにうどんのコシとたっぷりのネギ、そして七味の味。
上の油揚げがツユをオイリーにしてくれて、うどんの味に深みを出してくれている。

有り触れたものなのに……こんなに美味しく感じたのも久しぶりだった。
そして、ごくごくとスポーツドリンクをのみ、風邪薬を服用すると、どこか寂しげだった私の心と疲労感に見舞われていた私の身体が癒されるようだった。

「いい食べっぷりですよ!ことねさん!」
「……恥ずかしいから見ないでよ。」

舞衣ちゃんは笑顔で「にひひ」ってわらうと嬉しそうに頬杖を着いた。

「ことねさんって完璧超人のイメージがあったんですけど……こうして見ると等身大の女の子なんですね。
結構繊細で……ポンコツで……本当は頼った方がいいのに頼らなくて、可愛いところばっかじゃないですか。」
「ちょ……やめなさいよ!」

この子は時々私をからかう。
私に比べたら10歳も年下なのに、いい意味で生意気である。

でも……正直来てくれて助かった。
このまま1人だと、私の無能さに自害していたかもしれないくらい気分が落ち込んでいたから。

「私……これからどうしよう。自分でやっていくって意気込んでいた矢先に体調崩すから、自信がなくなっちゃった。」

わたしは、選択を大きく誤ったのではないか……実はあの場所に持っといた方が良かったのではないか。
取るべきでないリスクを取ってしまったのではないか……
不安は堂々巡りをする。

正直、高校生にこの質問は愚問ではないかと思う。
しかし、わたしはそんな愚行をしてしまうまでに孤独だった。

彼女は……どこか嬉しそうに答えた。

「もっと頼ってください!考えがつかないなら一緒に考えましょう!もう……完璧なことねさんは終わりなのですから、これからは神宮寺ことねとして、惨めでも地べたを這いででも生きていくんです。」

そうだ、そうだった。
選択に後悔をするだなんて最も行けない行為だった。
わたしはこういった子に楽しい環境を作ってあげたりするために独立を志したのだ。
カッコ悪くてもいい……もっと、頼ってでも自分の目的を達成するのが私が選んだ道なのだ。

「ねえ、舞衣ちゃん。私と一緒に……レンタルキッチンとか使って不定期にお店出さない?」

少し、口ごもってしまった。
受け入れると分かっても……決断の狼煙を上げるというのは怖いものだ。
挑戦することには責任が伴ってしまう。

しかし、彼女は予想通り……いや、予想以上の回答をくれた。

「もちろん!実は……いい所見つけちゃって、今日は予約したから一緒にやる計画を練りに来たんです。」

良かった、この子はちゃんとぶっ飛んでいた。
あまりの行動力に鳩が豆鉄砲を当てられたような顔をしてしまう。

「ちょっと……頭がクラクラする。」
「ちょーー!?ことねさん!?」

リサーチをするどころか舞台まで準備するとは……彼女は相当大物になるのかもしれない。
私が寝てる間にここまでやるとは……これも若さゆえなのか。

「私は、ことねさんの夢を叶えたいんです!ことねさんと出会うまでは、仕事なんて蹴落とし合いしかないと思ったけど……ことねさんのプロ意識でわたしは変われたんです。やりましょう、ことねさんならやれるはずです!」

彼女の熱い思いに……気がつくと頭痛も倦怠感も吐き気も嘘みたいに落ち着いて、心拍数がバクバクと上がり、耳まで聞こえてくるのを感じた。

もう、わたしは後戻り出来ない。
背水の陣のように退路はなく、わたしはメイド人間になることを決めたのだ。

「……あはは、なんか……面白くなってきた。やりましょう。予約日までにメニューを絞っていきましょ。」
「お任せ下さい!私とことねさんなら……やれるはずです。」

もう時刻は夕方の時間だというのに、景色はとても明るい。
畳の部屋は不思議と熱気が籠っていて、セミの鳴き声が激しく鳴り響いていた。
私の人生の夏は……まるでこれからだと示唆するように、夏は私を焼き付けていく。
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