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立ち上がれ、尻の痛みを知る者よ 7

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20年生きてきた。
もううんざりだ。



この世界には本当に本当に救いがない。ついでに言えば水洗トイレもない。もっともっとついでに言うなら、優しくお尻を洗浄してくれるウォシュレットもやはりない。20年の歳月でも、この水洗トイレ問題は解決していなかった。
だが、ザザには関係なかった。彼は作ると決めたのだ。美しい街並も、誰も苦しむことのない学校も、決してやすりなどではない柔らかな紙も、彼は作ると決めたのだ。

2年の間でザザは人が変わったように活動を始めた。いや、むしろ再開した。
ザザは転生前の知識がある分、確かに若い頃は神童だった。しかし、日本のことわざにあるよう「10で神童、15で才子」である。周りの優秀な人材には勝てないこともあった。それ故に腐ることになり、非行の道に走った18歳……彼の人生は転機を迎えたのだ。

街を変えるには2つの道があった。1つは貴族の道。領地内の権力を掌握・統治する職務である。中央ギルドが主にそれを管轄しており、政治的な部分から直轄のギルドを動かすことができる。だがこれは却下。貴族はどこの世界でも例に漏れず世襲制であり、どこの馬の骨ともしれないザザが貴族になることはできなかった。故にもう1つの道、それは行政改革ギルドへの就職である。
この異世界のギルドは、端的に言うと役所のようなものを指す。勿論冒険者ギルドも存在しているが、役所の中の組織の1つであり、市民課とか保険課とか法令課といった部署のようなものであった。冒険者ギルドの他には農林水産ギルドや生産ギルド、市民管理ギルドなどがあり、この街の行政を担っていると言っていい場所である。
故に、ザザは行政改革ギルドに就職して街を改革する案を選択した。
もちろんそれには多くの知識が必要となり、就職に伴う試験も最難関と言われている。街を守り存続させていくだけの知識や技量が求められているため、至極当然とも言えるのだが。

結論から言おう。
ザザはトップで合格した。
過去最高点を叩き出し、面接の姿勢もぶっちぎりのナンバーワンと高評価。
魔法も『複数の属性を使える』という類まれな人材として、鳴り物入りで就職に成功したのである。



ザザ・ナムルクルスはがっくりと項垂れ、それでも前を向き直して歩いていく。
彼が向かうのは自分の初めての勤務先、地方のどこにでもあるようなギルドである。

試験はクソほど簡単であった。
いや、ザザが特別に頭が良いというわけではない。
要は、この世界の種族は驚くべき程にバカなのである。
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