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第三話「旅の始まり」
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「・・・ハァ・・・・・・まだ終わらないか・・・。」
木々が生い茂る森の奥。そこにある小さな木製の家で、女性は一人溜息を吐く。
「コート・・・取られてしまったな・・・・・・・・・まあいい・・・・・・・・・あれだけでは・・・・・・此処を特定する事は出来ないだろう・・・・・・・・・」
女性は厳重に鍵のかけられている扉を開け、中に入る。
「・・・・・・・・・・・・早く研究を終わらせなければ・・・・・・。」
「ひ・・・い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「・・・・・・・・・。」
保母は慌てふためいて逃げて行く。
「ど、どうしたのあなた!?」
「も、もう無理です!あの子の世話は出来ません!」
「だから言ったでしょう!あの子には近付くなって!・・・・・・はぁ、今日はもう休みなさい。」
「は、はい・・・・・・。」
「全く・・・。いっつも新人の保母はあれだけ言っても、あの子に下手に話し掛けるんだから・・・。」
「再三釘を刺したのだけれどね。」
「皆、子供だからって大丈夫だと思っているのよ。少なくとも自分なら大丈夫って。上手く手懐けられるって。・・・・・・そんな訳無いのにね。」
「結局、あの子にまともに近付けるのはミアさんだけね。」
「ええ・・・。何でもあの子の母親の友人だったらしいわ。」
「ああ・・・。それで・・・。」
ガバッ・・・!
「はぁ・・・はぁ・・・。」
エミーは辺りを見渡す。そこは落ち着いた雰囲気の静かな寝室だった。
今のは・・・・・・夢か・・・・・・。本当にこの世界、『魔女の世界』での出来事が夢で、それが覚めて孤児院に戻ってきてしまったのかと思った。
「・・・・・・・・・・・・。」
この世界は、夢じゃないんだ・・・。
「・・・・・・よ・・・かった・・・・・・。」
・・・・・・なんでほっとしてるんだろう。・・・孤児院に戻りたくないから?それとも・・・。
・・・・・・・・・またあの人に出会えるから?
「・・・・・・。」
エミーがふと窓の方を眺めると、空が朱色に染まっていた。夕方だ。この世界にも夕方はあるのか。
「んん・・・・・・!」
両手を上げて伸びをする。エミーはさっきよりも、大分落ち着いている。すると・・・。
スンスン・・・
良い匂いがする。エミーはゆっくりと立ち上がり、扉をそっと開ける。
ペタ・・・ペタ・・・ペタ・・・
エミーはベッドの側に用意されてあったサイズの大きいスリッパを履いて、ゆっくりと階段を降りていく。
「あ!エミー!起きた?今丁度晩ご飯を作っているの。きっとエミーも気に入るわよ!」
ゾーエがキッチンで料理をしている。
「ん・・・・・・・・・。」
また会えた。エミーは少し暖かい気分になる。
「・・・?」
この感覚は、何なんだろう?やっぱりこの感覚にも名前があるのかな?エミーはそんな事を考えながら、ゾーエの側に行く。
「エミー?何作ってるか気になるの?」
「ん・・・・・・。」
エミーは背伸びをしながら、キッチンを眺める。
「今はシチューを作っているのよ。エミーは食べた事ある?」
エミーは首を横に振る。けれどとても良い匂いがするから、きっとこれは『美味しい』なのだろう。エミーはそんな事を思いながら、鍋を眺める。
「もうそろそろで出来るわよ!ソファで食べましょっか!」
「ん・・・・・・。」
ゾーエが鍋をソファの傍にあるテーブルに持っていく。テーブルには皿とスプーンが二つずつ用意されていた。
エミーはゾーエの後ろを着いて行く。二人はゆっくりとソファに座った。
「・・・・・・!」
エミーは鍋の中を覗く。白っぽいスープの様な食べ物だ。ゾーエがシチューを皿に注いでいく。エミーはその様子をじっと見つめている。
「はい、どうぞ!熱いからゆっくり食べるのよ。」
フーッ・・・フーッ・・・パクッ・・・
「・・・!」
温かい・・・。食べた事の無い味だが、スプーンが止まらなくなる。
「どう?」
「ん・・・おい・・・しい・・・。きに・・・いった・・・。」
「そう!良かったわ!」
エミーの反応を見た後、ゾーエもシチューを食べ始める。
「ん!美味しく出来たみたい!」
二人でシチューを食べる。・・・・・・何だかずっと前から、こうして二人で暮らしていた様な気がする。
エミーはそんな気持ちになる。そしてそれは、ゾーエも同様に感じている気持ちだった。
晩ご飯を食べ終わり、後片付けをした後、二人はソファに座っていた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
二人は特に何かを話す訳でもないのだが、気まずさとかは感じない。二人でいると自然と落ち着く。・・・・・・しかし、ゾーエは今確認しておかなければいけない事があった。
中々切り出せない。・・・・・・もしエミーがそうしたいと言ったら・・・・・・いや、それはエミーが決める事だから、口出しなんて出来ない。・・・・・・取り敢えず、聞かないと。
「ねえ、エミー?」
「ん・・・。」
「もう夜ね。」
「ん・・・。」
「・・・・・・どうしても今、確認しておかなきゃいけない事があるの。」
「・・・・・・?」
「昼間だと戻りにくいし、戻るなら今だと思うの。」
「・・・?」
ゾーエは少し寂しそうな顔で、しかしそれを隠すかの様にして、エミーに聞く。
「・・・・・・ねぇ、エミーは、向こうに帰りたい?・・・・・・元の世界に・・・・・・。」
エミーが答える前に、ゾーエは続けて喋る。
「あ!別に気を遣ったりしなくていいからね!正直に答えて欲しいから・・・・・・。」
エミーは、正直に答える。
「かえ・・・りたく・・・ない・・・。・・・ここに・・・いたい・・・・・・。」
それがエミーの正直な気持ちだった。もちろん、孤児院に愛着は無いし、戻りたいと思わないからというのもある。けれど、それ以上に・・・・・・。ゾーエにもう会えなくなる。エミーにはそれが何より嫌だった。この世界も、向こうよりよっぽど居心地が良い。それに・・・・・・・・・・・・。ヤツはまだこの世界に居る・・・・・・。母の仇を取らないと・・・・・・。
ゾーエは少し表情が綻んだ様子で、エミーに言う。
「・・・そっか!そうね。私も貴女が居なくなると寂しいし。・・・・・・どうしてかしらね。今日会ったばかりなのに、貴女と居ると、ずっとこうしていた様な気持ちになるの。・・・・・・不思議ね。」
エミーはゾーエの方に顔を向ける。
「・・・わた・・・しも・・・・・・いっしょ・・・。ふし、ぎ・・・・・・。」
「あら、エミーも?ほんとに不思議ね!」
「ん・・・。」
その時ハッと、エミーはある事を思い出す。
「ゾー、エ・・・。」
・・・!エミーが私の名前を呼んだ。ゾーエは何だか嬉しくなる。
「なぁに、エミー?」
「おし・・・えて・・・ほしい・・・こと・・・・・・たく・・・さん・・・ある・・・。」
「ええ!私に教えられるものなら、幾らでも教えるわ!」
その日二人は、夜遅くまで話した。
あれから、様々な事を学んだ。得体の知れないあの感覚を、『不安』と言う事。気に入ったものに惹き付けられる様な感覚を、『好き』と言う事。それ以外にも、魔女の世界、魔法の存在の事を少しずつ教えて貰った。気が付けばここで半月程暮らしていた。一歩ずつ、ほんの一歩ずつだが、エミーは『怒り』と『憎しみ』以外の感情を取り戻し始めていた。
「魔女はね、皆宝石の様な瞳を持っているの。一人一人に様々な宝石の色彩が、こめられているのよ。エミーの瞳も、宝石の力を持っているわ。」
「どんな・・・ほうせき?」
「そうね、エミーの瞳はおそらく・・・・・・・・・・・・パイロープガーネット・・・・・・・・・・・・だと思うわ。美しく輝く深紅・・・・・・・・・。」
「ゾーエの・・・ほうせきは?」
「私?私はね、アウイナイトの色彩なの。ほら、私の眼、青いでしょ?アウイナイトも青い宝石なのよ。」
「きれい・・・。」
「ふふっ。ありがと。エミーの瞳も、とっても綺麗よ。」
「・・・ありがと。」
エミーは様々な事をゆっくりと学んでいく、この時間が好きだった。ゾーエも、エミーに沢山の事を教えるこの時間を愛おしく思っている。二人の距離は、確実に縮まっていた。
だが・・・・・・。
この半月、ゾーエはある可能性を考えていた。
それは、エミーが寝静まった夜の事・・・・・・。ゾーエは暖炉に当たりながら、ソファで一人、考えに耽っていた。
何かがおかしい。魔女にとって大切なものを、エミーは失っている。完全に失われた訳では無い様だが、あからさまに抑えつけられている。そもそも、何故エミーは魔女の世界も魔法の事も知らないのだろう。何故エミーは、元の世界に住んでいたのだろう。『扉』があるとはいえ、元の世界でずっと暮らしている魔女は居ない。・・・・・・元の世界で暮らしていたのには、何か理由があっての事?その理由を考えてみよう・・・・・・・・・。
「やっぱり、そうなのかしら・・・。」
魔女の世界の事も、魔法の存在も、エミーは一切知らなかった。・・・・・・エミーに、それらの存在を悟られたくなかったのか。もしかしたら、エミーに魔法を使わせない為に・・・・・・・・・。
「明日、確認しなきゃ。・・・・・・もし、本当にそうだとしたら・・・。この事を、エミーに伝えた方が良いのかしら・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・いえ、ちゃんと伝えるべきよね・・・。」
次の日、二人はいつも通りに過ごす。朝が来て、昼になり、そして日が沈んで行く頃、ゾーエはある話をエミーにする。
「エミー?ちょっといい?」
「・・・?」
丁度お風呂から上がってきたエミーを、ゾーエはソファに呼ぶ。エミーは、少し小走りでソファに向かう。
ポスンッ・・・
エミーがソファに座った後、ゾーエはゆっくりと話し始める。
「エミー。どうしても、確認しておかなきゃいけない事があるの。いい?」
エミーは何を確認するのかは分かっていなかったが、ゾーエになら大丈夫と、頷いた。
「ん・・・ゾーエなら・・・・・・だいじょぶ・・・。」
「ありがとう。別に危険な事じゃないから安心して。ただ・・・・・・エミーにかけられているかもしれない魔法を、確認するだけだからね。」
そう言ってゾーエは、両手をエミーの頭に置いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
それは一分程だっただろうか。その間二人は一言も喋らなかった。
ゆっくりと、ゾーエは頭から手を離す。
「・・・・・・・・・・・・やっぱり・・・・・・。」
ゾーエは少し悲しそうな顔でそう呟く。
「エミー。今から貴女に話しておきたい事があるの。・・・・・・・・・大丈夫?」
エミーは不安そうなゾーエの顔を見上げる。・・・・・・何かあったのだろうか。・・・・・・でも、大丈夫。ゾーエの言う事なら、受け止められる。
「だいじょぶ・・・・・・。」
「・・・・・・うん。」
「・・・・・・エミー、貴女にはね、ある魔法がかけられているの。」
「まほう・・・?」
「そう。・・・・・・そしてその魔法が、貴女の心を抑えつけている。」
「・・・どんな・・・・・・まほう・・・?」
ゾーエは少し深呼吸をして、エミーにその魔法の正体を言う。
「・・・・・・・・・封印・・・。・・・あらゆるものを封じ込める魔法よ・・・・・・。」
「ふう・・・いん・・・?・・・なにを・・・?」
「・・・・・・貴女の感情・・・。」
「かん・・・じょう・・・。」
「・・・・・・魔女が魔法を使うには、ある条件が必要なの。まず一つは、その魔法を発動出来るだけの魔力を保有している事。そして、もう一つが・・・・・・。」
少し間が空いた後、ゾーエは再び話す。
「・・・・・・その魔法を発動させるだけの、感情を持っている事・・・。」
「・・・エミー。貴女が上手く感情を表せないのは、封印されているからなの。・・・・・・魔法を発動出来ない様にする為に・・・。」
エミーは静かに聞いていた。・・・内心動揺していたが。本来自然と身に付いていく筈の感覚を上手く表現出来なかったのは、その為だったのだ。
しかしエミーは動揺しながらも、それを受け止める。・・・大丈夫。孤児院に居た時とは違う。だって、今は傍に信頼出来る人が居てくれるから。
するとゾーエが、エミーの肩に手をやり、微笑みながら語りかける。
「・・・大丈夫よ、エミー。解決策はあるわ。」
「・・・どん・・・な・・・?」
その封印が解かれたら、もっと色んな事を感じられる。もっと深く、もっと広く感じられる。エミーはゾーエにその解決策を聞く。
「エミー、元の世界に居た頃に、不思議な事が起こった事があるって言ってたでしょ?」
「ん・・・。」
「それはエミーが魔法を発現したから。強い感情を持ったからなの。」
「ん・・・。」
「・・・貴女に封印がかけられているって言ったでしょ?本来封印は、術者にしか解く事が出来ないの。」
「・・・・・・。」
「でも、封印には強さがあってね。強力なものもあれば、弱いものもある。・・・・・・普通の封印なら、術者にしか解く事は出来ない。他の誰も、それを解放する事は出来ないの。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「けど、弱い封印なら、一人だけ、術者以外でも解放出来る人がいるの。」
「だ・・・れ・・・?」
「・・・自分自身よ。」
「じぶん・・・じしん・・・?」
「そう。弱い封印なら、自分自身で解放する事が出来る。封印よりも、更に強い感情を持つ事でね。・・・・・・幸い、貴女の封印は、弱いものだったわ。解放する事が出来る。」
「でき・・・る・・・?」
「ええ。貴女の感情は封印されているけど、完全じゃない。大きな感情を持った時、その心は、少しだけど反応している。そして、とっても大きな感情を持った瞬間に、その封印は破れて、解放されるわ。・・・エミーは何度か、不思議な事を起こしているのでしょう?それは、その時持った感情がとっても大きかったからなの。・・・貴女はその感情の封印を解放出来たのよ。」
その時、エミーは思い出した。あの暴風、大気の揺れ。あれが自分が起こした魔法だったとしたら、その時抱いた感情は・・・・・・・・・。
それは紛れも無く、『怒り』と『憎しみ』だった。
母を殺されたという事実、そしてその犯人であるハヴァーの姿を見た時、怒りと憎しみが頂点に達した。その時、エミーは人知れず、怒りと憎しみの篭った魔法を発動していたのだ。
だが、エミーはある事が引っかかっていた。・・・ではあの時は?あの時も爆発的な怒りと憎しみが湧いた。けれど、不思議な事は起こらなかった。それに比べ、大して大きくもない怒りを持った時に、不思議な事が起こった事もある・・・。孤児院に暮らす他の子供達や、保母達が話しかけてきた途端、気絶して倒れた。その後、皆恐怖で震え上がって逃げていった。今考えればあれも不思議な事だ。・・・あれも魔法だったのだろうか?だったら何故、あの時は何も起こらなかったのだろうか?
エミーはその矛盾に疑問を抱えていた。しかし、疑問を抱えているのはエミーだけではなかった。
何故、封印の力が弱いのだろう。魔法を完全に封じ込めるのなら、少なくとも第三位の封印を使う筈・・・。術者自身が低位の魔女なのか?・・・それも有り得るだろう。しかし、だったら何故、エミーに封印をかけたのだろうか。・・・完全に封じ込めようとはしなかったという可能性もある。・・・・・・・・・でも、今はそれは置いておこう。何にせよ、封印が弱かったお陰で、エミーは自分自身で感情を解放する事が出来るのだから。・・・・・・エミーは感情を取り戻す事が出来る。それが分かっただけでも上等だ。
二人が各々考えに耽っている中、突然エミーが口を開く。
「わたしの・・・かんじょう・・・。」
「え?」
「かいほう・・・された・・・かんじょう・・・。」
「分かる?自分が解放した感情が何か・・・。」
「ん・・・・・・・・・。」
二人で暮らし始めて半月程経ったこの日。エミーは初めて、自分の過去と、ここに来た経緯をゾーエに話した。
スー・・・スー・・・スー・・・
「・・・よく寝てる・・・。」
エミーは力強く、苦しそうな声で、でも、一生懸命に話してくれた。・・・話している途中、エミーは涙を流していた・・・。私は何て声をかけてあげればいいか、分からなかった・・・・・・。ただ、あの子を抱き締めてあげることくらいしか、私には出来なかった・・・・・・。・・・・・・少しでも、エミーの寂しさを埋めてあげたかった・・・。
エミーは泣き疲れたのか、私の腕の中で眠った。その後エミーを起こさない様に、二階の寝室に連れて行った・・・。
スー・・・スー・・・スー・・・
エミーはぐっすりと寝ている。しかしその目は、涙で赤く腫れていた。
ゾーエがゆっくりとエミーの頭を撫でる。
「・・・大変だったね・・・。大切なものを沢山失って・・・・・・一人でずっと抱え込んでたんだね・・・・・・。」
ゾーエはエミーの頭を撫でながら、起きない様に小さな声で囁く。
「エミー・・・・・・どうしてかしら・・・・・・。私、貴女と出会った時から、何か深い繋がりを感じてるの・・・。・・・・・・もしかしたらって、ずっと思ってるんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・貴女なの・・・・・・・・・?」
「んん・・・・・・。」
朝、エミーは目を覚ました。まだ少し眠たそうな顔で起き上がる。
「あ・・・。」
そこには、ベッドにもたれかかって、ぐっすりと眠っているゾーエの姿があった。
一晩中、傍に居てくれたんだ・・・。エミーは少し暖かい気分になる。・・・その時、昨日の話を思い出した。
「・・・大きな感情を持った時、その心は、少しだけど反応している・・・」
・・・・・・もし、色んな感情を解放していけば、もっと暖かい気分になるのかな・・・。
エミーはそんな事を考えながら、ゾーエに話し掛ける。
「ゾーエ・・・おきて・・・かぜ・・・ひいちゃう・・・。」
「ん・・・。ん~・・・。」
「ふとん・・・はいらないと・・・かぜ・・・ひいちゃう・・・よ・・・。」
「ん~・・・・・・。・・・・・・・・・・・・ハッ!」
ガバッ!っとゾーエは起き上がる。
「あれ、寝ちゃってた・・・。」
「おはよ・・・ゾーエ・・・。」
「あ、おはようエミー!」
二人が朝の身支度を終わらせた後、ゾーエが朝食の支度を始める。
調理はゾーエが、その他配膳等はエミーが担当している。「座ってていいのよ。」とゾーエは言ってくれたが、エミーは少しでも何か手伝いがしたかった。ゾーエにそれを伝えると、「手伝ってくれるの?ありがと。そうね・・・じゃあ、お皿とかコップとか出してもらおうかな?あ、でも、ケガしない様に気を付けてね!」と言ってくれた。それからエミーは、毎日家事のお手伝いをさせて欲しいと言い、そして今に至る。
ゾーエが調理をしている間、エミーが配膳等の支度をする。今ではそれが、二人の生活の一部になっていた。
朝食を食べ終わり、片付けが終わった後、二人はいつもの様にソファに座ってゆっくりしていた。
丁度十時位の頃だろうか。ゾーエがエミーに、ある話をする。
「ねえ、エミー?」
「ん・・・?」
「旅に出ない?二人で。」
「たび・・・?」
「そう。昨日話したけど、貴女の封印は解放する事が出来る。けど、感情を解放するには、封印を破る程のとっても大きな感情が必要になるわ。・・・この世界はとっても広いの。きっと旅に出れば、封印を解放する手助けになると思う。・・・・・・・・・貴女は、大切なものを、沢山失ってしまった・・・・・・。だから!大切なものを探す旅に出ない?」
「たいせつな・・・もの・・・。」
「そう。貴女には、沢山の大切なものを見つけてほしい。そして・・・・・・生きる事の喜びを、沢山感じて欲しいの。」
「いきる・・・よろこび・・・。」
「うん。」
「ゾーエも・・・・・・いっしょ・・・?」
「エミーさえ良ければ、どこまでも着いて行くわ。」
「なら・・・いく・・・。ゾーエと・・・たびに・・・。」
「うん!行こう!大切なものを探す旅に!」
「うん・・・!」
「エミー?支度は出来た?」
「できた・・・。」
「じゃあ・・・行こっか!」
「うん。」
二人は朝早く、家の外に出る。エミーは外から家を眺める。
「おうちは・・・?」
「ふふっ。・・・魔法は色んな事が出来るのよ!」
ゾーエは扉の隣りにある、自らの名前が彫られた部分を、そっと指でなぞった。すると・・・。
シューーーーーー・・・
家はあっという間にその場から消えた。
「この名前の刻印はね、お家を造る時に彫るものなの。この刻印があれば、好きな時に、何処にでも、お家を出現させる事が出来るのよ!」
「・・・・・・すごい・・・。」
「・・・魔女の世界には、もっと凄いものが沢山あるわ。きっとエミーにとっても、良い経験になるわよ。」
「・・・うん!」
「じゃあ、行きましょっか!大切なものを探す旅に!」
二人は手を繋いで歩き出した。この旅路は、二人にとってかけがえのないものになる。本当に大切な、愛おしい旅路。その軌跡が今、始まった。
木々が生い茂る森の奥。そこにある小さな木製の家で、女性は一人溜息を吐く。
「コート・・・取られてしまったな・・・・・・・・・まあいい・・・・・・・・・あれだけでは・・・・・・此処を特定する事は出来ないだろう・・・・・・・・・」
女性は厳重に鍵のかけられている扉を開け、中に入る。
「・・・・・・・・・・・・早く研究を終わらせなければ・・・・・・。」
「ひ・・・い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「・・・・・・・・・。」
保母は慌てふためいて逃げて行く。
「ど、どうしたのあなた!?」
「も、もう無理です!あの子の世話は出来ません!」
「だから言ったでしょう!あの子には近付くなって!・・・・・・はぁ、今日はもう休みなさい。」
「は、はい・・・・・・。」
「全く・・・。いっつも新人の保母はあれだけ言っても、あの子に下手に話し掛けるんだから・・・。」
「再三釘を刺したのだけれどね。」
「皆、子供だからって大丈夫だと思っているのよ。少なくとも自分なら大丈夫って。上手く手懐けられるって。・・・・・・そんな訳無いのにね。」
「結局、あの子にまともに近付けるのはミアさんだけね。」
「ええ・・・。何でもあの子の母親の友人だったらしいわ。」
「ああ・・・。それで・・・。」
ガバッ・・・!
「はぁ・・・はぁ・・・。」
エミーは辺りを見渡す。そこは落ち着いた雰囲気の静かな寝室だった。
今のは・・・・・・夢か・・・・・・。本当にこの世界、『魔女の世界』での出来事が夢で、それが覚めて孤児院に戻ってきてしまったのかと思った。
「・・・・・・・・・・・・。」
この世界は、夢じゃないんだ・・・。
「・・・・・・よ・・・かった・・・・・・。」
・・・・・・なんでほっとしてるんだろう。・・・孤児院に戻りたくないから?それとも・・・。
・・・・・・・・・またあの人に出会えるから?
「・・・・・・。」
エミーがふと窓の方を眺めると、空が朱色に染まっていた。夕方だ。この世界にも夕方はあるのか。
「んん・・・・・・!」
両手を上げて伸びをする。エミーはさっきよりも、大分落ち着いている。すると・・・。
スンスン・・・
良い匂いがする。エミーはゆっくりと立ち上がり、扉をそっと開ける。
ペタ・・・ペタ・・・ペタ・・・
エミーはベッドの側に用意されてあったサイズの大きいスリッパを履いて、ゆっくりと階段を降りていく。
「あ!エミー!起きた?今丁度晩ご飯を作っているの。きっとエミーも気に入るわよ!」
ゾーエがキッチンで料理をしている。
「ん・・・・・・・・・。」
また会えた。エミーは少し暖かい気分になる。
「・・・?」
この感覚は、何なんだろう?やっぱりこの感覚にも名前があるのかな?エミーはそんな事を考えながら、ゾーエの側に行く。
「エミー?何作ってるか気になるの?」
「ん・・・・・・。」
エミーは背伸びをしながら、キッチンを眺める。
「今はシチューを作っているのよ。エミーは食べた事ある?」
エミーは首を横に振る。けれどとても良い匂いがするから、きっとこれは『美味しい』なのだろう。エミーはそんな事を思いながら、鍋を眺める。
「もうそろそろで出来るわよ!ソファで食べましょっか!」
「ん・・・・・・。」
ゾーエが鍋をソファの傍にあるテーブルに持っていく。テーブルには皿とスプーンが二つずつ用意されていた。
エミーはゾーエの後ろを着いて行く。二人はゆっくりとソファに座った。
「・・・・・・!」
エミーは鍋の中を覗く。白っぽいスープの様な食べ物だ。ゾーエがシチューを皿に注いでいく。エミーはその様子をじっと見つめている。
「はい、どうぞ!熱いからゆっくり食べるのよ。」
フーッ・・・フーッ・・・パクッ・・・
「・・・!」
温かい・・・。食べた事の無い味だが、スプーンが止まらなくなる。
「どう?」
「ん・・・おい・・・しい・・・。きに・・・いった・・・。」
「そう!良かったわ!」
エミーの反応を見た後、ゾーエもシチューを食べ始める。
「ん!美味しく出来たみたい!」
二人でシチューを食べる。・・・・・・何だかずっと前から、こうして二人で暮らしていた様な気がする。
エミーはそんな気持ちになる。そしてそれは、ゾーエも同様に感じている気持ちだった。
晩ご飯を食べ終わり、後片付けをした後、二人はソファに座っていた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
二人は特に何かを話す訳でもないのだが、気まずさとかは感じない。二人でいると自然と落ち着く。・・・・・・しかし、ゾーエは今確認しておかなければいけない事があった。
中々切り出せない。・・・・・・もしエミーがそうしたいと言ったら・・・・・・いや、それはエミーが決める事だから、口出しなんて出来ない。・・・・・・取り敢えず、聞かないと。
「ねえ、エミー?」
「ん・・・。」
「もう夜ね。」
「ん・・・。」
「・・・・・・どうしても今、確認しておかなきゃいけない事があるの。」
「・・・・・・?」
「昼間だと戻りにくいし、戻るなら今だと思うの。」
「・・・?」
ゾーエは少し寂しそうな顔で、しかしそれを隠すかの様にして、エミーに聞く。
「・・・・・・ねぇ、エミーは、向こうに帰りたい?・・・・・・元の世界に・・・・・・。」
エミーが答える前に、ゾーエは続けて喋る。
「あ!別に気を遣ったりしなくていいからね!正直に答えて欲しいから・・・・・・。」
エミーは、正直に答える。
「かえ・・・りたく・・・ない・・・。・・・ここに・・・いたい・・・・・・。」
それがエミーの正直な気持ちだった。もちろん、孤児院に愛着は無いし、戻りたいと思わないからというのもある。けれど、それ以上に・・・・・・。ゾーエにもう会えなくなる。エミーにはそれが何より嫌だった。この世界も、向こうよりよっぽど居心地が良い。それに・・・・・・・・・・・・。ヤツはまだこの世界に居る・・・・・・。母の仇を取らないと・・・・・・。
ゾーエは少し表情が綻んだ様子で、エミーに言う。
「・・・そっか!そうね。私も貴女が居なくなると寂しいし。・・・・・・どうしてかしらね。今日会ったばかりなのに、貴女と居ると、ずっとこうしていた様な気持ちになるの。・・・・・・不思議ね。」
エミーはゾーエの方に顔を向ける。
「・・・わた・・・しも・・・・・・いっしょ・・・。ふし、ぎ・・・・・・。」
「あら、エミーも?ほんとに不思議ね!」
「ん・・・。」
その時ハッと、エミーはある事を思い出す。
「ゾー、エ・・・。」
・・・!エミーが私の名前を呼んだ。ゾーエは何だか嬉しくなる。
「なぁに、エミー?」
「おし・・・えて・・・ほしい・・・こと・・・・・・たく・・・さん・・・ある・・・。」
「ええ!私に教えられるものなら、幾らでも教えるわ!」
その日二人は、夜遅くまで話した。
あれから、様々な事を学んだ。得体の知れないあの感覚を、『不安』と言う事。気に入ったものに惹き付けられる様な感覚を、『好き』と言う事。それ以外にも、魔女の世界、魔法の存在の事を少しずつ教えて貰った。気が付けばここで半月程暮らしていた。一歩ずつ、ほんの一歩ずつだが、エミーは『怒り』と『憎しみ』以外の感情を取り戻し始めていた。
「魔女はね、皆宝石の様な瞳を持っているの。一人一人に様々な宝石の色彩が、こめられているのよ。エミーの瞳も、宝石の力を持っているわ。」
「どんな・・・ほうせき?」
「そうね、エミーの瞳はおそらく・・・・・・・・・・・・パイロープガーネット・・・・・・・・・・・・だと思うわ。美しく輝く深紅・・・・・・・・・。」
「ゾーエの・・・ほうせきは?」
「私?私はね、アウイナイトの色彩なの。ほら、私の眼、青いでしょ?アウイナイトも青い宝石なのよ。」
「きれい・・・。」
「ふふっ。ありがと。エミーの瞳も、とっても綺麗よ。」
「・・・ありがと。」
エミーは様々な事をゆっくりと学んでいく、この時間が好きだった。ゾーエも、エミーに沢山の事を教えるこの時間を愛おしく思っている。二人の距離は、確実に縮まっていた。
だが・・・・・・。
この半月、ゾーエはある可能性を考えていた。
それは、エミーが寝静まった夜の事・・・・・・。ゾーエは暖炉に当たりながら、ソファで一人、考えに耽っていた。
何かがおかしい。魔女にとって大切なものを、エミーは失っている。完全に失われた訳では無い様だが、あからさまに抑えつけられている。そもそも、何故エミーは魔女の世界も魔法の事も知らないのだろう。何故エミーは、元の世界に住んでいたのだろう。『扉』があるとはいえ、元の世界でずっと暮らしている魔女は居ない。・・・・・・元の世界で暮らしていたのには、何か理由があっての事?その理由を考えてみよう・・・・・・・・・。
「やっぱり、そうなのかしら・・・。」
魔女の世界の事も、魔法の存在も、エミーは一切知らなかった。・・・・・・エミーに、それらの存在を悟られたくなかったのか。もしかしたら、エミーに魔法を使わせない為に・・・・・・・・・。
「明日、確認しなきゃ。・・・・・・もし、本当にそうだとしたら・・・。この事を、エミーに伝えた方が良いのかしら・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・いえ、ちゃんと伝えるべきよね・・・。」
次の日、二人はいつも通りに過ごす。朝が来て、昼になり、そして日が沈んで行く頃、ゾーエはある話をエミーにする。
「エミー?ちょっといい?」
「・・・?」
丁度お風呂から上がってきたエミーを、ゾーエはソファに呼ぶ。エミーは、少し小走りでソファに向かう。
ポスンッ・・・
エミーがソファに座った後、ゾーエはゆっくりと話し始める。
「エミー。どうしても、確認しておかなきゃいけない事があるの。いい?」
エミーは何を確認するのかは分かっていなかったが、ゾーエになら大丈夫と、頷いた。
「ん・・・ゾーエなら・・・・・・だいじょぶ・・・。」
「ありがとう。別に危険な事じゃないから安心して。ただ・・・・・・エミーにかけられているかもしれない魔法を、確認するだけだからね。」
そう言ってゾーエは、両手をエミーの頭に置いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
それは一分程だっただろうか。その間二人は一言も喋らなかった。
ゆっくりと、ゾーエは頭から手を離す。
「・・・・・・・・・・・・やっぱり・・・・・・。」
ゾーエは少し悲しそうな顔でそう呟く。
「エミー。今から貴女に話しておきたい事があるの。・・・・・・・・・大丈夫?」
エミーは不安そうなゾーエの顔を見上げる。・・・・・・何かあったのだろうか。・・・・・・でも、大丈夫。ゾーエの言う事なら、受け止められる。
「だいじょぶ・・・・・・。」
「・・・・・・うん。」
「・・・・・・エミー、貴女にはね、ある魔法がかけられているの。」
「まほう・・・?」
「そう。・・・・・・そしてその魔法が、貴女の心を抑えつけている。」
「・・・どんな・・・・・・まほう・・・?」
ゾーエは少し深呼吸をして、エミーにその魔法の正体を言う。
「・・・・・・・・・封印・・・。・・・あらゆるものを封じ込める魔法よ・・・・・・。」
「ふう・・・いん・・・?・・・なにを・・・?」
「・・・・・・貴女の感情・・・。」
「かん・・・じょう・・・。」
「・・・・・・魔女が魔法を使うには、ある条件が必要なの。まず一つは、その魔法を発動出来るだけの魔力を保有している事。そして、もう一つが・・・・・・。」
少し間が空いた後、ゾーエは再び話す。
「・・・・・・その魔法を発動させるだけの、感情を持っている事・・・。」
「・・・エミー。貴女が上手く感情を表せないのは、封印されているからなの。・・・・・・魔法を発動出来ない様にする為に・・・。」
エミーは静かに聞いていた。・・・内心動揺していたが。本来自然と身に付いていく筈の感覚を上手く表現出来なかったのは、その為だったのだ。
しかしエミーは動揺しながらも、それを受け止める。・・・大丈夫。孤児院に居た時とは違う。だって、今は傍に信頼出来る人が居てくれるから。
するとゾーエが、エミーの肩に手をやり、微笑みながら語りかける。
「・・・大丈夫よ、エミー。解決策はあるわ。」
「・・・どん・・・な・・・?」
その封印が解かれたら、もっと色んな事を感じられる。もっと深く、もっと広く感じられる。エミーはゾーエにその解決策を聞く。
「エミー、元の世界に居た頃に、不思議な事が起こった事があるって言ってたでしょ?」
「ん・・・。」
「それはエミーが魔法を発現したから。強い感情を持ったからなの。」
「ん・・・。」
「・・・貴女に封印がかけられているって言ったでしょ?本来封印は、術者にしか解く事が出来ないの。」
「・・・・・・。」
「でも、封印には強さがあってね。強力なものもあれば、弱いものもある。・・・・・・普通の封印なら、術者にしか解く事は出来ない。他の誰も、それを解放する事は出来ないの。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「けど、弱い封印なら、一人だけ、術者以外でも解放出来る人がいるの。」
「だ・・・れ・・・?」
「・・・自分自身よ。」
「じぶん・・・じしん・・・?」
「そう。弱い封印なら、自分自身で解放する事が出来る。封印よりも、更に強い感情を持つ事でね。・・・・・・幸い、貴女の封印は、弱いものだったわ。解放する事が出来る。」
「でき・・・る・・・?」
「ええ。貴女の感情は封印されているけど、完全じゃない。大きな感情を持った時、その心は、少しだけど反応している。そして、とっても大きな感情を持った瞬間に、その封印は破れて、解放されるわ。・・・エミーは何度か、不思議な事を起こしているのでしょう?それは、その時持った感情がとっても大きかったからなの。・・・貴女はその感情の封印を解放出来たのよ。」
その時、エミーは思い出した。あの暴風、大気の揺れ。あれが自分が起こした魔法だったとしたら、その時抱いた感情は・・・・・・・・・。
それは紛れも無く、『怒り』と『憎しみ』だった。
母を殺されたという事実、そしてその犯人であるハヴァーの姿を見た時、怒りと憎しみが頂点に達した。その時、エミーは人知れず、怒りと憎しみの篭った魔法を発動していたのだ。
だが、エミーはある事が引っかかっていた。・・・ではあの時は?あの時も爆発的な怒りと憎しみが湧いた。けれど、不思議な事は起こらなかった。それに比べ、大して大きくもない怒りを持った時に、不思議な事が起こった事もある・・・。孤児院に暮らす他の子供達や、保母達が話しかけてきた途端、気絶して倒れた。その後、皆恐怖で震え上がって逃げていった。今考えればあれも不思議な事だ。・・・あれも魔法だったのだろうか?だったら何故、あの時は何も起こらなかったのだろうか?
エミーはその矛盾に疑問を抱えていた。しかし、疑問を抱えているのはエミーだけではなかった。
何故、封印の力が弱いのだろう。魔法を完全に封じ込めるのなら、少なくとも第三位の封印を使う筈・・・。術者自身が低位の魔女なのか?・・・それも有り得るだろう。しかし、だったら何故、エミーに封印をかけたのだろうか。・・・完全に封じ込めようとはしなかったという可能性もある。・・・・・・・・・でも、今はそれは置いておこう。何にせよ、封印が弱かったお陰で、エミーは自分自身で感情を解放する事が出来るのだから。・・・・・・エミーは感情を取り戻す事が出来る。それが分かっただけでも上等だ。
二人が各々考えに耽っている中、突然エミーが口を開く。
「わたしの・・・かんじょう・・・。」
「え?」
「かいほう・・・された・・・かんじょう・・・。」
「分かる?自分が解放した感情が何か・・・。」
「ん・・・・・・・・・。」
二人で暮らし始めて半月程経ったこの日。エミーは初めて、自分の過去と、ここに来た経緯をゾーエに話した。
スー・・・スー・・・スー・・・
「・・・よく寝てる・・・。」
エミーは力強く、苦しそうな声で、でも、一生懸命に話してくれた。・・・話している途中、エミーは涙を流していた・・・。私は何て声をかけてあげればいいか、分からなかった・・・・・・。ただ、あの子を抱き締めてあげることくらいしか、私には出来なかった・・・・・・。・・・・・・少しでも、エミーの寂しさを埋めてあげたかった・・・。
エミーは泣き疲れたのか、私の腕の中で眠った。その後エミーを起こさない様に、二階の寝室に連れて行った・・・。
スー・・・スー・・・スー・・・
エミーはぐっすりと寝ている。しかしその目は、涙で赤く腫れていた。
ゾーエがゆっくりとエミーの頭を撫でる。
「・・・大変だったね・・・。大切なものを沢山失って・・・・・・一人でずっと抱え込んでたんだね・・・・・・。」
ゾーエはエミーの頭を撫でながら、起きない様に小さな声で囁く。
「エミー・・・・・・どうしてかしら・・・・・・。私、貴女と出会った時から、何か深い繋がりを感じてるの・・・。・・・・・・もしかしたらって、ずっと思ってるんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・貴女なの・・・・・・・・・?」
「んん・・・・・・。」
朝、エミーは目を覚ました。まだ少し眠たそうな顔で起き上がる。
「あ・・・。」
そこには、ベッドにもたれかかって、ぐっすりと眠っているゾーエの姿があった。
一晩中、傍に居てくれたんだ・・・。エミーは少し暖かい気分になる。・・・その時、昨日の話を思い出した。
「・・・大きな感情を持った時、その心は、少しだけど反応している・・・」
・・・・・・もし、色んな感情を解放していけば、もっと暖かい気分になるのかな・・・。
エミーはそんな事を考えながら、ゾーエに話し掛ける。
「ゾーエ・・・おきて・・・かぜ・・・ひいちゃう・・・。」
「ん・・・。ん~・・・。」
「ふとん・・・はいらないと・・・かぜ・・・ひいちゃう・・・よ・・・。」
「ん~・・・・・・。・・・・・・・・・・・・ハッ!」
ガバッ!っとゾーエは起き上がる。
「あれ、寝ちゃってた・・・。」
「おはよ・・・ゾーエ・・・。」
「あ、おはようエミー!」
二人が朝の身支度を終わらせた後、ゾーエが朝食の支度を始める。
調理はゾーエが、その他配膳等はエミーが担当している。「座ってていいのよ。」とゾーエは言ってくれたが、エミーは少しでも何か手伝いがしたかった。ゾーエにそれを伝えると、「手伝ってくれるの?ありがと。そうね・・・じゃあ、お皿とかコップとか出してもらおうかな?あ、でも、ケガしない様に気を付けてね!」と言ってくれた。それからエミーは、毎日家事のお手伝いをさせて欲しいと言い、そして今に至る。
ゾーエが調理をしている間、エミーが配膳等の支度をする。今ではそれが、二人の生活の一部になっていた。
朝食を食べ終わり、片付けが終わった後、二人はいつもの様にソファに座ってゆっくりしていた。
丁度十時位の頃だろうか。ゾーエがエミーに、ある話をする。
「ねえ、エミー?」
「ん・・・?」
「旅に出ない?二人で。」
「たび・・・?」
「そう。昨日話したけど、貴女の封印は解放する事が出来る。けど、感情を解放するには、封印を破る程のとっても大きな感情が必要になるわ。・・・この世界はとっても広いの。きっと旅に出れば、封印を解放する手助けになると思う。・・・・・・・・・貴女は、大切なものを、沢山失ってしまった・・・・・・。だから!大切なものを探す旅に出ない?」
「たいせつな・・・もの・・・。」
「そう。貴女には、沢山の大切なものを見つけてほしい。そして・・・・・・生きる事の喜びを、沢山感じて欲しいの。」
「いきる・・・よろこび・・・。」
「うん。」
「ゾーエも・・・・・・いっしょ・・・?」
「エミーさえ良ければ、どこまでも着いて行くわ。」
「なら・・・いく・・・。ゾーエと・・・たびに・・・。」
「うん!行こう!大切なものを探す旅に!」
「うん・・・!」
「エミー?支度は出来た?」
「できた・・・。」
「じゃあ・・・行こっか!」
「うん。」
二人は朝早く、家の外に出る。エミーは外から家を眺める。
「おうちは・・・?」
「ふふっ。・・・魔法は色んな事が出来るのよ!」
ゾーエは扉の隣りにある、自らの名前が彫られた部分を、そっと指でなぞった。すると・・・。
シューーーーーー・・・
家はあっという間にその場から消えた。
「この名前の刻印はね、お家を造る時に彫るものなの。この刻印があれば、好きな時に、何処にでも、お家を出現させる事が出来るのよ!」
「・・・・・・すごい・・・。」
「・・・魔女の世界には、もっと凄いものが沢山あるわ。きっとエミーにとっても、良い経験になるわよ。」
「・・・うん!」
「じゃあ、行きましょっか!大切なものを探す旅に!」
二人は手を繋いで歩き出した。この旅路は、二人にとってかけがえのないものになる。本当に大切な、愛おしい旅路。その軌跡が今、始まった。
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