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未必の故意

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「妹がいる、と」
「それで、妹がそのお店でその時働いてたんだよね」
「ああ、なるほどな。それで妹が「召喚少女」を好きだったのか」
「いや嫌いだったんだ、すごく」
「ここは「好き」なんじゃねーの?wしかもすごく嫌いなのかよw」
「嫌いだったから、そんな話題で盛り上がってる客には、早く帰ってほしかったらしくて」

 少しにやにやしながらカノンはそう言っていた。

「ひでー店員だな、カノンの妹」
「耳ざわりだったらしくて」
「ひどいひどいw」
「耳ざわりは脚色したけど」
「カノンの脚色かよ。椅子思いっきり後ろに引っ張っていい?」

「私はそれを帰ってきた時に聞いたんだよね」
「そうなんか」
「そうだよ。すごく盛り上がってる高校生がいたよって聞いて」
「へぇ」
「仲良さそうだったって」
「……そこは疑問だけどな」
「たぶん妹も、仲良く話せる人がほしいと思うんだよね」
「?」

 カノンは、窓の外のほうを向いた。
 どこか物寂しげな表情をしていた。

「急にしんみりして、どうしたんだ?」
「いや。今日はここまで。話せて楽しかった」

 そう言って、カノンは自分のカバンを持って、立ち上がった。

「じゃあね。木下くん」

 特に笑みも無く、手を振る事も無く、カノンは教室を後にしたんだ。
 俺だけが一人教室に残っていた。

「話せて楽しかった」
 なぜか、その言葉だけが耳に残っていた。

――――――――――

「ちょっと木下いいか?」

 次の日、朝からいきなり山岸に絡まれた。

 また祈祷か?
 安い信仰心から、少しはひと皮むけたのだろうか。

「なんだよ山岸」

 俺達はトイレにいた。
 用を足したいわけじゃないが、山岸に指定されたんだ。
 怖いなぁ、いじめとかやめてくれよな。
 偶像をいじめるとか、祟(たた)られるぞお前。

「昨日、カノンさんと仲良くしゃべってたってマジ?」
「え」

 山岸は興奮気味にそう聞いてきた。
 誰かから聞いたのだろう。
 どうやら放課後、俺とカノンが話しているところを目撃した奴がいたらしい。

 いや、目撃してなくても、放課後最後まで教室に二人で残っていれば、それはそれで何かしらあるんじゃないか? と疑ってかかるのがこのお年頃なのかもしれない。

「しゃべったけど仲良くないぞ」
「え⁉ マジかよ~! 何しゃべったんだ⁉」

 興奮した山岸は、俺を襲うようにつかみかかってきた。
 こんな風に書くとアレな感じだが、別にアレなわけじゃない。

「わっ、い、痛いから! 肩そんな強く掴むなよ! このままだと脱臼する!」
 脱臼出しておけば引くだろうと思ってそう言ったんだが

「脱臼はしねーだろw 木下うけるわ」
 そう言われ、サラリとかわされた。

「はぁ……ていうか別に、本当に少し話しただけだよ。それだけ。なんもねーよ」
「本当に本当か⁉」
「本当だよ。教室戻ろう。授業始まるわ」

 そう言い残して、俺は先に教室へと戻っていった。
 山岸は、後からぶつぶつ言いながら教室へ戻ってきた。
 こいつもわかりやすいなと思った。
 そんなに美形転校生がいいか。

 人は自分に無い物を相手に求めるとかっていうからな……。
 逆に俺みたいに、全く相手に求めないのもすごいのかもしれない。

 放課後、凛とした姿のカノンさんがちらりと俺の方を見てきた。
 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花、が、なんで俺を見てるんだよ。


「え、なんだよ……ごめんなさい」

 俺は怯えた。それはそれは怯えた。
 なぜかは知らないが、謝った方がいいのかと思った。

「え?w」

 カノンは笑みを浮かべた。
 怯える人間に笑みを浮かべるとか、文字に書き出してみるととんでもないな。

「木下くん、今日も少し残ってよ」
「え、なんで?」
「なんでって……」

 カノンは言葉をつまらせていた。
 言葉がつまるくらいなら、そもそも誘わなくていいだろ。
 俺は早く帰りたかった。

「話があるからだよ」
「ここで言えない話なのかよ」
「ここで言いたくないんだよ。だからそう提案してるんだよ」
「……」

 なんだかすごい既視感があるな、このやり取り。
 まあいいか。
 というか、さっきから山岸にすごい見られてるんだよな。

「山岸~。藤本先生が職員室に来いって言ってるぞー?」

 教室の出口のところから、どこの誰だか知らない生徒が、そんな事を言ってきた。

「あ、マジか⁉ 行く行く~」

 山岸は先生に呼ばれてるとわかると、すぐに教室を出ていった。
 ちなみに藤本先生というのは、山岸が所属している野球部の顧問の先生だ。
 なんだかしらんが藤本先生、グッジョブ。
 いちいち見られてると、本当に帰りたくなるからな。
 別にやましい事はないはずなんだが、なんとなくな。

「それで、木下くん、残ってくれる?」
 カノンさんのご尊顔を向けられて、俺は答えるしかなかった。

「わかったよ……」
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