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幕間 ―とある有能な団塊世代の記録 3―

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ようやく手紙が届いたかと思えば、中には“パソコンを使える場所で試験を実施しろ”の文字が書いてあり、私はたまらず行政改革ギルドに電話をした。
私はパソコンを持っていないと伝えたじゃないか!一体何を聞いていたのか!
そうして繋がった電話口の担当者は『パソコンを使える人材を求めているので、試験の方法は変えられない』の一点張りだが、私も本来は不合格でチャンスをもらった身である。渋々エンターネットカフェとやらに行って試験を受けることにした。
それにしても、このネカフェとやらも分かりにくい手続きだったな。後で店員に指導しておかなければならないだろう。
さて、これでやっと試験を受けることができるわけだが……。なるほど、開始ボタンを押したらタイマーが起動して自動的に試験が始まるシステムなのか。だが、所詮はこのタイマーはオフライン。別にこっちが何分かけて試験をしようが、先方には分かるまい。今日1日かけて試験して、ギルドには明日1時間で試験を受けてメールを返信したことにすればいいだろう。

「1問目は……タイピング試験?ってなんだ?……ふむふむ、とにかく文字を入力すればいいんだな」

【タイピング試験開始】 カチッ。



『――そこまで。タイピング試験終了です。あなたの文字入力数は24。キータイプ数は51。間違い数は11です。行政改革ギルドへの返信時に、これらの数字を入力して下さい』

24文字か。キータイプ数ってのが総入力数のことだな。会社の後輩は1分に150文字くらい打てるって言ってた気がするから、あのパソコンオタクと比べると遅すぎるな。うーん、まあどうせバレないし、適当に10倍の240文字入力したことにしよう。
それじゃあその他の問題もやっていくか。大丈夫だ、確率とかベン図の問題は参考書で勉強したからな。えーっと2問目は……。

『第2問。魔法学校に取り入れるべき教育として、あなたが考える相応しい教育内容を述べなさい。また、その理由についても述べなさい』

ん?なんだかSPIとは違う問題のようだな。まあ、国営ギルドらしい問題を作ったってことか。文字数制限はないようだが、それなりに空白を埋めるように書いた方がいいな。そうだな……最先端の応用魔術を勉強すべき、理由は常に新しい時代を取り入れる必要があるから。よし、これでいい。

『第3問。あなたの身近で困っている些細な問題を1つ挙げなさい。それを解決するためには、どのような方法があれば良いか述べなさい。この際、金銭的制約を無視できるとします』

これは引っかけ問題だな。些細な問題と記載があるが、常にグローバルな枠組みで物事を見ているか知りたいに違いない。答えは、ナゴヤバシリシネ区を始めとしたスラム街の貧困格差問題、と。解決方法は、スラム街の人間に食糧支援をする。うん、これなら評価も上がるだろう。

『第4問。大日本帝国で使用されるスパコン、富岳とみたけ。これを活用して、貴方ならどんなビジネスを実施するか、アピールポイントと共に述べなさい。この際、金銭的制約を無視できるとします』

スパコンってなんかすごく計算できるパソコンだっけ?どんなビジネスって言われてもなあ……。よく分からないから適当に書いておこう。地震動のシミュレーションビジネス、っと。スパコンを用いた精度の高いシミュレーションにより、お客様に安全で安心な暮らしを提供する。よし。

『第5問。今回、行政改革ギルドでは定例的に実施していた筆記試験、並びに面接を廃止することとしました。これに伴う削減コスト、年間の業務削減量を推定しなさい。なお、推定に当たっては関連する条件を自身で定めてよいものとします』

随分問題が多いな。一体何問あるんだ?……うわ、20問もこんな問題ばっかりじゃないか。とてもじゃないけどこんなの終わらないよ。本当に1時間かけてやってる連中はバカだな。
で、計算?これもよく分からないな。行政改革ギルドがやってるくらいだからな、きっと物凄い削減効果のあることなんだろう、2000万バルク・100時間削減、これでいいだろう。
よし、次の問題にいくか――。






『――問題は以上です。
 すべての問題を解き終えたら、担当者にメールまたはチャット機能を用いて返信して下さい』

やっと終わったー!いやあ、だいぶかかったな。始めてから3時間半くらい経ったのか。今日は疲れたし、予定通り返信するのは明日でいいな。それにしても、私はこうやって効率的に時間を作ったからいいけど、普通に試験を受けた連中は間違いなく全問解けずに落ちただろうな。やっぱり仕事も試験も効率的にやらないといかんね。
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