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消えよ馬車、地下鉄様のお通りだ 7
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「本日は皆様お集まり下さいまして、誠にありがとうございます」
壇上で深々と礼をするカイリキ。今日は髪をオールバックにまとめ、ビシッとスーツを着こなして筋肉パツパツの状態だが、それでも公的な場に相応しい服装であった。
それもそのはず、今日はようやく蓄電池トラムの完成お披露目&初乗車の日だからだ。
ここは地下鉄ホームの一角。多くの報道陣がホームに所狭しと並んでカメラを構え、カイリキの発言を余すところなく収めるべく陣取っていた。その中心にはお立ち台が作られ、行政改革ギルドのロゴ入り背景セットを背にカイリキが会見をしている。報道陣の他には、100人程度の一般客もいる。彼らは、この初乗車に抽選で選ばれた数少ない鉄オタ――ではなく、大方が新しいもの好きの人たちに違いない。大日本帝国初の鉄道路線ということで、その第一号になるべくこぞって抽選に参加したのだろう。
したがって、彼らはカイリキのありがたい挨拶を聞いているようには思えないのだが、ホームからやや離れたこちらでも挨拶を適当に聞き流している人がちらほら。
「はあああああ……やっと一段落だ」
「お疲れ様です、ザザ先輩☆」
「お疲れ様だよホント。いやあ、色々あったねハーフさん」
「色々ありましたね先輩」
遠い目をする現場担当の2人。現場あるあるだが、工事というものは決して順調には進んでいかないものだ。大体『なんかある』と思って間違いない。例に漏れず、ここの現場でも『なんかあった』。
「温泉事件とか」
「あれはしんどかったです。どうしてザザ先輩は『持ってる』んですか?そういう星の下に生まれたんです???」
「俺も掘削は素人だったんだよ!しょうがないでしょ!まさかシールドマシンが水脈当てるなんて思わないじゃん!」
「おかげでボクは大変でしたよ。先輩だけじゃ捌き切れないからって突然投入されるし、予定のなかったオオエド温泉駅をつくるハメになるし」
「はい、すべてハーフさんのおかげです!感謝感激!!」
「もう!調子いいんだから!」
「ごめんって。でもハーフさんだって1個やったじゃん。ほら、トラック事件」
「うわああああああ、それは言っちゃダメです!」
「現場入ったくらいの頃だっけ?同じ時間に死ぬほどトラック入ってきて、ここで起きた渋滞が波及して外まで大渋滞になってたよね」
「だ、だって、同じ時間に納入した方が受け取りやすくて良いかなって……」
「くっくっく、いやはや、ホント現場ってなんでも起こって面白いわ。マジで勘弁してほしいけど」
「同感です」
頻繁に『なんかある』人のことを『持っている』と表現するのも現場あるあるだ。果たして何を持っているのか。運なのか、悪い星の下に生まれた業なのか、はたまた本人の特殊能力なのか。とにかく、総じて『持っている』ということだ。
駄弁る2人が再び報道陣の方を見ると、カイリキの会見はまだ続いていた。どうやら変に盛り上がっているらしい。インタビュアーがマイク片手にカイリキに迫っているのが見える。
「これは実に素晴らしい乗り物です!今までの馬車やスレイプニル車による移動に比べ、非常に高速で、渋滞せず、交通状態の影響を受けにくく、停電等の災害にも強い上、大容量の人間を輸送することができるのです!」
「一度にどのくらいの人数を輸送できるのでしょうか」
「おおよそ1000人くらいは」
「1000人!?」
おおおおお!!というどよめきが聞こえる。そりゃあそうだ。現代日本なら露知らず、この世界のように交通網が発達していない場所では大きな進歩になると言えるだろう。これまでのスレイプニル車の乗客が50人程度に対し、その20倍の量を頻繁に運ぶことができるのだから。しかし、記者の中にはその話を信じられないといった風に言う者もいるようだ。そこでカイリキ、すかさず話を振っていく。
「皆さんの中には、このお話に疑問を抱いている方もいらっしゃることでしょう。ですので、論より証拠。皆様、そして抽選によって選ばれた方には、早速この蓄電池トラムに乗っていただきましょう!!」
カイリキの号令に合わせ、トンネルの奥からプアアアアアアン!!と甲高い警笛を鳴らしてトラムが入場してきた。モルフォ蝶のような鮮やかなブルーが目を惹く外装に、案の定記者が食いついて実況を始める。抽選に選ばれた一般客たちも、ポケットからスマフォンを取り出してパシャパシャと写真を撮っているようだ。
速度を徐々に落とした10両編成の蓄電池トラムは、目標位置に近付くにつれてさらに速度を緩め、そして乗車位置まで来るとプシューという音とともに完全に停止した。設置されたホームドアが開き、続けてトラムの扉が開くと、乗客たちは我先にと一斉になだれ込んだ。
椅子はゆったり座れる幅を確保しており、夏場でも隣の人と密着しにくいだけの長さとなっている。さらに、隣のおっさんと接触しないようにすべての座席で仕切りが設けられており、図体ばかりがでかく足と腕を隣の席まで広げる糞野郎を完全にシャットアウトする徹底振りに、全大日本帝国人がスタンディングオベーション間違いなしだ。これで夏場におっさんの半袖ワイシャツの袖のヒラヒラが当たって痒い思いをすることもない。
しかしながら、その関係上各車両が現代日本よりもやや長めであり、ホームを歩く距離が多少長いのがネックである。が、誰も現代日本のことなど知らないので、これを標準とすることにしたのはザザだけの秘密である。
また、ザザの一声によって女性専用車両だけでなく、デブ厳禁の車両が設けられているのも特徴だ。デブは座席の幅を取るため、たった1人で周りに迷惑をかける存在だ。また、デブは社会問題でもあるため、デブ厳禁車両にデブが乗り込んだ場合、他の一般客は指を指してデブを追い出しても良いというルールを設けた。デブ料金として割増運賃を加算しなかったのは、ザザのせめてもの温情である。
「今回は一般車両のご紹介です。これとは別に、全席を指定席とした必ず座ることができるプレミアムタイプの車両も計画しております」
カイリキのアナウンスとともに、トラムの扉が閉まる。いよいよだ。それは長かった工事の終着駅。ギルド庁駅発、オオエド温泉行、出発進行。
壇上で深々と礼をするカイリキ。今日は髪をオールバックにまとめ、ビシッとスーツを着こなして筋肉パツパツの状態だが、それでも公的な場に相応しい服装であった。
それもそのはず、今日はようやく蓄電池トラムの完成お披露目&初乗車の日だからだ。
ここは地下鉄ホームの一角。多くの報道陣がホームに所狭しと並んでカメラを構え、カイリキの発言を余すところなく収めるべく陣取っていた。その中心にはお立ち台が作られ、行政改革ギルドのロゴ入り背景セットを背にカイリキが会見をしている。報道陣の他には、100人程度の一般客もいる。彼らは、この初乗車に抽選で選ばれた数少ない鉄オタ――ではなく、大方が新しいもの好きの人たちに違いない。大日本帝国初の鉄道路線ということで、その第一号になるべくこぞって抽選に参加したのだろう。
したがって、彼らはカイリキのありがたい挨拶を聞いているようには思えないのだが、ホームからやや離れたこちらでも挨拶を適当に聞き流している人がちらほら。
「はあああああ……やっと一段落だ」
「お疲れ様です、ザザ先輩☆」
「お疲れ様だよホント。いやあ、色々あったねハーフさん」
「色々ありましたね先輩」
遠い目をする現場担当の2人。現場あるあるだが、工事というものは決して順調には進んでいかないものだ。大体『なんかある』と思って間違いない。例に漏れず、ここの現場でも『なんかあった』。
「温泉事件とか」
「あれはしんどかったです。どうしてザザ先輩は『持ってる』んですか?そういう星の下に生まれたんです???」
「俺も掘削は素人だったんだよ!しょうがないでしょ!まさかシールドマシンが水脈当てるなんて思わないじゃん!」
「おかげでボクは大変でしたよ。先輩だけじゃ捌き切れないからって突然投入されるし、予定のなかったオオエド温泉駅をつくるハメになるし」
「はい、すべてハーフさんのおかげです!感謝感激!!」
「もう!調子いいんだから!」
「ごめんって。でもハーフさんだって1個やったじゃん。ほら、トラック事件」
「うわああああああ、それは言っちゃダメです!」
「現場入ったくらいの頃だっけ?同じ時間に死ぬほどトラック入ってきて、ここで起きた渋滞が波及して外まで大渋滞になってたよね」
「だ、だって、同じ時間に納入した方が受け取りやすくて良いかなって……」
「くっくっく、いやはや、ホント現場ってなんでも起こって面白いわ。マジで勘弁してほしいけど」
「同感です」
頻繁に『なんかある』人のことを『持っている』と表現するのも現場あるあるだ。果たして何を持っているのか。運なのか、悪い星の下に生まれた業なのか、はたまた本人の特殊能力なのか。とにかく、総じて『持っている』ということだ。
駄弁る2人が再び報道陣の方を見ると、カイリキの会見はまだ続いていた。どうやら変に盛り上がっているらしい。インタビュアーがマイク片手にカイリキに迫っているのが見える。
「これは実に素晴らしい乗り物です!今までの馬車やスレイプニル車による移動に比べ、非常に高速で、渋滞せず、交通状態の影響を受けにくく、停電等の災害にも強い上、大容量の人間を輸送することができるのです!」
「一度にどのくらいの人数を輸送できるのでしょうか」
「おおよそ1000人くらいは」
「1000人!?」
おおおおお!!というどよめきが聞こえる。そりゃあそうだ。現代日本なら露知らず、この世界のように交通網が発達していない場所では大きな進歩になると言えるだろう。これまでのスレイプニル車の乗客が50人程度に対し、その20倍の量を頻繁に運ぶことができるのだから。しかし、記者の中にはその話を信じられないといった風に言う者もいるようだ。そこでカイリキ、すかさず話を振っていく。
「皆さんの中には、このお話に疑問を抱いている方もいらっしゃることでしょう。ですので、論より証拠。皆様、そして抽選によって選ばれた方には、早速この蓄電池トラムに乗っていただきましょう!!」
カイリキの号令に合わせ、トンネルの奥からプアアアアアアン!!と甲高い警笛を鳴らしてトラムが入場してきた。モルフォ蝶のような鮮やかなブルーが目を惹く外装に、案の定記者が食いついて実況を始める。抽選に選ばれた一般客たちも、ポケットからスマフォンを取り出してパシャパシャと写真を撮っているようだ。
速度を徐々に落とした10両編成の蓄電池トラムは、目標位置に近付くにつれてさらに速度を緩め、そして乗車位置まで来るとプシューという音とともに完全に停止した。設置されたホームドアが開き、続けてトラムの扉が開くと、乗客たちは我先にと一斉になだれ込んだ。
椅子はゆったり座れる幅を確保しており、夏場でも隣の人と密着しにくいだけの長さとなっている。さらに、隣のおっさんと接触しないようにすべての座席で仕切りが設けられており、図体ばかりがでかく足と腕を隣の席まで広げる糞野郎を完全にシャットアウトする徹底振りに、全大日本帝国人がスタンディングオベーション間違いなしだ。これで夏場におっさんの半袖ワイシャツの袖のヒラヒラが当たって痒い思いをすることもない。
しかしながら、その関係上各車両が現代日本よりもやや長めであり、ホームを歩く距離が多少長いのがネックである。が、誰も現代日本のことなど知らないので、これを標準とすることにしたのはザザだけの秘密である。
また、ザザの一声によって女性専用車両だけでなく、デブ厳禁の車両が設けられているのも特徴だ。デブは座席の幅を取るため、たった1人で周りに迷惑をかける存在だ。また、デブは社会問題でもあるため、デブ厳禁車両にデブが乗り込んだ場合、他の一般客は指を指してデブを追い出しても良いというルールを設けた。デブ料金として割増運賃を加算しなかったのは、ザザのせめてもの温情である。
「今回は一般車両のご紹介です。これとは別に、全席を指定席とした必ず座ることができるプレミアムタイプの車両も計画しております」
カイリキのアナウンスとともに、トラムの扉が閉まる。いよいよだ。それは長かった工事の終着駅。ギルド庁駅発、オオエド温泉行、出発進行。
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