朱璃と雅也

夜ト

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付き合って下さい

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「好きだーっ付き合って下さい」
「…えっ…と…その…はい、僕で良ければ宜しくお願いしますーっ三木先輩ーっ」

頭を下げる、僕は凰風朱璃15歳高校1年生に成ったばかりだ、僕には秘密がある…それは、誰にも言えない秘密だ。

「宜しく、とう…朱璃ってよんでもいいか」
「えっ…あっ……はい」

ぽっと顔が真っ赤になるのを隠そうとするが、朱璃の目の前には三木雅也の顔がド・アップに写る。

「…ーっ」
「…ゴメン、我慢出来なかった」
「ーっ」

今、僕気を失いそうです…。
三木先輩の唇が僕の唇にーっ。

触れた…。
夢みたいな話だ…。
生徒会長でもある、三木先輩とは先ほど別れて、ふらふらしながら、家路に急ぐ。
学園からの道のりを急いで帰り、見えてきたのは四方を森で囲み、正面の真ん中には堂々と水路が流れている、その水路を隠す様に木製の壁が正面を囲む様に作らている、木製の壁は正面の一部が開けられる様に成ってはいるが橋が掛かる時間が決まっている今は、ドアが開く事はないのだ…。

「…本当にこういう時は困るね」

朱璃の小さな身体が木製の壁を開けて、木製の壁を素早く閉める、朱璃の標準よりもかなり小さな身体の前にざーっと水が退く、朱璃の目の前だけだ。

「よっと」

水が退いた水路から丸い穴を塞ぐ様に金網が埋め込まれているがそれを外して、水路の中に足を入れる。

「…電気…電気、と」

朱璃が呟くと当たりに松明が灯る。
トンネルの様に成っている水路を左右の道を交互に進み時には上に下に移動していく、
ある一点のマンホールを開けると上に身体を押し込み進んで行く。

「ーっ」

パァっと明かりが灯り、芝生が身体を包み込み、マンホールの蓋を閉めて、真っ直ぐに進み始めると、いつくもの真っ白い柱が屋根を支えている。

「うわっ…もう19時になるよ」

朱璃がいそいそと真っ白い柱で支えている廊下を歩き、角まで来て曲がると何かに朱璃の身体がぶとかり転びそうになりかけるが、朱璃の腕を掴む手と朱璃の背中を支える手に寄ってそれは、まのがれる。

「ーっ」
「おっと、大丈夫ですか…坊ちゃま」

おどけた調子で言う総合執事の櫻井真護45と朱璃を睨みながら、朱璃の腕を強く掴む朱璃専用の執事真波奏多25に朱璃の身体からはイヤな汗が流れ落ちる。

「朱璃様、お帰りなさいませ…今現在何時になるでしょうか」
「…えっと…その」

朱璃がしどろもどろになりつつも19時になると答える。
一人の執事から青筋が浮かぶのが見て取れる。
朱璃が後ろを振り向きそっと足を進めるが…。

「ーっ」
「そうはいかないぜ」
「…朱璃様、私は18時までには自室にいるのが条件と言った筈ですけど、朱璃様は1ヶ月前の事もお忘れに成られるダメな馬鹿でしたっけ…前に比べて、1時間も長くさせたのがダメでしたかね」

奏多の前で頭を下げる。
そう、中等部に通っていた時は17時が門限だったのだが、いくらなんでも早いと抗議し3年間何事もなかったのだから大丈夫だと、説得した上での1時間長く成ったのだが。

「ごめんなさいーっ明日からは気を付けますから」
「…罰として明日から1週間17時帰宅が守られなければ考えます」
「ーっ1週間もっ」

朱璃の言葉を耳にして、真波が朱璃を睨む。

「ーっ」
「…何かおっしゃいましたか」
「いっいいえいいえ」

フルフルと頭を振るう。
怖いっ…僕の安全の為だと分かっているから尚言えない…例え僕が主だとしても…立場逆転しているとしてもだ。

「ところで、坊ちゃまは何で1時間も遅れたんだ」
「あっ、それは図書館で勉強をしてました」

慌てて嘘を言う、あながち嘘でもないのだが、三木先輩が待ち合わせに遅れてくる間はしっかりと勉強をしていた訳だし。

「…お勉強ならばお部屋でも出来ますでしょう」
「…気分を変えてやりたかったのっ、それにここでだと、勉強に混じれて書類も間に挟んでくるだろう」
「それが、朱璃様の仕事ですから」

数日後
バタッと大きな机の上に倒れ込む、ギィーッと椅子が鳴るが構わない。

「だーっ」

こっちは、せっかくの休みなのに朝から叩き起こされて、執務室に連行されてから早くも5時間半も今の状態だ。

「…お行儀が悪いですね」
「ねっ、お願いだから少し休ませて」

今日は三木先輩と初デートの日なのだから、早くこの万能過ぎる城から街中に出なければ間に合わない上に、今の僕の格好は一般の人の格好ではない。
いくら執務室で書類と机と睨めっこと言っても、一国の大国の王子の格好だ。
こんな姿では会えない。

「…」
「ねっ、てば」
「…」

朱璃の言葉を無視しながら、流れる最高級の優雅な姿勢で紅茶を注ぐ。

「ねっ」
「…‥サボるつもりですか」

奏多が朱璃の前にドンっと書類を置く。 朱璃の目の前には先程よりも、大量の書類だ…。

「因みに、まだまだありますから」

ずらーっと隣の部屋の仕切りにあるカーテンを引いて、山済みに成った書類を朱璃に見せる。

「…まさか………コレ全部…」
「朱璃様が本気を出されれば、そうですね……3日後には終わりますよ…幸い三連休ですし」

何時もと違い妙に意気込む奏多。
奏多の後ろからにょろりと総合執事の櫻井が現れる、奏多の目が左右に動く、何も有りませんという顔をしているが…長年付き合って居るため、多少の動揺は目に止まる、今奏多は動揺しているのだ…。
この世界で上位を争う程の高給取りがだ。

「やり過ぎじゃないか…奏多」
「…王子の勤めで御座います」

櫻井が吐息を付き、書類で埋まっている朱璃を見る。

「…執事なら、主人の体調管理も仕事の内だ…坊ちゃまを見てみろ」

朱璃が慌ててグッタリする。
奏多が朱璃を見て、吐息を付く。

「…分かりました、明日からはしっかりと仕事をするんですよ」
「はいっ」

パタパタと自室に戻り、私服に着替える朱璃、自分のベッドの下に潜り込み水路の中に入り込む。

「…いいのか、坊ちゃま外行く気満々だぜっ」
「ーふっ、櫻井さんが仰った事ですよ」

ぷいっとそっぽを向き、朱璃が5時半の間に済ませた書類を各部署に届ける。

「おいおい、俺はちょっと今日は休ませろって言っただけだぜっ」
「…朱璃様のこの後の行動を分かっていて言いますか」

ぎゅっとペアーに成っているロケットネックレスをポケットから取り出す、朱璃様が初めて自分のお金を貯めてプレゼントして下さった、大切な物だ。
を握り締める。

「…まだ、持っていたのか」
「…朱璃様には秘密ですよ…本来なら首元にかけたいのですが、あの方と同じ物を朱璃様に見せる訳にはいかないので」

本来ならば、主が傷付くモノを視界にはいれたくないのだが…。
これだけは、朱璃様が初めて私達にくれたプレゼントだから…。
本来は王族が家臣や下の者にモノを貰うことは何かしらの意味があるのだが…。
このプレゼントは…。
まだ朱璃様が4才に成って間もない頃…

「…朱璃様ーっ」
「いらっしゃいましたか」
「イヤ、賢璃様もいらっしゃらない」

王子付きの執事4人が手分けをして探すが、まだ幼い王子は見当たらない。

「…朱にぃ様ーっ、ここどこっ」

ぎゅうぎゅうと幼き頃の朱璃の手を握る朱璃の双子の弟賢璃に朱璃も自分の手に力を入れる。

「…大丈夫だよ、あっちに行けば帰れるよ」

自分も不安だが、この国で一番目立つ場所が自分達の家なのだ、帰れない筈もない。但しまだ4歳に成って間もない、一人でようやく歩ける幼に成って、ちょっと目を離すとイタズラしてしまう年な訳だが、、4歳にしては家から離れすぎている上に疲れが貯まっている状態な訳で…。

「もうムリっ」
「…分かってる…賢は瞬間移動できたっけ」

首を傾ける賢璃に朱璃は微笑む。

「この場所から、家の付近まで一瞬で移動する能力勉強した」
「…したよ」

朱璃に笑みが戻る、一人では無理だが二人なら出来る。

「ならやっちゃう」
「やっちゃおうか」

ぎゅうぎゅうと抱きしめ合いお互いに何かを呟きだす。

「「汝時間の精よ、我等に移動の力を与えよ…城まで、連れて行って下さい」」

2人の声が届いたのか2人の姿が急に消える。
この世界には魔法と呼ばれる者が存在する。
魔法を使える人間はかなりの確率で存在する、のだが…。
魔法を扱える人間には、魔法学校に入ってそれなりの知識が必要だ。
魔法学校に通える人間は国が保護する目的でもある。

「…」
「…」

瞬間移動は一瞬で出来たのだが、2人が風景を見て、賢璃が泣き声を上げてしまう。朱璃が賢璃の身体を光りの魔法で包み込む。

「賢ーっ大丈夫だよっ、絶対に帰れるからっ」

朱璃の目には光りが放たれる。
決意の光りが。

「…居ましたか」
「……今、2人の魔力が……北の森で、捉えた」

朱璃達を捕捉の魔法での捜索をし始めてから1時間30分、ようやく足取りを掴む。朱璃達がどこに行ったか、事前に大体の場所を知って居れば一部の捜索で捉えられののだが、場所が分からない為に国全体を掴み見る事になった。

「…大丈夫ですか」
「……コレが大丈夫に見えるか」

北の森に行く前に多少休憩がしたいが、そうも行かない。
…あれじゃ、朱璃様が倒れる。

「ーっ、瞬間移動を頼む。」
「はい」

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