美しい変化

抹茶ラテ

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第一章

君のキャンバスへ届け

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死にたい。死にたい。
この人生が強く「嫌だ」とは思わないし、ひどくいじめられている訳でもない。ましてや、虐待なんかもない。
ただ、純粋に「死」というものを知りたいだけだ。

季節は夏から秋への移り変わり。昼はまだ暑いが朝と夜は肌寒い。カーテンから漏れる朝日が少しずつ弱々しくなっていく。身支度を整えリュックを背負い学校へ向かう。生い茂っていた木々は茶色い葉を落としていた。
また1枚。また1枚。
風が私の髪を揺らす。私は楽しそうに踊っていた髪を耳にかける。
いつの間にか学校という名の牢獄につく。
窓際の私の席は入学当初から気に入らない。
窓に移る私の顔はよく見えなかった。
いや、見たくもなかった。
隣の席の男子生徒は、授業中だと言うのに後ろの席の男子に話しかけていた。コチラをチロチロ見てはニヤついての繰り返し…
私が廊下を歩けば男子生徒はもちろんのこと、女子生徒でさえも目の色を変える。
高校入学してまだ1年も経っていないのにも関わらず、3年生のサッカー部主将 須田 達広(すだ ひろたか)先輩、通称すたさん、に告白され始めたのをキッカケに様々な人から告白された。軽く10人は断ってきた。
私は、そこそこモテる。
僻みとかなしで私はこんな顔要らない。
みんな、興味があるのは私の顔だけで誰も私の中身を見ようとはしてくれない。ましてや、すたさんに告白されたのを気に食わない女子が私に嫌がらせをしてくる。5人ほどで私を呼びたし人気(ひとけ)のないところへ行く。少女漫画のような展開に驚きと面白さが隠せない。女子生徒は私を囲うように壁へ追い詰めた。女子生徒は、鼻につく甘ったるい香水を付けていた。

「須田先輩に告白されたからってチョーシこいてんじゃねぇよ!このブスがっ!」

リーダーでありそうな女子生徒がわたしの胸ぐらを掴んで言った。
まただ、お前が見てんのは私の見た目だけでしょ?調子こいてるのかも憶測に過ぎないのによく本人に言えるもんだ。私の中身は知らないくせに知ったつもりでイチャモン付けてんじゃねぇよ。
頭の中では目の前にいるこいつの文句が飛び交う。それをまとめて一言…

「あなたの香水、あなたにピッタリですね!」

相手は少々、驚いている。まぁ、普通なら…
(ご、ごめんなさい)
とか、ですもんね。

「はぁ?」

あっ、こいつただの馬鹿だ。
私は、女子生徒の表情をみて1番に思った。
口では私のことを威嚇してるつもりだろうけど、私に ピッタリですねって言われただけで喜んでるよ。
私は、口を開く。

「ドブネズミにはピッタリの香水だと思います!」

ポカンと口を開いて固まる女子生徒達を横目で確認してから女子生徒の間を抜けて教室に戻る。
これで何回目なんだろう。毎日がめんどくさくて、つまんなくて白ボケしていた。
やっぱり、窓に移る私の顔はよく見えなかった。
それでも私は、この人生が心の底から「嫌だ」とは思わない。もしかしたらまた、あの人に会えるかもしれないから。

放課後、正門のところで須田先輩が立っていた。先輩はこちらを見ると笑顔で手を振ってくれた。その笑顔は、きっと「私」には向けられていないんだと思うと胸がギュッと締め付けられて抉られた気がした。この人も、「顔」だけを見て笑ってるんだ。無視して横をとおりすぎていく私にピッタリと着いてきた先輩を払い除けることは出来なかった。

「先輩、私はあなたの告白を丁寧にお断りしましたよね?こういうのは辞めてください。」

先輩の顔も見ずに私は言った。

「うん、断られた。」

それ以上、先輩は何も言わなかった。
どこか、焦れったい空気に耐えきれなかった。

「先輩も…先輩も!どうせ私の顔にしか興味ないんですよね?!」

思わず口からとび出た。先輩はまだ声を発さなかった。それは、当たりだから?疑問は核心へと変わっていく。

「ごめんね、キッカケは君の顔に雰囲気に目を持っていかれたからなんだ。
でも、君の事を見ているうちにもっと君のことを知りたいと思ったんだ。お願い、信じて。」

先輩は、子犬のような瞳で私を見てくる。今にも泣き出しそうな瞳だった。
先輩は私のことをみていた?
先輩は、1度私に告白してきてからは正門の所でしか私と会っていない。分からないこともあるけど、今確かに心がホッとしている。

「信じて貰えなくてもいい。でも、君は僕と合わない方がいいよね。今日の昼放課に君が女子生徒5人ほどに連れていかれる所を見たって人がいて…守れなかった。今日で終わりにするから…ほんとにごめん。」

呼吸音と鼓動がよく聞こえた。

「先輩…今日で終わりにしなくてもいいんじゃないんですか?」

こんな言い方しかできない自分に呆れる。
伝われ。伝われ。
今私がこの言葉を発した意味はまだ分からないけど、いつかわかる時が来るならその時は先輩といたい。
先輩の耳は赤くなっていた。焼けた肌に深い赤色が乗っかってとても、可愛く見えたのは気のせいですか?それ以上は、何も言わなかった。
先輩は、電車通学なので途中で別れた。
私は、自宅近くの公園に寄る。
木製の古い椅子の下のダンボールには子猫がいるのだ。ご飯をあげたいのは山々だが、私にそんなお金はない。ごめんね。私が見つけて。
夕方6時頃。段々と、日が落ちるのが早くなる。そろそろ、帰らなければいけない。我が家へ。

我が家とは
自分の家。または、自分の家庭。

私は、家のドアを開ける。
いつも耳にしている母と父の声。その声が私に向けられない事が、嬉しく感じる。その日は、自分の部屋に閉じこもり母と父が寝静まった真夜中に夜ご飯を作り食べる。
朝は、4時に家を出て24時間営業のネカフェに入り6時まで仮眠をとる。先輩に私の気持ちを伝えてからの生活はなんだか鮮やかだった。土日は、先輩と一緒にお出かけもした。でも、ふとした瞬間に鏡や窓ガラスに移る私の顔を見てしまうと吐き気がした。それでも、先輩と外を歩くのを辞められなかった。
ある日、家に帰ると母と父が私に向けていつも耳にしている言葉を発した。今日は言葉だけじゃ終わらないんだな…痛いってなんだろう。
いつもより、長い時間背中に違和感を感じた。父が吸っていたタバコを私の腕に押し付けたりしてきた。母は、自分に危害がないとわかると寝室へと姿を消した。父も母も毎回、服で隠れる背中やお腹、ふくらはぎ や腕に後を残した。だが、前からそうだったわけじゃない。小学1年生ぐらいまでは服で隠れないところにも後を残していた。それが、学校で問題視され父と母は疑惑の目で見られるようになった。それを気に服の下に変えたらしい。私からしたら、違和感に変わりはないからどうでもいいんだけど。あぁ、でも「顔」は1度も血で滲んだことも青黒く腫れ上がったりもしていないな。一番、汚して欲しいところが一番綺麗だった。父も母も結局は私の「顔」だけが必要としてるんだ。私は、何を夢みたことをやっていたんだろう。私は、、私の「顔」しか必要とされていない人生を終わらせるんだ。
そこには、「恐怖」も「いじめ」もましてや「虐待」なんかない。「先輩」なんかも…ただ純粋に「死」を感じたい。
骨がギシギシとしなる音や固いものが肉に当たる音が部屋に響く中、私はそっと思う。
明日こそ死のう…
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