全ては記憶の中に

抹茶ラテ

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第一章

怪物のすみかへ

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私がいるこの街は他の街に比べとても大きかった。そんな街の王であるのが私の父上だ。父上は、いつどんな時だって自分を大きく得体の知れない人物だと思わせようと努力していた。街人は、父上の予想を裏切らない反応を示した。人々は、「謎に満ちた王」などと呼んでいる。私からしたら、意味もないことに手を尽くしている父上の姿が物凄く愚かに見えた。
父上は言う。
「おい…貴様は将来、私の栄光を守り続ける義務がある。これは、命令だ。遂行せよ。」
笑わせるよ。私の名前さえも思い出せないやつに自分の栄光を守り続ける義務があるだと?
私は、人に見られることでしか自分の意味を見いだせないクズとこれ以上いたくない。そして、こんなクズな王だということに気づかづに騒いでいる民衆にも反吐がでる。
そんなある日、城にある書物室で一冊の本と出会う。それは、どこかのホラ吹きな男が冒険していくという作品だった。私は、感化された。私の実行力は凄まじいものだということにこの日気づく。
私は、家を出て大冒険の旅へと続く道を歩む。初めは、周りも見ず下を向きながら歩いた。正直なところ、なにも計画せずに飛び出したことに不安があった。私は、なにかにぶつかり顔を上げた。これ以上ない程に目を見開く。瞬きをしてもその光景は消えることなどなかった。そこには辺り一面「怪物」だらけだった。私は怪物を見上げ思う。「なんて素晴らしいのだろう」  ツーツー
人間には到底真似できないこの、神々しい姿。全てを優しく包み込んでしまいそうな瞳。憶測であるが怪物は今、私と私の相棒である猫の「ミーシャ」を歓迎しくれている。怪物たちは私たちを様々な場所に案内してくれた。私達は、案内されるたび目が心臓が飛び出でる程驚く。怪物たちは私たちの驚いた顔を見て楽しんでいるようでもあった。それでも、嫌なわけではなかった。あんな父上の所にいるより何百倍もマシだ。
ある時は、巨大な蛇の腹の中へ…
またある時は、怪物のすみかを一望できる展望台へ…一日中歩いて疲れきった体。ジジッ
怪物達により、案内は数日にもわたった。夜には必ず火を炊き、その周りで踊りやら飯を貪っていたり…   街からは、「王の息子が消えたことにより西の神様が夜になるとお怒りになられた。」などと言っていたら面白いのにな。さすがに、数日間にもわたって宴をするのは疲れる。他にも、
びっくりして飛び出そうになった心臓も未だに大きく波打っている。私は、倒木に重い腰を下ろした。
ふと、上を見ると謎の白い生物がいた。
何不自由なく生きており、何も考えていないようだった。本当に生き物かどうかも疑わしいほど、その目には何も映っていなかった。だが、絶対「生き物だ」
と証拠付けるものがあった。それは…
「呼吸音」だった。
耳を澄ませば、小さく囁くかのように聞こえる。
これは私だけなのか。他に人らしき影も形もないので分からないままだ。
すると、白い生き物はまた風に身を任せるとどこかへ姿を消してしまった。何にも囚われずに自由に生きているんだろうか。私は少しばかりその白い生き物の行方を知りたいと思う。
白い生き物が通り過ぎたあとも重い腰を上げずに上を見ていた。
………
ジージージジッ
何も考えずに…
私は目が覚めたように思い出す。
そうだ!私達は怪物に挨拶もしていない。私と猫のミーシャは怪物に挨拶をするため大勢の怪物を展望台へ集めた。
「私は人間である。大冒険をするため家を出た身だ。こいつは猫のミーシャ。
こいつといると悲しい時も寂しい時も…
「楽しい」に変換出来るんだ。」
挨拶を聞いた怪物たちは、目を見開き額には血管が薄く浮き上がっていた。その感情の矛先に居たのは私だけだった。考えてみればすぐわかることだ。怪物達からしてみれば人間は「悪」そのものだ。私たちは、いや…私の街が大きくなった理由は、大きく広がる怪物のすみかを攻撃し新たに土地を得て大きく広げて行ったのだ。怪物が殺意があるのと同じく、私も父上に殺意を覚えた。怪物達は私の父上のせいで隅に追いやられたんだ。あいつに殺意を覚えるのと同時に私にもその血が流れていることに無性に吐き気もした。
怪物達の目には、何も映っていなかった。いつかの白い生物よりもずっとずっとその目には何も…映っていなかた。その時、私の背中に一粒の汗が背骨をなぞる様に落ちた。さっきまで笑顔だったはずの怪物達は、殺意と悲しみが混じり合った目を向けてくる。その先は思い出したくもないほど恐ろしい目だった。ジヂッ
私は、殺意を向ける怪物に対し必死に説明をした。私の父上が怪物達にこのような感情を与えてしまったこと。そして、私はその息子だということ。ただ、私はそんな父上が嫌いで街を出たこと。私も父上に殺意が湧いたこと。
最後に私は大粒の涙と共に頭を地面に擦り付けた。
「すみません。すみません。すみません……」ツー
こんなんで許されるはずがない。怪物達が今日までどのようにして生活してきたかも、どのような思いで過ごしてきたかも。想像がつかない。それでも、言わずにはいられなかった。
「すみません。私の父上がすみません。すみません…」
怪物が私の頭に手を置く。あぁ、怪物達に殺されるなら本望だ。心の底から笑い合えた者になら。怪物の手がだんだんと強くなっていく。そう思った。でも、怪物の手は顎へと周り顔をあげる様、促した。私はそこに広がる光景に腰を抜かす。そこには、目に涙を溜めた怪物達がいる。
「えっ…」
予想にもしなかった光景についていけない私のかすれる声が漏れた。
「キライ…うっ、、嫌いだケド。おマエらは嫌いじゃナイ。みんな、同じ気持チ。」ヂッ
「でモ、ダメ…」ツーヂッ

そう一言いうと怪物達は私を指さし背中を向けて消えていった。私は、声を出そうとしたが震えて思い通りに出なかった。立ち上がろうにも腰が抜けて追いかけることも出来なかった。程なくして、わたしはその事を酷く後悔した。私には、猫のミーシャしかいない。ミーシャを両手で力いっぱい抱き抱える。私は、怪物達に連れてこられた場所を巡った。それでも、どこにも怪物たちはいなかった。
私の心に黒く濁った靄がかかっている。同じ場所なのに、怪物達が居ないだけでこんなにも寂しいなんて…
そうだ…私は大きくて神々しい怪物達を「森」
と呼ぼう。私は、日記に書こうとペンを握る力さえも残っていなかった。それでも、必死に書く。神にも近い存在という意味も付け加えようか。いつの日かこの日記を怪物達が読むのであれば、これからは「森」と名乗ってくれ。
あとは、暗くて長い蛇のお腹を「トンネル」と呼ぼう。
あっ!…そうだあいつを忘れていた。
何も考えず浮いている白い生物…
私はこいつを「雲」と呼ぼう。
いつまでもこの場所にいたいがそれでは、私の求めていた冒険ではない。重りが私の足かせとなる。
ジジッ  ジージジッ…ツー…
ふと、違和感を感じる。それは、怪物が発した言葉でも私のとった行動でもなかった。それは、私の「服」だった。今の音は私の勘違いだろうか。そう言えば、どこかに必ずこの音があった気がする。私は急いで服を脱ぎ捨てた。私の来ていた胸ポケットには盗聴器が忍んでいた。怪物たちとの今までの会話を聞かれていた?…誰に?答えはすぐにわかった。父上だ。どこまで、クソなんだ…
もし、もし!…怪物達が私の元から離れたのはこれが原因だったとしたら?…これ以上、父上に情報が漏れたら絶滅にまで追い込むかもしれない。だから、怪物はあの時…私に指を指したんじゃないか。怪物達の行動が自分にとって有利に動く。まだ、見捨てられたわけじゃない…?私は急いで盗聴器を踏みつけた。通信が切れた音がした後、怪物が姿を消した方向へ走り続けた。足の感覚が無くなってきた…ピタリと止まる足。そこには、怪物がいた。それも、前より大きくなって私の目の前に姿を現した。嬉しさのあまり膝を地面につき、崩れ落ちる私。泣いている暇なんてない。怪物が大きくなった理由…きっとそれは、私が見ていたのは遠くから見た怪物だったから。
今まで私が見ていたのは、怪物のほんの一部だけだったんだ。
私は、立ち上がり目の周りに溢れ出た涙を拭きとり前を向く。
私は今、全ての姿を現した「森」の「怪物」の足元に来ている。

私の冒険はまだまだ続く…
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