異世界FIRE ―60歳まで冒険者は無理なので早期退職します―

のちのちザウルス

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俺たちの火魔法 ”FIRE” 2

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1人、頭にはてなマークを浮かべた者が挙手する。なるほど、君は根も真面目な性格だから、昨日いきなり現れたぽっと出の教師の言うことは信用ならんというわけか。いいことだ、素直に言うことを聞くコイツらよりよっぽど素晴らしい。

「どうぞドルさん」
「NISA口座とは、一体如何なる特徴を持っているのでしょうか。証券口座の1つとご説明頂きましたが、他にも分類があるのですか?」
「質問ありがとう。今度しっかり教える場を設けるから、とりあえず簡単に。まず、証券口座には3種類ある。特定口座、一般口座、そしてNISA口座だ。どれも株式等の取引をするための口座であることに変わりはない。その上で、一般口座は確定申告が必要なのに対し、特定口座とNISA口座は条件次第で確定申告が不要となるという違いがある。確定申告ってのは、大日本帝国人が大嫌いなやつね。慣れたら簡単だけど、慣れるまでがクソほどしんどい行事があるんだよ」

ホワイトボードに“証券口座の種類”とザザが書いていく。
特定口座は、厳密に言えば確定申告が不要になるわけではない。“証券会社が”所得税と住民税を計算し源泉徴収して、“我々投資家の代わりに税金を納めてくれる”ために確定申告をする必要がないというだけだ。

ここで用語を整理しておこう。
確定申告……所得税を自分で計算して精算する手続きのこと。
      これをしないと、現代日本では税務署という恐ろしい組織が飛んでくる。
所得税 ……利益(税法上の呼び方=所得)に対してかかる税金のこと。
国は強欲なので、あらゆるものから税金を取る。
一番スタンダードなのは給与所得、すなわち給料にかかる税金。
源泉徴収……勤めている会社が、給料から所得税をあらかじめ差し引くこと。
なんで俺の給料を奪うんだ!!という気持ちは分からなくもない。
が、それが国民の義務なのである。
       会社が源泉徴収を行うと、我々は確定申告をする必要がない。

ということで、話をまとめる。
証券口座のうち特定口座は、証券会社が我々の代わりに確定申告をしてくれるものである。確定申告とは、我々国民の義務である納税手続きである。

「まあこれは本題じゃない、もっと重要なことがある」
「重要なこと?」
「そう。特定口座とNISA口座の最大にして最高の違いだ。まず、株式でも債券でも、値段の低い時に買って高い時に売ることで利益を得るわけだ。ドルさん、これは分かるかな?」
「なんとなくですが」
「例えば1万バルクで株式を購入して、11万バルクで売ったとしよう。売却益はいくらになる?」
「差引きで10万バルクです」
「そう、10万バルクだ。――本来ならば」

プロジェクターの光を一旦遮断し、ザザはホワイトボードにペンを走らせる。そこには世にもおぞましい二文字が書かれた。その文字を見て、どこからか言葉が漏れ聞こえる。

『税……金……』
「そうだ。株式の売買によって利益を得た場合、俺たちは利益のおよそ20%を税金として納めなければならない」
『『『!?!!?』』』

全員に衝撃が走る。
20%、それはあまりに重い数字だ。
我々にもっとも馴染み深く、かつて増税もあった消費税ですら10%だ。消費税がここからもう10%も上がるとなれば、治安の良い大日本帝国ですら暴動になりかねないだろう。

「ジンミンゲンさん、君はゲームをやるかい?」
「た、多少は……」
「動揺しているな?だが、その感覚は極めて正しい。20%のバフが乗った攻撃は強靭な敵を打ち砕き、20%の速度上昇は課金アイテムになることもある。それに、別にゲームに限った話じゃない。スーパーの惣菜コーナーに定価で売られている商品へ20%引きのシールを貼りにくるおばちゃんが来ると、いきなり人が10倍くらい集まるだろう?それが20%という数字……俺たちが取られる税金の額だ」

ザザは皆を見渡し、そして残酷な事実を告げる。

「先程ドルさんにした質問の正しい解答を言おう。1万バルクで買った株を11万で売った時に得られる金額は、10万じゃない」

皆の背筋が伸びる。恐怖に震える。目が霞む。頼む、嘘であってくれ。心からのお願いだ――。


「8万バルクだ」


『ぐああああああああああ!!!!』
『うおおおおおおおお!!!!』
『ぎゃあああああああああああ!!!!』
「おろろろろ!!!」
『あああ!?エンさんが泡吹いた!?』

阿鼻叫喚。特に酷いのがエンだ。資産形成におそらく明るいであろう彼女が、この事実を知らないはずもない。にもかかわらず、白目を剥き、口から泡を吐いて失神している。

「2万バルクは税金だ。国家の礎とすべく、我々行政改革ギルドを始めとした国の人間が、君たちから毟り取っていく金額……それが20%という数字の重みなんだ」
『ザザ先生の人でなし!!!』
『ゴミクズ!』
『甲斐性無し!!!』
「貴様ら小市民がどれだけ叫ぼうが関係ない。それが税金であり、君たち国民に課せられた三大義務の一つ、”納税の義務”なんだ」

淡々とザザは告げる、まるで仕方がないことなのだと割り切っているかのように。
――いや、そんなことはない。ザザは笑っている。生徒たちの希望が打ち砕かれる様を見て、口の端が上がっている。

「おーっと、伝えるのを忘れていた!」
『『『え?』』』
「この税金は、君たちが株を買った時にもらえる配当金にも課せられるんだった!仮に配当金100万バルクをもらえる程に株を買っても、20万バルクは税金だな!」
「おげえええええええ!!!!」
『エンちゃん!!エンちゃんしっかり!!!』

満身創痍のエン。彼女はもう限界だ。

「ああああ!!!!そうだそうだ、もう1つあったな!!!!!!」
『『『え???』』』
「最近大日本帝国では、この税金を20%から30%に引き上げようとする動きがあるらしいぞ!!!そしたら、20万じゃなくて30万バルクが税金だな!!!」
「ほげえええええええええ!!!!」
『エンちゃああああああああん!!!!』

エンは死んだ。心が。

「おーい、まだ死ぬなー。肝心な事を言ってないぞ」

それでもぴくぴくと動かないエンに、まあこれを言えば勝手に戻るだろとザザは続きを語る。

「まったく……。さて皆、これはあくまで前置きだ。俺は肝心の質問に全く答えちゃいない。――NISA口座とはなんなのか、その質問に」

先程とは異なる空気。
絶望にうちひしがれていた皆は、ザザの言葉に僅かの希望を感じて立ち上がる。
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