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第十八話「あの草原へ」
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「・・・ー・・・!・・・れ、す・・・・・・・・・い・・・・・・よ!・・・・・・・・・の・・・だ・・・・・・・・・ぶ・・・な・・・!・・・・・・て・・・て!」
「・・・・・・とだ!・・・・・・ご・・・・・・お・・・・・・・・・!」
「で・・・・・・!こ・・・を・・・・・・った・・・・・・し・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・・・つ・・・・・・!」
「・・・ん!・・・・・・え・・・!」
・・・・・・暖かい・・・暖かい・・・ああ・・・とても・・・楽しい・・・・・・
「よし・・・・・・!エミー!準備出来たー?」
「うーん!」
ゾーエは一階から二階にいるエミーに呼びかける。すると、二階から元気な返事が返ってきた。
少しするとエミーは一階に降りて来る。
コツコツコツコツコツコツ・・・・・・!
階段を降りるエミーの耳には、キラキラと揺れるイヤリングが付けられてある。
「じゃあエミー!出発しよっか!」
「うん!」
二人は玄関のドアを開ける。
ガチャ・・・ギィィィ・・・・・・!
ゾーエは玄関にある名前を指でなぞる。
シューーーーー・・・・・・・・・
「この街とも暫しのお別れね・・・・・・良い思い出が沢山出来たわ!」
「うん!沢山の思い出が本に詰まったよ!本当に楽しかった!」
「良かったわ!・・・・・・じゃあ、行きましょうか!」
二人は箒を取り出す。そして箒に跨り、空に浮き始める。
街が見渡せる程上に来た時、遠くの丘から大きな声が聞こえてきた。
「ゾーエさーーん!!!エミーちゃーーん!!!また来てねーー!!!」
「二人共ーー!!!いつでも寄って下さいねーー!!!」
ゾーエとエミーは声のする方を振り向く。そこには、クレアとオリヴィアが遠くに小さく見えた。
ゾーエとエミーも、二人に届くように大きな声で言う。
「!!・・・ええーー!!!また会いましょーー!!!」
「また絶対来ますねーー!!!」
四人は手を振りながら、暫しの別れといつかの再会を告げた。
湖の街がどんどんと離れていき、小さくなっていく。次の旅の目的地は、まだまだ遠い。二人は南東に向かって飛んで行く。
箒で飛びながら、二人は話をする。
「皆は二日に分けて街まで来たんだって。結構離れてるんだよね?」
「そうね、少し速めに飛ばしても二日は掛かると思うわ。まあ思いっきり飛ばせばもっと早く着くでしょうけど、それだと疲れちゃうからね。折角なら、元気な状態で会いたいでしょ!」
「うん!折角皆と会うのに、疲れちゃってたら勿体無いもんね!」
「ええ!だから少しずつ休憩を挟みながら行きましょ!」
「そうだね!・・・・・・そういえば私、思いっきり飛ばした事無いな。思いっきり飛ばしたら、どれだけの速さになるの?」
「物凄い速さになるわよ。その分、制御が難しくなるけど。風の抵抗もあるし。それに、あまりに飛ばし過ぎたら箒の劣化が早くなっちゃうから、思いっきり飛ばす事はあまり無いわね。」
「箒の劣化・・・・・・!?」
・・・・・・それだけは嫌だな・・・ゾーエから貰った大切な箒だし・・・・・・
「まあ思いっきり飛ばせばの話だけどね!心配しなくても大丈夫よ。そうそう劣化しないから。」
「ほんと・・・・・・?ずっとこの箒使っていける?」
「ええ!ずっと使っていけるわよ!」
「よ、良かったぁ・・・・・・!」
エミーは安堵する。
箒は速度を上げれば上げるほど、劣化が早くなる。だが劣化と言えど、すぐすぐ駄目になってしまう訳では無い。例えば通常の箒で思いっきり飛ばし続けたとしても、二十年は持つと言われている。普通の速度で飛ばせば五十年は持つ。良い物なら普通に飛ばして百年、最速で五十年も持つ。一級品ともなれば、普通に飛ばして二百年、最速でも百年以上は持つと言われる。
しかし、エミー自身は知らないが、エミーの乗っている箒は『ヴァンツ・ズァロ・フィオン』という箒である。超が付く程の一級品。それは、『永久品』とまで言われる箒だ。どれだけ飛ばそうがほぼ劣化する事は無い。更にその性能は、唯一無二のものである。
ヴァンツ・ズァロ・フィオンは古代魔女語で、『風と共に飛ぶ』という意味だ。本来箒は風の影響を受けやすいのだが、その中で唯一、『風を味方に出来る箒』である。どんな暴風だろうとその抵抗を受けない。逆に、風を上手く操る事によって、最高峰のスピードを出す事も出来る。正にその名の通り、風と共に飛ぶ箒である。
しかしゾーエはその事を、エミーにまだ伝えられていない。
・・・・・・順番間違えちゃったかしら・・・箒の性能を伝えてから、私が造った事言った方が良かったかしら・・・いやけど、どっちにしても気恥しいわよね・・・あの時思わず、私が造った事言っちゃったから・・・でもマヤが、いつかは気付かれる、って言ってたわね・・・確かにいつかは絶対気付かれるわよね・・・私が造った事も、箒の事も・・・じゃあ今伝えても良いかしら・・・ああでも気恥しい!!心の準備が!!・・・・・・
ゾーエは心の中で葛藤している。するとエミーがゾーエに話しかける。
「?・・・どうしたのゾーエ?」
「え!?えーっとねー・・・・・・・・・」
・・・・・・つ、伝えるか!・・・・・・
「じ、実はね!その箒なんだけど!・・・・・・・・・・・・・・・・・・殆ど劣化しない様に造ってあるから、使えなくなる事は無いわ!安心して!」
・・・・・・い、今はこれが精一杯だわ・・・・・・
「!!・・・す、凄い!!この箒殆ど劣化しないの!?良かったぁ!!ゾーエはそんな凄い箒が造れるんだね!!」
「!!・・・え!あ!えと!・・・あ、ありがとう・・・・・・・・・!」
ゾーエの顔が赤くなる。エミーに褒められると、どうしても隠しきれない。
・・・・・・こ、これだけでも動揺しちゃうのに・・・も、もし箒の性能とかあれこれを全部エミーに知られちゃったら、私どうなってしまうの!?・・・こ、心の準備を・・・心の準備をしておかなくちゃ!!・・・・・・
ゾーエがエミーに、ヴァンツ・ズァロ・フィオンの事を話せるようになるのは、まだ随分先のようだ・・・・・・・・・。
暫く飛んでいると、景色が少しずつ変わってくる。平坦な大地から、少し隆起した大地へ。短い草だけが群生した大地から、木々が点々と増えていく大地へ。少しずつ、少しずつ変わっていく。
木々の種類も様々だ。小さな木から大きな木まで。真っ直ぐな木から曲がりくねった木まで。
箒で空から眺めていると、その変化がよく分かる。真下を見ても、遠くを眺めても、綺麗な景色が広がっている。
次第に木々が増えてくる。心地良い風が肌を撫でていく。そして、陽の光が真上に到達する。
「そろそろお昼ね。エミー、ここでお昼ご飯にしましょう!ちょうど良いものもあるし!」
「うん!・・・・・・・・・良いもの?良いものって?」
「ふふっ!降りれば分かるわよ!」
二人は降下していく。周りには色んな木々がある。
ストンッ・・・・・・・・・!
「・・・っしょっと!・・・・・・・・・・・・・・・あ!」
大地に足をつけて周りを見た瞬間、エミーはその、『良いもの』が何かを知る。
「わあ!果物だ!木に引っ付いてるの初めて見た!」
「そうね!今まで料理する時にしか見てないもんね!ここには沢山の果物が生っているの!ピュライネと同じ様にここの大地には魔法がかかっているとされていて、次々に果物が生るのよ!だからここにある果物なら、限度を越えなければ収穫していいのよ!」
「ほんと!?じゃあ食べれるの!?」
「ええ!一人につき一日六つまで!けど正直六つも食べ切れないし、果物は腐りやすいから、食べれる量だけね!」
「うん!分かった!・・・・・・ほんとに沢山生ってるね・・・・・・迷うなー・・・・・・知らない果物もいっぱいあるし・・・・・・・・・・・・ねえ!ゾーエのオススメは!?」
「私のオススメ?そうねぇ・・・・・・・・・・・・・・・あ!凄く美味しい果物があるわよ!『ジュドエーク』っていう魔法の果物の一つなの!」
「魔法の果物!?普通の果物とは違うの!?」
「まあ似た様なものだけど、違いを言うなら・・・・・・普通の果物はエミーの知ってる様に、魔法を使わなくても生るけど、魔法の果物は、ある魔法を使わないと生らないの。」
「どんな魔法なの?」
「五元素魔法よ!」
「えーっと・・・・・・・・・あ!分かった!『命』の元素魔法だね!」
「半分正解!!実はもう一ついるの!」
「え!?もう一つ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水!!」
「残念!」
「え!?・・・・・・水じゃなかったら・・・・・・・・・・・・あ!分かった!これは絶対当たってる!ズバリ!土だね!」
「正解!土の元素魔法の応用によって、大地に恵みを与える事が出来るの!そこに、更に命の元素魔法を発動させる事によって、魔法の木が生えてくるのよ!そうやって魔法を駆使して誕生したのが、魔法の果物と言われているの!だから魔女の世界にしか存在しない果物なのよ!」
「その魔法の果物の一つが、ジュドエーク?っていう果物なんだね!」
「そう!とっても甘くて果汁もたっぷりあるの!それに後味もサッパリしててくどくない!とっても美味しいわよ!」
「き、気になる!それ食べたい!」
「じゃあお昼ご飯食べた後、デザートで食べましょ!探せば直ぐに見つかると思うわ!」
「わーい!やったー!楽しみ!」
「ね?ちょうど休憩にはピッタリの場所でしょ!」
「うん!ゾーエの美味しいご飯を食べた後、デザートに果物!良い休憩場所だね!」
「ええ!じゃあ早速、お昼ご飯食べましょっか!デザートもあるから、いつもよりちょっと少なめの方が良いかしら?」
「そうだね!他にも色んな果物食べてみたいし!」
「よし!じゃあ先ずは果物を探しましょ!お昼ご飯の間に冷やしておけば、丁度良いくらいになると思うわよ!」
「わあ!楽しみ!早速探そ!?」
「ええ!」
二人は昼食の前に、先ずはデザートの果物を収穫しに行った。
色んな木々の中を二人は歩く。色とりどりの果物が沢山生っている、とても幻想的な場所だ。
ゾーエは果物を入れる為のカゴを持っている。エミーは興味津々で辺りを見渡す。よく知っている果実もあれば、見た事の無い果実もある。
「あ!リンゴだ!・・・・・・・・・あれ?ほんとにリンゴかな・・・・・・?赤くない・・・・・・ちょっと黄色い・・・・・・・・・。」
「ああ、あれはナシっていうのよ!リンゴの形に似てるでしょ!でも、食べてみたら全然違うのよ!」
「リンゴみたいなのに、全然リンゴとは違うのか・・・・・・気になる!」
「じゃあ一つ目は、ナシにする?」
「うん!ナシ!食べてみたい!」
エミーはナシの木に近付く。しかし・・・・・・・・・
「と、届かない・・・・・・」
スクッ・・・・・・!
ゾーエがエミーを持ち上げた。
「わ!わわ!」
「これで届くでしょ!」
「う、うん・・・・・・・・・!」
エミーは少し照れてしまう。
「果物を持って、上にあげてご覧!」
「う、上に・・・・・・?」
ゾーエに言われた通り、エミーはナシを持ち、ゆっくりと上に上げてみる。すると・・・・・・
プツンッ・・・!
ナシが簡単に取れた。
「!・・・お、おお・・・・・・!取れた・・・・・・!」
ゾーエはゆっくりとエミーを下ろす。
「上手く取れたわね!」
「うん!」
二人が歩いていると、少し変わった形の果物を見付ける。
「あれ、何か丸いけど、上は細長いね。」
「あれもナシよ!」
「え!?あれもナシなの!?全然形違うよ!?」
「同じ果物でも色んな種類があるの!もちろん味も違うのよ!」
「・・・・・・・・・果物っていっぱいあるんだね・・・・・・!」
「ええ!沢山あるのよ!・・・・・・こんなにいっぱいあると、目移りしちゃうわね!」
「うん!ワクワクする!」
二人がそのまま色んな果物を見ていると、エミーがある果物を見付ける。
「!!・・・凄い綺麗!!あれ絶対美味しい!!」
それは、真ん丸で光沢のある、真っ白な果物だった。
ゾーエはエミーの見る方向を確かめる。
「・・・・・・あ!エミー!あれがジュドエークよ!魔法の果物の一つ!」
「!・・・あれがジュドエークなんだね!キラキラ光ってる!」
「魔法の果物の特徴の一つね!魔法の果物は特有の光沢を持つの!綺麗でしょ!」
「うん!デザートはナシとあれにする!」
「そうね!じゃあ取りに行きましょ!」
二人は魔法の果物である、ジュドエークの木の傍まで来た。
「わあ!葉っぱまで光ってる!見た目も魔法の木だね!」
「綺麗でしょ!じゃあエミー!私のも合わせて、二つ取ってくれる?」
ゾーエは再びエミーを持ち上げる。
「!!・・・う、うん!!」
少し照れながらも、エミーは果物に手を伸ばす。
「ゾ、ゾーエ・・・・・・これはどうやって取ればいいの?」
「果物を持って、ちょっと下げてご覧?」
エミーはゾーエに言われた様に、両手で果物を持ち、少しだけ下に下げてみた。すると・・・・・・
スン・・・・・・・・・
殆ど力を入れてないが、スルッと簡単に取れた。
「わあ!二つ取れたよゾーエ!」
「やったわねエミー!」
ゾーエの持つカゴには、四つの果物が入っている。ナシとスモモ、そしてジュドエークが二つ。今日の昼食後のデザートだ。
「じゃあ後はこれらを冷やして、お昼ご飯の後に食べましょう!」
「うん!楽しみ!今日のお昼ご飯は何にするの!?」
「そうね・・・・・・トマトスープと自家製パンなんてどうかしら?」
「おお!美味しそう!!私も料理手伝いたい!」
「ありがとう!じゃあ二人で作りましょう!」
「うん!」
二人はスペースのある場所に大きなシートを広げ、野外での昼食作りをする事にした。その間、ゾーエは水の元素魔法によってとても冷たい水を生み出し、先程収穫した果物を水の入った器に入れて、冷やしておく。
シートの上にはテーブルとベンチ、そして野外用の簡易な台所を置いた。二人は料理をする為の準備をした後、調理に取り掛かる。
自家製パンは時間が掛かるので、出発する前にゾーエが既に作っていた。後はトマトスープを作れば、昼食の完成だ。
「折角だから色んな具材入れていきましょうか!ジャガイモとかブロッコリーとか!キャベツとかも良いわね!」
「わあ!美味しそう!じゃあ私、キャベツ切るね!」
「包丁、気を付けてね・・・!?」
「大丈夫だよゾーエ!もう包丁の扱いには慣れたから!」
トントントントン・・・・・・
エミーの料理の上達ぶりは目を見張るものがある。いつの間にか凄く上手くなっていた。
「!!・・・エミー、料理の上達、もの凄く早いわよね・・・!」
魔法の特訓やレースの特訓の時はゾーエが料理を作っていたので、あまり多くの事は教えていないはずなのだが、気が付けばゾーエが教えている以上の事が出来るようにまでなっている。エミーの料理の上達ぶりは、魔法の上達よりも早い。
「い、いつの間にそんなに上手くなったの・・・?」
「上手い!?ほんと!?」
「ええ、かなり上手いわ・・・・・・!」
「んー・・・・・・・・・いつからなんだろう・・・・・・・・・よく分かんないや!いつの間にか!」
「エミーの料理の才能は、ずば抜けてるわね・・・・・・!」
「ゾーエにはまだまだ適わないよ!・・・・・・でもいつか、一人で上手に出来るようになったら、ゾーエにご飯を振舞ってあげたいな!」
「!!・・・楽しみにしてるわ!!エミーの手料理!!」
「うん!楽しみにしててね!」
ゾーエとエミーの息はピッタリ合っている。料理を一緒に作っていると、いつの間にか直ぐにトマトスープが出来上がっていた。
「「いただきます!」」
野菜がたっぷり入ったトマトスープに、色とりどりの自家製パン。更にデザートには、ひんやりとした果物。
エミーはトマトスープを食べる。
「!・・・美味しい!味が染みてる!」
「美味しいわね!パンに合いそう!」
エミーは次に自家製パンを食べる。
「ん~!もちもちしてて美味しい!ゾーエの言う通り、トマトスープとよく合うね!」
「ええ!色んな種類があるから、好きなだけ食べてね!」
モチモチしたパンに、サクサクしたパン、ふんわりしたパンに、外がカリッとしたパン。全てゾーエのお手製だ。
「ん~~!どれも美味しい!ゾーエは色んなパンも作れるんだね!」
「エミーも今度一緒に作ってみる?」
「良いの!?作ってみたい!」
「ええ!じゃあ今度一緒にパン作ってみましょ!」
二人は穏やかで楽しい昼食の時を過ごした。
「さあ!デザートよ!」
「わあ!美味しそう!」
ゾーエは切り分けた果物を皿に盛り付け持って来る。
「これがナシで、これがスモモ、ここがジュドエークよ!」
「わあ!た、食べていい!?」
「ええ!好きなの食べて!」
エミーはフォークでナシを刺してみる。そして一口、食べてみた。
シャクッ・・・・・・!
「!・・・果汁が凄い!見た目はリンゴに似てるけど、味は全然違うね!」
「でしょ!食感も独特で良いのよね!」
「うん!サッパリしてて美味しい!」
ゾーエはスモモを一口食べる。
「ん~!酸っぱくて美味しい!」
「スモモって酸っぱいの?」
「ええ!酸味が強い果物なの!丁度良い酸っぱさが好きなのよね!」
「私も食べてみていい!?」
「もちろん!」
エミーはスモモを一口食べる。
「!・・・酸っぱ~い!けど甘みもあって美味しい!」
「でしょ!」
そしてエミーは、ジュドエークをフォークで刺す。
「・・・・・・ツルツルしてる!」
「ふふっ!食べてみてご覧?」
「うん!」
エミーはゆっくりと一口食べる。
スルッ・・・ジュワッ・・・!
バチンッ・・・・・・!!
まるで電流が走る様な、そんな感覚が、エミーに駆け巡る。
「!!・・・・・・す、凄い・・・・・・!」
口に入れた瞬間、ジュワッと口の中で溶ける。強い甘みとほのかな酸味、良い香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい!」
「ふふっ!・・・エミーも気に入ると思ったわ・・・!」
「うん!気に入った!・・・・・・美味しいだけじゃなくて、なんだか・・・・・・・・・懐かしい味がする・・・・・・。」
「!!・・・・・・・・・・・・そうなの・・・・・・・・・?」
「うん!何となくそんな感じがする!」
「・・・・・・・・・良かった・・・・・・・・・」
その後も二人は、果物を食べながら楽しく過ごした。
「よし!じゃあ行こっかエミー!」
「うん!」
二人は箒に乗って空へと昇っていく。目的地へと再び飛び始めた。
二人は箒で飛びながら、色々な話をする。
「いつ頃あっちに着くの?」
「そうね、このペースだと大体・・・・・・明日の昼前には着けるわよ!」
「何日か滞在するんだよね!」
「ええ!」
「その間にさ、四人でヴィーグス・ノヴに行こう、って話になってるんだ!」
「あら!良いじゃない!あの街はとっても広いから、まだまだ行ってない場所も沢山あるし!皆でうんと楽しんでくるのよ!」
「うん!・・・行くの久し振りだなぁ!草原もヴィーグス・ノヴも!十一歳の誕生日の時以来だね!」
「そうね!遠声魔法の接続をしに行ったわね!・・・・・・今はエミーの遠声魔法の接続も、多くなったわよね!」
「うん!沢山の人達と出会えたから!・・・・・・・・・そういえば・・・・・・・・・」
「ん?」
「何で遠声魔法の道具って、私とゾーエで形が違うの?」
「私のはピアス型で、エミーのはイヤリング型だから、形が違うのよ!」
「私のは耳に挟む感じだけど、ゾーエのは違うの?」
「ええ、私のは耳に通す感じだから・・・・・・流石にエミーの歳でピアス通すのは、ね?」
「み、耳に通すって・・・・・・い、痛くないの!?耳に突き刺すの!?」
「まあ突き刺すって言えばそうなのかしら・・・・・・ちょっと難しい話だけど・・・・・・私達魔女の細胞は治癒能力が高いの。傷とか出来ても結構治りが早いのよ。昔は耳に小さな穴を開けて通してたんだけど、直ぐに塞がっちゃうから頻繁に開けなきゃいけなくてね。だから新しい方法で通すようになったの。それが今のピアスの通し方の原型になるんだけど、耳に穴が無くてもピアスを通せるの。ピアスの針を通す部分にほんのちょっとした魔法をかけてね。『透過魔法』って言うんだけど・・・・・・自由に扱うには高い技術力が必要になる魔法で。その魔法がかけられてある針を耳に刺したら、その部分にだけ透過魔法が発動するの。だから二回目からは、穴が塞がった後でもその部分だけ透過して、ピアスを着ける事が出来るようになるのよ。一度その魔法がかかった部分なら、どのピアスでも通せるの。針に透過魔法がかけられてあるそれ専用の器具があるんだけど。それで一度穴を開けて、後はその部分が塞がるのを待つの。二日くらいかしら。治癒魔法使えば直ぐだけど。そうすれば、もう穴を開けなくても大丈夫ってわけ。もし透過魔法がかかってある部分を塞ぎたくなったら、その部分に『命』の元素魔法の応用をすれば良いの。透過魔法がかけられてある細胞を元に戻すのよ。まあ『命』の元素魔法も扱うのが難しいから、器具にはその効果を持つプレス部分もあってね。それで透過魔法のかかっている辺りをグッと挟むと、透過魔法の効果も無くなるってわけ。・・・・・・そんな感じかしら。」
ゾーエはかなり博識だ。だがそれ故に、説明自体が長くなる。身振り手振りで説明するマヤとは違い、ゾーエは言葉だけで説明するので、子供だと分かりづらい事もしばしばある。
エミーはその話を聞いていたが、何となく理解した様な、してない様な感じだ。
「えーっと、つまり・・・・・・・・・・・・一度だけ耳に針を突き刺せば良いって事だね・・・・・・?」
「そうね、そういう事!」
「て事は・・・・・・・・・・・・結局耳に突き刺すの!?痛そう・・・・・・・・・・・・。」
「まあその辺は大丈夫よ!器具はちゃんと痛くない様に出来てあるから!」
「そうなの?」
「ええ!器具には、『ここに開けるのは大丈夫』って示してくれるポインターも付いてあるから、その辺は安心よ!」
「ぽ、ぽいんたー?」
「えーっと、そうね・・・・・・光の線みたいなのが、針の先から出てるの!ここは開けると痛いよって時は、赤い線が出てて、ここなら大丈夫だよって時は、青い線になるの!」
「??」
次第にエミーは混乱し始めた。
・・・・・・赤?青?線?・・・ん?・・・何の話してたんだっけ・・・耳に針を突き刺す話をしてたんだっけ・・・え?・・・・・・
エミーの頭には『?』がいっぱいだ。
「ちょ、ちょっと分かりづらかったかしら・・・・・・・・・?そういえば前に、マヤにも言われたのよね・・・・・・・・・。私って説明が下手くそなのかしら・・・・・・・・・。」
「そ、そんな事無いよ!赤い線が青くなって痛いよって事だよね!」
「・・・・・・じ、実物を見ましょう!百聞は一見にしかず、よ!」
「そ、そうだね!実際どんなのか見るのが一番早いね!」
「ええ!」
・・・・・・そういえば小さい頃、マヤに勉強教えてた時、あの子直ぐ寝ちゃってたわね・・・今思えば、私の説明がよく分からなくて寝ちゃってたのかしら・・・て事は、マヤの説明が上手なのは、私が反面教師になってたから?・・・上手く説明するのってどうやれば良いのかしら・・・今度マヤに聞いとかなきゃ・・・・・・・・・・・・・・・いや!もう今聞こう!・・・今遠声して大丈夫かしら・・・・・・・・・・・・し、してみるだけしてみよう!・・・・・・
「エミー!ちょっと待っててね!」
「?・・・・・・うん!・・・・・・・・・何を?」
「い、今から勉強するから!」
ゾーエはヒソヒソ声で遠声を始める。
「・・・マヤ・・・」
すると直ぐに返事が返ってきた。
「ゾーエ?どうしたの?何かあった?」
「あ、マヤ!今少し時間大丈夫?」
「まあ今日は休館日だから全然大丈夫だけど・・・・・・・・・どうしてそんなヒソヒソ声なの?」
「ま、まあ事情があって・・・・・・エミーにピアスの事色々と聞かれたの。説明したんだけど、何だかよく分かってないみたいで・・・・・・私ってやっぱり説明が下手くそなのかしら?」
「ええ。下手くそよ。特に子供相手だとね。」
「うっ・・・・・・・・・や、やっぱり・・・・・・・・・。ど、どうやったら上手く説明出来るの?」
「まず、何て聞かれたの?」
「えっと・・・・・・ピアスって耳に突き刺すの?痛くないの?って・・・・・・」
「・・・・・・・・・どうせ貴女、エミーちゃんに聞かれた以上の事いっぱい話したんでしょ?元々ああだったとか、これはこういう原理でこうなってる、とか。」
「ま、まあその方がより分かりやすいかなって・・・・・・」
「ゾーエ・・・・・・貴女の説明はエミーちゃんの質問から飛び出しているわよ・・・・・・エミーちゃんは現在のピアスの原理とか、器具の原理とか聞いてないもの。情報を一気に多く出すから、困惑しちゃうのよ。どうせ透過魔法が云々とかその塞ぎ方云々とか言ったんでしょ。そういう事は後回しで良いの!エミーちゃんがそこに疑問を持った時に答えてあげなさい!ピアスって痛くないのっていうエミーちゃんの疑問に答えなさい!」
「お、仰る通りです・・・・・・。」
「貴女は昔から一回の情報量が多いから・・・・・・大人ならその説明で良いわよ、大人ならね。けどエミーちゃんはまだ十二歳!十二歳なの!そんな余分な情報まで入れたら、話がきちんと整理出来ないでしょ!?そんなに痛くないわよ、の一言で良いの!それ以降にエミーちゃんが質問したらその時に、それに答えてあげるの!」
「ほんとに、仰る通りです・・・・・・。」
「はぁ・・・まあ貴女は昔からそうだもの。今から直せって言っても直ぐには直らないと思うけど・・・・・・アドバイスとしては、一気に情報を詰め込まない事!そして、実物とか見せながら、身振り手振りで説明する事!貴女今遠声魔法のピアスしてるんでしょ?それを見せながら説明すれば良いじゃない。こんな風になってるんだよって。」
「そ、それは何か恥ずかしくない!?エミーに耳元をじっと観察されるなんて!」
「それが出来なきゃ、説明も上手く出来ないわよ!?取り敢えず情報量をもっと絞りなさい?」
「わ、分かったわ・・・・・・!情報量を絞るのね!」
「ええ。後、エミーちゃんの知らない魔法や物の名前を無闇やたらに出さない事!そうなると貴女は、その説明まで話に入ってくるから!私も小さい頃、何度も混乱したわよ?」
「や、やっぱりそうだったの・・・?」
「ええ。訳分かんなくなっちゃって、睡魔まで襲ってくるくらいにね。」
「やっぱりそうだったのね・・・・・・」
「まあ説明の仕方に関しては、良い反面教師になったわ!」
「やっぱり・・・・・・そうだったのね・・・・・・」
「だから、エミーちゃんにはちゃんと段取り良く教えていくのよ?ゾーエが上手く説明出来るようになるの、応援してるからさ!」
「!・・・ええ!ありがとうねマヤ!」
「頑張ってね!」
マヤと遠声魔法を終えたゾーエは、早速エミーに話す。
「エミー!もう大丈夫よ!上手に説明出来ると思うわ!」
「!・・・今の間で!?」
「ええ!マヤから上手な説明の仕方を学んだの!じゃあ取り敢えず、さっき言った事は全部忘れて!」
「え!?全部!?」
「ええ!それで、エミーの質問・・・・・・ピアスは耳に突き刺すのか、痛くないのか、っていう事だけど・・・・・・耳に突き刺す訳じゃ無いの!そして、あんまり痛くないわよ!以上!」
「・・・・・・な、なるほど・・・・・・・・・耳に突き刺す訳じゃ無いんだね・・・・・・!あんまり痛くないんだね!」
「ええ!そういう事!」
照れ隠しの為に平静を装う様にしたり、説明を上手く出来るようになろうと努力したりと、ゾーエにはゾーエで色々な課題が生まれた。
そんな感じで、空の移動の間にも色々な事が起こっていた。二人はほぼ無言になる事は無く、常に色々な話をしている。その時間は二人にとって、とても愛おしい、楽しい時間だった。
そんな風に楽しく過ごしていると、気が付けばかなりの時間を飛んでいた。二日間に渡る移動。もっと掛かると思っていたが、やはり二人でいると全然時間を気にしなくなる。気が付けばあっという間に夕暮れ時になっていた。
「じゃあそろそろここら辺で一泊しましょうか!このペースだと、明日の十時には着きそうだし!丁度良い頃合だと思うわ!」
「うん!・・・・・・・・・ここら辺はもう草原地帯に入ってるね!」
「そうね!後少しで目的地へ行ける距離だと思うわ!明日の為にも、今日はゆっくり休みましょう!」
「うん!」
二人は草原へ降り立つ。ゾーエが家を置き、二人は中へと入っていった。
夕食を済ませ、お風呂にも入り、寝る準備もした。エミーは明日の為に、少し早めにベッドに入る。
「あ!そうだ!あの果物の名前書いておこっと!」
エミーは今日の昼食後に食べた果物の名前と見た目、その味を書いていく。ナシ、スモモ、そしてジュドエーク。
「どれも美味しかったな~!特にジュドエークが!」
エミーはジュドエークが余程気に入ったようだ。
本に書き終わった後、エミーは早めに灯りを消す。明日の為に、いつもより早く就寝した。
ゾーエはいつもの様に、ベッドであの本を読んでいた。ふと、今日の昼食の時を思い出す。ゾーエは本に語りかける様に呟いた。
「ねえ・・・・・・・・・もしかして・・・・・・・・・やっぱり・・・・・・・・・貴女は・・・・・・・・・・・・・・・」
まだ、分からない。確証は無い。だが、そんな感覚がする。そんな予感がする。その繋がりを感じる。
・・・・・・だって、食べてる時の表情も・・・あの言葉も・・・心から感じる、この深い繋がりも・・・貴女にしか、無いものだもの・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・そう遠くないかもね・・・・・・・・・・・・それまで、待ってるわ・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・いつか、話さないとね・・・・・・・・・全て・・・・・・
ゾーエは灯りを消し、眠りについた。
「・・・・・・とだ!・・・・・・ご・・・・・・お・・・・・・・・・!」
「で・・・・・・!こ・・・を・・・・・・った・・・・・・し・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・・・つ・・・・・・!」
「・・・ん!・・・・・・え・・・!」
・・・・・・暖かい・・・暖かい・・・ああ・・・とても・・・楽しい・・・・・・
「よし・・・・・・!エミー!準備出来たー?」
「うーん!」
ゾーエは一階から二階にいるエミーに呼びかける。すると、二階から元気な返事が返ってきた。
少しするとエミーは一階に降りて来る。
コツコツコツコツコツコツ・・・・・・!
階段を降りるエミーの耳には、キラキラと揺れるイヤリングが付けられてある。
「じゃあエミー!出発しよっか!」
「うん!」
二人は玄関のドアを開ける。
ガチャ・・・ギィィィ・・・・・・!
ゾーエは玄関にある名前を指でなぞる。
シューーーーー・・・・・・・・・
「この街とも暫しのお別れね・・・・・・良い思い出が沢山出来たわ!」
「うん!沢山の思い出が本に詰まったよ!本当に楽しかった!」
「良かったわ!・・・・・・じゃあ、行きましょうか!」
二人は箒を取り出す。そして箒に跨り、空に浮き始める。
街が見渡せる程上に来た時、遠くの丘から大きな声が聞こえてきた。
「ゾーエさーーん!!!エミーちゃーーん!!!また来てねーー!!!」
「二人共ーー!!!いつでも寄って下さいねーー!!!」
ゾーエとエミーは声のする方を振り向く。そこには、クレアとオリヴィアが遠くに小さく見えた。
ゾーエとエミーも、二人に届くように大きな声で言う。
「!!・・・ええーー!!!また会いましょーー!!!」
「また絶対来ますねーー!!!」
四人は手を振りながら、暫しの別れといつかの再会を告げた。
湖の街がどんどんと離れていき、小さくなっていく。次の旅の目的地は、まだまだ遠い。二人は南東に向かって飛んで行く。
箒で飛びながら、二人は話をする。
「皆は二日に分けて街まで来たんだって。結構離れてるんだよね?」
「そうね、少し速めに飛ばしても二日は掛かると思うわ。まあ思いっきり飛ばせばもっと早く着くでしょうけど、それだと疲れちゃうからね。折角なら、元気な状態で会いたいでしょ!」
「うん!折角皆と会うのに、疲れちゃってたら勿体無いもんね!」
「ええ!だから少しずつ休憩を挟みながら行きましょ!」
「そうだね!・・・・・・そういえば私、思いっきり飛ばした事無いな。思いっきり飛ばしたら、どれだけの速さになるの?」
「物凄い速さになるわよ。その分、制御が難しくなるけど。風の抵抗もあるし。それに、あまりに飛ばし過ぎたら箒の劣化が早くなっちゃうから、思いっきり飛ばす事はあまり無いわね。」
「箒の劣化・・・・・・!?」
・・・・・・それだけは嫌だな・・・ゾーエから貰った大切な箒だし・・・・・・
「まあ思いっきり飛ばせばの話だけどね!心配しなくても大丈夫よ。そうそう劣化しないから。」
「ほんと・・・・・・?ずっとこの箒使っていける?」
「ええ!ずっと使っていけるわよ!」
「よ、良かったぁ・・・・・・!」
エミーは安堵する。
箒は速度を上げれば上げるほど、劣化が早くなる。だが劣化と言えど、すぐすぐ駄目になってしまう訳では無い。例えば通常の箒で思いっきり飛ばし続けたとしても、二十年は持つと言われている。普通の速度で飛ばせば五十年は持つ。良い物なら普通に飛ばして百年、最速で五十年も持つ。一級品ともなれば、普通に飛ばして二百年、最速でも百年以上は持つと言われる。
しかし、エミー自身は知らないが、エミーの乗っている箒は『ヴァンツ・ズァロ・フィオン』という箒である。超が付く程の一級品。それは、『永久品』とまで言われる箒だ。どれだけ飛ばそうがほぼ劣化する事は無い。更にその性能は、唯一無二のものである。
ヴァンツ・ズァロ・フィオンは古代魔女語で、『風と共に飛ぶ』という意味だ。本来箒は風の影響を受けやすいのだが、その中で唯一、『風を味方に出来る箒』である。どんな暴風だろうとその抵抗を受けない。逆に、風を上手く操る事によって、最高峰のスピードを出す事も出来る。正にその名の通り、風と共に飛ぶ箒である。
しかしゾーエはその事を、エミーにまだ伝えられていない。
・・・・・・順番間違えちゃったかしら・・・箒の性能を伝えてから、私が造った事言った方が良かったかしら・・・いやけど、どっちにしても気恥しいわよね・・・あの時思わず、私が造った事言っちゃったから・・・でもマヤが、いつかは気付かれる、って言ってたわね・・・確かにいつかは絶対気付かれるわよね・・・私が造った事も、箒の事も・・・じゃあ今伝えても良いかしら・・・ああでも気恥しい!!心の準備が!!・・・・・・
ゾーエは心の中で葛藤している。するとエミーがゾーエに話しかける。
「?・・・どうしたのゾーエ?」
「え!?えーっとねー・・・・・・・・・」
・・・・・・つ、伝えるか!・・・・・・
「じ、実はね!その箒なんだけど!・・・・・・・・・・・・・・・・・・殆ど劣化しない様に造ってあるから、使えなくなる事は無いわ!安心して!」
・・・・・・い、今はこれが精一杯だわ・・・・・・
「!!・・・す、凄い!!この箒殆ど劣化しないの!?良かったぁ!!ゾーエはそんな凄い箒が造れるんだね!!」
「!!・・・え!あ!えと!・・・あ、ありがとう・・・・・・・・・!」
ゾーエの顔が赤くなる。エミーに褒められると、どうしても隠しきれない。
・・・・・・こ、これだけでも動揺しちゃうのに・・・も、もし箒の性能とかあれこれを全部エミーに知られちゃったら、私どうなってしまうの!?・・・こ、心の準備を・・・心の準備をしておかなくちゃ!!・・・・・・
ゾーエがエミーに、ヴァンツ・ズァロ・フィオンの事を話せるようになるのは、まだ随分先のようだ・・・・・・・・・。
暫く飛んでいると、景色が少しずつ変わってくる。平坦な大地から、少し隆起した大地へ。短い草だけが群生した大地から、木々が点々と増えていく大地へ。少しずつ、少しずつ変わっていく。
木々の種類も様々だ。小さな木から大きな木まで。真っ直ぐな木から曲がりくねった木まで。
箒で空から眺めていると、その変化がよく分かる。真下を見ても、遠くを眺めても、綺麗な景色が広がっている。
次第に木々が増えてくる。心地良い風が肌を撫でていく。そして、陽の光が真上に到達する。
「そろそろお昼ね。エミー、ここでお昼ご飯にしましょう!ちょうど良いものもあるし!」
「うん!・・・・・・・・・良いもの?良いものって?」
「ふふっ!降りれば分かるわよ!」
二人は降下していく。周りには色んな木々がある。
ストンッ・・・・・・・・・!
「・・・っしょっと!・・・・・・・・・・・・・・・あ!」
大地に足をつけて周りを見た瞬間、エミーはその、『良いもの』が何かを知る。
「わあ!果物だ!木に引っ付いてるの初めて見た!」
「そうね!今まで料理する時にしか見てないもんね!ここには沢山の果物が生っているの!ピュライネと同じ様にここの大地には魔法がかかっているとされていて、次々に果物が生るのよ!だからここにある果物なら、限度を越えなければ収穫していいのよ!」
「ほんと!?じゃあ食べれるの!?」
「ええ!一人につき一日六つまで!けど正直六つも食べ切れないし、果物は腐りやすいから、食べれる量だけね!」
「うん!分かった!・・・・・・ほんとに沢山生ってるね・・・・・・迷うなー・・・・・・知らない果物もいっぱいあるし・・・・・・・・・・・・ねえ!ゾーエのオススメは!?」
「私のオススメ?そうねぇ・・・・・・・・・・・・・・・あ!凄く美味しい果物があるわよ!『ジュドエーク』っていう魔法の果物の一つなの!」
「魔法の果物!?普通の果物とは違うの!?」
「まあ似た様なものだけど、違いを言うなら・・・・・・普通の果物はエミーの知ってる様に、魔法を使わなくても生るけど、魔法の果物は、ある魔法を使わないと生らないの。」
「どんな魔法なの?」
「五元素魔法よ!」
「えーっと・・・・・・・・・あ!分かった!『命』の元素魔法だね!」
「半分正解!!実はもう一ついるの!」
「え!?もう一つ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水!!」
「残念!」
「え!?・・・・・・水じゃなかったら・・・・・・・・・・・・あ!分かった!これは絶対当たってる!ズバリ!土だね!」
「正解!土の元素魔法の応用によって、大地に恵みを与える事が出来るの!そこに、更に命の元素魔法を発動させる事によって、魔法の木が生えてくるのよ!そうやって魔法を駆使して誕生したのが、魔法の果物と言われているの!だから魔女の世界にしか存在しない果物なのよ!」
「その魔法の果物の一つが、ジュドエーク?っていう果物なんだね!」
「そう!とっても甘くて果汁もたっぷりあるの!それに後味もサッパリしててくどくない!とっても美味しいわよ!」
「き、気になる!それ食べたい!」
「じゃあお昼ご飯食べた後、デザートで食べましょ!探せば直ぐに見つかると思うわ!」
「わーい!やったー!楽しみ!」
「ね?ちょうど休憩にはピッタリの場所でしょ!」
「うん!ゾーエの美味しいご飯を食べた後、デザートに果物!良い休憩場所だね!」
「ええ!じゃあ早速、お昼ご飯食べましょっか!デザートもあるから、いつもよりちょっと少なめの方が良いかしら?」
「そうだね!他にも色んな果物食べてみたいし!」
「よし!じゃあ先ずは果物を探しましょ!お昼ご飯の間に冷やしておけば、丁度良いくらいになると思うわよ!」
「わあ!楽しみ!早速探そ!?」
「ええ!」
二人は昼食の前に、先ずはデザートの果物を収穫しに行った。
色んな木々の中を二人は歩く。色とりどりの果物が沢山生っている、とても幻想的な場所だ。
ゾーエは果物を入れる為のカゴを持っている。エミーは興味津々で辺りを見渡す。よく知っている果実もあれば、見た事の無い果実もある。
「あ!リンゴだ!・・・・・・・・・あれ?ほんとにリンゴかな・・・・・・?赤くない・・・・・・ちょっと黄色い・・・・・・・・・。」
「ああ、あれはナシっていうのよ!リンゴの形に似てるでしょ!でも、食べてみたら全然違うのよ!」
「リンゴみたいなのに、全然リンゴとは違うのか・・・・・・気になる!」
「じゃあ一つ目は、ナシにする?」
「うん!ナシ!食べてみたい!」
エミーはナシの木に近付く。しかし・・・・・・・・・
「と、届かない・・・・・・」
スクッ・・・・・・!
ゾーエがエミーを持ち上げた。
「わ!わわ!」
「これで届くでしょ!」
「う、うん・・・・・・・・・!」
エミーは少し照れてしまう。
「果物を持って、上にあげてご覧!」
「う、上に・・・・・・?」
ゾーエに言われた通り、エミーはナシを持ち、ゆっくりと上に上げてみる。すると・・・・・・
プツンッ・・・!
ナシが簡単に取れた。
「!・・・お、おお・・・・・・!取れた・・・・・・!」
ゾーエはゆっくりとエミーを下ろす。
「上手く取れたわね!」
「うん!」
二人が歩いていると、少し変わった形の果物を見付ける。
「あれ、何か丸いけど、上は細長いね。」
「あれもナシよ!」
「え!?あれもナシなの!?全然形違うよ!?」
「同じ果物でも色んな種類があるの!もちろん味も違うのよ!」
「・・・・・・・・・果物っていっぱいあるんだね・・・・・・!」
「ええ!沢山あるのよ!・・・・・・こんなにいっぱいあると、目移りしちゃうわね!」
「うん!ワクワクする!」
二人がそのまま色んな果物を見ていると、エミーがある果物を見付ける。
「!!・・・凄い綺麗!!あれ絶対美味しい!!」
それは、真ん丸で光沢のある、真っ白な果物だった。
ゾーエはエミーの見る方向を確かめる。
「・・・・・・あ!エミー!あれがジュドエークよ!魔法の果物の一つ!」
「!・・・あれがジュドエークなんだね!キラキラ光ってる!」
「魔法の果物の特徴の一つね!魔法の果物は特有の光沢を持つの!綺麗でしょ!」
「うん!デザートはナシとあれにする!」
「そうね!じゃあ取りに行きましょ!」
二人は魔法の果物である、ジュドエークの木の傍まで来た。
「わあ!葉っぱまで光ってる!見た目も魔法の木だね!」
「綺麗でしょ!じゃあエミー!私のも合わせて、二つ取ってくれる?」
ゾーエは再びエミーを持ち上げる。
「!!・・・う、うん!!」
少し照れながらも、エミーは果物に手を伸ばす。
「ゾ、ゾーエ・・・・・・これはどうやって取ればいいの?」
「果物を持って、ちょっと下げてご覧?」
エミーはゾーエに言われた様に、両手で果物を持ち、少しだけ下に下げてみた。すると・・・・・・
スン・・・・・・・・・
殆ど力を入れてないが、スルッと簡単に取れた。
「わあ!二つ取れたよゾーエ!」
「やったわねエミー!」
ゾーエの持つカゴには、四つの果物が入っている。ナシとスモモ、そしてジュドエークが二つ。今日の昼食後のデザートだ。
「じゃあ後はこれらを冷やして、お昼ご飯の後に食べましょう!」
「うん!楽しみ!今日のお昼ご飯は何にするの!?」
「そうね・・・・・・トマトスープと自家製パンなんてどうかしら?」
「おお!美味しそう!!私も料理手伝いたい!」
「ありがとう!じゃあ二人で作りましょう!」
「うん!」
二人はスペースのある場所に大きなシートを広げ、野外での昼食作りをする事にした。その間、ゾーエは水の元素魔法によってとても冷たい水を生み出し、先程収穫した果物を水の入った器に入れて、冷やしておく。
シートの上にはテーブルとベンチ、そして野外用の簡易な台所を置いた。二人は料理をする為の準備をした後、調理に取り掛かる。
自家製パンは時間が掛かるので、出発する前にゾーエが既に作っていた。後はトマトスープを作れば、昼食の完成だ。
「折角だから色んな具材入れていきましょうか!ジャガイモとかブロッコリーとか!キャベツとかも良いわね!」
「わあ!美味しそう!じゃあ私、キャベツ切るね!」
「包丁、気を付けてね・・・!?」
「大丈夫だよゾーエ!もう包丁の扱いには慣れたから!」
トントントントン・・・・・・
エミーの料理の上達ぶりは目を見張るものがある。いつの間にか凄く上手くなっていた。
「!!・・・エミー、料理の上達、もの凄く早いわよね・・・!」
魔法の特訓やレースの特訓の時はゾーエが料理を作っていたので、あまり多くの事は教えていないはずなのだが、気が付けばゾーエが教えている以上の事が出来るようにまでなっている。エミーの料理の上達ぶりは、魔法の上達よりも早い。
「い、いつの間にそんなに上手くなったの・・・?」
「上手い!?ほんと!?」
「ええ、かなり上手いわ・・・・・・!」
「んー・・・・・・・・・いつからなんだろう・・・・・・・・・よく分かんないや!いつの間にか!」
「エミーの料理の才能は、ずば抜けてるわね・・・・・・!」
「ゾーエにはまだまだ適わないよ!・・・・・・でもいつか、一人で上手に出来るようになったら、ゾーエにご飯を振舞ってあげたいな!」
「!!・・・楽しみにしてるわ!!エミーの手料理!!」
「うん!楽しみにしててね!」
ゾーエとエミーの息はピッタリ合っている。料理を一緒に作っていると、いつの間にか直ぐにトマトスープが出来上がっていた。
「「いただきます!」」
野菜がたっぷり入ったトマトスープに、色とりどりの自家製パン。更にデザートには、ひんやりとした果物。
エミーはトマトスープを食べる。
「!・・・美味しい!味が染みてる!」
「美味しいわね!パンに合いそう!」
エミーは次に自家製パンを食べる。
「ん~!もちもちしてて美味しい!ゾーエの言う通り、トマトスープとよく合うね!」
「ええ!色んな種類があるから、好きなだけ食べてね!」
モチモチしたパンに、サクサクしたパン、ふんわりしたパンに、外がカリッとしたパン。全てゾーエのお手製だ。
「ん~~!どれも美味しい!ゾーエは色んなパンも作れるんだね!」
「エミーも今度一緒に作ってみる?」
「良いの!?作ってみたい!」
「ええ!じゃあ今度一緒にパン作ってみましょ!」
二人は穏やかで楽しい昼食の時を過ごした。
「さあ!デザートよ!」
「わあ!美味しそう!」
ゾーエは切り分けた果物を皿に盛り付け持って来る。
「これがナシで、これがスモモ、ここがジュドエークよ!」
「わあ!た、食べていい!?」
「ええ!好きなの食べて!」
エミーはフォークでナシを刺してみる。そして一口、食べてみた。
シャクッ・・・・・・!
「!・・・果汁が凄い!見た目はリンゴに似てるけど、味は全然違うね!」
「でしょ!食感も独特で良いのよね!」
「うん!サッパリしてて美味しい!」
ゾーエはスモモを一口食べる。
「ん~!酸っぱくて美味しい!」
「スモモって酸っぱいの?」
「ええ!酸味が強い果物なの!丁度良い酸っぱさが好きなのよね!」
「私も食べてみていい!?」
「もちろん!」
エミーはスモモを一口食べる。
「!・・・酸っぱ~い!けど甘みもあって美味しい!」
「でしょ!」
そしてエミーは、ジュドエークをフォークで刺す。
「・・・・・・ツルツルしてる!」
「ふふっ!食べてみてご覧?」
「うん!」
エミーはゆっくりと一口食べる。
スルッ・・・ジュワッ・・・!
バチンッ・・・・・・!!
まるで電流が走る様な、そんな感覚が、エミーに駆け巡る。
「!!・・・・・・す、凄い・・・・・・!」
口に入れた瞬間、ジュワッと口の中で溶ける。強い甘みとほのかな酸味、良い香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい!」
「ふふっ!・・・エミーも気に入ると思ったわ・・・!」
「うん!気に入った!・・・・・・美味しいだけじゃなくて、なんだか・・・・・・・・・懐かしい味がする・・・・・・。」
「!!・・・・・・・・・・・・そうなの・・・・・・・・・?」
「うん!何となくそんな感じがする!」
「・・・・・・・・・良かった・・・・・・・・・」
その後も二人は、果物を食べながら楽しく過ごした。
「よし!じゃあ行こっかエミー!」
「うん!」
二人は箒に乗って空へと昇っていく。目的地へと再び飛び始めた。
二人は箒で飛びながら、色々な話をする。
「いつ頃あっちに着くの?」
「そうね、このペースだと大体・・・・・・明日の昼前には着けるわよ!」
「何日か滞在するんだよね!」
「ええ!」
「その間にさ、四人でヴィーグス・ノヴに行こう、って話になってるんだ!」
「あら!良いじゃない!あの街はとっても広いから、まだまだ行ってない場所も沢山あるし!皆でうんと楽しんでくるのよ!」
「うん!・・・行くの久し振りだなぁ!草原もヴィーグス・ノヴも!十一歳の誕生日の時以来だね!」
「そうね!遠声魔法の接続をしに行ったわね!・・・・・・今はエミーの遠声魔法の接続も、多くなったわよね!」
「うん!沢山の人達と出会えたから!・・・・・・・・・そういえば・・・・・・・・・」
「ん?」
「何で遠声魔法の道具って、私とゾーエで形が違うの?」
「私のはピアス型で、エミーのはイヤリング型だから、形が違うのよ!」
「私のは耳に挟む感じだけど、ゾーエのは違うの?」
「ええ、私のは耳に通す感じだから・・・・・・流石にエミーの歳でピアス通すのは、ね?」
「み、耳に通すって・・・・・・い、痛くないの!?耳に突き刺すの!?」
「まあ突き刺すって言えばそうなのかしら・・・・・・ちょっと難しい話だけど・・・・・・私達魔女の細胞は治癒能力が高いの。傷とか出来ても結構治りが早いのよ。昔は耳に小さな穴を開けて通してたんだけど、直ぐに塞がっちゃうから頻繁に開けなきゃいけなくてね。だから新しい方法で通すようになったの。それが今のピアスの通し方の原型になるんだけど、耳に穴が無くてもピアスを通せるの。ピアスの針を通す部分にほんのちょっとした魔法をかけてね。『透過魔法』って言うんだけど・・・・・・自由に扱うには高い技術力が必要になる魔法で。その魔法がかけられてある針を耳に刺したら、その部分にだけ透過魔法が発動するの。だから二回目からは、穴が塞がった後でもその部分だけ透過して、ピアスを着ける事が出来るようになるのよ。一度その魔法がかかった部分なら、どのピアスでも通せるの。針に透過魔法がかけられてあるそれ専用の器具があるんだけど。それで一度穴を開けて、後はその部分が塞がるのを待つの。二日くらいかしら。治癒魔法使えば直ぐだけど。そうすれば、もう穴を開けなくても大丈夫ってわけ。もし透過魔法がかかってある部分を塞ぎたくなったら、その部分に『命』の元素魔法の応用をすれば良いの。透過魔法がかけられてある細胞を元に戻すのよ。まあ『命』の元素魔法も扱うのが難しいから、器具にはその効果を持つプレス部分もあってね。それで透過魔法のかかっている辺りをグッと挟むと、透過魔法の効果も無くなるってわけ。・・・・・・そんな感じかしら。」
ゾーエはかなり博識だ。だがそれ故に、説明自体が長くなる。身振り手振りで説明するマヤとは違い、ゾーエは言葉だけで説明するので、子供だと分かりづらい事もしばしばある。
エミーはその話を聞いていたが、何となく理解した様な、してない様な感じだ。
「えーっと、つまり・・・・・・・・・・・・一度だけ耳に針を突き刺せば良いって事だね・・・・・・?」
「そうね、そういう事!」
「て事は・・・・・・・・・・・・結局耳に突き刺すの!?痛そう・・・・・・・・・・・・。」
「まあその辺は大丈夫よ!器具はちゃんと痛くない様に出来てあるから!」
「そうなの?」
「ええ!器具には、『ここに開けるのは大丈夫』って示してくれるポインターも付いてあるから、その辺は安心よ!」
「ぽ、ぽいんたー?」
「えーっと、そうね・・・・・・光の線みたいなのが、針の先から出てるの!ここは開けると痛いよって時は、赤い線が出てて、ここなら大丈夫だよって時は、青い線になるの!」
「??」
次第にエミーは混乱し始めた。
・・・・・・赤?青?線?・・・ん?・・・何の話してたんだっけ・・・耳に針を突き刺す話をしてたんだっけ・・・え?・・・・・・
エミーの頭には『?』がいっぱいだ。
「ちょ、ちょっと分かりづらかったかしら・・・・・・・・・?そういえば前に、マヤにも言われたのよね・・・・・・・・・。私って説明が下手くそなのかしら・・・・・・・・・。」
「そ、そんな事無いよ!赤い線が青くなって痛いよって事だよね!」
「・・・・・・じ、実物を見ましょう!百聞は一見にしかず、よ!」
「そ、そうだね!実際どんなのか見るのが一番早いね!」
「ええ!」
・・・・・・そういえば小さい頃、マヤに勉強教えてた時、あの子直ぐ寝ちゃってたわね・・・今思えば、私の説明がよく分からなくて寝ちゃってたのかしら・・・て事は、マヤの説明が上手なのは、私が反面教師になってたから?・・・上手く説明するのってどうやれば良いのかしら・・・今度マヤに聞いとかなきゃ・・・・・・・・・・・・・・・いや!もう今聞こう!・・・今遠声して大丈夫かしら・・・・・・・・・・・・し、してみるだけしてみよう!・・・・・・
「エミー!ちょっと待っててね!」
「?・・・・・・うん!・・・・・・・・・何を?」
「い、今から勉強するから!」
ゾーエはヒソヒソ声で遠声を始める。
「・・・マヤ・・・」
すると直ぐに返事が返ってきた。
「ゾーエ?どうしたの?何かあった?」
「あ、マヤ!今少し時間大丈夫?」
「まあ今日は休館日だから全然大丈夫だけど・・・・・・・・・どうしてそんなヒソヒソ声なの?」
「ま、まあ事情があって・・・・・・エミーにピアスの事色々と聞かれたの。説明したんだけど、何だかよく分かってないみたいで・・・・・・私ってやっぱり説明が下手くそなのかしら?」
「ええ。下手くそよ。特に子供相手だとね。」
「うっ・・・・・・・・・や、やっぱり・・・・・・・・・。ど、どうやったら上手く説明出来るの?」
「まず、何て聞かれたの?」
「えっと・・・・・・ピアスって耳に突き刺すの?痛くないの?って・・・・・・」
「・・・・・・・・・どうせ貴女、エミーちゃんに聞かれた以上の事いっぱい話したんでしょ?元々ああだったとか、これはこういう原理でこうなってる、とか。」
「ま、まあその方がより分かりやすいかなって・・・・・・」
「ゾーエ・・・・・・貴女の説明はエミーちゃんの質問から飛び出しているわよ・・・・・・エミーちゃんは現在のピアスの原理とか、器具の原理とか聞いてないもの。情報を一気に多く出すから、困惑しちゃうのよ。どうせ透過魔法が云々とかその塞ぎ方云々とか言ったんでしょ。そういう事は後回しで良いの!エミーちゃんがそこに疑問を持った時に答えてあげなさい!ピアスって痛くないのっていうエミーちゃんの疑問に答えなさい!」
「お、仰る通りです・・・・・・。」
「貴女は昔から一回の情報量が多いから・・・・・・大人ならその説明で良いわよ、大人ならね。けどエミーちゃんはまだ十二歳!十二歳なの!そんな余分な情報まで入れたら、話がきちんと整理出来ないでしょ!?そんなに痛くないわよ、の一言で良いの!それ以降にエミーちゃんが質問したらその時に、それに答えてあげるの!」
「ほんとに、仰る通りです・・・・・・。」
「はぁ・・・まあ貴女は昔からそうだもの。今から直せって言っても直ぐには直らないと思うけど・・・・・・アドバイスとしては、一気に情報を詰め込まない事!そして、実物とか見せながら、身振り手振りで説明する事!貴女今遠声魔法のピアスしてるんでしょ?それを見せながら説明すれば良いじゃない。こんな風になってるんだよって。」
「そ、それは何か恥ずかしくない!?エミーに耳元をじっと観察されるなんて!」
「それが出来なきゃ、説明も上手く出来ないわよ!?取り敢えず情報量をもっと絞りなさい?」
「わ、分かったわ・・・・・・!情報量を絞るのね!」
「ええ。後、エミーちゃんの知らない魔法や物の名前を無闇やたらに出さない事!そうなると貴女は、その説明まで話に入ってくるから!私も小さい頃、何度も混乱したわよ?」
「や、やっぱりそうだったの・・・?」
「ええ。訳分かんなくなっちゃって、睡魔まで襲ってくるくらいにね。」
「やっぱりそうだったのね・・・・・・」
「まあ説明の仕方に関しては、良い反面教師になったわ!」
「やっぱり・・・・・・そうだったのね・・・・・・」
「だから、エミーちゃんにはちゃんと段取り良く教えていくのよ?ゾーエが上手く説明出来るようになるの、応援してるからさ!」
「!・・・ええ!ありがとうねマヤ!」
「頑張ってね!」
マヤと遠声魔法を終えたゾーエは、早速エミーに話す。
「エミー!もう大丈夫よ!上手に説明出来ると思うわ!」
「!・・・今の間で!?」
「ええ!マヤから上手な説明の仕方を学んだの!じゃあ取り敢えず、さっき言った事は全部忘れて!」
「え!?全部!?」
「ええ!それで、エミーの質問・・・・・・ピアスは耳に突き刺すのか、痛くないのか、っていう事だけど・・・・・・耳に突き刺す訳じゃ無いの!そして、あんまり痛くないわよ!以上!」
「・・・・・・な、なるほど・・・・・・・・・耳に突き刺す訳じゃ無いんだね・・・・・・!あんまり痛くないんだね!」
「ええ!そういう事!」
照れ隠しの為に平静を装う様にしたり、説明を上手く出来るようになろうと努力したりと、ゾーエにはゾーエで色々な課題が生まれた。
そんな感じで、空の移動の間にも色々な事が起こっていた。二人はほぼ無言になる事は無く、常に色々な話をしている。その時間は二人にとって、とても愛おしい、楽しい時間だった。
そんな風に楽しく過ごしていると、気が付けばかなりの時間を飛んでいた。二日間に渡る移動。もっと掛かると思っていたが、やはり二人でいると全然時間を気にしなくなる。気が付けばあっという間に夕暮れ時になっていた。
「じゃあそろそろここら辺で一泊しましょうか!このペースだと、明日の十時には着きそうだし!丁度良い頃合だと思うわ!」
「うん!・・・・・・・・・ここら辺はもう草原地帯に入ってるね!」
「そうね!後少しで目的地へ行ける距離だと思うわ!明日の為にも、今日はゆっくり休みましょう!」
「うん!」
二人は草原へ降り立つ。ゾーエが家を置き、二人は中へと入っていった。
夕食を済ませ、お風呂にも入り、寝る準備もした。エミーは明日の為に、少し早めにベッドに入る。
「あ!そうだ!あの果物の名前書いておこっと!」
エミーは今日の昼食後に食べた果物の名前と見た目、その味を書いていく。ナシ、スモモ、そしてジュドエーク。
「どれも美味しかったな~!特にジュドエークが!」
エミーはジュドエークが余程気に入ったようだ。
本に書き終わった後、エミーは早めに灯りを消す。明日の為に、いつもより早く就寝した。
ゾーエはいつもの様に、ベッドであの本を読んでいた。ふと、今日の昼食の時を思い出す。ゾーエは本に語りかける様に呟いた。
「ねえ・・・・・・・・・もしかして・・・・・・・・・やっぱり・・・・・・・・・貴女は・・・・・・・・・・・・・・・」
まだ、分からない。確証は無い。だが、そんな感覚がする。そんな予感がする。その繋がりを感じる。
・・・・・・だって、食べてる時の表情も・・・あの言葉も・・・心から感じる、この深い繋がりも・・・貴女にしか、無いものだもの・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・そう遠くないかもね・・・・・・・・・・・・それまで、待ってるわ・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・いつか、話さないとね・・・・・・・・・全て・・・・・・
ゾーエは灯りを消し、眠りについた。
0
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