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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される

過保護な保護者たち

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ギルドに戻ってから、アイリをアリシアに預けるとルークはシリウスと共に執務室に向かった。
部屋には防音結界を張り、そこで一先ず元々の目的であった後見人の件は認めて貰えた事を伝えた。
なんならそのまま王の庇護リンカルトが引っ付いてきそうな勢いだったが、そこは無視スルーした。

そして今日のアイリの魔力鑑定に関して、こちらの方が重要だと念を押した上でまずは口外しない事を約束させ、全て話した。
リンカルトには、シリウスには口止めを約束した上でなら内容を伝えていいと了承を取っている。
現時点でのアイリの保護権はこのギルドにあり、そこのギルド長であるシリウスには知っておいて貰わねばならない内容でもあったからだ。

アイリの魔力属性と魔力量の事を伝えれば、流石のシリウスも目を見開いて驚いていた。

「まさか⋯聖属性の可能性は考えていましたが、複属性を持ち、しかもそれが闇属性とは⋯」

「あぁ、流石に俺も驚いた。元王宮魔道士の話では、反発する二つの属性を持つ事で今後アイリの身体に何が起こるか予想もつかないそうだ。だから気を付けて見ていて欲しいと⋯」

「そうですか⋯。この件は王宮では陛下が箝口令を敷いていらっしゃるそうですが、こちらではどこまでが知っていいんでしょうか?いずれアイリが魔法を扱うようになれば自ずと露呈してしまうかもしれませんが、現在身近で世話をする事の多いアリシアや、今後の警護も含めて専属で護衛をつけるにしても、その辺りには伝えておいた方がいいかと。」

シリウスが言う事も最もだ。
今後アイリの様子だけでなく、何かあった時すぐに対応する為にも、事情を知る者が身の回りにいた方がいい。
ルークが常にアイリとべったり一緒に居られればいいが⋯いや、本人はそうしたいのは山々だが⋯流石にS級冒険者ともなれば、指名依頼もある。その殆どが危険度が高い為、そんな所へ幼いアイリを連れて行くわけにも行かない。
断腸の思いで、ギルドに託しているのだ。

「その件に関しても陛下から了承を取っている。こちらが信頼する者でアイリの周りを固めるのであれば、今回の件も含めてアイリの事情も知っておいて貰った方が連携が取りやすいからな。一応念書は取らせて貰うが。」

「そうですね。護衛に関してルークさんの希望はございますか?特に問題なければ、今回護衛につけたサニアとアレクをそのまま専属にと考えているのですが?」


サニアは若干18歳と冒険者にしてはまだまだ若く経験が浅いが、その分頭がキレ戦略を練るのが上手い。そして補助や防御系の魔法に強く、幼い子の扱いにも慣れている為アイリもすっかり懐いている。現在B級だが、経験を積めばすぐにA級に昇れるだろう。

アレクに関しては見た目通りのだ。確か歳は28歳。
とにかく何でも腕力に頼る為、もはや特技力技だ。
魔力も平均的には持っている筈なのだが、扱うには緻密なコントロールが必要で、それを面倒臭いと投げ出したので結局魔力を扱えないままだ。なので魔法が使えない。
それでも魔法もなしに腕力のみでA級まで昇りつめている、意外と努力型だ。


この二人は今回の護衛ですっかりアイリ信者となっているし、実力も勿論申し分ない。この二人ならアイリの事情を知っても決して口外しないだろう。
むしろ、より警護に励む気しかしない。

「あぁ、あの二人なら問題ない。アイリも見知った人が護衛につくほうが安心するだろうしな。」

「わかりました。では、明日二人に専属護衛の依頼を出しましょう。そしてアリシアも呼んで人が揃ったところで、今回のアイリちゃんの件を話すと言う事でいいですか?」

「それで構わない。あぁ、それとまだ先になると思うが、アイリに魔力コントロールと魔法を教える専属の者が、王宮から派遣されてくるだろう。アイリの属性を考えれば、早いうちから魔力コントロールができた方がいいそうだ。」

「あぁ、確かにそうですね。それに王宮魔道士ともあれば知識もお持ちでしょうから、何かしら対処はできると⋯。分かりました。その連絡もこちらに入り次第対応させて頂きます。」

そうして話が纏まったところで、漸くルークはアイリの元へと帰った。
部屋に戻るとアイリは既にぐっすり眠っており、穏やかな寝息が聞こえた。その様子を確認すると、部屋を出て食堂で軽く食事をとりギルド内に簡易で造られたシャワールームで体の汚れを落とすと、そっと部屋に戻り、アイリの眠る隣に身を滑り込ませた。

すると温もりを求めるかの様にルークの方へ身を捩り、胸元にすっぽり収まると安心したように再び寝入ったアイリに、愛しさが込み上げて来る。
ルークは白銀の髪を手に取ると、そこにそっとキスを落とした。

「おやすみアイリ。何があっても、俺が守り抜くからな⋯」

そう呟くと、ルークも温かさを感じながら目を閉じた。




翌朝、食堂でアイリはギルドの皆にお土産を渡しながら、王都での話しを楽しそうにしていた。そしてそれをギルド職員達も微笑ましそうに聞いている。
食事も終えてそろそろ仕事だと名残り惜しそうに解散した後は、食堂で働く人達にもお土産を渡しに行くアイリ。

皆に配れる様にとギルド職員にはお菓子にしていたが、いつも美味しい食事を作ってくれる料理人の人達には王都で見た珍しい調味料や食べ物などをお土産にしていた。
アイリの気遣いに料理人達も喜び、早速お昼はお土産の食材で何か作ってくれると言う約束までしていた。


ちなみに、ここまでの大量のお土産や食材など今までどこにあったのかと言うと、何とも便利なルークのマジックアイテム『無限収納袋』に全て収納されていた。
これはかなりの高額アイテムでそうそう見かけるものでもないのだが、そこはブラコン陛下が冒険者となるルークへプレゼントしたものだ。
このお陰で、一人で魔獣を討伐しても持ち帰りに苦労せずに済んだ。

アイリも興味津々とばかりに、袋にどんどん飲み込まれていくお土産を見つめていたが、決して興味本位で袋に入ったりしてはいけないとキツく言い聞かせていた。
この中は時間経過も止まっている為、新鮮な物はそのままで熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま保存される。
どんな理屈でかは分からないが、そんな時空間が狂った所に人間など意思がある生き物が入ってしまえば、精神崩壊を起こしかねない。
万能ではあるが、だからこそ『無限収納袋』は保持出来る人物が限られているのだ。

アイリはちゃんと理解したようで、何か出して欲しい時はきちんとルークに頼むし、逆に収納して欲しい時は申し訳無さそうに見上げてきて「お願い」してくる。そんないじらしい姿にルークは一人内心悶絶していたのだが、そんな事勿論アイリは知る由もない。


さて、アイリをもう一人のお世話係ミリーナに任せ、大人達は応接室に集まっていた。
メンバーはルーク、ギルド長シリウス、アイリのお世話係アリシア、冒険者兼アイリの専属護衛となったサニアとアレクだ。

サニアとアレクには、まずアイリを保護した経緯と事情を話した。記憶喪失であり「キズモノ」である事を伝えると、二人は驚愕と悲痛な面持ちで最後まで黙って聞いていた。

「そんな事情があったとは⋯あんなに明るくて可愛い子に、何て酷い⋯必ずアイリちゃんの笑顔を守り抜きます。」

「⋯嬢ちゃんの件、俺のいのちに懸けて他言しないと誓おう。」


二人の言葉に、ルークとシリウスはゆっくりと頷いて応えた。
そして次が本題だ。この様子なら問題は無さそうだが、一応形だけでも念書を取り、これから話す事は決して口外しないことを約束させ、アイリの魔力鑑定の結果を伝えた。

これには想定外とばかりにアリシアも驚き、何故自分までがこのメンバーに呼ばれたのかを理解した。
お世話係として、同性として、気付きにくい部分を補うには打って付けだろう。
それならばと、アリシアは皆に提案した。

「アイリちゃんの体調面も含めて様子を見るのであれば、もう一人この件を話したい者がいます。今アイリちゃんの面倒を見てくれているミリーナです。彼女は私が保護した子ですが、家事や身の回りのお世話だけでなく、冒険者としての実力もあるので男性が入れない場所でも護衛が可能です。そして歳もこの中では一番近いので、アイリちゃんの相談相手としてもいいかと。」

アリシアの提案に、確かに男性が側に居れない場合の護衛に関して抜けていたと気付いた。それにアリシアもギルド内ではアイリの側にいれるが、彼女には家族がいて帰る場所がある。四六時中アイリを見ていることは出来ないのだ。

「確かにアリシアの言う通りです。その事がすっかり抜けていましたね。ミリーナであれば冒険者としての実力も人為ひととなりも分かっていますから問題ないでしょう。後で私の方から彼女に正式に依頼して話しておきます。」

シリウスはルークを見てそれで良いか?と視線で問い掛けると、ルークも問題ないとばかりに頷いた。


こうしてアイリ親衛隊⋯⋯ではなく、過保護な保護者達による話し合いは終わった。






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