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消えよ馬車、地下鉄様のお通りだ 5
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最下層のコンクリートも固まり、地上に向かってどんどん新しい床や壁を打っている頃、最下層では内装工事部隊と蓄電池トラム部隊が活動を始めていた。
内装工事は、建物のメイン構造である躯体完成後に行う工事で、空調や水道といったものの管路工事、照明器具の電気配線工事、天井下地組、石膏ボード貼り、クロス貼り、塗装等々の工事を指す――のであるが、ザザは全然内装工事に詳しくないので、この辺は全部建築の担当者に丸投げである。なんてやつだ。電気配線と水配管だけは知見があるので、多少設計時に口出ししておいたがそれだけだ。ほどほどに担当者が適当なのも現場あるあるだが、最後にしっかりやっていればいいのだ、とザザは自分に言い聞かせた。
さておき。ザザは自分の担当部分である蓄電池トラム部隊の活動を見に来ている。ザザの目の前には大きな横穴がずーっと長く長く伸びている。トンネル工事は極めて順調であり、隣の駅との接続は既に完了したらしい。
この蓄電池トラムには諸々の計画があるが、現在作っているのは“行って帰ってくるタイプの駅”である。現代日本で言う山手線のような環状路線もそのうち建設予定なのだが、目下建設しているのは首都圏の郊外まで伸びる往復路線だ。主な理由としては、道路を埋め尽くさんばかりに走る馬車の渋滞緩和のためなのだが、地下鉄の利用者を増やすことで主要道路の交通量を減らしていきたいというのが行政改革ギルドの思いだ。メイン道路を走る馬車は事故も多く、一度事故を起こすと更なる渋滞に繋がることが社会問題となっているため、トラムの導入によって馬車が減ることを期待している。
さて、改めて“蓄電池トラムとはなんぞや”ということについて説明したいのだが、まずは従来の電車がどのようにして走るのかを話す必要がある。
従来の電車は、車両の上部に架線と呼ばれる電線を張り、車両のパンタグラフを通して電気を受電する。受電した電気は車輪に繋がっているモーターを回して動き、最終的にその電流は車輪を伝わってレールに流れ、変電所に戻っていくのである。しかし、地下鉄には車両の上部にパンタグラフがついていないものもある。ではどうやって電気を受けて走っているのかというと、走行用レールの横に設置された3本目のレールから受電しているのである。
一方、建設中の蓄電池トラムは『非電化路線』で運行される鉄道である。すなわち、変電所から直接電気を受けずに、充電された蓄電池、バッテリーによってのみ運転を行うのだ。
「その充電装置がこれだな」
ザザは終点駅である現在地に設置された充電装置を見る。車両を動かすための大容量蓄電池に充電する装置だけあって、かなり巨大なものが設置されている。スペック的には同時に4台まで充電可能な容量を備えているらしい。充電装置に繋がれた良い感じにぶっとい電力ケーブルは、そのまま洞道に抜けていった。どうやら、近場に同時建設予定の地下変電所まで繋がっているようだ。
大日本帝国の電気は、のちのちザウルスのウロコを使った発電装置から送られてくる電気を500kV受電の一次変電所で受け、そこから275kV、154kV、77kV、6kVのように二次変電所や配電用変電所にてダウントランスしていき、最終的に一般家庭に届けられる頃には100Vの商用電源となっている。新設予定の地下変電所……地下変は、500kVで受ける一次変電所だ。ここから、一部は首都圏の別の変電所に、一部は郊外の別の変電所に、一部はここのような大電力を消費する施設や大きな工場などに送電されていくのである。地下変から送られてきた電気はこの充電装置に流れ、蓄電池トラムが接続された際に高速で充電を開始する。
さて、なぜ蓄電池トラムを運用しようとしているのか説明しよう。行政改革ギルドは、蓄電池駆動が未来のトラムに必要不可欠なシステムとなりうる可能性を秘めていると考えている。道路における馬車の削減による交通量緩和も当然理由の1つだが、導入コストの影響も極めて大きい。他国コリアントチャイナやメリケンでは、現在も積極的に路線の新規開業や延長が進められている反面、電力供給のための架線の設置や維持管理に多額の費用がかかり、導入に二の足を踏む都市もある。現代日本においても、利用者が少なく維持コストだけが膨らんでしまい、赤字運営をしている鉄道会社も存在することはご存知の通り。電線の取替は数十年スパンの話ではあるが、路線が拡大すればするほど取替区間も多くなり、かかるコストはどんどん増大していく。
そこで提案されたのが、高寿命のバッテリーを導入した蓄電池トラムである。蓄電池トラムが実用化されれば、起終点や中間駅での充電設備さえ整備すれば、高価な架線設備は一切不要となる。電気を受電するための架線や架線を支えるための鉄塔、地下鉄の第3のレールといった、多くの設備を設置しなくて良いからだ。また、ブレーキ時に発生する回生電力を使って蓄電池を再充電することができる。回生電力を再活用することでエネルギー消費の削減にもつながり、常時給電する必要がある既存の電車より非常に優位である。また、蓄電池は独立した電源であるので、仮に停電が発生したとしても問題なく運転することができることもメリットだ。さらに、架線や鉄塔を設置しないことは、景観への配慮にも繋がる。街の美観を保つことにも繋がり、歴史的な都市がある場所にも採用しやすくなるだろう。大日本帝国においても、古くからの街並みが残るキョートなどの都市で、架線レスの蓄電池トラムという選択肢を取ることができるのだ。
「まあ、発電の元電源になっているのが“のちのちザウルスのウロコ”っていうのが、個人的にはすげぇ不安要素なんだけど。……他の国も同じらしいし仕方ないか。この世界って化石燃料とかあるのかな。とてもこの異世界の文化で原子力発電とかできるとは思えんし、いよいよこの国も水素発電を始めないとまずいかな」
ブツブツとつぶやくザザ。しかし、大日本帝国の技術力では実現はまだ先の事。ひとまずはこの蓄電池トラム事業を軌道に乗せることが、目下彼の仕事なのである。
内装工事は、建物のメイン構造である躯体完成後に行う工事で、空調や水道といったものの管路工事、照明器具の電気配線工事、天井下地組、石膏ボード貼り、クロス貼り、塗装等々の工事を指す――のであるが、ザザは全然内装工事に詳しくないので、この辺は全部建築の担当者に丸投げである。なんてやつだ。電気配線と水配管だけは知見があるので、多少設計時に口出ししておいたがそれだけだ。ほどほどに担当者が適当なのも現場あるあるだが、最後にしっかりやっていればいいのだ、とザザは自分に言い聞かせた。
さておき。ザザは自分の担当部分である蓄電池トラム部隊の活動を見に来ている。ザザの目の前には大きな横穴がずーっと長く長く伸びている。トンネル工事は極めて順調であり、隣の駅との接続は既に完了したらしい。
この蓄電池トラムには諸々の計画があるが、現在作っているのは“行って帰ってくるタイプの駅”である。現代日本で言う山手線のような環状路線もそのうち建設予定なのだが、目下建設しているのは首都圏の郊外まで伸びる往復路線だ。主な理由としては、道路を埋め尽くさんばかりに走る馬車の渋滞緩和のためなのだが、地下鉄の利用者を増やすことで主要道路の交通量を減らしていきたいというのが行政改革ギルドの思いだ。メイン道路を走る馬車は事故も多く、一度事故を起こすと更なる渋滞に繋がることが社会問題となっているため、トラムの導入によって馬車が減ることを期待している。
さて、改めて“蓄電池トラムとはなんぞや”ということについて説明したいのだが、まずは従来の電車がどのようにして走るのかを話す必要がある。
従来の電車は、車両の上部に架線と呼ばれる電線を張り、車両のパンタグラフを通して電気を受電する。受電した電気は車輪に繋がっているモーターを回して動き、最終的にその電流は車輪を伝わってレールに流れ、変電所に戻っていくのである。しかし、地下鉄には車両の上部にパンタグラフがついていないものもある。ではどうやって電気を受けて走っているのかというと、走行用レールの横に設置された3本目のレールから受電しているのである。
一方、建設中の蓄電池トラムは『非電化路線』で運行される鉄道である。すなわち、変電所から直接電気を受けずに、充電された蓄電池、バッテリーによってのみ運転を行うのだ。
「その充電装置がこれだな」
ザザは終点駅である現在地に設置された充電装置を見る。車両を動かすための大容量蓄電池に充電する装置だけあって、かなり巨大なものが設置されている。スペック的には同時に4台まで充電可能な容量を備えているらしい。充電装置に繋がれた良い感じにぶっとい電力ケーブルは、そのまま洞道に抜けていった。どうやら、近場に同時建設予定の地下変電所まで繋がっているようだ。
大日本帝国の電気は、のちのちザウルスのウロコを使った発電装置から送られてくる電気を500kV受電の一次変電所で受け、そこから275kV、154kV、77kV、6kVのように二次変電所や配電用変電所にてダウントランスしていき、最終的に一般家庭に届けられる頃には100Vの商用電源となっている。新設予定の地下変電所……地下変は、500kVで受ける一次変電所だ。ここから、一部は首都圏の別の変電所に、一部は郊外の別の変電所に、一部はここのような大電力を消費する施設や大きな工場などに送電されていくのである。地下変から送られてきた電気はこの充電装置に流れ、蓄電池トラムが接続された際に高速で充電を開始する。
さて、なぜ蓄電池トラムを運用しようとしているのか説明しよう。行政改革ギルドは、蓄電池駆動が未来のトラムに必要不可欠なシステムとなりうる可能性を秘めていると考えている。道路における馬車の削減による交通量緩和も当然理由の1つだが、導入コストの影響も極めて大きい。他国コリアントチャイナやメリケンでは、現在も積極的に路線の新規開業や延長が進められている反面、電力供給のための架線の設置や維持管理に多額の費用がかかり、導入に二の足を踏む都市もある。現代日本においても、利用者が少なく維持コストだけが膨らんでしまい、赤字運営をしている鉄道会社も存在することはご存知の通り。電線の取替は数十年スパンの話ではあるが、路線が拡大すればするほど取替区間も多くなり、かかるコストはどんどん増大していく。
そこで提案されたのが、高寿命のバッテリーを導入した蓄電池トラムである。蓄電池トラムが実用化されれば、起終点や中間駅での充電設備さえ整備すれば、高価な架線設備は一切不要となる。電気を受電するための架線や架線を支えるための鉄塔、地下鉄の第3のレールといった、多くの設備を設置しなくて良いからだ。また、ブレーキ時に発生する回生電力を使って蓄電池を再充電することができる。回生電力を再活用することでエネルギー消費の削減にもつながり、常時給電する必要がある既存の電車より非常に優位である。また、蓄電池は独立した電源であるので、仮に停電が発生したとしても問題なく運転することができることもメリットだ。さらに、架線や鉄塔を設置しないことは、景観への配慮にも繋がる。街の美観を保つことにも繋がり、歴史的な都市がある場所にも採用しやすくなるだろう。大日本帝国においても、古くからの街並みが残るキョートなどの都市で、架線レスの蓄電池トラムという選択肢を取ることができるのだ。
「まあ、発電の元電源になっているのが“のちのちザウルスのウロコ”っていうのが、個人的にはすげぇ不安要素なんだけど。……他の国も同じらしいし仕方ないか。この世界って化石燃料とかあるのかな。とてもこの異世界の文化で原子力発電とかできるとは思えんし、いよいよこの国も水素発電を始めないとまずいかな」
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