異世界ギルドで業務効率化 ―残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です―

のちのちザウルス

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消えよ馬車、地下鉄様のお通りだ 2

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職人たちはザザに空調服を買ってもらえると聞き、全員が驚愕していた。それもそのはず、彼らは基本的に元請業者に安く買い叩かれて、薄給でその技術を振るわされているからだ。ドライバーの1本すら支給されるようなことはなく(ドライバー1本だけ支給されても邪魔なだけなのだが)、基本的にはすべて請け負った業者の持ち出し品で仕事をすることが多い。作業環境によっては、例えば防塵マスク等の専用道具が支給されることもあるが、ほとんど稀なことである。驚く職人を尻目にザザは続ける。

「皆さんには、これから数年に渡る長期スパンでの仕事を行ってもらいます!今現在いる場所の直下に設置する予定の地下鉄駅が完成したら、当然ここと接続する他の駅の工事も実施しなければなりません!駅と駅を接続する線路を作るため、トンネルを掘る必要もあるでしょう!ですので、長期間安全に仕事ができるよう、出来る限り装備品等には配慮したいと思っています!空調服はまずその1つ、夏場の皆さんの作業を少しでも快適にするための提案です!!」
「「「おおおおおお!!!」」」

空調服を知らない人のために説明しよう。空調服は、背中側の腰の辺りにファンを搭載した作業服である。このファンによって作業服内へ取り込まれた空気は服と体を平行に流れ、その流動性のある空気で汗を気化させ、その気化熱を利用して体を冷やす仕組みである。そして、服の中を通ることで“暖かく湿った空気”は襟元と袖口から排出されるのだ。一般的に、汗100ccが蒸発すると氷800gが解ける場合と同じ熱量を体から奪うとされるため、その効果がいかほどのものか理解できるだろう。
夏場に熱中症が減らない理由として、体が冷えないことが原因として挙げられる。汗をかくことで気化熱が発生して体を冷やすわけだが、普通の作業服のように空気の流れが無ければ、水を飲んでも作業服に染み付く無駄な汗として流れ、体を冷やすことは繋がらないのだ。
空調服を導入することによって、夏場の作業効率は爆発的に向上する。通常30日の工期の作業が、効率的に仕事をできるようになって27日で完了するなど、10%近い効率化が見込まれた。その上、とある建築現場では、全作業員が空調服を使用するようになってから熱中症で倒れる人がゼロになったという報告もある。実に良いこと尽くめの作業服である。

しかし、これだけのメリットがあるにもかかわらず、導入している例はまだまだ少ない。その理由が、一般的な作業服に比べて非常に高価であるからだ。通常の作業服を3000バルクとすると空調服は30000バルク程度、およそ10倍近い値段がする。経営者は結果の見えない(または見えづらい)ものに対してイニシャルコストをかけない傾向がある。その上、『10倍も値段が違うなら普通の作業服でいいんじゃね?』『俺が昔現場で働いていた時はその程度で音を上げなかった』などと考える人間も多く、中々導入に至らないことが多い。
そんな服を、行政改革ギルドは全員分支給すると言ったのだ。

「現場事務所も快適にします!事務所は年中エアコンをつけっぱなしにして、作業後のオアシスにします!毎日は無理ですが、冷蔵庫には定期的にアイスやスポーツドリンクを設置します!」
「「「よっしゃあああああ!!!」」」
「冬場の寒さ対策もしっかりします!暖房機能付き作業服を導入して、寒さから皆さんを守ります!方法は検討中ですが、指先の冷えによる作業効率低下を防げるように、新しい暖房システムを導入予定です!」
「「「あざああああす!!!」」」
「何か困ったことがあればなんでも言って下さい!作業は大変かと思いますがよろしくお願いしまああああす!!」
「「「あぁあい!!!!」」」



「ザザ先輩、人を焚き付けるの得意ですよね。あは、予算足りるんですか?」

今日が現場初日ということもあり、ザザの後ろにサポートで付いてきたハーフが質問する。そう、本当は予算などないはずなのだ。設計段階でザザや建築ギルド員が積算した金額(材料費・工事費・仮設設備費・安全対策費・その他雑費)は担当するギルド長によって厳しく審査されており、基本的に無駄遣いができないようになっている。経験が少ないハーフですらそれを承知しているのに、ザザが知らないわけがない。では、一体どのようにして予算を捻出するのか。

「あー、足りる足りる。仮設設備費と安全対策費を死ぬほどサバ読んだからね。説明用の資料には、作業する上で必要な“最大”の費用をとにかく盛り込んだけど、実際にはその半分くらいで工事できると思うし。適当に仮設設置したことにして、その分を彼らの装備品に回そうと思う」
「うわあ……安全パトロールとかで絶対バレますよ」
「いいんだよ!とにかく先に空調服買っちゃえばいいんだし、仮設なんてある程度工事したら撤去するとこもあるんだからバレないバレない!っていうか、職人さんの安全優先だから、バレたところでどうとでもなるって!!」



「とザザ君は思ってそうだから、多少怪しい設計だったけど承認したんだよ。結果的に安全が買えるなら安いもんだからね」
「織り込み済みなのね」
「ついでに言えば、『いやいや、空調服とか買ってあげたんだし、ちょっと融通利かせてよ!』とか交渉するのに使いやすいかなって思ってね」
「カイリキさんも悪い人ね」
「ザザ君はともかく、ハーフ君には職人さんに指示出すのは荷が重いと思うんだよね。ヤンキーみたいな人も多いから、華奢なハーフ君が指示しても聞いてくれない可能性があるからさ。僕みたいに筋肉があれば筋肉言語でなんとかできるんだけど……」

と各々の思いが交錯するが、これにて地下鉄工事が開始される運びとなったのである。
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